【スマートホーム/ホームオートメーション特集】KNXフォーラム東京2025開催レポート――オープンプロトコルが切り拓くスマートビル・スマートホームの未来

fy7d(エフワイセブンディー)代表/遠藤義人 

ヨーロッパ発の国際オープンプロトコル「KNX」の最新動向を共有する日本KNX協会主催イベント「KNXフォーラム東京2025」が、2025年12月9日、東京・三田の建築会館で開催された。住宅やビルなどの設備を自動制御するヨーロッパ発祥のオープンプロトコルであるKNXの規格制定から35周年、日本KNX協会設立11周年となった今年の東京フォーラムは、昨年を上回る110人あまりがホールを埋め尽くした。KNXの基礎から、スマートビル・スマートホームへの応用、BMS連携、最新KNX IoT、NOT A HOTELの実装事例まで、オープンプロトコルがもたらす“長く使える建築オートメーション”の現在地が語られた。

KNXとは何か?──35年進化し続けるオープンプロトコル

相互接続性・ETS・後方互換性というKNXの本質

KNXは住宅やビルの設備の自動制御(オートメーション)を可能にするオープンプロトコル。

規格に準拠した照明、空調設備、スイッチ、センサーなど500社以上8000種以上の製品を連携させることで、住まいや施設利用者の利便性を向上させたり、省エネに貢献するなどして建物の価値を向上させる。

今回のフォーラムでは、日本KNX協会前副会長・高山優樹さんの司会に沿って、「KNXとは?」といった基礎から、KNXを導入することによるメリット、最近の技術動向、実例について、9名のプレゼンテーターが講義を展開した。

まずKNXとは何かについて、日本KNX協会会長・相原直樹さんが、家庭及びビルのオートメーションのオープンプロトコル通信規格であることを紹介。

他のプロトコルとの違いとして、
(1)相互接続性(認証を受けた全製品が問題なく繋がる)
(2)ワンツールETS(どの製品を使うとしても覚えなければならない設定ソフトはETS=Engineering Tool Softwareひとつで済む)
(3)後方互換性(35年前のツールでも最新のものと置き換えできる)
を挙げた。

また、IoTへの対応やサスティナブルへの取り組みなど、常に最新動向を取り込みつつ発展し続けていることを訴えた。

スマートビルにおけるオープンプロトコルへの期待

メーカー依存からの脱却がもたらす設計・運用の自由度

次に「スマートビルにおけるオープンプロトコルへの期待」と題し神田通信機・小笠原雅浩さんが登壇。
電気設備の設計と管理をしていた前職で出会ったKNXとの馴れ初めから、KNXがオープンなプロトコルであることによるメリットと期待について語った。

各メーカーが独自の制御方式を採用する場合、メーカーが製品開発を辞めたり、開発担当者や施工責任者が辞めたりするとシステムの維持管理ができず、まるごと取り替えなければいけないといったことが生じる。
対してオープンプロトコルなら、多くの製品供給先があり、それぞれに裏打ちされたエンジニアの知識と経験が終結できるため、開発も速くて安心である。

「使い手中心」のシステム設計という価値転換

こうした相互接続性が担保されていることで、開発設計施工担当者、ひいてはユーザーも選択の自由度が高まる、すなわち「作り手側を中心としたシステムではなく、使い手側を中心としたシステム」が構築できることが最大のメリットだと小笠原さんは指摘。
具体例として、意匠性の高いベルギーのBasalteのスイッチ等を挙げていた。

また、照明、エアコン、ブラインドとそれぞれに必要だったスイッチやセンサーをひとつに纏められるとも。
従来であればセンサーが3000ほど必要だった5万平米の現場を例に挙げ、1000ほどで済んだと明かした。

KNX Association本国EXPERTが解説するKNX IoT最新デモ

ETSを軸にした有線・無線・IP統合の実演

次に登場したのは、本国ブリュッセルから来日したKNX AssociationのMichael Critchfieldさん。
胸に「EXPERT」を掲げたエンジニアで、新しいKNX IoTにより可能になった接続法を、実機を繋ぎ実際に動作させながら説明した。

