【短期集中連載スマートホーム/ホームオートメーション~The Luxury Intelligent Residence】第一回:住まいに知性が宿るとき
取材/LWL online編集部
IoTガジェットとは異なる「邸宅の建築思想としてのスマートホーム」。欧米のラグジュアリー邸宅では、ローカルネットワーク上で動作するCrestronやControl4などの統合プラットフォームのもと、照明/窓廻り、空調、セキュリティ、マルチルームオーディオ、ワインセラールーム、庭園、噴水、プール、フィットネス、ホームシアターが統合され制御されている。本連載では、クオリティ・オブ・ライフを向上する手段としての「スマートホーム」について、多層的な視点から迫る。
「スマートホーム」という言葉を再考する
「スマートホーム」という言葉を聞いて、もし、あなたの脳裏に「スマホアプリで間接照明をつける」「スピーカーに話しかけてエアコンを操作する」といった光景が浮かんだなら、そのイメージを脇に置いてほしい。
ここで語りたい「スマートホーム」とは、家電の制御ではない。
ここでテーマとする「スマートホーム」とは、空間そのものが知性と自律性を獲得し、住まい手の習慣、リズム、嗜好、季節、光、温度、静けさ、時間の流れ──それらを深く理解し、先回りして整える、「住環境の執事」である。
IoTガジェット系のスマートホームが「指示待ちの装置」なら、CrestronやControl4など統合プラットフォームが実現するホームオートメーションは、「知性を宿した住まい」だ。
統合プラットフォームによるローカルネットワーク上で動作するホームオートメーションは、既に海外のラグジュアリー邸宅では一般的になりつつある。 日本でも、その未来を「遠くから眺める」段階から、「実装しうる現実」として捉える地点に立っている。

ラグジュアリー邸宅は知性を獲得する
たとえば朝。
深い眠りから意識が浮上するより先に、シェードが静かに上がりはじめる。やわらかな光が木肌の壁をなぞり、わずかに暖かい空気が、呼吸のような精度で室温を整える。
音楽はまだ流れない。
まずは“空気だけ”が整えられ、やわらかい光がこの住まいのオーナーの自然な目覚めを誘う。
オーナーが目覚めた後、朝のシーンに相応しい音楽が、ベッドルームから、リビングから、ダイニングから、廊下から、キッチンから、邸宅のあらゆる場所から流れ出す。
照度センサーと温度湿度センサーがCrestronなどの統合プラットフォームと連動することにより、住まいはまるで意思を持ったかのように、施主に心地よい時間を提供する。
秒単位の「便利さ」ではなく、時間そのものに品位を与える設え。
建築そのものが知性をまとい、住まいが自律して佇む世界だ。
海外のラグジュアリー邸宅では、Crestron、Savant、Control4といった統合プラットフォームが、照明・シェード・空調・セキュリティ・オーディオ・プールや噴水などの庭園設備・ワインセラールーム・ホームシアターに至るまでを制御する。
住宅が、住まう人のために考え、準備し、守り、包み込む。

IoTガジェットはスマート「ホーム」なのか?
ここ数年、「スマートホーム」を冠する製品が溢れている。
だがその多くは、突き詰めれば家電のリモコンをアプリに置き換えたに過ぎない。
インターネットやWi-Fiが落ちれば動かず、多くが赤外線で信号を送るので赤外線の範囲が外れた場合は信号が届かない。クラウド障害のたびに無言で固まる。メーカーが撤退すればサービスは停止してしまう。また、赤外線はフィードバックを取ることができないので、外出先では本当に機器が動作しているのか否かは不明である。
そもそもインターネットがないと動作しない。
(IoTガジェットだから当たり前といえば当たり前だが)
「スマート」を冠するIoTガジェットは、スマートフォンやスマートスピーカーが直接機器を操作しているのではなく、スマートフォンなどから一旦クラウドに指示を送り、それを受けてクラウドからIoTガジェットのハブなどに指示を送り、ハブから赤外線で信号を送り、機器を操作する。
たしかに家電を動かすには便利ではある。しかし、スマート「家電」やスマート「ガジェット」であっても、スマート「ホーム」と呼ぶことには疑問を覚える。

