【スマートホーム/ホームオートメーション特集】スマートホームの核心は「プロトコル設計」──Home OS・プロトコルの階層構造を完全解説
空間が美しくあること。そこに流れる光や空気の質が、人の感性に寄り添うこと。そして、住まいそのものが“考え”、状況に応じて環境を整えること──。このすべてを成立させるための鍵が、いまなお日本の住宅設計では十分に語られていない。それが「プロトコル設計」という概念である。 照明、空調、遮光、給湯、太陽光、蓄電池、生活動線、センシング──。これら多層的な要素を「ひとつの思想」で統合するための“建築の言語”こそがプロトコルであり、そのプロトコルを建築としてどう設計するかが、スマートホーム/ホームオートメーションの真の本質となる。 本稿では、各プロトコルの特徴と適用領域を整理するとともに、ラグジュアリー邸宅における住宅設備の内部構造を「プロトコル設計」という視点から紐解いていく。
目次
プロトコルとは何か?──それは建築に知性を与えるための「住まいの言語」
そもそも「プロトコル」とは何か?
それは住宅設備や家電の通信規格である。
ラグジュアリー邸宅では、照明、空調、シェード、ブラインド、換気、給湯、床暖房、電気錠、シャッター、ドアホン、オーディオ、噴水、プール、蓄電池、そして各種センサーなど、数多くの設備が複雑に絡み合っている。
それぞれメーカーが異なり、用途が異なり、寿命も異なる。
それでも、ひとつの住宅として同じ空間で同時に動かなければならない。
この「異なる世界」を単一の思想で統合し、連続性ある振る舞いへ導く言語がプロトコル(通信規格)であり、住宅のOS(Home OS)のもとで統合される。
ホームオートメーションにおいて、プロトコルは単なる通信規格として位置付けてはならない。
光の階調、温度の精度、遮光の滑らかさ、空調の呼吸、エネルギーの最適化、人の動線など、住まいのあらゆる挙動の「質」を規定するのがプロトコルである。
そしてプロトコルを Home OS が適切に統合・最適化することが、本来のスマートホーム/ホームオートメーションの基盤となる。
ここでは、住宅で用いられる代表的なプロトコルと、その階層構造について解説していく。

