【スマートホーム/ホームオートメーション特集】そもそもマルチルームオーディオとは何か?

 取材/LWL online編集部

マルチルームオーディオとは、住まい全体をひとつの音響空間として制御する仕組みだ。海外のラグジュアリー住宅では、音は照明や空調と並ぶ住環境インフラとして設計されている。本記事では、スマートホーム/ホームオートメーションの文脈から、マルチルームオーディオの本質と設計思想をひも解く。

マルチルームオーディオは「住まいのインフラ」

マルチルームオーディオとは、複数の部屋(ルーム)に設置されたスピーカーやアンプをネットワークで接続し、住まい全体をひとつの音響空間として制御する仕組みのことを指す。家中で同じ音楽を流すことも可能であり、空間によって別々の音楽を流すこともできる。ただし、重要なのは「家中で同じ音楽が流せる」という表層的な機能ではない。

部屋ごとに異なる音楽を流し、空間ごとに音量・音質・用途を最適化する制御を、スマートフォンやタブレット、あるいは自動化ルールによって一元的に行える点こそが、最も重要である。

従来のオーディオが「どこで」「どう聴くか」を人が決めるものだったとすれば、マルチルームオーディオは、住まいの状態に応じて音が「振る舞う」仕組みだと言える。

海外のラグジュアリー邸宅では、「マルチルームオーディオ」が特別な設備として語られることは、ほとんどない。音楽はリビングやリスニングルームだけのものではなく、ダイニング、廊下、書斎、ベッドルーム、バスルーム、ガレージ、さらには屋外テラスまで、住まい全体を快適に過ごすための設備として導入されることが多い。この考え方は、欧米ではすでに一般化している。

マルチルームオーディオとは、もはや「追加する機能」ではなく、スマートホーム/ホームオートメーションを成立させる前提条件なのだ。マルチルームオーディオはたしかにBGM装置ではあるが、海外のスマートホーム/ホームオートメーションの文脈では、単なるBGMという存在ではない。
海外のスマートホーム/ホームオートメーションでは、「照明」「空調」「カーテンなどの窓廻り」「セキュリティ」と同列の存在として、「音楽」も快適な住環境を構成する要素として設計される。

つまりマルチルームオーディオとは、住まいの快適性を整える「インフラ」なのである。

「部屋ごとに聴く」から「住まい全体で体験する」へ

日本では長らく、オーディオは「リビングのシステム」「書斎のリスニング環境」といった、部屋単位の発想で捉えられてきた。
しかし、海外のラグジュアリー邸宅で多く見られるマルチルームオーディオは、発想が根本的に異なる。マルチルームオーディオでは、個別の「音響装置」として取り扱われるのではなく、建築・照明・窓廻り・空調と並ぶ、環境設計の一部として組み込まれている。
マルチルームオーディオがスマートホームで重要視される理由は、単に「家中で同じ音楽が聴ける」からではない。マルチルームオーディオが重要なのは、「シーン制御の中核」になるからだ。

照明や窓廻りなどのライティングと同様に、音もシーン(朝・夜・来客・パーティ)の一要素として制御される。
例えば、「Morning」シーンが設定されているとする。カーテンが開き、キッチンとダイニングに軽やかな音楽が流れる。
あるいは「Evening」シーンでは、照明が落ち、リビングと廊下だけに静かな音楽が残る。

要するに、音楽は光(照明・窓廻り)と並ぶ、重要な環境要素になるのだ。
光が、陰影や空間の奥行といった「空間の輪郭」を決める要素だとしたら、音楽は、時間や体験を決定する「空間の密度」を決める要素だと言っていい。

マルチルームオーディオの構成要素

マルチルームオーディオのハードウェア面の構成要素に踏み込んでみよう。

海外のラグジュアリー邸宅のマルチルームオーディオで一般的に使われているシステムは、マルチルーム用アンプと埋込スピーカーの組み合わせである。
マルチルーム用アンプは複数のゾーンに対応したステレオ出力を持つ。
スピーカーに使われることが多いのは、インテリアや建築を邪魔しない埋込スピーカーだ。
音源にはネットワークプレーヤーやアナログプレーヤーなど、さまざまな製品が使用されるが、近年では、マルチルーム用アンプにネットワークオーディオ機能が含まれているケースも多い。

MarantzのマルチルームアンプM4
Sonosのマルチルームアンプ、Sonos Amp Multi

マルチルームオーディオを支える代表的なブランドとしては、アンプではMarantz、Sonos、Crestronなどが挙げられる。
また、日本でもおなじみのBowers & Wilkins、KEF、DALIなど、著名スピーカーブランドがラインアップする埋込スピーカーが使用されるケースが多い。
なお、埋込スピーカーについては、下記の記事を参照してほしい。

埋込スピーカーはなぜ“音が悪い”と言われるのか? その偏見の正体を探る

埋込スピーカーは実は音が良い!~埋込スピーカーの選び方ガイド

マルチルームオーディオは「インフラ」として住まいを変える

日本ではこれまで、オーディオは「好きな人がこだわるもの」であり、住宅の標準的な設計要素とは見なされてこなかった。
しかし、海外のラグジュアリー住宅を見渡すと、マルチルームオーディオはすでに、照明や空調と同じレイヤーで語られる「住まいの前提条件」になっている。
それは、音楽を楽しむためだけの仕組みではない。暮らしのリズムを整え、空間の密度を調整し、住まい全体の体験価値を底上げするためのインフラだ。

スマートホーム/ホームオートメーションが目指す快適な住まいを考えたとき、マルチルームオーディオは、光と並んで最も人の感覚に直接作用する要素のひとつだと言える。
マルチルームオーディオとは、光や建築とどう組み合わせ、どんなシーンをつくるのかという、設計思想そのものなのだ。
日本の住宅においても、オーディオを「どこに置くか」ではなく、「住まいの中で音をどう振る舞わせるか」という視点が、これからますます重要になっていくだろう。

  • 取材

    LWL online 編集部

Related articles 関連する記事

  1. home Home
  2. FEATURE
  3. 【スマートホーム/ホームオートメーション特集】そもそもマルチルームオーディオとは何か?