「家電」の操作ではなく、「住宅」を制御する
一方で、世界中のラグジュアリー住宅、ヨーロッパの歴史建築を改修した邸宅(いわゆるHeritage Re-use Residence)、ハイエンドホテル、クルーザーなどに採用されているCrestron、Savant、Control4といった統合プラットフォームはまさに「スマート」に相応しい。
ホームオートメーションのラグジュアリーブランドが提供するのは「家電の操作」ではない。
照明、シェード、空調、床暖房、セキュリティ、オーディオ、電気錠、シャッター、ろ過設備、噴水、エネルギー管理などを統合して、制御する。
そもそもインターネットに依存しない。IoTではないので安定した動作が可能である。
インターネット回線を利用するのは外出先から操作する場合、あるいは各種トリップ警報などアラートを外部に発報する時だけである。
統合プラットフォームによる「スマートホーム」はローカルネットワークで完結する。インターネットやクラウド、サーバー、外部サービスなどの障害が発生しても屈しない強靭さが特長であり、生命線である。
本連載では、言葉による混乱を防ぐために、ローカルネットワークで動作し、フィードバックを取ることができる、Crestron、Savant、Control4といった統合プラットフォームによる「スマートホーム」を「ホームオートメーション」と呼びたい。

ホームオートメーションでは何ができるのか?
では、ホームオートメーションでは何ができるのか?
まずはホームオートメーションが実現できる主な単機能を以下に記載する。
1.光の制御
①照明~照明シーンの呼び出し、調光・調色、オールオフ、状態確認
赤外線制御ではないLUTRONのグラフィックアイQSなどの調光装置に記憶された照明シーンの呼び出し、調光・調色、オールオンオフ。
あるいはDALIで制御された照明器具の照明シーンの呼び出し、調光・調色、オールオンオフ。
これらすべての動作はフィードバックを取ることができるので、いまどこの照明器具が何%の調光なのか、どの空間でどの照明シーンになっているのかなどがタッチパネルやスマートフォンなどの表示装置で知ることができる。

②片切スイッチのオンオフ、状態確認
調光装置だけでなく、パナソニックの片切スイッチのオンオフも遠隔から制御、状態確認ができる。
③シェードやブラインド、カーテンの開閉
LUTRONなど、海外のシステムであれば、フィードバック(状態確認)も可能である。
2.セキュリティ
①電気錠の開閉、状態確認
②セキュリティ会社のセキュリティシステムの警備オン、状態確認
③シャッターの開閉、状態確認
④エアコンのフィルター交換から、プールのろ過異常等各種警報などのアラート表示
3.コンフォート
①エアコンのオンオフ、運転切替、温度切替、風量切替、風向切替、それらすべての状態確認
②換気のコントロール、状態確認
③床暖房のオンオフ、状態確認
④給湯器のオンオフ、状態確認
⑤シャッターの開閉、状態確認
⑥エレベーターの呼び出し、運転、状態確認
⑦プールや露天風呂、池などのろ過設備の監視、給湯のオン給湯のオンオフ、チラーのオンオフ
4.エンターテイメント
①マルチルームオーディオのコントロール
②オーディオのコントロール
③ホームシアター・AV機器のコントロール
④噴水のコントロール
複数の機能を連動させ、センサーや顔認証で自律的に動作
ホームオートメーションでは、前項で羅列した各種機能を連動させることが可能であり、その連携した動作こそが重要である。
わかりやすい例で説明しよう。
たとえば、ホームシアター。複数のAV機器と、照明、シェードのコントロールが一体となって動作することで、ホームシアターへのシーンチェンジが可能だ。
CrestronやControl4を使用して、ワンタッチでホームシアターのシーンに切り替える機能は海外のみならず、既に日本国内のラグジュアリー邸宅では必須であり、たいていのラグジュアリーホームシアターには導入されている。
想像してほしい、照明を切るのに壁の片切スイッチを叩き、複数のAV機器のリモコンを駆使してホームシアターにシーンチェンジする姿を。ラグジュアリーとはほど遠い。ホームシアターのワンタッチコントロールはもはや必須だ。