通信速度や工程数の削減との関係で様々な接続や無線化が求められることもあるだろうが、そういう場合でもすべてETSで設定・動作させることができるといったデモンストレーションがライブカメラでスクリーンに投影された。

KNX×他プロトコルのインテグレーション実践論

DMX・DALI・ECHONET Lite・MQTT・PJLINKとの連携事例

ライターやYouTuberとしても活躍するスマートライトの中畑隆拓さんは、「KNXと他プロトコルのインテグレーションと見える化の方法」と題し、専門用語に疎いユーザーの要求に対し柔軟かつ適切に対処する手法について、12の具体例を交えつつレクチャーした。

たとえば、「DMXという照明規格に準拠した照明機器を制御するにしてもWeinzierl製のゲートウェイを使うよりRMS232C通信インターフェースを使ったiPlayer3という機器を用いた方が光の演出としてはユーザーの意図に合う」という話から、
「エアコンの制御にはECHONET Liteだけでなく、CoolAutomationを使えばあらゆるメーカーを跨いだ制御ができる」といった話、
近時話題の「AIカメラからMQTTという軽量なプロトコルで受け取った人数情報を元にDALI照明とシーン連動を行う」手法、
メーカーを問わない規格「PJLINKを使ったプロジェクター制御」…等々、興味深い話が続いた。

KNXとビル管理システム(BMS)の連携と進化

BACnet・Modbusとの関係・役割分担

ふたたび日本KNX協会会長・相原直樹さんが、KNXとビル管理システムの連携について解説した。

KNXは何でも繋がる。もっとも、それ自体は単なる通信プロトコルで、具体的価値を付けるためには管理システムが必要である。
住宅であればホームコントローラーやタッチパネルだが、ビルであれば管理システムで、スケジュール管理を含む運転管理、継続して動作するためのアラーム管理、履歴に基づく運転データ分析などを行うことになる。

その代表がBACnet(Building Automation and Control Networking Protocol)やModbusといった通信プロトコル。
だがせっかくKNXで繋ぐのであれば、KNXnet/IP(KNXのフレームをIPフレームにのせたもの)、新しいKNX IoT等もある旨紹介された。

セマンティックとオントロジーがもたらす管理効率化

また、KNXのメリットとして、「セマンティック」をサポートしていることを挙げる。
これが使えると、付随データを共通規格にして誰でも理解できる言語にしてくれる。

オントロジー(コンピューターが理解できる言語にする)に際し主語・述語・目的語のほか、三者の関係性についても記述するので、ビル管理システムであれば、建築構造をKNXの設定ソフトETSにデータ化して取り込んだり、今まで人が分析して行っていた機能テストを半自動化することで50〜80%効率化できたり、瞬時にUI(User Interface)を構築できたりできるようになるというわけだ。

NOT A HOTELのスマートホーム実装

高級別荘×UI統一というUX設計

NOT A HOTELのスマートホーム開発について、NOT A HOTELエンジニア部スマートホームグループIoTエンジニアの今井晨介さんが登壇。
KNXを使ったオートメーションについて解説した。

NOT A HOTELは、いわば各地にある贅沢な別荘を所有しながら他とシェアする新しい宿泊システム。
そんな豪邸では、どのスイッチが何を操作しているか分かりづらいため、各別荘に組み込まれたスマートシステムは、そもそもの予約も含め、部屋の機器のコントロールまですべてをスマート化している。
どこに泊まってもUIが同じなので、操作に迷わないのもメリットだ。
もっとも、部屋にスイッチが一切無いので、たとえば洗面台の鏡スイッチは、静電容量方式を使うなどして補っている。

