【渡我部一成が語る暮らしの哲学】第2章:AI・スマートホームが切り拓く「次世代ウェルネス住宅」の最前線

株式会社GA代表取締役/渡我部一成 取材/杉浦みな子

本連載では、「Living Wellness in Luxury®(LWL)」を主宰するブランディング・プロデューサー、渡我部一成さんが、自らの経験と国際的な潮流をもとに、これからの暮らしの哲学を語ります。第2回となる今回のテーマは、「次世代ウェルネス住宅の最前線」。

渡我部一成(わたかべ かずなり) 
株式会社GA代表取締役。ファッションブランド「FENDI」、高級フィットネスマシンブランド「TECHNOGYM」をはじめ、ジュエリー、化粧品等様々な業種でビジネスを成功に導いてきたブランディング・プロデューサー。「家の中での生活をより快適にラグジュアリーに過ごす」というライフスタイルコンセプトのもと、住環境に関わる世界のトップブランドが集結するCo-Brandingイベント「Living Wellness in Luxury®(LWL)」を2010年に立ち上げ、15年間に渡りオーガナイズしている。

LWLが掲げる「Luxury × Wellness」という世界観は、いま世界の富裕層住宅市場で最も注目されるテーマ。特に、AIとIoTを駆使した最新のスマートホームテクノロジーは、住環境を根本からアップデートし、「次世代のウェルネス住宅像」という新たなスタンダードを提示しています。

「美しく、健康で、豊かに暮らす」ための住まいとは何か? 渡我部さんが国内外の最新動向を踏まえながら、「次世代ウェルネス住宅」の本質を紐解きます。

世界的に加速する「ウェルネス住宅」の潮流

―― いま世界的に「ウェルネス住宅」が急拡大しています。その背景をどう見ていますか? 

渡我部一成氏(以下、渡我部): 背景には、大きく分けて三つの要因が重なっていると考えています。一つ目は、AIやIoT、センシング技術の飛躍的な進化です。 

光や空気、温湿度、音といった「環境データ」を高精度で捉える環境センシングに加え、心拍変動や睡眠の質、活動量といった「生体データ」を取得する人体センシングも急速に進化しました。これらをAIが統合・解析し、住宅設備と連動させることで、住まいが“人に合わせて自律的に最適化される”技術基盤が、ようやく実用フェーズに入ってきました。 

二つ目は、価値観の構造的な変化です。 

特に先進国の富裕層を中心に、物質的な充足を超え、「いかに健康で、快適な質の高い時間を過ごせるか」が、住まい選びの重要な軸になりつつあります。住宅は単なる資産や居住空間ではなく、心身のパフォーマンスを最大化するためのインフラとして捉えられるようになってきました。 

そして三つ目が、コロナ禍を契機とした健康意識の高まりです。 

ステイホームを余儀なくされた経験を通じて、人々は「住環境が心身に与える影響」を実感しました。空気の質、光、音、温熱環境といった要素が、ストレスや睡眠、免疫力にまで影響することが広く認識され、住まいを“自分を整え、回復させる場所”として再定義する動きが加速したのです。 

この三つの流れが重なり合うことで、「ウェルネス不動産」という概念も生まれ、市場規模は2019年の約2,250億ドルから、2024年には約5,480億ドルへと大きく拡大しています。 

住宅の価値基準は、立地や意匠性に加え、「そこに暮らすことで、どれだけ健康でいられるか」という“健康性能”も重視される時代になってきました。 

それに呼応する形で、空間の快適性や健康性能を評価する米国発の評価基準「WELL認証」も世界的に普及しています。WELL認証を取得した住宅は、プレミアム賃料の設定や空室率の低下、長期居住といった形で、不動産価値そのものを高めています。 

こうした潮流を俯瞰すると、LWLが掲げてきた「Living Wellness in Luxury®」という思想が、いままさに時代と深く共鳴し始めていると感じています。  

AI×スマートホームがもたらす“住まいの質的転換”

―― 2025年は、「AIが生活インフラに本格統合される始まりの年」とも言われていました。AI 統合が住宅にもたらす質の変化をどう捉えていますか?

渡我部: これまでの住宅におけるテクノロジーは、「便利さ」や「効率化」を高めるためのものでした。しかし、AIが本格的に統合されることで、住まいは機能を提供する空間から、人の状態を理解し、最適化する存在へと質的に変わり始めています。 

現在のスマートウェルネスホームの特徴は、環境センシングと人体センシングによって取得されたデータを、AIが統合的に解析し、住宅設備とリアルタイムで連動させている点にあります。 

空気の質、CO₂濃度、温湿度、光、音といった環境データに加え、睡眠、心拍変動、活動量といった生体データが組み合わされることで、住環境は「一律の快適さ」から「個別最適な快適さ」へと進化しています。時間帯や体調、ストレスレベルに応じて、空調や換気、音環境が自動的に調整されるだけでなく、人の一日のリズムに合わせて照度や色温度を自動調整するサーカディアンライティングなどが代表例です。これは単なるオートメーションではなく、住まいが人の生体リズムそのものに寄り添う存在になったという点で、非常に大きな転換だと捉えています。