住宅設備の主要プロトコルの整理
ホームオートメーションで使用する主な住宅設備用のプロトコルは以下のとおり。
① KNX(ケーエヌエックス)
ヨーロッパを中心に普及する、住宅・商業施設向けの国際標準プロトコル。
照明、空調、床暖房、ブラインド、センサーといった「建物のコア機能」を単一のバスで制御することができる。
- 高い堅牢性と相互運用性
- ラグジュアリー邸宅での採用急増
- Crestron/Control4 との組み合わせも多い
欧米に比べると日本ではまだまだ設備に採り入れられていないが、照明を中心に普及が急速に進行している。
ラグジュアリー邸宅においては「光」「空調」「遮光」を高度に調和させるための基盤として最適だ。
②Modbus
Modbusは産業・ビル設備で広く使われる通信方式で、太陽光インバーター、蓄電池、エコキュート、床暖房、熱交換換気などで広く採用されている。
日本では全館空調などで採用されるケースがみられる。
特徴としては以下が挙げられる。
- シンプルで扱いやすい
- メーカー差が少なく統合しやすい
- エネルギーと空調の標準語に近い存在
近年Modbus対応の設備は急増している。
③BACnet
世界標準のビルディングオートメーション向けプロトコル。空調・給排気・防災・セキュリティ・エネルギー管理を統括するために開発された。
メーカーをまたいで設備機器同士のデータ交換を統一されたオブジェクトモデルで実現できる。
ビルディングオートメーション向けプロトコルとされているが、大規模なラグジュアリー邸宅や別荘、ハイエンドマンションで使われる住宅設備に採用されることも多い。
空調・換気・熱源・床暖房・給湯といった複雑な設備構成を、長期的かつ安定した形で統合できるためである。
Modbus が「設備の標準語」だとすれば、BACnet は「設備の百科事典」と言える存在であり、極めて多機能かつ拡張性が高い。
また、KNXやDALIなど他の建築プロトコルともゲートウェイなどを介する形で容易に連携可能で、Crestron・Control4 といった統合プラットフォームからも扱いやすい。
単なる設備機器のプロトコルというよりも「設備機器のOS」と位置付けた方が良いかもしれない。信頼性の高さが、BACnetの真価である。
④C-Bus
オーストラリア発のライティングコントロール向けプロトコル。
調光・スイッチング・センサー・ブラインドを単一ネットワークで扱える。
日本での普及は限定的だが、住宅向けの思想に近い設計が評価されている。
⑤Echonet Lite(エコーネットライト)
日本発の住宅設備向け規格で、エアコン、給湯器、床暖房、太陽光、蓄電池、スマートメーターなど、国内主要設備の制御を統一フォーマットで扱える点が最大の特徴だ。
特にエアコン、給湯、エコキュートといった「日本特有の住宅設備」を正確に制御できる唯一の標準規格であり、HEMSにおける事実上の必須プロトコルとなっている。
スマートメーター連携もEchonet Liteをベースとしている。
国産設備とスマートホームを高精度で結ぶためには欠かせない。
ローカル規格ではあるが、日本国内において住宅設備や家電の制御には必須のプロトコルとなっている。
⑥DALI/DALI-2
照明制御の国際標準。調光・アドレッシング・状態監視を精密に扱える。
DALI-2ではセンサー・スイッチも規格化され、住宅用でも採用増。
なお、短期集中連載にてDALI、及びKNXやLUTRONとの関連に関しては記事化しているので、是非ともお読みいただきたい。
COLUMN|DALIとは何か? 世界標準プロトコルを理解する
CRESTRON・KNX・LUTRON・DALIの階層構造──競合ではなく補完関係
⑦LonWorks
空調・換気・設備系で長く使われるプロトコル。
BACnetが「上位監視」なら、LonWorksは「ユニット制御」を得意とする。
大規模邸宅で根強い採用例がある。大規模邸宅やヴィラでの採用例が多い。
⑧EnOcean
電池レスのスイッチ・センサーが最大の特徴。
光・振動・圧力などで発電し、10年以上動作可能である。
後付けや、センサー配線が困難な邸宅で設計自由度を大幅に高める。
⑨Zigbee
小電力の無線規格。
スマートロック、センサー、ドア・窓検知などで広く使われる。
Matter連携や Home Assistant との親和性が高く、
センサー網として実務では欠かせない存在になりつつある。
⑩接点入力(Dry Contact / Relay)
接点入力は最も原始的でありながら、建築設備を連動させるうえで非常に重要な方式だ。
電気的な「ON/OFF」だけで機器を制御する仕組みであり、電動シャッター、門扉、電動カーテン(シェード、ブラインド)、浴室乾燥機、換気扇など、日本の住宅設備の多くがこの方式に対応している。
高度な状態取得はできないものの、誤動作しにくいというメリットがあり、建築側インフラとしては極めて扱いやすい。
Crestronなどの統合プラットフォーム(Home OS)は接点をトリガーとして各種機器を動かすケースが多く、住宅設備とホームオートメーションの「橋渡し役」として不可欠な存在だ。
⑪LUTRON(ルートロン)
照明・ブラインド制御に特化した世界トップブランド。静音性・調光品質・シーン制御の美しさは世界随一とされる。
LED調光の滑らかさやフリッカーレス性能は群を抜き、建築家・インテリアデザイナーの支持が強い。
同社のHomeWorksはプロトコルというよりも、「建築OS」に位置付けられるため、階層としては最上位に位置付けられる。
⑫DMX512(照明演出)
DMX512は劇場・ステージ用照明のプロトコルで、カラーLEDやダイナミック照明をシームレスに制御できる。
住宅での採用は限定的だが、ラグジュアリー邸宅で「照明演出」が重視されるパーティルームなどでは非常に有効である。
特にRGBW照明やライトアート、プールサイドや屋外照明のカラー演出など、「建材としての光」をデザインする際に活躍する。

“プロトコル階層構造”で理解する──住宅は単一規格では動かない

【最上位:統合プラットフォーム|Home OS】
Crestron / Control4 / Lutron HomeWorks / HOMMA OS他
住宅全体の「知性の中枢」となる。
複数プロトコルを理解し、翻訳し、統合し、空間の振る舞いを司る。
【建築インフラ層|住まいの主幹(主要プロトコル)】
KNX / C-Bus / Modbus / BACnet / LonWorks / Echonet Lite / DALI / DMX512他
照明・空調・遮光・熱源など、住宅性能を決定するコアレイヤー。
【設備機器層|メーカー固有のプロトコル】
M-NET / DIII-NET / Lutron QS
メーカー固有プロトコル。
【トリガー・入出力デバイス層】
各種センサー / スマートスイッチ / 操作アプリ / 顔認証ドアホン / タッチパネル
【建築インフラ層】
有線LANによる宅内ネットワーク / 電源系統 / 配線ルート / スマートホーム盤

なぜ「プロトコル設計」が建築の必須要件になるのか
建築の仕上げは変えられる。
設備は10年で更新される。
家電はさらに短命だ。
しかし、プロトコルだけは、30〜50年にわたり住宅の骨格として生き続ける。
長寿命だからこそ下記の検討が必要であり、それこそがプロトコル設計である。
- Home OSには何を採用するか?
- どの層にどの規格を採用するか?
- どこまで国際規格で固めるか?
- メーカー固有の仕様をどう翻訳するか?
- 更新時にどの層が残り続けるのか?
これらすべてが住宅の未来価値を決める。
では、その役割を担うのはだれか?
スマートホーム/ホームオートメーションを専門とする「システムインテグレーター」だ。
日本ではまだ少ないが、本特集では注目すべきインテグレーターたちを紹介していく。

Hanamura