Matter Readyとは何か? 建築統合型スマートホームとMatter 1.5の現在地
取材/LWL online編集部
Matterはもはや「スマート家電やIoTガジェットのための規格」ではない。EVチャージャーや進化するロボット掃除機など、住まいの外縁から入り込む知能化デバイスが増えるなか、建築統合型スマートホームはどのようにMatterと向き合うべきか。本稿ではCSA日本支部代表の新貝文将氏にも話を聞きつつ、Matter 1.3〜1.5の進化を踏まえた「Matter Ready Home」という新たな設計思想を読み解く。
進化し続ける規格を「受け止める住宅」──Matter Readyという発想
Matterは、固定された完成形の規格ではない。むしろその特徴は段階的に機能と対象領域を拡張し続けている点にある。
LWL onlineではこれまで、Matterをスマートホームの中核技術としては扱ってこなかった。それは、建築統合型スマートホームが求める「長期安定性」「設計思想」「設備統合」と、初期のMatterがカバーしてきた世界が、必ずしも一致していなかったからだ。
しかし、Matterのバージョンアップの歩みを俯瞰すると、その評価軸は少しずつ変わり始めている。
Matterは「完成した規格」ではない──バージョンアップが前提の設計思想
Matter 1.3以降が拡張したデバイス領域
Matterは登場当初から、「万能規格」を目指していたわけではない。むしろ、初期は照明・コンセント・センサーといったシンプルで数の多いデバイスやそこから段階的に住宅インフラに近い領域へと広げていくという、極めて現実的な進化戦略を取ってきた。
この「段階的進化」こそが、建築統合型スマートホームと交差し始めた理由でもある。
Matter はアップデートが頻繁に行われている。Matterの近年のアップデートでは、単なる家電連携を超えた兆しが見え始めてきた。
Matter 1.3以降では、デバイス種別の拡張エネルギー関連機器への布石やより複雑な状態管理を前提とした設計がなされており、現在はMatter 1.5まで進化してきている。
このMatterの進化に歩を合わせるかのように、例えばロボット掃除機なども進化を進めているのだが、そうした空間を認識し、移動するデバイスへの本格対応も進み、単純なON/OFFではない、振る舞いベースの制御対象が増加してきているのだ。
ここで重要なのは、Matterが「建築を制御する側」へ進んでいるのではなく、建築と関係を持たざるを得ないデバイスをどう共通言語で受け止めるかという方向に進化している点に注目したい。ここは大きなポイントだと言えるだろう。

EVチャージャーは住宅インフラになる
電力マネジメントとの接続
今後、Matterとの関係性を語るうえで無視できないのがEVチャージャーである。
EVチャージャーは、電力容量や使用時間帯、太陽光・蓄電池連携、住宅全体の負荷制御といった、建築設備そのものと深く結びつく存在だ。しかもこの分野は、規格進化が早く、またベンダーも多く、技術更新のサイクルが短い。
つまり、建築側がすべてを固定化するにはリスクが高い領域でもある。
ここでMatterは、EVチャージャーを「住宅の外縁から入ってくる知能化設備」として、建築統合型システムとゆるやかにつなぐためのインターフェースとして、現実的な役割を持ち始めている。
ロボット掃除機は“家電”を超えた「センサー付モビリティ」

もうひとつ象徴的なのが、ロボット掃除機の進化だ。
近年のロボット掃除機は、住まいの間取りをマッピングし、家具配置を学習し、在宅・不在、時間帯、生活リズムと関係を持つ。
すでに「掃除機」というより、住まいを理解するセンサー付モビリティに近い。

Matterのアップデートはこうしたデバイスを住宅側と意味のある形で接続する準備とも言える。
CrestronがMatter対応を進める背景
こうした流れの中で、建築統合型スマートホームの代表格と言えるCrestronのホームオートメーションシステムがMatter対応を進めている事実は極めて示唆的と言える。
Matterを中枢に据えるためではない、既存の建築統合型制御を捨てるためでもない。むしろ、進化の速いデバイス群を建築側の秩序の中に受け止めるためという、極めて冷静で戦略的な判断に見える。
CrestronにとってMatterは、住宅の主制御を担うHome OSではなく、外部世界と接続するための「翻訳層」に近い存在だ。

Matterは「変わり続ける」からこそ、建築側は変わらない必要がある
Matter Readyという概念
Matterの最大の特徴は、今後もバージョンアップが前提であることだ。対応デバイスは増え続ける。また、想定用途も変わり、技術的な重心も移動する。
だからこそ、建築統合型スマートホームに求められるのは、住宅の中枢をMatterに委ねないが、Matterを介して、「いつでもつなげる状態」を保つという姿勢になる。
これを端的に表す言葉が、Matter Readyなのである。
Matterはようやく流行語としての段階を越えて、建築と共存するための実務的な進化フェーズに入りつつある。
Matter Readyとは、未来予測ではなく、変化を前提にした住宅設計思想だと言えるだろう。

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取材
LWL online 編集部