【スマートホーム/ホームオートメーション特集】スマートホームで「やってはいけない設計」7選
取材/LWL online編集部
スマートホームの失敗や後悔は、一般住宅の話では終わらない。高級住宅では、誤った設計判断が資産価値・住環境・将来継承にまで影響する。本記事では、IoTガジェット型導入、属人化、ブラックボックス化など、高級住宅で絶対に避けるべき「7つの失敗設計」を思想と実務の両面から整理する。
目次
- なぜスマートホームの失敗は高級住宅ほど致命的になるのか
- スマートホームでやってはいけない設計①クラウド依存型スマートホームを導入する
- スマートホームでやってはいけない設計②電気工事業者に依頼する
- スマートホームでやってはいけない設計③ひとり親方のインテグレーターに任せる
- スマートホームでやってはいけない設計④ 将来メンテナンス不能な「ブラックボックス化」をしてしまう
- スマートホームでやってはいけない設計⑤ 状態を把握できない制御方式を選ぶ
- スマートホームでやってはいけない設計⑥ 「スマホ操作=スマートホーム」だと思い込んだシステム設計をしてしまう
- スマートホームでやってはいけない設計⑦ 今の便利さだけで判断する
- スマートホームの失敗を分ける最大の要因とは
なぜスマートホームの失敗は高級住宅ほど致命的になるのか

高級住宅ではスマートホームが「設備」ではなく「建築構造」になるから
スマートホームの失敗談は、すでに世の中に溢れている。
「便利だと思って入れたが使わなくなった」
「結局、すべて手動に戻した」
「アップデート後に不安定になった」
こうした声は、もはや珍しいものではない。
しかし、これらの多くは一般住宅の話だ。
高級住宅・富裕層住宅では、同じ失敗がまったく別の意味を持つ。
なぜなら、高級住宅におけるスマートホームは「設備」ではなく、建築そのものに組み込まれるべき構造要素だからである。
配線は壁に埋まり、制御系は盤の中に隠れ、UIは建築意匠の一部として壁面に定着する。
一度誤った設計を選べば、それは数十年にわたって住まいに残り続ける負債となる。
高級住宅においてスマートホームの失敗とは、「便利でなかった」で終わる話ではない。
資産価値を下げ、住環境の質を毀損し、将来の継承を困難にする「構造的失敗」につながる。
本稿では、「やってはいけない設計」に焦点を絞り、高級住宅において絶対に避けるべき項目のみを整理する。
スマートホームでやってはいけない設計① クラウド依存型スマートホームを導入する

なぜクラウド依存型(IoTガジェット型)は高級住宅で失敗するのか
最初に挙げるべき失敗はやはりこれだ。
クラウド依存型、いわゆるIoTガジェット型スマートホームの導入である。
高級住宅・富裕層住宅でIoTガジェット型スマートホームを選んだ時点で、失敗はほぼ確定する。
これらは「簡単」「安価」「スマホで操作できる」という文脈で語られ、一見すると合理的な選択肢に見える。
しかし本質的には、住宅インフラではなく、消費者向けITサービスに過ぎない。
IoTガジェット型スマートホームが住宅インフラにならない理由
IoTガジェット型スマートホームは、「クラウドサーバー」「サービス提供企業」「アプリの継続開発」という、住宅の外部要因によって成立している。
つまり、サービスが終了すれば終わり、仕様が変われば従うしかない。
障害が起きても、施主は何もできない。
これは、照明や窓廻りなどの光環境、空調や床暖房などの温熱環境、電気錠やセンサー類といったセキュリティなど、住宅の中核機能を、自分では制御できない他者の都合にゆだねていることを意味する。
高級住宅とは本来、「自律した構造物」であるべきだ。
それにもかかわらず、数年単位で陳腐化するIoTサービスを中枢に据える設計は、時間軸の次元で完全に破綻している。
要するに、IoTガジェット型スマートホームは、高級住宅においては「確実に後悔する選択」なのである。
なお、一般住宅や賃貸物件においては、必ずしもこの限りではない。
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なぜ「IoTガジェット型スマートホーム」は、住宅インフラになりえないのか?
スマートホームでやってはいけない設計② 電気工事業者に依頼する

