【スマートホーム/ホームオートメーション特集】スマートホームは2つの系譜に分かれる── Fieldbus・ローカル制御が導く「Your home is yours.」という思想

 取材/LWL online編集部

スマートホームという言葉は、便利で先進的な住まいの象徴として語られてきた。しかし住宅の現場では、その評価は必ずしも一様ではない。背景にあるのは、異なる思想と時間軸を持つ仕組みが、同じ「スマートホーム」という言葉で語られてきたことだ。

本記事では、IoTガジェット型と建築統合型(Home OS)という二つの系譜を整理し、Fieldbus・ローカル制御・「Your home is yours」という思想が、なぜラグジュアリー住宅で重視されているのかを読み解く。

スマートホームには、2つの異なるアプローチがある

スマートホームという言葉は、ここ十数年で急速に普及した。
便利で、先進的で、未来的。そうしたイメージとともに語られる一方で、住宅の現場では必ずしも肯定的な評価ばかりではない。
むしろ、建築関係者の間では批判的に捉えられることも多い。

問題は、スマートホームという概念そのものが未成熟だからではない。
むしろ、異なる思想と前提を持つ仕組みが、同じ「スマートホーム」という言葉で一括りにされてきたことに、混乱の根本原因がある。

現在のスマートホームは、大きく二つの系譜に分けて整理できる。

ひとつは、IoTガジェットを中心としたスマートホームだ。
LWL onlineが「IoTガジェット型スマートホーム」、あるいは「クラウド依存型スマートホーム」と呼称する、ガジェットを中心としたスマートホームである。
Wi-Fiなどの無線ネットワークを前提とし、クラウドサービスと連動、スマートフォンアプリを主な操作手段とする。導入が容易で、体験も直感的。ITプロダクトとしては完成度が高い。

もうひとつは、建築統合型・Fieldbus型スマートホームである。
有線かつローカルネットワークを基盤とし、制御は原則として住宅内部で完結する。
照明や空調、遮光、セキュリティといった設備が、建築と一体で設計され、長期運用を前提に構築される。

重要なのは、これらが優劣の関係にあるわけではないという点だ。
想定している「住まいの時間軸」と「主権の置きどころ」が異なる。それゆえ、評価軸も必然的に異なってくる。

IoTガジェット型と建築統合型スマートホームは何が違うのか

IoTガジェット型スマートホームは、たしかにITサービスとして捉えれば合理的で洗練されている。
しかし、住宅という10年、20年単位で使われる、「人間にとってのインフラ」に組み込んだとき、さまざまな問題を生み出す。

クラウドサービスへの依存。
通信環境に左右される挙動。
状態のフィードバックが明確ではない中での制御。
そして、サービス提供期間と住宅寿命とのズレ。

ITサービスとしては合理的だが、住宅設備としては前提が異なる──ITサービスと住宅という人間のインフラの構造的な問題・差異が建築関係者からの批判的な視点を生み出す。

なぜ「IoTガジェット型スマートホーム」は、住宅インフラになりえないのか?

一方の建築統合型スマートホーム(Home OS)は日本ではなじみが薄い。
IoTガジェット型スマートホームとは違い、派手な宣伝や話題の提供はされないが、しかしラグジュアリー邸宅では静かに、しかし確実に浸透しつつある。

建築統合型スマートホームは建築設備として組み込まれることが前提となっている。
また、建築に組み込まれるため、ベンダーに依存せず、10年、20年単位で使われることが前提となる。

そもそもの目的が「簡便さの追求」ではなく、「生活体験の質向上」であり、建築が本来持つべき環境制御思想の延長線にある。

「簡便さの追求」を起点とし、「アプリ前提」「クラウド依存」「数年で陳腐化するガジェット」「空間にノイズとして入り込むUI」というIoTガジェット型スマートホームとは、見事に対照的な特徴を持つ。

スマートホームがある日突然「ただの置物」になる

Fieldbusとは何か──住宅の「神経系」という考え方

建築統合型スマートホームの根本思想にはFieldbusがある。
では、Fieldbusとは何か?
Fieldbusとは、照明・空調・遮光・センサーといった建築設備を、ローカルネットワーク上で確実かつ一貫した論理で接続するための通信思想である。
単なるデータ伝送方式ではなく、各機器が「今どの状態にあるか」を常に共有し、住宅全体が確定的に振る舞うことを可能にする基盤だ。
クラウドや外部サービスに依存せず、建築の内部で完結する点に本質がある。
Fieldbusは、住宅をITサービスではなく長期的に運用されるインフラとして成立させるための、不可視の神経系なのである。

その特徴としては、「有線ネットワーク」と「ローカル制御」がある。

有線ネットワークとローカル制御が評価される理由

有線ネットワークやローカル制御は、しばしば「古い」「柔軟性に欠ける」と見なされがちだ。
しかしラグジュアリー邸宅の現場では、むしろ逆の評価がなされている。

有線であることは、状態が常に把握でき、動作が予測可能であることを意味する。
ローカルで完結することは、住宅の主導権が外部ではなく住まいそのものにあることを意味する。

これは利便性の話ではない。
住まいの主権をどこに置くかという、きわめて根源的な問いである。

「Your home is yours.」とは何を意味するのか

住まいの主権をどこにおくのか?

