CSA「ProHome & Building」とは何か? 建築統合型スマートホームとMatterの第二フェーズ
取材/LWL online編集部
Matterを推進するConnectivity Standards Alliance(CSA)が、新たに「ProHome & Building Initiative」を打ち出した。これはDIY中心だったスマートホームを、設計者・施工者・インテグレーターが関与するDIFM(Do-It-For-Me)市場へと拡張するための標準化である。本稿では、ProHome & Buildingの要件定義・プロセス標準・事例化可能性を整理し、建築統合型スマートホームおよびMatter Readyとの接続点を読み解く。
CSAとは何か?──Matterを支える標準化主体
スマートホームの議論でしばしば登場する「Matter」。その規格を策定・推進しているのがConnectivity Standards Alliance(CSA)である。
CSAは、かつてのZigbee Allianceを前身とし、Apple、Google、Amazon、Samsungをはじめとする主要テクノロジー企業が参加する国際的な標準化団体だ。MatterはCSAの代表的なプロジェクトだが、CSAの役割は単なる「規格の策定」にとどまらない。
相互運用性(Interoperability)を通じてスマートホーム市場全体の信頼性を底上げすること。それがCSAの根本的な使命である。
Matter Readyとは何か? 建築統合型スマートホームとMatter 1.5の現在地

Matterのその先へ──なぜProHome & Buildingなのか?
これまでMatterはデバイス同士をつなぎ、メーカーを越えて動作させ、消費者が簡単に設定できるというDIY市場中心の相互運用性を担ってきた。
しかし、スマートホームが進化するにつれ、EVチャージャー、住宅エネルギーマネジメント、ロボット掃除機の高度化、賃貸住宅での入退去リセット、長期運用・保守管理といった、建築的・設備的・運用的な課題が顕在化してきた。
ここでCSAが立ち上げたのがProHome & Building Initiativeである。
この動きは一言で言えば、DIY中心のスマートホームをプロフェッショナル市場へ拡張するための標準化である。

ProHome & Buildingとは何か? DIFM(Do-It-For-Me)市場の制度化
ProHome & Buildingは、設計者、施工者、システムインテグレーター、不動産事業者といったプロフェッショナルが関与するDIFM(Do-It-For-Me)型導入を前提とする。
MatterはDIY中心で進んできたが、ProHome&BuildingはDIFMである。
ここまで来ると建築統合型スマートホームにとって、より親和性が高くなる。建築統合型スマートホームは、配線設計や制御盤設計、あるいは回路分離、プロトコル統合、シーン設計といった専門工程の集合体だからだ。

ここからが本題になる。
ProHome & Buildingは理念ではなく、実務構造の標準化に踏み込んでいる。
実務に踏み込むProHome & Building
① 要件定義:住宅ライフサイクル全体を扱う
従来のスマートホームは「導入」で完結していた。
しかしProHome & Buildingは、初期プロビジョニング、権限移譲、入退去リセット、再設定、長期メンテナンスといった住宅の時間軸を前提にする。
これは30年以上の寿命を持つ建築との整合性を初めて明確にした動きと言える。
② プロセス標準:導入から運用までの共通化
Matterが「デバイスの相互運用性」を担うのに対し、ProHome & Buildingはプロフェッショナル導入の相互運用性を整備しようとしている。
例えば、セキュアな認証、インストーラー権限管理、設定移行フロー、運用責任の分離などが体系化されることで、スマートホームは「建築設備」に近づいていく。
③ 事例化可能性:建築統合型との接続
新築高級住宅
Home OSを中枢に据え、Matterで外部デバイスを受ける。ProHome準拠の導入フローを採用することで、引き渡しプロセスが標準化される。
賃貸・サービスレジデンス
入退去時の設定リセットが標準化されることで、スマート賃貸の運用リスクが低減する。
リノベーション住宅
既存建築統合型システムを維持しながら、Matter対応機器を追加。導入・再設定の標準があることで再利用性が高まる。

Matter Ready × ProHome & Building 三層構造という整理
前回提示した「Matter Ready」は、変化するデバイス群を受け止める設計思想だった。ProHome & Buildingは、それを実務レベルで成立させる標準化であると整理すれば理解しやすいだろう。
図式化すると以下になるだろう。
| レイヤー | 役割 |
| 建築統合型Home OS(Crestronなど) | 住宅の中枢 |
| Matter | デバイス接続 |
| ProHome & Building | プロ導入・運用標準 |
この三層構造が揃ったとき、スマートホームは「IoTガジェット」から「ローカルネットワーク上での建築設備」へと成熟する。
スマートホームは「建築の時間軸」へ
CSAのProHome & Buildingは、単なるMatterの規格拡張として捉えるべきではない。スマートホームを「デバイスの相互接続」から「設計・施工・運用を含む建築設備」へと引き上げる構造転換の試みである。
Matterが横方向の相互運用性を整備したのに対し、ProHome & Buildingは縦方向──すなわち時間軸とプロセス──を制度化しようとしている。初期導入、権限移譲、入退去、再設定、長期保守。これらを標準の射程に含めた瞬間、スマートホームは初めて建築の論理に近づく。
建築統合型Home OSが住宅の中枢を担い、Matterが変化するデバイスを受け止め、ProHome & Buildingが導入と運用の責任構造を支える。
この三層構造がそろったとき、スマートホームは「IoTガジェット」ではなく、ローカルネットワーク上に実装された建築設備へと成熟する。
いま起きているのは、規格の更新ではない。市場の重心がDIYからプロフェッショナルへと移動し、スマートホームが「建築の時間軸」へ統合され始めたという構造変化である。
注目すべきはProHome & Buildingという名称そのものではない。スマートホームがようやく、建築と同じスケールで語られ始めたという事実だ。

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LWL online 編集部