なぜ電気工事業者やサブコン任せでは失敗するのか
次に多いのが、スマートホームをサブコンや電気工事業者に任せてしまうケースだ。
このパターンは、実は非常に多い。
また、少し事情を知っている設計事務所やデザイン事務所がやりがちなのが、ホームシアターの延長線としてAVインストーラーに依頼してしまうケースである。
ここには明確な誤解がある。
電気工事業者は、配線と施工の専門家であり、電気工事のプロフェッショナルだ。
AVインストーラーは、AV機器の選定や設置において高い専門性を持つ。
しかし、建築統合型スマートホームは、住宅全体を一つのシステムとして設計・統合・運用する領域である。
そこでは、
・制御ロジックの設計
・設備間の関係性の定義
・UIと建築動線の一致
・将来変更を前提とした構造設計
といった、横断的かつ俯瞰的な設計思想が不可欠となる。
スマートホームの“知性”を設計する──システムインテグレーター(SI)とは何者か?
スマートホームにおける「インテグレーター」の役割とは何か
照明や窓廻りなどの光環境、空調や床暖房などの温熱環境、電気錠やセンサー類などのセキュリティまで、各種住宅設備について、概念から主要製品の仕様レベルまで熟知している必要がある。
この役割を担うのが、スマートホーム・インテグレーターである。
分業が通用しない領域を、分業で解決しようとするのは明確な誤りだ。
インテグレーター不在のまま進められた計画は、ほぼ例外なく部分最適の寄せ集めとなり、最終的に「誰も全体を把握していない住宅」を生む。
高級住宅では、「誰が統合責任を負うのか」を曖昧にしてはならない。
スマートホームのシステムインテグレートを主たる事業としている企業に委託する必要がある。
高級住宅の実績や企業規模、体制を鑑みると、現時点で推薦できるシステムインテグレーターは以下の3社である。
スマートホームでやってはいけない設計③ ひとり親方のインテグレーターにすべて任せる
ひとり親方のインテグレーターが危険な理由
スマートホーム専門のインテグレーターを起用していても、安心はできない。
次の落とし穴が、ひとり親方、あるいは極端に小規模な事業体への依存だ。
スマートホームで「属人化」が最大リスクになる理由
スマートホームは導入して終わりではない。
住み始めてからが本番であり、生活の変化、設備更新、ソフトウェア調整が継続的に発生する。
しかし、設計も施工も保守も一人、あるいはノウハウが個人に閉じている体制では、その人物に何かあった瞬間、住宅は保守不能なブラックボックスに変わる。
継続性のあるインテグレーターを見極める3つの条件
見極めの指標として重要なポイントは、次の3点である。
① 企業規模の確認
従業員が複数人いるかどうかは、必ず確認すべきだ。
② ショールームや検証環境の有無
ショールームを運営している企業であれば、資金力や継続性の一定水準をクリアしていると考えてよい。
また、検証環境の有無は、スマートホーム分野では特に重要な確認項目である。
③ 建設業登録の有無
施工まで行う事業者であれば、建設業登録は必須条件となる。
一般建設業登録・特定建設業登録の別は問わないが、特定建設業登録の場合、自己資本比率なども精査されるため、より強固な資金力と体制があることが担保される。
これらは単なる形式ではない。
「人が入れ替わっても住宅が成立するか」を測るための判断軸である。
高級住宅のスマートホームは、個人の腕前ではなく、組織の継続性に支えられるべきだ。
スマートホームでやってはいけない設計④ 将来メンテナンス不能な「ブラックボックス化」をしてしまう

