【スマートホーム/ホームオートメーション特集】Lutron HomeWorks① Lutron HomeWorksはなぜ生まれたのか?
取材/LWL online編集部
日本の住宅業界では、Lutronはいまだに「高級調光ブランド」、あるいはGRAFIK Eye QSの会社として語られることが多い。だが、いま本当に見るべきなのはその先である。同社が昨年日本でも発表したHomeWorksは、照明、窓まわり、空調を統合し、住まい全体に一貫した振る舞いを与えるためのHome OSだ。ルートロンの歴史をたどると、その到達点は突然生まれたものではなく、最初から必然だったことが見えてくる。
もうLutronを「調光メーカー」とだけ呼ぶのはやめよう
Lutronというブランドを、いまだに「高級調光システムの会社」と捉えているなら、その理解はすでに古い。
もちろん、その認識が間違っているわけではない。Lutronは調光の歴史を切り拓いた企業であり、その出発点はまさしく「光を自在に扱う技術」にあった。だが、そこで認識が止まっているなら、Lutronの現在地は見えてこない。
Lutronが日本市場で本格展開を進める「HomeWorks」は高級調光システムの完成形ではない。住宅をひとつの環境として統合制御するための「Home OS」である。
LWL onlineが今回あえて強く言いたいのはその点だ。
HomeWorksは照明制御だけでなく、シェードやカーテンなどの窓まわりの制御、さらには空調制御までを司る。Lutronはもはや単なるライティングコントロールのブランドではない。住宅の振る舞いそのものを設計する制御企業として、いま改めて捉え直されるべき存在なのである。
日本の住宅業界では、Lutronといえば、いまもなおGRAFIK Eye QSの印象が強い。
設計者も、インテグレーターも、デベロッパーも、「照明の質を上げるシステム」「高級住宅で採用される上質な調光ブランド」という理解で止まっていることが少なくない。だが、その認識のままではHomeWorksの核心は見えてこない。
なぜならHomeWorksは、照明、シェード、空調、キーパッド、センサー、アプリ、そして外部インテグレーションを束ね、住まい全体に一貫した「振る舞い」を実装する制御基盤だからだ。スマートフォンにOSがあるように、PCにOSがあるように、住宅にもまた、それぞれ異なる設備を統合し、整合性ある状態を与える中枢=OSが必要になる。HomeWorksはまさにその役割を担う。
HomeWorksは、DALI/DALI-2、位相制御、PWM制御、0-10V、DMXといった多様な照明制御方式に対応しながら、電動ウインドートリートメント、空調、アプリ、音声アシスタント、さらにはCrestron、Control4、Savantといった他社のホームオートメーション/AV系システムとの連携までを視野に入れた「Luxury total home control」として位置づけられている。
では、なぜLutronはここまで来たのか。なぜ調光器から出発した企業が、住宅制御の中枢を担う企業へと進んだのか。
その答えは、Lutronという企業の歴史そのものの中にある。

調光器の会社だったのではない。最初から「光を環境として扱う会社」だった
調光の発明が変えたのは器具ではなくライフスタイルだった
Lutronの物語は、1959年にジョエル・スピラが世界初の電子式調光器を発明したところから始まる。

1961年に創業し、1960年代には電子式調光器の特許取得、一般家庭向け電子式調光器の市場導入、蛍光灯調光システムの展開へと進み、文字通り「調光」というライフスタイルを社会に持ち込んだ。つまりLutronの出発点にあったのは、単に器具を売ることではない。光との付き合い方そのものを変えるという思想だった。
ここで重要なのは、Lutronが最初から「照明器具メーカー」ではなかったという点である。
同社が扱ってきたのは器具そのものではなく、光の状態だった。
どれだけ明るくするか、どこまで落とすか、どういう雰囲気をつくるか、どのような振る舞いを演出するか。Lutronが変えたのはスイッチのかたちではなく、光を人がどう制御し、どう暮らしに取り込むべきかという、光の文化そのものだった。
1970年代に入ると、その思想はさらに一段進む。
調光は単なる明るさの調整から、空間全体の環境設計へと拡張していく。朝、昼、夕、夜、食事、団らん、パーティ、映画鑑賞――空間には用途があり、時間があり、雰囲気がある。照明とは、その都度つまみを回して明るさを変えるものではなく、シーンとして記述され、必要に応じて呼び出されるべきものだ。
空間体験を「状態」として設計する思想、すなわちシーン制御の哲学は、この時点ですでに始まっていたのである。のちにホームシアターやラグジュアリー住宅で当たり前になるこの発想は、Lutronの中ではかなり早い段階から準備されていた。

