【スマートホーム/ホームオートメーション特集】スマートホームの“知性”を設計する──システムインテグレーター(SI)とは何者か?

 取材/LWL online編集部

ラグジュアリー邸宅自体がHome OSのもとで知性をもつ存在へと進化するなか、その真価を引き出す職能として注目されているのが、スマートホームのシステムインテグレーター(以下SI)である。まだ日本では耳慣れない肩書きかもしれない。しかし欧米、とくにアメリカでは、CEDIA(Custom Electronic Design & Installation Association)という団体を中心に、30年以上にわたり明確な職能として体系化され、住宅とテクノロジーを統合する「専門家集団」として確立されている。

欧米で確立した“住宅OS時代”の専門職が、ついに日本でも台頭。ホームシアターインストーラーから進化した新たな職能の全体像とは?

目次

システムインテグレーター(SI)とは何か? それはラグジュアリー邸宅の「知性」をつくる職能

ラグジュアリー邸宅自体がHome OSのもとで知性をもつ存在へと進化するなか、その真価を引き出す職能として注目されているのが、スマートホームの「システムインテグレーター(SI)」である。まだ日本では耳慣れない肩書きかもしれない。しかし欧米、とくにアメリカでは、CEDIA(Custom Electronic Design & Installation Association)という団体を中心に、30年以上にわたり明確な職能として体系化され、住宅とテクノロジーを統合する「専門家集団」として確立されている。

アメリカや欧州のラグジュアリー住宅市場では、建築家・インテリアデザイナー・構造設計者・設備設計者・ゼネコン・デベロッパーと並ぶ形で、「システムインテグレーター(以下SIと表記)」がプロジェクトチームに参加するのはごく普通の光景だ。
理由はシンプルである。

照明・空調・遮光・電気錠・セキュリティ・AV・ネットワーク──これらを「ひとつの振る舞い」として統合できる専門家が、他に存在しないからだ。

CEDIAは「住宅のテクノロジーをデザイン&構築するプロフェッショナルの団体」であると定義し、各種の国際資格(EST、ESC-T、ESC-D)によってスキルと知識の標準化を進めてきた。
とくに北米では、Crestron / Control4 / Lutron HomeWorks といったHome OSを扱える企業はハイエンド住宅の必須パートナーと言えるほどの地位を確立している。

建築とテクノロジーを横断する高度な専門性は、もはや単なる配線工事やAV施工の延長ではなく、「住宅の知性(Intelligence)を設計する職能」として評価されている。
なお、CEDIAに関しては後述する。

よく誤解される「ホームシアターインストーラー」との違い

日本では、スマートホームSIを語る際に最も誤解されがちなのが、ホームシアターのインストーラー(AVインストーラー)との混同だ。
確かに、スマートホーム/ホームオートメーションの先進地区である北米を見ても、歴史的にはこの2つは非常に近い関係にある。
2000年代以降、ホームシアターの設計・施工のプロフェッショナルたちが、ネットワークや照明・シェード制御へと領域を広げた。
その延長線でHome OS(Crestron / Control4 / Lutron)を扱う企業が増えてきた。
こういう経緯もあり、ホームシアターインストーラーの発展形としてSIへ移行したケースは非常に多い。

ただし近年、この2つの職能は明確に分岐してきている。
両者の区分は以下になる。

ホームシアターインストーラー

  • 映像・音響の機材のセレクトと設計
  • 映像・音響の最適化
  • 映像・音響にかかわる施工
  • ネットワークや簡易オートメーションは行うが「ラグジュアリー邸宅全体」は守備範囲外

スマートホームシステムインテグレーター(SI)

  • 住宅全体の制御を設計
  • 建築プロトコル(KNX/BACnet/Modbusなど)を理解し、各レイヤーも熟知
  • 照明・空調・シャッター・防犯など多領域を統合
  • 施工だけでなく「デザイン」と「プログラミング」も担う
KNXのコントローラー

Home OSがラグジュアリー邸宅の中枢を担うようになったことで、SIは「ラグジュアリー邸宅のITアーキテクト」に近い存在へと進化している。

CEDIA──ホームシアターの業界団体から、スマートホームの「知性」を育てる教育機関へ

ここでCEDIA(Custom Electronic Design & Installation Association)について少し解説しよう。
CEDIAは1980〜90年代の北米のホームシアター・ブームの中で、インストーラー(AV施工技術者)の国際的な業界団体かつ教育機関としてスタートした。
設立当初の主領域は、プロジェクターやスクリーン、サラウンドシステムを扱う施工技術である。
ケーブル処理やマウントラック構築、映像・音響調整といった、いわゆるホームシアターインストールに特化した専門教育を中心に展開していた。

しかし2000年代以降、照明・空調・遮光・セキュリティなどを統合的に制御するスマートホーム/ホームオートメーションが市場の中心に移行する中で、CEDIAも大きく舵を切ることになる。
欧米のラグジュアリー邸宅では、CrestronやControl4、Savant、Lutron HomeWorksなどの「Home OS」が浸透してきた。
そのため、ホームシアターのインストーラーから、より建築的・システム設計的な役割を担う「スマートホームのSI」へと職能が拡張していったのだ。
現在のCEDIAは、その変化を受けて、教育内容の軸足を「住宅テクノロジーの統合設計・統合施工」へと大きくシフトさせている。
とはいえ、歴史的背景から、ホームシアターの教育は今も一定の比重を占めており、インストーラー向けの教育体系も併存している。