ブラックボックス化したスマートホームはなぜ価値を下げるのか
設計段階では洗練されて見えても、10年後を想定していないシステムは危険だ。
仕様が非公開、専用機器しか使えない、特定ベンダーに完全依存——こうした構成は、時間とともに住宅の足かせになる。
また、前項でも記したが、属人性が高いシステムもブラックボックス化してしまう可能性が高い。
将来メンテナンス不能なシステムが住宅にもたらす弊害
高級住宅において、設備は更新され続ける前提で設計されるべきだ。
にもかかわらず、ブラックボックス化したスマートホームは「触れない」「直せない」「拡張できない」存在になる。
結果として、「一部だけ撤去」「機能の無効化」「全面的な入れ替え」といった、極めてコストの高い判断を迫られる。
住宅の寿命より短いシステムは、インフラとは呼べない。それは負債である。
スマートホームでやってはいけない設計⑤ 状態を把握できない制御方式を選ぶ

状態が把握できない制御方式はなぜスマートではないのか
スマートホームの核心は、操作ではない。
状態の把握と再現性にある。
現在の明るさ、遮光率、温度、稼働状況。
これらを把握できない制御方式では、自動化は成立しない。
赤外線・リレー制御が高級住宅に向かない理由
赤外線制御では、実際にどのような状態になっているのかフィードバックが得られないため、ONなのかOFFなのかすら判別できない場合がある。
また、カーテンに代表されるリレー制御でも、開いているのか閉じているのか、その状態を正確に把握できないケースが多い。
以前、赤外線やトグル制御について詳しく解説した記事があるので詳細はそちらを参照いただきたいが、
状態を持たない住宅は、トラブルの原因すら特定できず、人が常に介在しなければならない不安定な住環境を生む。
高級住宅のスマートホームとしてはありえない。
赤外線とリレーに高級住宅やラグジュアリー邸宅をゆだねてはならない。
スマートホームをめぐる問題── 赤外線、トグル、そして状態不可視
スマートホームでやってはいけない設計⑥ 「スマホ操作=スマートホーム」だと思い込んだシステム設計をしてしまう

なぜ「スマホ操作=スマートホーム」は誤解なのか
「知性を宿した住まい」は「スマホ操作」ありきで設計されてはならない。
スマホ操作はあくまで補助である。
日常の住環境が「スマホによる操作」を前提に設計されている時点で、スマートホームとしては失格だ。
本当に上質な住宅が「操作」を必要としない理由
高級住宅において理想的なのは、住む人が何もしなくても成立している環境である。
スマホ操作やタッチパネル操作は、あくまでも補助的な役割にとどめるべきだ。
センシング技術やAIを組み込み、「操作しない」ことを前提とした住まいが優先される。
【短期集中連載スマートホーム/ホームオートメーション~The Luxury Intelligent Residence】第一回:住まいに知性が宿るとき
スマートホームでやってはいけない設計⑦ 今の便利さだけで判断する
なぜ「今の便利さ」だけで選ぶと必ず後悔するのか
最後に、最も根源的な失敗。
それは「今」の視点だけで判断することだ。
高級住宅のスマートホームは、10年後、20年後、さらには次の所有者まで見据えて設計されなければならない。
流行ではなく、時間に耐える構造だけが正解となる。
高級住宅はなぜ「未来から逆算」して設計すべきなのか
そのため、統合型プラットフォームをオーケストレーション層に置き、オープンプロトコルを中心に設計されたシステムが必須となる。
将来にわたって永続性のある構成を、初期段階で組み込んでおく必要がある。
スマートホームは2つの系譜に分かれる── Fieldbus・ローカル制御が導く「Your home is yours.」という思想

スマートホームの失敗を分ける最大の要因とは
技術ではなく「住宅思想」が結果を決める
ここまで挙げた7つの失敗は、いずれも技術不足が原因ではない。
住宅を、ガジェットとして見るか、インフラとして見るか。
この思想の違いが、結果を分ける。
例えば、インテグレーターを「ひとり親方」に任せるという判断は、時間軸やリスクを考慮せず、住宅をガジェットとして扱っているのと同義である。
あるいは、スマホで操作することを主として設計しているスマートホームは「知性を宿した住まい」とは言えない。
高級住宅において、スマートホームは「便利機能」ではない。
住まいの骨格そのものであり、その起点には「体験の質の向上」がある。
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LWL online 編集部