【スマートホーム/ホームオートメーション特集】BACnetとは何か──ビルディングオートメーションがラグジュアリー邸宅へ降りてきた理由

 取材/LWL online編集部

建築家や設計者がスマートホームに違和感を覚えてきた背景には、「住宅が、誰のもので、どのような論理で、何を目的として動かされているのかがわからなくなる」という感覚がある。住宅の自律性を極限まで高める思想を持つKNXに対し、BACnetは、ビルディングオートメーションの世界から、まったく異なるアプローチでこの問題に向き合ってきた。本記事では、BACnetの出自と目的、そしてラグジュアリー邸宅へと適用範囲を広げつつある背景を、建築思想と実装現実の両面から読み解いていく。

BACnetの出自── ビルディングオートメーションが抱えていた課題

1990年代アメリカにおける設備統合の限界

建築家や設計者がスマートホームに違和感を覚えてきた背景には、「住宅が、誰の、どのような論理で動かされているのかがわからなくなる」という感覚がある。
KNXがその問いに対し、住宅の自律性を極限まで高めるという回答を提示してきたとすれば、BACnetは、まったく異なる地点から同じ問題に向き合ってきた。

そもそもBACnetは、住宅のために生まれたプロトコルではない。
その出自は、1990年代初頭のアメリカにおけるビルディングオートメーションの混乱にある。

メーカー依存から脱却するための共通言語

当時のビルでは、空調、防災、照明、セキュリティといった設備が、メーカーごとに独自仕様で構築され、建物全体を横断的に把握・制御することが困難だった。

この問題に対し、米国の暖房・冷凍・空調分野の専門家団体を中心に、メーカーを超えて設備を統合するための共通言語として開発されたのがBACnetである。

BACnetが目指した「建築を一つの環境として管理する」思想

BACnetは当初から、「一棟の建物を、ひとつの環境システムとして管理する」ことを目的としていた。
その思想の中心にあるのは、スケール、拡張性、可視化である。

BACnetの目的── 自律ではなく、把握と統合

KNXとの思想的な違い。「中央集権」ではなく構造化された統合

住宅思想として見たとき、BACnetはKNXとは対照的な立場を取る。
KNXが「各要素の分散的な自律」を重視するのに対し、BACnetは「全体を把握し、管理できる構造」を最優先する。

これは中央集権というより、構造化された統合と呼ぶべき思想だ。

個々の設備は、それぞれの役割を持ちながらも、上位から「読める状態」として整理される。
BACnetにおいて建築は、「自律する集合体」ではなく、秩序だったシステムとして成立する環境である。

KNXとは何か──分散制御がラグジュアリー邸宅で選ばれ続ける理由

有線・ローカル制御を前提とする理由

クラウド依存型スマートホームとの決定的差

BACnetもKNXと同様に、基本的に有線・ローカル制御を前提とする。
これは住宅用途への転用においても重要な意味を持つ。

クラウドや外部サービスに依存せず、建築内部で状態を完結させるという点で、
BACnetは無線主体・クラウド依存型スマートホームとは明確に一線を画す。

ローカル制御が担う「管理」と「可視化」

ただし、そのローカル性の意味合いはKNXと異なる。
KNXが「住宅の主権」を守るためにローカルを選ぶのに対し、BACnetは「管理と可視化」を成立させるためにローカルを必要とする。

BACnetはどこで使われているのか。主な導入分野と制御対象

オフィスビル・病院・空港・ホテルでの採用実態

BACnetが最も広く使われているのは、大規模オフィスビル、病院・研究施設、商業施設・空港、ホテル・複合施設といった、設備点数が多く、長期運用が前提となる建築である。

HVAC・エネルギーマネジメント・防災設備との関係

制御対象の中心は、空調(HVAC)、換気、ボイラー、冷凍機、エネルギーマネジメント、防災・監視システムなど、建築環境を面として制御する設備群だ。

重要なのは、BACnetが「快適さを演出する仕組み」ではなく、環境を安定して維持・管理するための骨格として使われてきた点である。

ラグジュアリー邸宅へ── なぜBACnetが住宅に入ってきたのか

設備スケールの拡大とBACnetとの高い親和性

近年、BACnetはラグジュアリー邸宅の文脈でも語られるようになった。
その理由は明確だ。

大規模な敷地、複数棟構成、プール、スパ、ワインセラー室、ゲストハウスなど、従来の住宅スケールを超える設備構成が、個人邸宅にも持ち込まれるようになったからである。

こうした住宅では建物を「小さなビル」として捉え直す必要が生じる。
そのとき、BACnetは極めて合理的な選択肢となる。

Home OSとの関係── インテグレーターの設計力が問われる理由

BACnet側とHome OS側の役割分担

Home OSというレイヤー構造で捉えた場合、BACnetはKNXやModbusと同様に、Crestronなどのオーケストレーション層から問題なく制御・統合されるプロトコルである。

ただしBACnetが前提としているのは、個々のデバイスの即時的な操作性よりも、設備群をどのように構造化し、どう定義するかという設計思想だ。

インテグレーターの力量が邸宅の完成度を左右する

制御は上位層にゆだねられるが、その区分と役割分担を、あらかじめ整理しておく必要がある。
この点においてBACnetは、システムインテグレーターの力量が最も如実に表れるプロトコルでもある。

どこまでをBACnet側で担い、どこからをHome OS/オーケストレーション層にゆだねるのか。その切り分けと見極めが、住宅全体の完成度を左右する。

建築・設備・制御を横断して理解するインテグレーターが介在すれば、BACnetはラグジュアリー邸宅において、極めて強靭で拡張性の高い基盤となる。
これは制約ではなく、設計と実装の完成度を引き上げるための余白である。

なぜ、BACnetはラグジュアリー邸宅で選ばれていくのか

建築を「環境システム」として扱う時代に適合する「言語」

近年、ラグジュアリー邸宅に求められる要件は大きく変わりつつある。
単に快適であること、意匠が優れていることに加え、環境として住宅全体を安定して維持・運用できることが、重要な価値として意識され始めている。

大規模な敷地、複数棟構成、プール、スパ、ワインセラー室、高度な空調・換気・エネルギー管理、監視。
こうした要素を含む住宅は、もはや「家」というより、ひとつの環境システムとして扱う必要がある。

BACnetは、まさにそのための言語だ。
設備を個別に操作するのではなく、建築全体を構造として把握し、状態を定義し、監視し続ける。
その思想は、長期運用を前提とするラグジュアリー邸宅の要求と高い親和性を持つ。

今後、住宅のスケールと複雑性が増すにつれ、BACnetはビルの世界から静かに領域を広げ、ラグジュアリー邸宅における信頼性の高い基盤プロトコルとして、存在感を高めていくことになるだろう。

KNXとは何か──分散制御がラグジュアリー邸宅で選ばれ続ける理由

次回(予告)

  • DALI / DALI-2とは何か──照明を建築要素に引き戻した制御思想
  • Modbusとは何か──思想を語らないが、住宅を裏切らない言語

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