「スマート」から「インテリジェント」へ──LWLサテライトイベント「スペシャルトークセッションレポート」
fy7d(エフワイセブンディー)代表/遠藤義人
2026年1月30日に、東京・南青山のIDÉALビルで、LWLサテライトイベント「The Luxury Smart Home Theater Experience」が開催された。minotticucine(ミノッティクチーネ)のハイエンドなシステムキッチンに囲まれた静謐な空間で、来場者は、ラグジュアリーなスマートホームと照明、サウンド、インテリアを体感しながらレクチャーを受けた。目玉となるスペシャルトークセッションでは、照明を単なる設備ではなく建築的要素として空間をデザインするライティングディレクター、ICE都市環境照明研究所所長・武石正宣さんが登壇。「スマートライティングからスマートホームへ」をテーマに、ルートロンアスカ・カントリーマネージャー谷崎宗孝さんとの対談形式で行われた。
都市と建築を横断する、光のデザイン最前線
ICE都市環境照明研究所(Illumination Of City Environment)は、1996年創設。所長の武石さんは、照明器具そのものではなく、光を駆使することによって映える空間をデザインする数少ない照明デザイナー。インテリアから外構まで、とくに都市空間の商業施設において、卓越した経験と実績を重ねてきた重鎮だ。

一方のルートロンアスカは、本国アメリカで60%のシェアを持つ1959年創設の照明メーカー、ルートロンの日本法人で、昨年末に高級住宅専用の光環境制御を中心とした新スマートコントロールシステムHome Works(ホームワークス)をローンチ。谷崎さんは長年そのカントリーマネージャーを務める。


ラグジュアリーは細分化する──照明が担う新しい役割
「近年、ラグジュアリーも細分化されています」
ICE武石さんはトークの冒頭、思わせぶりな問題提起をした。その意味は、これから紹介される数々の施工事例から明らかになってくる仕掛けだ。
まず掲げられた事例は、ICE武石さんが手掛け北米照明学会2024で「Award of Merit」を受賞したThe Ritz-Carlton Fukuokaのレストラン「Bay」「幻珠」(23年)。
スライドが映った瞬間、ルートロン谷崎さんも「これはムーディですね」と声を上げる。カウンター上の天井に掲げられたガス灯のような照明が印象的だ。

ICE武石さんは、次のように解説する。
「天井の光の炎が揺れるのです。この揺れる炎だけでは酔ってしまうので、あちこちに球のようなレンズを仕込んだ小さな照明を配置しうっすら照らすことで、空間全体を演出しています。照明器具がLEDになったことで、従来は天井から降り注いでいた光が、いまや身に纏うようにデザインできるようになりました」

このレストランは、オープンテラスになるほか、週末はDJによる演出、あるいはお茶のプレゼンテーションにも使われるという。照明演出次第で多目的で使われることになった成功例といえるだろう。
ICE武石さんは次のようにも語る。
「空間って、“空(カラ)”の“間”と書きますよね。床・壁・天井に囲まれた何もない空間で、人の居所に照明が共にある。ですから、その人が居る時間帯や気持ちに合わせた照明が必要になるんです」
これこそまさにルートロンが得意とする調光の考え方だ。ルートロン谷崎さんが大きく頷く傍らで、ICE武石さんは次のように言葉を継ぐ。
「空間に居る人の気分に合わせて、都度壁紙を貼り替えて空間を変えるようなことはできません。
でも照明ならば、シーンを可変させることで、瞬時に模様替えが可能になる。この例はホテルなので5つぐらいのシーンで構成していますが、住宅であれば、もっと多くのシーンが必要なのかも知れません」

スマートライティングは省エネとも両立する
ICE武石さんが掲げたのは、24年竣工の複合施設、大熊町産業交流会館「CREVA おおくま・クマSUNテラス」。大熊町はもともと原発があり1万人が住んでいたが、事故を受けて人口が100人にまで減少。その復興事業として建てられた。
照明計画が日本空間デザイン賞 2025を受賞したこのプロジェクトでICE武石さんが解決した難題と工夫について次のように語った。

「復興事業のシンボルでもある立派な建物なので建築全体を見せたいと思っても、原発事故があった地域ですのでエネルギーを使うことに対してとてもシビアです。そういったいきさつもあり、建築全体に光を纏わせることはとても無理なので、照明を建物のコーナーに配置してフォルムを浮き彫りにしたり、テラスと照明を一体化させたものを開発したりといった工夫を施しました」