この流れを最も象徴するのが資格体系だ。

エントリー資格であるEST(Electronic Systems Technician)は、ラック構築やケーブリング、AV機器の設置といったホームシアター施工を中心とした基礎技術を証明する資格である。
CEDIAがまだ完全にホームシアターインストーラーの職能団体だった時代、1990年代後半には既にいまのESTに近い形で成立していた。
筆者が立上げをサポートしたCEDIA JAPANでも、2009年に日本でESTの資格テストが行われたことを記憶している。
いまでもホームシアターインストーラー向け資格としての色が濃い。

一方、住宅全体の設計や制御を扱うスマートホームSIに相当するのはESC-D(Electronic Systems Certified – Designer)である。
ESC-Dは、建築図面の読解から照明・空調・遮光制御のデザイン、Home OSによる統合設計、ネットワーク設計までを扱う、まさに「住宅の知性を設計する資格」と言ってよい。 ESC-Dは2010年前後に成立している。

他にもESC-T(Electronic Systems Certified – Technician)という資格がある。
こちらはネットワークの施工を中心に基本的なオートメーションの知識を証明するものである。
2000年代の中盤に成立し、日本でもESTの次に資格テストを行うロードマップだったと記憶している。

つまりCEDIAは、ホームシアターの時代から続く技術教育を継承しつつ、いまやスマートホーム/ホームオートメーションの中心的教育機関として機能している。
欧米でスマートホームSIが「職能」として確立した理由の背景には、こうしたCEDIAの役割が大きく存在している。

日本でスマートホームのシステムインテグレーターが普及しにくかった理由と、いま起きている急激な変化

一方、日本ではスマートホームのSIという言葉は、ほとんど市民権を得ていない。
理由は主に3つある。

  1. そもそも住宅に「OS」を導入する文化がラグジュアリー邸宅と言えども成熟していない
  2. ガジェット型スマートホームが先に広まり、建築統合型スマートホームの存在が知られていない
  3. ホームシアターのインストール(施工)とオーディオ・ビジュアル業界の文脈で語られてきた

しかし近年は、

  • 富裕層邸宅の増加
  • 高性能住宅の標準化
  • インテリアデザインの高度化
  • CrestronやLutronの国内導入数の増加

などを背景に、住宅全体をトータルで制御する統合型スマートホームの需要は着実に増加している。

それに伴い、本格的なSI企業も少しずつだが確実に増えつつある。
(例:ハナムラ、SUMAMO、HOMMA、コンフォースなど)

まだ欧米のような大きなエコシステム(デバイス × プロトコル × OS × 設計 × 施工× サポート)には至っていないが、確かに日本にも「スマートホームのSI」という職能の芽が育ちつつある。

設計の現場で顕著なのは、建築家・デザイナーからの相談が急増していることだ。
「照明・空調・遮光を統一的に扱いたい」「ガジェットでは限界がある」「海外の事例のようにCrestronなどのような統合プラットフォームで住まい全体を制御したい」

先日開催された『第24回Living Wellness in Luxury® アフタヌーンパーティ』では、デベロッパー、建築家、設備設計者、デザイナーからは次々とスマートホーム/ホームオートメーションに関する質問が出てきた。
と同時に、旧知のデベロッパーや設備設計者からは進行中のプロジェクトの相談も発生した。
こうした声が建築側から増え、それに応える形で本格的なSI企業が着実に台頭している。

同時に、日本でもホームシアターインストーラーがスマートホームSIへと進化するケースも出てきた。
『第24回Living Wellness in Luxury® アフタヌーンパーティ』のデモをプログラムしたコンフォースである。

また、スマートホーム黎明期から活躍するハナムラ、複雑なプロトコルの束を統合することに長けたSUMAMO、そして本場北米で起業し北米で数多の実績を積み重ねついに日本に上陸したHOMMA
こうしたスマートホームSIは本特集の中で順次紹介していく。

ラグジュアリー邸宅が増える中で、スマートホームの要望は高まっている

まとめ:スマートホームSIという職能がひらく未来

スマートホームのSIとは建築・テクノロジー・インテリアを横断し、住宅の知性をデザインする専門家だ。
欧米ではCEDIAを中心に、その職能が確立されている。
日本でも、建築統合型スマートホームの台頭とともに、その必要性は急速に高まっている。

  • ホームシアターのインストーラーの延長線ではあるが、もはや別職能
  • Home OSを扱えるSIは、住宅の「頭脳」をつくる存在
  • 日本でも必ず需要は拡大し、専門家集団として成長していく

LWL onlineでは、この特集を通じて、日本におけるスマートホームSIという職能の輪郭を明確にし、建築業界・不動産業界とテクノロジーの新しい接点を提示していく。

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    LWL online 編集部

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