話を戻す。
各種センサーと上記の機能を連動させることも可能だ。
ホームシアターであれば、ホームシアタールームのソファの真ん中に座ることで、感圧センサーとAV機器や照明、カーテンが連動してホームシアターシーンに切り替わることもできる。
あるいは、冒頭に描いたように、照度センサーとシェードや照明を連動させることは海外だけでなく、国内のラグジュアリー邸宅でも増えつつある。
照度センサーとソーラータイムスイッチを併用して、サーカディアンリズムに沿った照明シーンを邸宅内に出現させることもよく見られる。海外のラグジュアリー邸宅ではウェルネスにも十分な注意が払われているからだ。
照明に限ったことではなく、空気のコントロール、例えば温度湿度センサーと空調や換気装置を連動させることは海外のラグジュアリー邸宅では一般的であり、珍しいものではない。
温度湿度センサーと空調・加湿器を連動してワインを守る
温度湿度センサーと空調や換気装置の連動は日本国内でも採用が増えてきているが、筆者が経験した中で印象的だったのは、あるラグジュアリー邸宅(別荘)に設置された8畳ほどのワインセラールーム。
ワインセラールームに設けられた温度湿度センサーと空調、加湿器、換気装置が連動することで貴重なワインを守るというシステムである。
ワインの品質を守るにはコルクの乾燥を防ぐことが必要だ。ワインにとって理想的な湿度は70~80%と言われている。
仮に空調や加湿器など、機器にエラーが生じた場合や温度湿度に異常値が見られる場合はトリップ警報が別荘の管理会社に届く。
この手法は美術品を所蔵する空間にも応用できる。ワイン同様、美術品にも厳格な温度湿度管理が必要である。

他に、筆者が経験したエピソードでは、海を一望できる小高い丘の上の邸宅が印象深い。
邸宅の入口(シャッター)から丘の上の邸宅に至るまでにトンネルがあるのだが、入口前に設置された顔認証ドアホンで施主であることが認証されると、シャッターが開き、トンネル内の照明が一斉に灯り、トンネルを抜けて丘を登りきると池から噴水が吹き上がり、オーナーを出迎え、ガレージのシャッターが開き、ガレージの奥には既にエレベーターが到着して扉を開ける。
顔認証をトリガーにして、まるで邸宅が知性を持ったかのように動き出す、この邸宅のホームオートメーションはいまでもはっきりと印象に残っている。


世界の邸宅では、すでに当たり前の水準
前節で「海外のラグジュアリー邸宅では一般的」という言葉を乱発したが、わたしたちが憧れとして眺めていた「海外の豪邸」には、共通項がある。
それは「住まいが賢く振る舞う」ことを、贅沢でも未来でもなく、生活の前提としているという事実だ。
朝、ゆっくりとシェードが開き、東の光が室内に満ちる。床暖房と空調と加湿器が連携し、温度と湿度が整う。外気の質が変われば自動的に換気レベルが変わる。明るさは眩しさでなく、シェードと照明による視界のコントラストで調整され、人が部屋を移動するたび、影が自然に移ろう。
このようなホームオートメーションが実装される時代に突入しているのだ。
住まいは執事であり、主はただ、その空間の恩恵を享受するだけでいい。

“住宅が自律的に考え、ふるまう”世界へ。
わたしたちが扱う「スマートホーム」はガジェットではない。家電のみを操作する装置でもない。住宅設備を制御する「ホームオートメーション」である。
追求するのは、「住宅が人の感性に寄り添い、生活の質を高める装置になりうるか」という問いである。
スマートホームではなく、ホームオートメーション=インテリジェントホーム。IoTではなく、知性が宿る住まい。
それが本連載で描く世界である。
以下に、今後の連載の予定を記す。
01|Crestron、Control4 — 米国邸宅文化に学ぶ「住まいの頭脳」

02|Beyond Interface — センサー、顔認証、スマートスイッチ。多彩な操作端末

03|Architectural Lighting & Shades & more — 「光を操る」ということ
04|Home as Infrastructure — 見えない設計こそ、最高の贅沢
05|Multiroom Audio Integration — グローバルスタンダードなマルチルームオーディオ
06|Hospitality — ゲストのための自動演出。ウェルカム、ディナー、バータイム
07|Garden & Water — 庭と水のテクノロジー。ガーデン照明、噴水、池、プール、スパ
08|Wellness Suite — サウナ、ミスト、アロマ、サーカディアンリズム
09|Residence Security — 邸宅をスマートに護る技術
10|Art & Media — ホームシアターを超えて。デジタルアート
11|未来の邸宅 — 建築とAIの交差点 Generative Architecture、行動予測、素材の知能化。

本連載で語るのは単なる便利さの追求ではない。知性と美意識を併せ持つラグジュアリー邸宅のカタチ、“知性が宿る住まい”を実現する技術と文化を探る旅である。
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LWL online 編集部