【埋込スピーカー小特集】第1回 埋込スピーカーはなぜ“音が悪い”と言われるのか? その偏見の正体を探る
取材/LWL online編集部
埋込スピーカーと聞くと「音が悪い」という印象を抱く人は少なくない。その先入観を完全に否定できない事情もある。その先入観の背景には、建築音響における“インピーダンス方式”の違いがある。本稿では、商業施設やオフィスビルと、ラグジュアリーレジデンスで用いられる音響システムのそもそもの違いを技術的にひも解きつつ、高音質の埋込スピーカーの存在を明らかにする。
「埋込スピーカー=音が悪い?」根強いそのイメージの正体
埋込スピーカーには「音が悪い」という偏見がつきまとう。
そして、この偏見には一定の根拠がある。結論からいえば、“ある種の埋込スピーカーは音が悪いが、別のある種の埋込スピーカーは極めて音が良い” というのが正しい。
矛盾しているように見えるが、この差を生む決定的な要因こそが、ハイインピーダンス(高インピーダンス)とローインピーダンス(低インピーダンス)という二つのまったく異なるオーディオの方式である。
例えばスピーカーも大きく分けるとハイインピーダンス方式を採用しているものと、ローインピーダンス方式を採用しているものの2種類がある。
商業施設、公共施設、オフィスビル、マンションの共用部などで目にする埋込スピーカーは、館内放送のために設置されている設備スピーカーだ。
設備スピーカーの主目的は「BGM」ではない。「緊急時の避難誘導放送」である。
消防法では、館内放送用のスピーカーの設置が定められていて、どの場所からも10m以内の水平距離に設置する「10m基準」や、階段・傾斜路などには15mにつき1台以上のスピーカーを設置することなどが定められている。あるいは音圧などの基準も定められている。
つまり「音の質」ではなく「音の到達性と聞き取りやすさ」が最優先されたスピーカーなのである。
音楽を良い音で聴くことが目的なのではなく、緊急時に確実にアラートを届けることが最大の目的である。
この「緊急時の避難誘導放送」用のスピーカーの多くが埋込スピーカーである。

そもそもハイファイオーディオ用ではなく、避難誘導放送用として開発された埋込スピーカーが奏でるBGMに対して、「音質がイマイチ」と感じるのは当然といえば当然なのである。
なかにはカフェキツネのように、音にこだわったカフェもあるが、これはあくまでも例外中の例外なのだ。
カフェ キツネ~高音質にこだわったカフェ。全店Sonosでエレクトロ系を音楽配信
ハイインピーダンス方式とは何か?
商業空間や公共施設、オフィスビルの館内放送で使われるほぼすべての埋込スピーカーはハイインピーダンス方式(70V/100Vライン)で駆動される。
ハイインピーダンス方式の特徴は以下になる。
- 電気が“流れにくい”よう設計(高抵抗)
- 電流は小さい
- 電圧を非常に高くする(70V / 100Vライン)
- 細いケーブルで長距離配線してもロスが少ない
- 1台のアンプで10〜数十台のスピーカーを駆動できる
主たる目的は「遠くまで、均質に、音を届ける」。

