【スマートホーム/ホームオートメーション特集】日本のスマートホームの「原点」をつくった男 ──レジェンド、ハナムラ・花村 勇 氏が語る「住まいのOS」の15年と未来
取材/LWL online編集部
日本のスマートホーム黎明期を切り拓いたレジェンド、ハナムラ・花村勇氏が「住宅OS(Home OS)」の原点と未来を語る。GLAS LUCEとiPhoneが生んだ統合UIの衝撃、Crestron導入の決断、人材不足と試行錯誤、ショールームに宿る“静かなOS”思想、そしてAI×状態推定が導く“考える家”の時代へ──スマートホームの本質と次の10年がここにある。
日本におけるスマートホーム/ホームオートメーションの先駆者が語る、革新の軌跡と未来。
LWL onlineが考えるスマートホームとは、IoTガジェットの便利さではなく、空間そのものに知性が宿る「インテリジェント・レジデンス」である。
その思想を、日本で最も古く、最も深く体現してきた人物がいる。
株式会社ハナムラ代表の花村 勇氏。
Crestronがまだ日本でほとんど知られていなかった時代、「スマートホーム」という言葉自体ほとんど知られていなかった時代から、スマートホーム/ホームオートメーションを事業として継続してきたレジェンドである。
GLAS LUCEとの出会い、iPhone黎明期の衝撃、建築家との対話、プログラマー不足という壁、そして「操作しない住宅」へ向かう未来──。日本のスマートホーム史そのものを体現する花村氏に、いま改めて話を聞いた。

目次
- ① 事業をスタートした「原体験」──iPhone × GLAS LUCE × アプリ制御の衝撃
- ② 日本スマートホーム黎明期を切り拓いた軌跡──顧客のほうが未来を知っていた
- ③ 試行錯誤の15年──人材不足、設計者との対話、そして“操作しすぎる家”からの転換
- ④ GLAS LUCE × SmartHomeショールームが体現する、美しいインテリアの中に静かに潜む知性
- ⑤ これからの展望──住まいが人を理解し、先回りし、寄り添う時代へ
関連リンク: スマートホーム/ホームオートメーション特集トップ / GLAS LUCE紹介記事
① 事業をスタートした「原体験」──iPhone × GLAS LUCE × アプリ制御の衝撃
複数リモコンから「一画面制御」へ──統合UIがもたらした革命

花村氏がスマートホームの世界に踏み込んだ原点は、ミラーディスプレイとして有名なGLAS LUCEの開発がきっかけである。
GLAS LUCEは複数のモニターを一枚のミラーの中に納め、ブルーレイレコーダーやオーディオなど、さまざまな機器が各モニターに接続される。
リモコンがテーブルの上に多数並ぶ姿に花村氏は疑問を覚えた。
時代は2009年。
ちょうど「iPod → iPhone」へ移行し、アプリという概念が生活を変え始めた瞬間のことだ。
Crestronがアプリ操作に対応したことで、テレビ、ブルーレイレコーダー、照明、オーディオ──これらがひとつの画面で制御可能になった。
UIの美しさが暮らしを変える。「住まいのOS」思想の萌芽
「これからはアプリが住まいを統合する」
「UIが美しくないなら、私たちが美しくすればいい」
Crestonのアプリからこのように確信した花村氏は、ここで「住まいのOS=Home OS」の萌芽を強く感じたという。
ガジェットの足し算ではなく、アプリとインテリアが融合する暮らし。
その衝撃が、現在の事業を決定づけた。

② 日本スマートホーム黎明期を切り拓いた軌跡──顧客のほうが未来を知っていた
「便利」ではなく「未来の標準」──富裕層ユーザーが先に理解した世界
スマートホームという言葉すら一般的でなかった頃、花村氏が最初に“未来”を望見したのは、建築家でもメーカーでもなかった。
iPhoneを使いこなす富裕層ユーザーの反応だった。
「便利だから、ではなく『この暮らし方が未来の標準になる』と直感で理解していた」。
テクノロジーの価値を最も早く理解したのは、実は富裕層の顧客の方だった。
その反応を見て「スマートホームの時代が必ず到来する」と確信したという。
そして、この確信がハナムラの事業を一気に前へ動かした。