シーン制御と壁面UIが建築との接点をつくった
1980年代以降、Lutronはさらに「使いやすさ」「意匠性」「空間との調和」を強めていく。
ここで重要なのは、Lutronが技術の会社であると同時に、壁面に現れるUIの会社でもあったという点だ。
ボタン、フェースプレート、バックライト、彫り込み文字、仕上げ。ラグジュアリー邸宅において、スイッチは単なる操作部品ではない。建築に触れるインターフェースであり、壁面の品格を左右する存在である。

Lutronは、電気回路を隠すための「箱」をつくってきたのではない。光を指先で操るための文化を、壁面に刻み続けてきたのである。
HomeWorksのキーパッド群が、使いやすさと意匠性を高度に両立させているのは偶然ではない。Lutronはかなり早い時期から、制御とは「目に見えない頭脳」であると同時に、「人が触れる建築の表面」でもあることを理解していた。
住宅制御は単なる機能の問題ではない。建築体験の問題でもある。その認識がLutronには一貫してあった。
1990年代に入ると、流れは決定的になる。住宅向け全館照明コントロールの思想が強まり、Lutronは部屋ごとの制御から家全体の制御へ、器具単位の操作から住宅全体の環境設計へと軸足を移していく。調光器から出発した会社が、ついに住宅そのものを制御対象として引き受け始めたのである。
後から見れば、この時点でHomeWorksの必然はほとんど決まっていたと言ってよい。

HomeWorksは突然変異ではない。Sivoiaの登場で思想は完成へ向かった
自然光を制御しなければ、光環境は完成しない
ただし、それでもまだ不十分だった。
なぜなら、室内の照明だけを制御しても、住宅の光環境は完成しないからである。どれほど美しい調光カーブをつくっても、窓から強い日射が差し込めば、空間の質は崩れる。グレアは生まれる。眩しさは残る。プライバシーは損なわれる。つまり、人工照明だけを制御しても、「光」は制御しきれない。
この当然の事実に対して、Lutronは正面から向き合った。
2003年、Lutronは自社開発の電動シェード/電動カーテンのSivoia(シヴォイア)を本格展開し、人工照明と自然光を統合する「トータル・ライティングマネジメント」へと進化する。ここは極めて重要なポイントである。
HomeWorksがHome OSとして成立したのは、単体の制御能力が上がったからではない。自然光まで含めて、光環境全体を扱えるようになったからだ。 光は見た目を変えるだけではない。人の心にも、身体にも影響を与える。自然光を適切にコントロールすることで、活動に最適な空間をつくることができる。しかもSivoia QSは、極めて静かに、滑らかに動作し、複数台を同時に動かしても停止位置が美しく揃う。
これは単なる製品スペックの話ではない。Lutronが考えるラグジュアリーとは、派手な演出ではなく、光が無理なく、静かに、正確に整えられている状態だからである。

「世界最大の光源は太陽である」という必然
この文脈で見れば、Lutronがシェードに進出したのは周辺領域への拡張ではない。むしろ本業の必然だったと言うべきだろう。
その必然を、Lutronのカントリーマネージャーである谷崎宗孝氏は創業者ジョエル・スピラが語ったという象徴的な言葉を使って表現する。
「世界一の照明制御会社であるなら、世界最大の光源である太陽を制御しないわけにはいかない」
この一言は、Lutronがなぜシェードへ進んだのかを端的に物語っている。器具の光だけを制御しても、空間の光環境は完成しない。自然光まで扱って初めて、住宅は本当の意味で設計可能な環境になる。
HomeWorksとSivoiaの結合は、単なる製品の統合ではない。Lutronの思想が住宅というスケールで完成へ向かった瞬間だったのである。