重要なのは、AIが「制御する主体」になるのではなく、あくまで人のパフォーマンスや回復力を最大化するためのサポーターとして機能することです。 

テクノロジーが前面に出るのではなく、気づかぬうちに心身の状態が整っている——その“違和感のなさ”こそが、次世代スマートウェルネスホームの特徴だと言えます。 

このようにAIが住宅に統合されることで、住まいは「心身を整え、回復させる拠点」へと役割を変えていくことになるでしょう。 

2025年は、その変化が一部の先進事例だけではなく、現実的な選択肢として社会に認識され始めた転換点だと見ています。  

―― 進化したセンシングテクノロジーが溶け合うことによる、最新の住まいのラグジュアリー体験のポイントをどう見ていますか? 

渡我部: 最新のラグジュアリー体験において、最も重要なのは「機能美」だと考えています。 

どれほど高度なセンシングやAIが組み込まれていても、それが“技術として主張しすぎる”と、ラグジュアリー感は失われてしまいます。 

進化したセンシングテクノロジーの本質は、存在を意識させることではなく、美しい空間の裏側で静かに機能し続けることにあります。 

スマートパネルなどUIのデザインひとつ取っても、操作性だけでなく、視線の流れや身体動線まで考慮したエルゴノミクスと美意識の融合が求められます。 

光、空気、温熱、音、そして人の生体リズム——それらが違和感なく連動し、住む人は「何かが制御されている」と感じることなく、ただ心地よさだけを享受する。そこにこそ、次世代のラグジュアリー体験があると思います。 

GLAS LUCE × Smart Homeを展開するハナムラも今後「スマートウェルネスホーム」という形で「スマートホーム × ウェルネス」を進めていくという
ハナムラGLAS LUCE × Smart Home

―― スマートホームの“真価”がウェルネスと結びつく点は?

渡我部: 最も分かりやすいのは「睡眠の質」の改善ですね。体調への影響はもとより、仕事のパフォーマンスやメンタルにも直結するので、富裕層ほど「睡眠の質」には敏感です。 

また、環境センシングや人体センシングで得られたデータの可視化が進むことで、住宅自体がそこに住む人の「行動変容」をサポートできるようになるのもポイントです。睡眠だけでなく、運動・食事・入浴に至るまで、住まいがライフスタイルを最適化する環境装置になっていくでしょう。 

そうやって、一人ひとりのライフスタイルを住宅がサポートすることで、個々のパフォーマンスが向上していく。それによって精神的・経済的な余裕が出てきて、ゆくゆくは、社会全体の「ウェルビーイング」がより高まる……という循環が理想ですね。  

国内における「ウェルネス×環境配慮住宅」の現状 

―― 日本でもZEHやLCCM(Life Cycle Carbon Minus)の潮流が広まる中、「ウェルネス」に加えて「環境配慮」という観点も求められています。その背景をどう見ますか?

渡我部: 日本で「ウェルネス×環境配慮住宅」が注目されている背景には、二つの現実的な要因があります。ひとつは、エネルギー価格の高騰や災害リスクを背景に、省エネ性能の高い住宅への関心が急速に高まっていること。

もうひとつは、日本が世界有数の長寿国である一方、健康寿命との乖離が大きく、医療費や社会保障費の増大が深刻な社会課題となっている点です。

断熱・気密・換気性能を高め、室内環境を安定させることは、脱炭素と同時にヒートショックや睡眠の質低下といった健康リスクの低減にもつながります。環境配慮とウェルネスは対立概念ではなく、今後の日本の住宅価値を支える両輪だと考えています。

―― パッシブハウスがAIと融合した場合、住宅価値はどう変わりますか?

渡我部: パッシブハウスは本来、高断熱・高気密・換気によって、少ないエネルギーで快適な室内環境を安定的に保つという概念です。ここにAIが融合することで、気候データや日射量などの環境条件、居住者の生活リズム、バイタルデータをAIが解析し、換気や空調を調整することで、室内環境は年間を通してより安定します。

その結果、ヒートショックなどの健康リスクが低減され、省エネ・快適・健康が同時に成立する住宅価値が、より明確になると考えています。  

――渡我部さんが、国内の事例で興味を惹かれたウェルネス住宅のプロジェクトはありますか? 