建築の知性化と「住まいのOS」──Crestronという世界標準を選んだ
やがて花村氏の関心は、「アプリを使った家電の便利化」ではなく、建築そのものに知性を宿す「住まいのOS=Home OS」へと向かう。
照明、空調、ブラインド、AV、セキュリティ──
これらをひとつの「脳」で統合しない限り、住まい全体の体験は変わらない。
花村氏は既に2010年代初頭には「住まいのOS=Home OS」の時代が到来することを予見していた。
Crestronという世界標準のHome OSを選び抜いたのも、その想いからだった。
時代に先駆けていた。
③ 試行錯誤の15年間──人材不足、設計者との対話、そして「操作しすぎる住まい」からの転換
最大の課題は「プログラマー不在」と教育環境の欠如
黎明期の課題は山ほどあった。
最も深刻だったのは「プログラマーがいない」「教育環境がない」という、人材不足の壁だ。
「制御技術者が極端に少なく、保証や継続サポートも不安視された」と花村氏は振り返る。
また、建築家・インテリアデザイナーとの協業でも、「導入実績がないから施主に説明できない」と彼らは慎重だった。
そこで花村氏は、施主の前に自ら立ち、スマートホームが「住宅のインフラである」ことを伝え続けた。
機能を詰め込みすぎた失敗から「操作を減らす住まい」へ
さらに、設計思想を大きく変えたのが「失敗」である。
「機能を入れすぎた。技術者は何でも制御したくなるが、ユーザーはそんなに操作しない」。
ここから、ハナムラは「操作を減らす家」へとその思想を転換していく。
スイッチの質感、センサーの小型化、UIの美しさ──
究極の目的は「触らなくてよい住まい」だ。まさに「知性が宿る住まい」を目指すことになったのである。


④ GLAS LUCE × SmartHomeショールームが体現する、美しいインテリアの中に静かに潜む知性
新宿OZONEショールームが示す「建築×インテリア×テクノロジー」の融合
東京・新宿OZONEにかまえるハナムラの「GLAS LUCE × SmartHomeショールーム」は、単なる展示空間ではない。
「建築×インテリア×テクノロジーの融合」という思想を、そのまま空間に落とし込んだラボである。
照度は緻密に設計され、AVはCrestronが背後で統合し、どこにも「操作感」が存在しない。
訪れると誰もが同じ言葉を漏らす。
「なぜかわからないけれど、ここは居心地がいい」
それこそが、花村氏が目指してきた「Home OS」の答えだ。
機械の存在を意識させず、余計な情報を消し、静けさの中に知性がある住まい。
まさにLWL onlineが掲げる「静寂のラグジュアリー」と同じ方向を向いている。




⑤ これからの展望──住まいが人を理解し、先回りし、寄り添う時代へ
状態推定×AI×行動ログがつくる「考える家」のスマートホーム
花村氏は、次の10年を決定づける技術として「状態推定」「AI」「行動ログの学習」の三位一体を挙げる。
「人は自分の行動パターンを説明できない。いくらヒアリングを重ねても個人個人の行動パターンを説明していただくことには限界がある。
そこを補完するのがAIであり、住まいが自ら賢くなっていく。そんな世界が次のスマートホームです」
と語る。
日本の美意識とテクノロジーが融合した「静かなOS」という世界観
花村氏が目指す世界観は極めて明快である。
「住まいが人間を理解し、静かに寄り添う。日本の美意識とテクノロジーが融合した『静かなOS』をつくりたい」。
いま、スマートホームは「贅沢品」ではなく、豊かな時間を取り戻すための技術へと進化している。
LWL onlineが追いかける「インテリジェント・レジデンス」の未来は、花村氏の言葉にこそ明確に示されていた。






関連記事
- 【スマートホーム/ホームオートメーション特集】「ガイド」
- 【短期集中連載スマートホーム/ホームオートメーション】第2回 米国邸宅文化に学ぶ「住まいの頭脳」
- GLAS LUCE ─ ミラーディスプレイが変える住空間の体験
GLAS LUCE × SmartHomeショールーム
東京都新宿区西新宿3-7-1 新宿パークタワー リビングデザインセンターOZONE 5階
-
-
取材
LWL online 編集部