HomeWorksが制御するのは「設備」ではなく、「住まいのふるまい」である
住宅の本丸は、照明・窓まわり・空調にある
では、LWL onlineがここで言う「Home OS」とは何か。
ここを曖昧にすると、HomeWorksもまた「多機能スマートホームコントローラー」のひとつに見えてしまう。しかし、そうではない。Home OSとは個別機器をただ接続する仕組みではなく、それぞれ異なる設備を統合し、住まい全体に整合性のある「振る舞い」を与える基盤である。
HomeWorksの構成を見ればその意味は明らかだ。
中心にはプロセッサーがあり、そこにDALI/DALI-2、PWM、0-10V、位相調光、DMXといった照明制御、Sivoia QSの各種シェード、Palladiomサーモスタット、キーパッド、人感センサー、ワイヤレス受信部、アプリ、さらにはスマートスピーカー、オーディオ、ドアベル、外部ハブや他社製インテグレーションが接続される。
つまりHomeWorksは家電をバラバラにスマホで動かす仕組みではない。住宅の基幹設備を中心に据え、その上で必要な連携を成立させる構造になっている。LWL onlineが定義するHome OSに最も近いポジションが、ここにある。
この点について谷崎氏は明快に説明する。
照明、窓まわり、空調はベーシックな住宅設備であり、すべての部屋に入り、必ず壁にスイッチとして現れる。しかし、オーディオやホームシアターは、住まい手の嗜好によって要不要がある。セキュリティも、戸建て、集合住宅、別荘では仕組みが異なる。だが、照明、窓まわり、空調は住宅の基礎インフラであり、ここを押さえずして住まいの環境制御は成立しない。
HomeWorksがそこに集中しているのは機能が狭いからではない。住宅の本質をつかんでいるからである。

HomeWorksは空間の状態を設計する
HomeWorksが実際にやっているのは、照明、自然光、温熱環境、操作系、時間軸、さらには不在時のセキュリティシーンまで含めた、住宅のふるまいの定義である。
玄関、リビング、キッチン、ベッドルーム。HomeWorksはそれぞれの空間で、用途やムードに応じて照明、シェード、空調を自動制御する。
重要なのは、ここで制御されているのが個別機器ではなく、空間の状態だということである。
たとえば、朝の起床時には光がゆるやかに立ち上がり、シェードが開き、室温が整えられる。夕刻には外光の変化に合わせて室内照明が移ろい、夜には落ち着いたモードへと切り替わる。不在時にはランダムなシーン制御によって在宅感を演出することもできる。
それは単なる「便利なスマートホーム」ではない。空間の状態の設計=環境設計そのものなのだ。

日本のラグジュアリー住宅は、「調光ブランド」という理解を卒業すべきだ
ラグジュアリーとは心地よい環境が高精度で実現されている状態
ここで、LWL onlineとして少し踏み込んで言っておきたい。
日本のラグジュアリー邸宅は、設備を個別最適で積み上げる段階から、統合制御を前提に設計する段階へ進むべき時期に来ている。そのとき、Lutronを単なる調光ブランドとして扱うことは、設計の可能性を自ら狭めることになる。
HomeWorksは、世界の高級住宅市場で高い存在感を持つスマートホームシステムであり、照明、カーテン、空調をひとつの思想のもとで統合管理し、さらに各種インテグレーションへ拡張できる点に大きな強みがある。
だが、日本ではなお、その価値が十分に理解されているとは言いがたい。Lutronに対する認識が、いまだ「高級調光ブランド」で止まっているからだ。
しかし、LWL onlineの文脈ではラグジュアリーとは贅沢品の集積ではない。
自分にとって心地よい環境が、目立たず、静かに、高精度で実現されている状態こそがラグジュアリーである。その意味で、HomeWorksはまさしくラグジュアリーなHome OSなのだ。
0.1%レベルの調光、自然光の精密制御、静音シェード、統一感のあるキーパッド意匠、そして空調まで含めた一貫した操作体系。これらはすべて、派手さではなく精度の問題である。
美は細部に宿るという。ラグジュアリー住宅における制御の美もまた、まさにそこに宿る。

HomeWorksの登場は必然だった。むしろLutronは最初からここへ向かっていた
HomeWorksは突然生まれたフラグシップシステムではない。
1959年の電子式調光器、1960年代の調光文化の普及、1970年代の空間制御思想の深化、1980年代以降の意匠性と利便性の洗練、1990年代の全館制御、2000年代のSivoiaによる自然光統合――その流れを丁寧に追えば、HomeWorksの登場がむしろ必然だったことはよくわかる。
Lutronは調光器の会社からHome OS企業へ「変わった」のではない。
最初から「光を環境として扱う会社」であり、その射程が住宅全体へ到達した結果として、HomeWorksが現れたのである。
もちろん、GRAFIK Eye QSは重要な系譜であり、今日でも優れた調光システムだ。
だが、いま本当に語るべきなのはその先である。HomeWorksは照明制御の上位システムではない。照明、窓まわり、空調という住宅の基幹設備を統合し、住まいに知性ある振る舞いを与えるための制御中枢である。
言い換えれば、HomeWorksとは、ラグジュアリー邸宅のためのHome OSなのだ。
そして日本の住宅設計もまた、そろそろその事実を正面から受け止めるべき時に来ている。
※次回は窓廻りを含めた、Lutronのトータルライティングコントロールの世界、HomeWorksの詳細を見ていきます。

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LWL online 編集部