信頼性・バックアップ設計とKNXの柔軟性

一泊100万円といった高級別荘を制御するので、動かないといった事故が起こると信頼性に関わる。
そこで、バックアップ電源にも腐心しているといった隠れた工夫も。

プロトコルとしてはほかにModbusも使うが、KNXは後から顧客の要望に応えていろいろなものを付加しやすく、意匠性がよいところを評価しているという。

高級住宅におけるKNXオートメーションの実例

「KNXを中心としたオープンプロトコルによるオートメーションの実例」と題し、コンフォースのオートメーション事業部、前野憲一さんが登壇。
長年ホームシアターと高級住宅のホームオートメーションを手掛けてきた立場から、住宅案件における留意点とKNXの理念への共感を述べた。

KNXの魅力は、長く使えるので運用が安定すること、特定メーカーの都合に切り回されないこと、つまり将来の変化を許容する柔軟性が、住宅のオートメーションにとって有効だという。

確かに、住宅ではお子さんから高齢者までスキルに格差があるため、システムが技術的に正確であったとしても、使い方を覚えられない人がいたり動作が不安定だと不安に感じてしまう。
それが住宅では致命的だと指摘する。

意匠・設計・運用を分離できるオープン思想の強み

また、高級住宅においては意匠性が重視される。
住宅設計や照明設計などそれぞれに専門家がおり、それぞれの境界線をハッキリさせることが、長期に亘る管理では大切だと力説。
これは故障だけでなく、生活環境の変化に応じた更新の場面でも大切で、機器に依存しないKNXの思想を高く評価した。

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JUNG×KNX 世界の事例とデザインスイッチの最前線

LS990と最大32制御を可能にするKNXスイッチ

エネルギーループを実現するプライム・スター社会長の開発てるさんが、創業113年の独JUNGのスイッチとKNXを使った事例とニューモデルを紹介した。

JUNGのスイッチは、一つで、照明や空調など、最大32の制御ができるデザインスイッチ。
従来ありがちな、壁にいくつものスイッチがありどれが何のスイッチなのか迷うといった必要がないと謳う。

ル・コルビュジエカラーが示す意匠と技術の融合

新製品のほか、「デザイン界の巨匠ル・コルビュジエがAIを使ってデザインしたらどんなスイッチができるか?」をコンセプトにコルビュジエオリジナルカラー63色を職人が手作業で塗装する定番スイッチLS990 Les Couleurs Le Corbusierをプレゼンテーションした。

また、ホテルや高級マンション、豪邸の実例紹介が多数紹介され、JUNGのスイッチとKNXで組み上げらた魅力的な空間が世界重で展開されているさまが見て取れた。

制御盤メーカーが語るKNXの活用

大規模照明制御と製造現場でのKNX活用

長野エーシーエスの田野口直生さんは、「制御盤メーカーとしてのKNXの取り組み、実例」と題し、KNXを使った現場で起こったエピソードを中心に、事業内容を紹介した。

エーシーエスは当初、KNX制御盤の設計・製造のみを担っていたが、施工現場でのトラブルをきっかけにKNXのトレーニングを受けて制御も担うことに。
企業案件が多いため、5000点以上の照明器具を制御するシステムを抱えることも珍しくなくそこでの苦労話や、現場の工務店さんを指導したりといった活動を通じて製造現場やモノづくりの現場で活躍していることを語った。

AI時代におけるハードとオープンプロトコルの価値

自動化の流れの中でソフトはAI化により急速に省人化されていくと思うが、ハードはそこまで急に進まないと考え、KNXを通じて繋がった仲間たちと愉しみながらチャレンジを続けたいと抱負を語ったのが印象的だった。

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  • fy7d(エフワイセブンディー)代表

    遠藤義人

    ホームシアターのある暮らしをコンサルティングするfy7d(エフワイセブンディー)代表。ホームシアター専門誌「ホームシアター/Foyer(ホワイエ)」の編集長を経て独立、住宅・インテリアとの調和も考えたオーディオビジュアル記事の編集・執筆のほか、システムプランニングも行う。「LINN the learning journey to make better sound.」(編集、ステレオサウンド)、「聞いて聞いて!音と耳のはなし」(共著、福音館書店。読書感想文全国コンクール課題図書、福祉文化財推薦作品)など。

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