実は「スマートホーム」をめぐる2つの潮流はこの住まいの主権をめぐって、まったく異なったアプローチをしているのだ。

IoTガジェット型スマートホームはクラウドに主権を持たせる。
なるほど。たしかにこれは賃貸マンションの管理会社のサービスとしては、非常に合理的な考え方となる。民泊のサービスとしても主権をクラウドに持たせた方が合理的だ。
主権をベースに考えると、住宅を「分譲」や「所有」をしない場合は、実はIoTガジェット型スマートホームの方が適切である。

一方、建築統合型スマートホームはあくまでも主権は施主にあるという思想のもとにある。

Your home is yours.」が根本的な思想となるので、Fieldbusという通信思想につながる。
だから、ローカル制御は絶対条件になるのだ。

オーケストレーション層と建築プロトコル層の役割

LWL onlineが重視してきた建築統合型スマートホームの考え方は、レイヤー構造として整理すると理解しやすい。

上位には、住まい全体の体験を設計するオーケストレーション層がある。
たとえば Crestron、LutronのHomeWorks、HOMMA が担うのは、個別機器の制御ではなく、暮らし全体の振る舞いを統合的に設計する役割だ。

下位には、建築設備を確実に支えるプロトコル層が存在する。
KNXやBACnet、あるいはECHONET Liteは、この層に位置する。

Home AssistantはHome OSのどこに位置づけられるのか

この二つの層の間に位置づけられるのが、Home Assistantである。

Home Assistantは、オーケストレーション層でも、建築プロトコル層でもない。
ローカルに動作するUI/統合層として、両者をつなぐ役割を果たす。
オーケストレーション層の思想を理解するための可視化装置であり、建築プロトコル層の動作の翻訳装置として、極めて相性が良い存在だ。

Home Assistantは、万人向けの完成形ではない。
しばしば「エンジニア向け」で「マニアック」と語られがちだ。
だが、その根本思想に「Your home is yours」を置く。
これは建築統合型スマートホームの根本思想と重なる。

「インターネットが落ちても動く」「クラウドが停止しても家は成立する」「データは外に出さない」という思想が建築統合型スマートホームに重なる。
これは住宅を生活インフラとして扱うための最低条件だ。

2026年版:建築統合型スマートホーム(Home OS)のベストプラクティス構成案

階層 (Layer)担当システム・プロトコル役割の定義 (Home OS設計思想)
User Interface (UI)Home Assistant等、またはLutron/Crestron等メーカー製スイッチ、Basalte等KNXスイッチ他「情報の統合と操作窓口」
スマホ・壁埋込パネル・音声等を一括管理。メーカー排他性を排除。
Controller (司令塔)Crestron / Lutron HomeWorks / HOMMA他「論理制御の脳」
24時間365日停止が許されない基幹ロジックを担当。UIからの指令を確実な実行コマンドへと変換。
Infrastructure (プロトコル)KNX / BACnet / Modbus / ECHONET Lite / DALI/DALI2他「物理実行(有線プロトコル)」
照明・空調・ブラインド。ネットワークトラブル時も物理スイッチで動作を保証する堅牢な足回り。
Special GatewayCoolAutomation「プロトコル翻訳機」
各社空調プロトコルを変換し、上位のHome OSへシームレスに橋渡しする。

Matterを待たずに、すでに成立しているアプリケーション層

近年、Matterが「共通規格」として注目されている。
だが冷静に見れば、Matterは主にデバイス連携を簡素化するための規格であり、住宅全体の思想や体験設計までを担うものではない。
これは以前記事にしている。

Matterとは何か?スマートホームの誤解を解く

一方、Home Assistantはすでに、「膨大なデバイス・プロトコルを横断的に束ね」「ローカル環境でアプリケーション層を成立させ」「住まい全体を一つのシステムとして統合している」。

つまり、「Matterが目指している世界の一部」はすでに実装されているのだ。

しかもそれは、クラウド前提ではなく、住まいの内側で完結する形で、である。

ダッシュボードとは「操作」ではなく「監視」である

Home AssistantのUIを単なる「操作パネル」と捉えるのは誤りだ。

その本質は、住まいが今、どのように振る舞っているかを可視化するダッシュボードにある。

室温や湿度は、意図通りに推移しているか、照明や遮光は、時間帯と自然光に適応しているか、エネルギーは、過剰に消費されていないかなど、住まいの状態を把握するためのものだ。

そもそもスマートホームにおいて、知性を宿した住まいは自律的に動くのだから、「操作」は必要ない。
UIは操作ではなく、住まいの状態を把握するものに位置付けられる。

これはまさに、Home OS時代に求められるUXそのものだ。

スマートホームとは、技術選択ではなく思想選択である

スマートホームは、新しいガジェットを選ぶ話ではない。
便利なアプリを導入する話でもない。

それは、住まいを「ITサービス」として扱うのか、それとも「人間の生活インフラ」として扱うのかという思想の選択である。

クラウドに判断を委ねるのか。
住宅の内部で完結させるのか。
短期的な利便性を優先するのか。
10年、20年先の住まいの自律性を重視するのか。

Fieldbus、有線ネットワーク、ローカル制御、そして「Your home is yours」という考え方は、この問いに対する一つの、しかし極めて首尾一貫した答えだ。

本特集がこの後掘り下げていくKNX、BACnet、Modbus、ECHONET Liteといったプロトコルは、単なる通信規格ではない。
それぞれが、建築をどう捉えてきたかという思想の結晶である。

2026年の【スマートホーム/ホームオートメーション特集】は、「何が流行っているか」ではなく、「そもそもの根本的な思想が、どのような邸宅にふさわしいのか」を問い続ける。

そのための基準点として、まず本記事では、スマートホームが分岐してきた二つの系譜と、住まいの主権における選択肢を提示した。

住まいの主権をクラウドサービスに渡すのか、施主自身が持つのか。それを判断するのは、システムでも、規格でもない。
住まいとともに生きる人間自身である。

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