【スマートホーム/ホームオートメーション特集】プロトコル「DALI」とは何か?── 照明を「演出」から「建築要素」へ引き戻した制御思想
取材/LWL online編集部
照明が「操作される対象」になったとき、光は建築から切り離される。DALIは0–10V制御の限界を超え、光を数値として定義・再現することで、照明を再び建築要素として成立させた制御思想だ。本稿では、DALIの出自・思想・実装現実性を建築の視点から読み解く。
0–10V制御の限界を超え、光を建築の言語として定義し直すデジタル照明プロトコル
建築家や設計者が、照明制御に違和感を覚えてきた理由は明確だ。
照明が「操作される対象」になった瞬間、光は空間から切り離され、意匠や素材、プロポーションとの関係を失ってしまう。
本来、光は建築の一部であり、スイッチやアプリの存在を意識させるものではない。
にもかかわらず、制御技術が前面に出ることで、照明はいつの間にか「どう操作するか」を語られる存在へと変質してきた。
DALIは、そうした照明制御の歪みに対し、きわめて建築的な問いを投げかける。
光を、操作の対象ではなく、建築要素として成立させるにはどうすればよいのか。
その問いに対する、実装レベルでの答えが、DALIというプロトコルである。

DALI プロフィール── 照明を建築に戻すための基本仕様
0–10V制御の限界とDALIの誕生
DALI(Digital Addressable Lighting Interface)は、白熱灯時代の位相制御とは異なり、蛍光灯時代に普及した0–10Vアナログ調光の限界を引き継いだ後継規格として設計された。
0–10Vアナログ調光が抱えていた「再現性と可視性の限界」を克服するために生まれたデジタル照明制御プロトコルである。
有線・2線式バスという建築的選択
DALIは有線制御を基本とし、電源とは独立した2線式バスによって、最大64台の照明機器を同一系統で制御できる点も特徴である。
アドレス制御・グルーピング・シーンの思想
各照明は個別にアドレスを持ち、グルーピングやシーン制御を通じて、建築意図に沿った光環境を再現する。
以下が主な特徴である。
- 1系統(1バス)あたり最大64台の照明器具を個別アドレス管理
- 器具単位での調光・点灯制御が可能
- グループ制御・シーン制御に対応
- 有線・ローカル制御を前提
- メーカー非依存のオープン規格
重要なのは、DALIが「照明をまとめて制御する仕組み」ではなく、光の状態を数値として保持し、再現するための言語である点だ。
これにより、照明は「その場限りの演出」ではなく、設計された建築要素として扱われる。
なお、DALIはPWM制御のような器具内部の電子制御方式とは異なり、建築側から照明の状態をどのように定義し、再現するかを扱うデジタル照明制御プロトコルである。

照明制御の整理──位相制御・PWM・0–10V・DALIの違い
DALIは「建築側の言語」である
DALIの誕生の背景等に進む前に、少し整理しておく。
照明制御の文脈では、位相制御、PWM制御、0–10V制御、DALIが混同されがちだが、これらは役割も思想も異なる。
PWM制御はLEDの器具内部で用いられる電子制御であり、建築側が直接扱うものではない。
位相制御は、PWM制御のような器具内部の電子制御方式ではなく、電源側で波形を加工することで明るさを変える、白熱灯時代に成立した調光方式である。
0–10V制御はアナログ信号で明るさを指示する方式だが、再現性や可視性に限界があった。
DALIはそれらと異なり、建築側から照明の状態を数値として定義・再現するための、デジタル制御言語であり、KNXやBACnetと同じ建築統合思想を持つ、照明特化プロトコルである。
DALIの出自── 照明制御をメーカー依存から解放するために
DALIの起源は、1990年代後半のヨーロッパにある。
当時の照明制御は、0–10Vに代表されるアナログ方式が主流で、調光の再現性や器具ごとの差異、メーカー依存といった課題を抱えていた。
照明器具を更新すれば、その都度、制御系も見直しが必要になるという課題である。
建築としての寿命と制御システムの寿命が噛み合わない。
この問題に対して、照明を建築から切り離さないための共通言語として設計されたのがDALIである。
DALIは、照明器具に知性を持たせるための規格ではない。
むしろ逆だ。
照明建築の論理に戻すための制御方式なのである。