渡我部: 国内事例として印象に残っているのは、大阪・関西万博での飯田グループホールディングスと大阪公立大学による「ウエルネス・スマートハウス」の展示です。「未病維持につなげる生活空間」というコンセプトを掲げ、スマートホーム技術を通じて健康を支える住環境を提示していた点が、非常に象徴的でした。

また、愛知の住宅メーカー「諸戸の家」が手掛けた高級戸建「Wellness House × The Ishihara 世田谷区深沢の邸宅」も注目に値するプロジェクトだと思います。この住宅は、経営者向けにパーソナライズ予防ケアサービスを提供する株式会社ウェルネス代表であり、予防医学の医師でもある中田航太郎氏が監修を務めています。サウナや瞑想ルーム、ジム、ジャグジーといった、住む人が心身を“整える”ための空間が随所に組み込まれています。これらの設備自体は従来から富裕層住宅に存在していましたが、あえて「ウェルネス」という価値を住宅の中心に据えて訴求している点に、時代の流れを感じました。 

さらに、積水ハウスの「プラットフォームハウス」構想も非常に先進的です。「家が健康をつくりだす」という思想を前面に打ち出し、AIが居住者の健康リスクを検知するといった、住宅がヘルスケア領域に踏み込む発想は、超高齢化社会を迎える日本において、今後ますます重要になるでしょう。 

これからの日本の住宅が向かうべき方向性は、「ウェルネス」「スマート」「サステイナブル」という三つの価値が交差する領域にあると考えています。新しいライフスタイルや生活文化は、いつの時代も、経済的余裕と情報リテラシーを備えたハイエンド層から生まれ、やがて社会全体へと浸透していくものです。LWLとしても、そうした流れを後押ししながら、日本が真の「ウェルビーイングカントリー」へと進んでいく未来を期待しています。 

諸戸の家と株式会社ウェルネスがコラボレーションした「Wellness House(ウェルネスハウス) 世田谷深沢邸」。「Wellness House」は先般LWL onlineも見学をしてきた。近々記事で採りあげる予定である

―― 世界の事例で特に興味深いものはありますか? 

渡我部: 世界の事例は枚挙にいとまがありませんが、中でも注目しているのが、アメリカ・バージニア州で2026年に開設予定の「Aerie(エアリー)」です。安全性・快適性・ウェルネス性を高次元で融合させた、ラグジュアリー地下複合施設として構想されており、まさに最先端の住環境と言えるでしょう。 

地下施設でありながら、光・空気・音といった要素をAIが統合制御し、インタラクティブウォールや特殊照明によって外界の景色や自然環境を再現しています。室内プールでは、パノラミックビューの自然を感じられる設計がなされるなど、「地下であること」を感じさせない空間体験が徹底されています。

さらに、AI制御の医療スイートが併設され、ホワイトハウスの医療チームと同水準の医療サービスが受けられるほか、AIロボットによるマッサージ、高圧酸素ルームなど、最先端のバイオハック技術が組み込まれている点も特徴です。海外では、住環境そのものにこうしたテクノロジーを統合する発想が進んでおり、特にアメリカとドイツは群を抜いて先進的だと感じています。 

「バイオハック」とは、シリコンバレーを中心に広まった概念で、科学的アプローチによって生活習慣や身体機能を最適化しようとする思想です。現在、世界の富裕層住宅では、この考え方を住環境にまで拡張する動きが、ひとつの大きなトレンドになっています。 

LWLが描く未来。「Luxury × Wellness」とテクノロジーの真の融合  

―― 改めて、渡我部さんが思う「次世代ラグジュアリー住宅」の定義を教えてください  

渡我部: 私が考える次世代ラグジュアリー住宅とは、ひと言で言えば「人間を心身ともに最適化する家」です。
単に快適に過ごせる場所ではなく、日常の中で自然とエネルギーがチャージされ、心身が回復していく。知らず知らずのうちに蓄積されるマイクロストレスが抑えられ、常に良いコンディションに戻れる環境であることが、これからの住宅に求められる本質的な価値だと思います。  

―― こういったウェルネス住宅が盛り上がる潮流の中で、LWLはどんな役割を担っていきたいですか?

渡我部: LWLでは10年以上前から、ラグジュアリーを「物質的な豪華さ」ではなく、「時間と心の余裕」として捉えてきました。コロナ禍を経た今、その価値観がようやく社会全体に共有され始めたと感じています。 

私たちLWLは、住環境をラグジュアリーに演出するハイブランドの集合体として、この思想を単なる概念に留めるのではなく、具体的な住空間やライフスタイルとして提示する役割を担っていきたいと考えています。イベントやオンラインメディアを通じて、ラグジュアリーとウェルネス、そしてテクノロジーが融合する新しい暮らし方を発信し、スマートウェルネスホームのプラットフォーマーとしてのポジションを確立していく。 
そして最終的には、日本が「ウェルビーイングカントリー」として世界から注目される存在になる。その流れを牽引する一翼を、LWLが担えたらと思っています。 

  • 株式会社GA代表取締役

    渡我部一成

    株式会社GA代表取締役。ファッションブランド「FENDI」、高級フィットネスマシンブランド「TECHNOGYM」をはじめ、ジュエリー、化粧品等様々な業種でビジネスを成功に導いてきたブランディング・プロデューサー。「家の中での生活をより快適にラグジュアリーに過ごす」というライフスタイルコンセプトのもと、住環境に関わる世界のトップブランドが集結するCo-Brandingイベント「Living Wellness in Luxury(LWL)」を2010年に立ち上げ、15年間に渡りオーガナイズしている。

  • 取材

    杉浦 みな子

    1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://sugiuraminako.edire.co/

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