そもそもインピーダンスとは、電気信号が流れようとするときに発生する “流れにくさ” の度合いを表す値だ。
オーム(Ω)という単位で示され、値が大きければ「流れにくい(=高インピーダンス)」、小さければ「流れやすい(=低インピーダンス)」となる。
と記すと、ハイインピーダンス方式は「電気が流れにくい」のになぜ遠くまで音を届けられるのか? という疑問が出てくるはずだ。これは一見すると矛盾に見える。
しかし、答えは明確で、「電力を高い電圧で送ることでロスを減らしているから」である。
ここからはやや技術寄りの話になるが、少々お付き合いしてほしい。
ハイインピーダンス方式のメリット/デメリット
電気の世界では、ロス(熱として失われるエネルギー)は電流の量に比例して増える。
式で書くと、損失= I² × R(ジュール損)。つまり電流 I(アンペア)が小さいほどロスが劇的に少ない。
ハイインピーダンス方式(100Vラインなど)は意図的に電流を少なくしているため、細いケーブルでも長い距離を引っ張っても、ほとんどロスが出ない。そのため、「流れにくい」ことが逆に“減衰しない”というメリットになる。
次に、昔中学校の理科で学習した電力(W)の公式を思い出してほしい。
W = V × I(電圧 × 電流)。ハイインピーダンス方式では電圧を一気に高く(70V / 100Vライン)することで、電流を小さくしても十分な電力を確保できる。
喩えるならば、低い電圧で大電流を流すことは太いホースで大量の水を押し出す様子に相当し、高い電圧で少電流を流すことは細いホースでも勢いよく水が届く様子に相当する。
細いホース(少ない電流)でも、圧力(電圧)を高めているから遠くまで届くわけだ。
電流が少ないからロスが少なく、高電圧なのでエネルギーを保ったまま伝送できる。
だから「長距離・多台数」の最適解となる。
100m以上の長距離配線、1台のアンプで10台以上のスピーカー接続、細いケーブルで施工可能といった、商業空間や公共施設、ビル、マンションの共有部に最適な条件がそろう。
ただし、ハイインピーダンス方式は電流量が少ないため、音質の追求には向かない。そもそもハイファイオーディオ的な「音質」ではない。
ハイインピーダンス方式のメリット/デメリット
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主目的 | 広範囲への音の到達・館内放送 |
| 長距離配線 | ◎ 強い(100m以上でも安定) |
| 多台数接続 | ◎ 1台のアンプで多数接続 |
| 施工性・ケーブル径 | ◎ 細いケーブルでOK |
| 音質 | ▲ 音楽再生向きではない |
商業施設で見かける「音が悪い埋込スピーカー」とは、このハイインピーダンス方式の設備スピーカーのことである。
ハイファイオーディオで用いられるのはローインピーダンス方式
一方、ハイファイオーディオで用いられているのがローインピーダンス方式である。ローインピーダンス方式はハイインピーダンス方式の逆であり、電流が流れやすい。
ローインピーダンス方式(4Ω・6Ω・8Ω)はハイファイオーディオの標準方式である。
ローインピーダンスの特徴
- 電気が流れやすい(低抵抗)
- アンプのパワーが直接スピーカーに伝わる
- 大電流を扱える → ダイナミック・歪の少ない再生が可能
- 音の立ち上がり、情報量、低域の制動性が圧倒的に高い
こちらは太いホースで豊かな水を一気に送り出すようなイメージだ。
アンプのパワーが直接スピーカーに伝わる(電流が流れやすい)から大音量でも歪みにくい、音の立ち上がりが鋭く、情報量が多い、ダイナミックレンジが広く、低域の制動性も高いという特長を持つ。
音質を優先する空間では必須の方式だ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主目的 | ハイファイ音質再生 |
| 長距離配線 | ▲ ロスが増えるため不向き |
| 多台数接続 | ▲ 制限あり |
| 施工性・ケーブル径 | ▲ 太くなる |
| 音質 | ◎ 圧倒的に高音質 |
ハイファイオーディオはローインピーダンス方式である。
当然、高音質の埋込スピーカーはすべてローインピーダンス方式で作られる。
KEF、B&W、DALIなどよく知られているハイファイオーディオブランドは、ローインピーダンスの高品位なインシーリング/インウォールモデルを用意している。
だが、そもそもローインピーダンス方式とハイインピーダンス方式の違いを知らない建築関係者も多い。電気工事を担当するサブコンでもこの違いを理解できていない場合もある。
例えばマンションのオプションで、施主がダイニングやキッチンでBGMが聴けるようにしてほしいとプランナーやコーディネーターに依頼した結果、プランナーやコーディネーターから依頼を受けた電気工事業者がハイインピーダンスのオーディオシステムを準備してしまうという悲劇が起こる。
しかも、これはレアケースではない!
建設業界の流通ルートと、ハイファイオーディオの流通ルートが異なることもあり、実はこの手の「悲劇」は多い。
以前ある富裕層が所有しているホームジム(フィットネスを目的としたマンションの一室)を拝見したことがある。
テクノジムの高級フィットネスマシンが並び、LUTRONの調光システムが導入されているラグジュアリーな空間にもかかわらず、BGMシステムは明らかに音質が劣っていた。システムを覗いてみたところ、ハイインピーダンス方式のBGMシステムが導入されていた。
本人も「音質がイマイチ」と言っていたが、設備用の埋込スピーカーが導入されていることもあり、システムの入替も困難だが、「音質がイマイチ」な理由を説明したところ、後日システムの全面的な入替を行ったという。
まさに「悲劇」である。
なぜ “日本では” 高音質の埋込スピーカーが普及していないのか?
日本では「埋込=設備スピーカー」という固定観念が強く、ラグジュアリー住宅でも埋込型が選ばれないことが多い。
埋込スピーカーのメリットとしては次のとおりである。
- 美観を損なわない
- 空間デザインを崩さない
- シアターにも音楽にも使える

このような利点にもかかわらず、高音質モデルが知られていない。
そのため海外ブランドの多くが「日本市場向けに埋込スピーカーを販売していない」という現象まで発生している。埋込スピーカーの需要自体が少ないので、企業としては仕方ない。
しかし、正しく選べば、埋込スピーカーはラグジュアリー住宅に最適な音響設備になる。
これが本稿の最大のポイントである。
埋込スピーカーが“音が悪い”とされる理由はハイインピーダンス方式=設備用に限った話だ。そもそもハイファイ再生が目的ではないのだから当然といえば当然である。
対して、ローインピーダンス方式の埋込スピーカーは一般的なハイファイスピーカーと同等の音質を持ち得る。
特に、B&WやKEFなどのハイエンドブランドの埋込スピーカーは、フロアスタンディングタイプやブックシェルフタイプにひけを取らない音質を誇る。







本稿では導入編としてインピーダンス方式の理解を深めたが、次稿ではラグジュアリー住宅向けの「音の良い埋込スピーカー」の選び方・推奨モデルを紹介したい。
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