【スマートホーム/ホームオートメーション特集】住宅に入り始めたAI。いよいよ住まいを理解し始める?
取材/LWL online編集部
スマートホームは、いま大きな転換点に立っている。中国発のSwitchBotが発表した「AI Hub」は、カメラ映像をAIが解析し、住まいの中で起きている出来事を「意味のある文章」として要約する。これは単なる自動化ではない。Crestron Homeが築いてきた「住まいのOS」、Josh.aiが踏み込んだ「意図理解型AI」、そして生成AI(LLM)の住宅領域への浸透──。本稿では、スマートホームが「条件反射的な制御」から「文脈を理解する住まい」へ進化しつつある現在地を、具体的な製品と思想から読み解く。
AIはついに「住宅」を理解し始めたのか?
ある日、スマートホームのログに、こんな一文が残る。
「午後3時、リビングで人が横になっている。近くをペットが歩き回っている。」
これは人が書いたメモではない。カメラ映像をAIが解析し、住まいの中で起きている出来事を「意味のある文章」として要約した記録だ。
中国発のスマートホームブランドSwitchBotが発表した「AI Hub」は、単なる赤外線リモコンの中継器でも、センサー統合ハブでもない。映像を「見る」のではなく、映像を「理解しようとする」AIハブとして位置づけられている。
ここで起きている変化は意外なほど大きい。
それは、スマートホームが「条件に反応する仕組み」から「状況を解釈する存在」へ移行し始めたという兆候だからだ。

文脈理解とは何か──「検知」から「解釈」へ
スマートホームは基本的にルールベースである。わかりやすい例をいくつか挙げよう。
人感センサーが反応したら照明を点ける。
温度が下がったら空調を動かす。
照度センサーが反応したらシェードが閉じる。
これらはすべて「検知→動作」の関係であり、その場で何が起きているかを「理解」しているわけではない。
一方、SwitchBot AI Hubが示したのは、「誰が」「どこで」「何をしているか」を出来事として解釈し、言語化するというアプローチだ。
この「文脈理解」という考え方こそが、次のスマートホームを読み解く鍵になる。
建築統合型スマートホームの現在地。「Home OS」としてのCrestron Home
AIという言葉を前面に出さずとも、長年「住まいをどう制御するか」を突き詰めてきた存在がある。
それがCrestronだ。
最新の「Crestron Home OS 4」では、「照明」「空調」「AV」「ブラインド」「シーン制御」を単一のインターフェイスで統合し、大規模邸宅やラグジュアリー住宅における「住まいの中枢神経」として機能している。
CrestronはAIで勝負していない。その代わりに、「生活動線」「空間用途」「時間帯」「建築構成」といった文脈を前提にした設計と自動化を徹底している。
Crestron Homeは、AIの意思決定を確実に遂行するための「住まいのオペレーティングシステム(Home OS)」と捉えることができる。

意図を理解するAI。Josh.aiが示す「Home AI」という次の段階
Josh.ai。住まい全体を文脈として理解する知性
Crestronが「Home OS」だとすれば、「Home AI」として最も先鋭的な存在がJosh.aiだ。
Josh.aiは、自然言語と文脈理解を前提に設計されたスマートホームAIである。
2015年に米国で設立された、スマートホーム専業のAIスタートアップだ。
ラグジュアリー邸宅や大規模邸宅といった、建築・インテリア・AVが統合された空間を前提としており、「デバイス」ではなく「家全体」を操作単位として捉えている。
Josh.aiは、しばしば「AlexaやGoogle Assistantの上位版」「高級住宅向けの音声操作AI」と説明される。だが、それは正確ではない。
Josh.aiが目指しているのは、音声で家電を操作するAIではなく、住まい全体を「文脈として理解する知性」だからだ。
例えば、「少し落ち着いた雰囲気にして」「今日は映画を観たい気分だ」といった曖昧で主観的な言葉を、照明のトーンや音楽の再生、カーテンや空調の動作といった、家全体の振る舞いに変換する。
さらに、Crestron Homeとの連携により、建築統合型スマートホームと生成AIが直結する構図も現実になりつつある。
ここではじめて、AIは「命令を聞く存在」ではなく、意図をくみ取って住まいを動かす存在になる。