DALIの目的── 光を「正確に定義し、再現する」
DALIの思想の核心は光を曖昧な操作対象にしないことにある。
0–10Vに代表されるアナログ調光のように「だいたいこの程度の明るさ」ではなく、明るさ・状態を数値として保持し再現する。
これはデジタル制御ならではある。
これにより、シーンは一時的な演出ではなく、建築に組み込まれた設計意図として保存され、再現される。
時間帯が変わっても、季節が移ろっても、光の質は揺らがない。
DALIは照明という存在を、より踏み込んでいえば光という存在を、操作される対象から空間の恒常的な構成要素へと引き戻したのである。

有線・ローカル制御という必然
DALIが有線・ローカル制御を前提とするのは、照明という要素の特性を建築側から正確に捉えた結果だ。
光は遅延や不安定さが即座に知覚される。ゼロコンマのほんのわずかなズレが、空間の質を損なう。
無線主体やクラウド依存の制御ではこの要件を満たすことは、HOMMAで使用している無線技術を除けば基本的には困難である。
DALIは建築内部で完結し、外部環境に左右されない。
これは利便性だけを目的としているのではなく、光を建築の一部として信頼できる(再現できる)存在にするための選択である。

実際にDALIはどこで使われているのか?
DALIは、以下のような建築で広く採用されてきた。
- 美術館・博物館
- 高級ホテル・レストラン
- ラグジュアリー邸宅
- オフィスビル・教育施設
共通するのは、光の質と再現性が評価軸となる建築である。
DALIは照度を上下させるための仕組みではない。
空間の印象を設計通りに保ち続けるための基盤として使われていることが理解できるだろう。

DALI-2という進化── フィードバックがもたらした完成度
DALI-2では、器具やセンサーの状態フィードバックが標準化された。
これにより、照明は「制御しているつもり」の存在から、実際の状態を把握できる建築要素へと進化した。
相互運用性も大きく向上し、DALIは建築統合型制御における照明制御層として、より完成度の高い位置づけを得ている。
状態のフィードバックの標準化はKNXやBACnetと同様、建築統合型制御において欠かせない要素だ。
光が「いまどうなっているか」を正確に知ることができてこそ、初めて、空間全体の制御が成立する。
なお、DALI-2への対応が早かったのは、照明を「器具」ではなく「建築要素」として扱ってきたメーカー群であることを付記しておく。
ERCO、Zumtobel、iGuzzini、そしてFLOSはその代表例と言える。
ちなみに筆者が始めてDALI-2に出会ったのはFLOSのLight Stripeである。
2017年のことだ。
ある豪邸の現場で、LutronのGrafikEye QSを使用して、この照明器具をコントロールする必要が生じた際に出会っている。
LutronのDALI対応ドライバーを使用してFLOSのLight Stripeを直接コントロールし、さらにLutronのGrafikEye QSをCrestronでコントロールするというスタイルだった。
FLOSのLight Stripeは典型的な建築化照明である。
そのためDALI-2が照明を建築要素として扱うためのプロトコルであることをいち早く理解できた。
Home OSとの関係── 照明を「建築側」に引き戻す制御層
Home OSというレイヤー構造で見ると、DALIは明確に照明制御層を担う。
UIや演出ロジックは上位にゆだね、DALIはひたすら、設計された光を正確に再現し続ける。
CrestronやLutronなどのオーケストレーション層と組み合わせることで、照明は他の設備と調和する。
ラグジュアリー邸宅におけるDALIの意味
ラグジュアリー邸宅において、照明は最も繊細で、最も誤魔化しの効かない要素である。
素材や家具、アート、そして人の振る舞い。すべての関係性を構築させる要素が光だ。
だからこそ、照明は「操作する対象」になった瞬間に、建築から逸脱してしまう。
DALIは照明を「使いこなす対象」にしない。
操作やインターフェースの存在を前景化させることなく、光を設計された状態として定義し、空間の一部として成立させる。
それは派手な体験を演出するための技術ではない。
時間が経ち、住まい手が変わっても、建築が意図した光の質を裏切らないための基盤である。
照明を再び「建築の側」に引き戻す。
DALIとはそのために選ばれるプロトコルである。

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LWL online 編集部