ポイントを絞った効果的な照明演出を施すことで、省エネにも資する。スマートライティングの意義がここにもある。
感情を動かす光──エンタテインメントとしての照明
次に、24年に照明デザインを監修した、神戸須磨シーワールドホテルが映し出されると、ルートロン谷崎さんが「派手ですねえ」と声を上げる。

するとICE武石さんも「ええ、派手にしました」と悪戯っぽく笑いながら次のように解説した。
「いままでの公園にはない照明にしたいという依頼でしたから。この公園には、水族館があったり、ホテルがあったりする。中でもこのホテルは、水族館を見に来たファミリーやカップルが喜ぶ、いわばラグジュアリーな『ライフスタイルホテル』として考案しました」
谷崎さんが「海の中のようですね」と水を向けると、武石さんも「ロビーの外にはイルカが泳ぐプールがあったり、スイートルームには水槽があったり、エンタテインメント性が高いホテルなんです」と応じた。
LED照明だけでなく、薄く白熱灯を使ったり、テレビスクリーンや小さなフィルターも駆使するなどして、空間に入っただけで気分が上がる仕掛けにしたと解説してくれた。
木漏れ日のような光が生む、真のラグジュアリー
最後に掲げられたのは、2016年竣工のホテルで、建築・内装・ランドスケープの照明計画を施し北米照明学会2017「Award of Merit」を受賞した、ホテル星のや 東京。

大手町にある旅館で、建築外観全体に光を回すことはできなかったという。そこで、敢えて“間引きする“ことをデザインコンセプトに設定。それを内装から外観含め全館において徹底した。結果としてイニシャルもランニングコストも3分の1で済ませることができたとICE武石さんは明かす。
また、内装についても次のように解説した。

「表情豊かな左官仕上げの版築の壁を、一律の間接照明で照らしてしまうと、版築を説明してしまうことになる。また、人間もフルで太陽光を浴びると辛いように、どこに居ても光を浴びる空間は安らげません。旅館は、入った人が安らいで心地よく過ごすことが究極の目的です。人が木漏れ日を好きであるように、ここでは外構が差し込んでくるような平行間接照明を施しました」
討論:スマートホームは「インテリジェンス」へ進化する
ここまで見てきたように、ICE武石さんは、ホテルなどの商業施設を多く手掛けてきた。その経験を踏まえ、住宅向けラグジュアリー照明を手掛けるルートロン谷崎さんを相手に、これからのラグジュアリー住宅向けの照明演出のあり方について、新しい提案を語り始めた。