JoshGPT 3.0。生成AIが「住まいの意図理解」に入った瞬間
Josh.aiが注目を集めた理由のひとつが、生成AIを組み込んだ「JoshGPT」の導入である。
JoshGPTは、単なるチャットAIではない。
住まいの状態・構成・過去の操作履歴を踏まえ、言葉がどの空間でどんな行為につながるべきかを推論し、住まい全体のアクションに変換する。
たとえば、「今日はちょっと疲れた」という一言から、照明は暖色寄りになり、音量を抑えた音楽再生が始まり、空調がわずかに調整されるといった、「説明されていない行動意図」を含んだ制御が行われる。
ここでは、AIは命令を待つ存在ではなく、意味を補完する存在になる。
Crestron Homeとの連携も公式に行われている。これは重要なポイントだ。

コンシューマ領域で進むAI化
家電の司令塔が「LLM」になるとき
住宅にAIが入りはじめるという変化は、建築統合型スマートホームだけの話ではない。
Google Gemini for Homeをはじめ、大規模言語モデル(LLM)をスマートスピーカーやカメラに組み込む動きが加速している。そこでは、複数デバイスへの同時指示や、会話の文脈を踏まえた制御、あるいは状況説明からの自動アクション生成などが行われることになる。
操作は「命令」から、相談や依頼に近い感覚へと変わりつつある。
そして、冒頭で触れたSwitchBotのAI Hubのように、Vision(視覚)× AIによって、住まいの出来事そのものを理解しようとする製品も登場してきた。
AIは「住宅」を理解し始めたのか──その問いの先へ
スマートホームは「先回り」のフェーズへ
AI化が進むことで、スマートホームの役割は次の段階に入る。
例えば、温度や照度を予測し、シェードなどの窓まわりや照明を制御する。あるいは、生活リズムを学習し、先回りして快適な環境を整える。セキュリティ面では、異変や違和感に先に気づくことで、アラートを発報するといったことも可能になる。
いわば、住まいが人の状態を察し、先回りするフェーズだ。
では、AIは本当に住宅を理解し始めたのだろうか。
答えは、「まだ完全ではないが、確実にその入口に立っている」である。
重要なのは、AIがすでに「照明を点ける」「空調を動かす」といった単機能の最適化を超え始めているという事実だ。
SwitchBotのAI Hubが示した「出来事の言語化」、Crestron Homeが築いてきた「文脈前提の住まいのOS」、そしてJosh.aiが踏み込んだ「意図理解と意味補完」。
これらは別々の製品・技術でありながら、共通して住まいを「状態の集合」ではなく、「意味を持つ環境」として扱い始めている。
住宅は「操作対象」から「理解対象」へ
これまで住宅は、人が操作し、管理し、制御する対象だった。だが、AIの介在によって、住宅は次第に「人の状態・意図・リズムを読み取る環境」へと変わりつつある。
例えば、この家庭の主人は何時に起きたか、どの空間に長く滞在しているかといった情報は、もはや単なるログではない。暮らしの「文脈」そのものだ。
AIはそれを学習し、「次に何が望まれるか」を推測し、住まいの振る舞いとして返そうとし始めている。

「スマートホーム」から「理解する住まい」へ
スマートホームという言葉は、もはや「便利な住宅設備制御・家電制御」を指すには小さすぎる。これからは、「AIが住まいをどう理解するか」がテーマになってくる。言い換えるなら、「テクノロジーはわたしたちの暮らしをどう拡張するか」という、設計思想、あるいは文化のレベルの話だ。
AIはまだ、住宅を完全には理解していない。
しかし──理解しようとし始めた、その瞬間に、わたしたちは立ち会っている。
スマートホームは今、制御の時代を終え、「住まいが人を読む時代」への入り口に差しかかっている。

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LWL online 編集部