【スマートホーム/ホームオートメーション特集】Matterネイティブデバイスで「スマートホーム」は構成できるのか?

 取材/LWL online編集部

スマートホームの世界で、いま急増している誤解がある。「Matter対応デバイスを中心にすれば、Home OSなしでもスマートホーム全体を構成できるのではないか?」という考え方だ。たしかにMatterは「つながる」ことを強く訴求する規格であり、対応デバイスも急速に増えている。しかし、「つながること」と「住宅として構成されていること」は同義ではない。本記事では、LWL online読者から寄せられた実際の質問を起点に、スマートホームで最も混同されやすい「レイヤー(層)」の考え方を整理し、Home OSが果たす本当の役割を解き明かす。

スマートホームで最も誤解されやすい「レイヤー構造」

LWL onlineの読者から、こんな質問が届いた。「最近よく聞くMatter対応デバイスを中心にすれば、Home OSを使わなくてもスマートホームは構成できるのでしょうか?」
たしかに、もっともな疑問だ。Matterを解説した記事でも伝えていなかった。

Matterとは何か?──スマートホームの誤解とMatterをめぐる誤解を解く。

Matterは「つながる」ことを強く訴求する規格であり、対応デバイスも急速に増えている。
「これだけ揃えば、家全体を構成できるのでは?」と感じるのは、ごく自然な感覚だろう。

だが同時に、この問いにはスマートホームにおいて非常に起こりやすい「勘違い」が含まれている。
それは、異なるレイヤーの概念をひとつに混同してしまっているという点だ。

「つながる」と「構成する」は似て非なるもの

まず整理しておきたいのは、デバイスが相互接続できることと、住宅のインフラとしてシステムが構成されていることは、同義ではないという点である。

Matterが解決しようとしているのは、主に次の領域だ。

メーカーやブランドの垣根を越えて、ガジェットやスマート家電、スマートロックなどのデバイス同士共通の言葉で通信できるようにする。

これは、これまでのスマートホームにおける大きな課題だった。
スマート照明器具、カーテン、センサー、ロボット掃除機、スマート家電……
それぞれが別々のアプリ、別々の思想で動いていた世界を一定の秩序で「接続」しようとする試みである。

しかし、ここで一度立ち止まる必要がある。「接続できること」と「住宅のインフラとして成立していること」は、同じではない。

レイヤーで考えると、スマートホームの構造が見えてくる

スマートホームは、いくつかの役割の異なるレイヤー(層)によって構成されている。
これらは工学的には階層構造として説明されることも多いが、重要なのは上下関係ではなく、役割の違いである。

スマートホームを冷静に分解すると、少なくとも次のレイヤーに分けて考えることができる。

  1. デバイス/プロトコルレイヤー
     各機器が通信できるか、相互運用できるか
  2. 制御・オーケストレーションレイヤー
     複数の機器をどう束ね、どんなルールで動かすか
  3. 空間・建築レイヤー
     それが住まいの体験としてどう機能するか

Matterが主に扱っているのは、1の領域だ。
それも家電やガジェットが中心であり、例えば建築化照明や床暖房、天カセエアコンといった住宅設備や、エレベーターやプールのろ過システム、ワインセラー室の温湿度管理などのラグジュアリー邸宅に必須の設備など、住宅インフラ系の設備には対応していない。

一方で、住宅全体の体験を成立させるために不可欠なのは、2と3である。
ここを混同すると、「つながっているけれど、住みにくい家」や「機能は多いが、制御が破綻する家」が生まれてしまう。

Home OSが担う、スマートホームの本当の役割

いわゆるHome OS、あるいは統合プラットフォームと呼ばれるもの──たとえばCrestron、Lutron HomeWorks、HOMMAなどが担っているのは、単なる「接続」ではない。「構成」に相当する。

  • どの操作を、どの優先順位で扱うのか
  • 手動と自動の境界をどう設計するのか
  • 住まい手が変わっても破綻しないか
  • 10年後、20年後も運用できるか

こうした時間軸と構造を含んだ制御思想こそがHome OSの本質である。

Matter対応デバイスを集めることは、いわば「部品がそろう」ことに近い。
だが、それだけで住宅のインフラが「構成」されるわけではない。

Matterが不要になるわけではない

今回の読者の質問は、決して的外れではない。
むしろ、スマートホームを真剣に考え始めたからこそ生まれる問いだ。

「デバイスが進化しているのに、なぜまだ複雑なのか」
「なぜ統合プラットフォームが必要なのか」

その答えは、スマートホームが「ガジェットの集合体」などではなく、「住宅インフラ」だからにほかならない。

Matterは重要なピースであり、今後さらに存在感を増していくだろう。
しかし、それはあくまでも部品をまとめるためのものである。そもそもMatterはKNXやBACnetのような建築のプロトコルではない。
あくまでもガジェットやスマート家電たちを「とりあえず最小公約数だが同じ言葉で話し合おう」というレベルのプロトコルである。

Home OSを不要にするものではなく、Home OSが扱うべき世界に、ロボット掃除機やスマート家電など、インフラ以外のプロダクトを接続するための技術と捉える方が健全だ。

「正しく分けて考える」ことから始めよう

スマートホームを考えるうえで、最初に必要なのは最新技術の追従ではない。
何がどのレイヤーの話なのかを、正しく分けて考えることだ。

  • MatterはIoTガジェットやスマート家電をつなぐためのIoTガジェットの言語
  • KNXやBACnet、DALI、ECHONET Liteは住宅設備をつなぐための建築の言語
  • Home OSは住宅を成立させるための構造

こうした整理ができたとき、スマートホームは「難しいもの」から「理解できる構造」へと変わっていく。今回の質問は、建築統合型スマートホームの入口として、とても重要な問いだと言えるだろう。

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    LWL online 編集部

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