ひとつは、長時間掛けての調光だ。
「例えば銀座のレストランを例にしましょう。一晩ワンクールで、大体4時間くらいでコース料理を楽しみます。そうすると、今までなら、『イブニング』『ナイト』そして『ミッドナイト』といったシーンを組み、タイマーで切り替えるというのが一般的でした。ところが5年ほど前にそれを辞め、長時間掛けてずーっと調光していくということをやりました。ルートロンは最長2時間なので、それを2回分作って、4時間の間お客さんには気づかれないようにしたことがありました。当時、LEDでシームレスに実現するのは心配だったので、アナログでやりました」
ICE武石さんがそう言うと、谷崎さんは、「いまならLEDでも大丈夫です」と太鼓判を押す。
次にICE武石さんは、照明とスマートホームについて、次のような提案をした。
スマートライフから、スマートインテリジェントへ
「たとえば、ここにスポットライト、あそこにブラケット、奥に間接照明があるといった場合に、すべての照明に対して同じようにフェードを掛けていいのか、という課題があります。最後にブラケットだけが残る、という演出もいいのではないかと思うのです。全ての照明が同時に明るくなるのではなく、一つ一つの照明が徐々に点いてゆき、異なるシーンを構成する…といったことです。
僕らは、スマートホームといった言葉を使うようになってかれこれ15年ほどになりますが、まだスマートになり切れていない。スマートライフという言葉に至っては、一般になりすぎてしまった感もあります。そこでこれからの調光は、むしろ、スマートインテリジェントと呼びたい。いってみればAIです。いろんな情報を集積して、次を見越した上で想定以上のことを行ってくれるシステムです。
照明ならば、当日雨が降っていたりするので、部屋の光環境は厳密には毎日同じではありません。それを見越して、まさにその時・その空間にいる人に合わせた、空間を満たすコンテンツ……次のインテリジェントな照明のようなものはできないのでしょうか?
そのとき・その空間に居る人の気分に合わせて、床・壁・天井を俄に変えることはできませんが、調光やカーテンによる光制御や音楽、空調といったものは変えることはできるはずです。それらを全部統合できるようなシステムはありませんか?」
ICE武石さんの問いかけに、ルートロン谷崎さんは次のように答える。
「わたしどもの統合システムHome Worksは、標準で、AlexaやGoogle Home、Apple Homeのようなものと連携できます。これらのいわゆるAIがもっと進化してゆけば、今日の天気はあまり良くないからこの程度の照明を付けようとか、晴れて暑いからカーテンはこれぐらい閉めて空調は何度に設定しようということはできるようになると思います。各メーカー流のAIがどんどん進化することを期待したいですね」
するとICE武石さんも同調する。
「絶対そうなると思うんです。Home Worksで制御できるカーテンに至っては、これからは“開け方”までもが大切にされるのではないでしょうか。シャーッと開くのか、少しずつ焦らすように開くのか。一般家庭を超えたラグジュアリーシステムなので、そういったオーナーの好みや趣向を反映していくのも面白いかも知れませんね」
これが冒頭にICE武石さんが意味深に問うた、「ラグジュアリー細分化」の課題そのものだ。それに応えてルートロン谷崎さんは次のように応じた。
「ルートロンは照明制御から始まった会社ですので、調光カーブには絶対の自信を持っています。
先ほどおっしゃった4時間かけてLED制御するといったことも、Home Worksなら可能です。
また、その日・その場所の日の出・日の入りに合わせて一日の太陽の光をシミュレーションしながら部屋の照明の色温度を変えることもできます。
たとえば、オーナーが14時に帰ってきて『明るめ』を指示する場合と、夕方に帰ってきて『明るめ』の指示をする場合では、同じ『明るめ』でもシステムの側で適切な光量と色温度を考えて空間を満たすといったことは、既に可能です」
15年、20年先を見据えたスマートホームの本質
ICE武石さんは頷いて、次のように説明した。
「ここで大切なのは、ルートロンのようなスマートシステムは、特定のメーカーに依存せず、ネットワークを通じて統合システム全体が随時アップデートされることなんです。ぼくらがやっている商業施設の照明システムは、一度入れたら20年以上入れ換えない。住宅であっても、15年以上は持たせたいですよね。そうすると、15〜20年間同じプログラムで動くのは、安心感は抱けるけれども、一方で、住まい手の世代が変わったりして『もっとこういうことがしたい』となった場合に、困るんです。その点、アップデートでもっと優しく、しかも確実に動作することの方が重要ではないでしょうか」
それを受けてルートロン谷崎さんは、次のように解説した。
「おっしゃるとおりで、ルートロンHome Worksのようなシステムは、いろいろなメーカーの照明器具を混在させて制御することができますし、インターネットにつなげることで、常に最新のシステムであり続けます。10年前にシステムを導入された方でも、今年最新のシステムを導入された方と同じ機能を享受できるのです」
拙宅でもルートロン調光システムを20年以上使用しているが、まったく変わることなく使用できている。ゾーンに分けたシーン作りを直感的な操作で実現でき、美しい調光カーブを描く。それがネットワークと連携することで、ワンタッチでどこからでも全館制御が可能になり、常に最新であり続ける。AIの発展と共に、スマートホームは今後、よりオーナーの趣向や気分に寄り添ったインテリジェンスなシステムへと洗練の度を増し、アップデートされていくことだろう。
ICE 都市環境照明研究所(Illumination Of City Environment)
東京都渋谷区大山町35-20 メゾン永井202
http://www.ice-pick.jp/about/
ルートロンアスカ
東京都南青山1丁目1−1 青山ツイン 西館14階
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fy7d(エフワイセブンディー)代表
遠藤義人
ホームシアターのある暮らしをコンサルティングするfy7d(エフワイセブンディー)代表。ホームシアター専門誌「ホームシアター/Foyer(ホワイエ)」の編集長を経て独立、住宅・インテリアとの調和も考えたオーディオビジュアル記事の編集・執筆のほか、システムプランニングも行う。「LINN the learning journey to make better sound.」(編集、ステレオサウンド)、「聞いて聞いて!音と耳のはなし」(共著、福音館書店。読書感想文全国コンクール課題図書、福祉文化財推薦作品)など。