倉俣史朗の精神を現代に映す、エモーショナル・ミニマリズムの結晶。「HAL」シリーズをIXCが復刻

 取材/LWL online編集部

削ぎ落とされた造形の中に、静かな情熱が宿る。カッシーナ・イクスシー(Cassina ixc.)が掲げる“Emotional Minimalism”の思想のもと、倉俣史朗の名作「HAL」シリーズが現代に蘇った。素材の質感、光の透過、そして空間との呼応。それは単なる復刻ではなく、時を超えて磨かれた感性の再生——ラグジュアリーとは何かを、静かに問いかけるプロダクトである。

IXC(イクスシー)が「HAL」シリーズを復刻

「削ぎ落とすことによって、感情を呼び覚ます」。

そんな矛盾のような命題を真正面から引き受けるのが、IXC(イクスシー)の「HAL2」だ。

1980年代、日本のデザイン史に革新をもたらした倉俣史朗が生み出した「HAL」シリーズ。その象徴的存在であるチェアとテーブルが、約35年の時を経て“HAL2”として蘇る。

今回の復刻は、IXCが掲げる新たな思想 “Emotional Minimalism(エモーショナル・ミニマリズム)” を体現するリブランディング・プロジェクトの一環だ。

3月に発表されたGamFratesi(ガムフラテージ)による新コレクションに続く第2弾として、ブランド創設50周年を記念する節目に発表される。

透過と素材の詩学 — 「HAL2」チェア

背もたれに採用されたエキスパンドメタルは、視覚的な軽やかさと構造的強度を共存させるだけでなく、光の角度によって表情を変える。スチールフレームのミニマルな構成に、OSBボードの座面とクッションシートが組み合わされ、素材の質感そのものがデザインの主題として立ち上がる。

それはまるで、建築的な構造美を家具というスケールに落とし込んだ彫刻のようだ。

単体でも空間に確かな存在感を放ち、アートピースのように佇む姿は、まさに倉俣が示した「かたちと詩情の融合」を現代に引き継ぐものである。

HAL2 chair, designed by Shiro Kuramata (IXC)

無垢なる構築美 — 「HAL2」テーブル

1989年にデザインされた「HAL」シリーズのテーブルもまた、チェアと同様に素材の本質を語る。

OSBボードの天板は、木片の偶然の配置が生むランダムな模様で、工業素材の中に自然の表情を見出す。脚部はクロムめっきのポリッシュ仕上げ。床面に向かって交差するクロス脚の構造は、軽快さと安定感を兼ね備え、視覚的にも緊張感のあるフォルムを描く。

直径600mmというコンパクトなスケールは、カフェやリビング、ワークスペースにも馴染み、用途を超えて「居場所」をつくり出す。倉俣が追求した“機能と詩情の融合”を日常空間で体感できる逸品である。

HAL2 table, designed by Shiro Kuramata (IXC)

復刻は、未来へのデザインアーカイブ

「HAL2」は、単なる過去の名作の再生ではない。素材と構造、そして空間との関係性を見つめ直し、現代の住環境や商空間に自然に調和するよう再定義されたデザインだ。そこにあるのは、時代を超えて更新され続ける“日本的ミニマリズム”の精神である。

展示は既にカッシーナ・イクスシー青山本店・名古屋店・大阪店・福岡店にてスタートしている。

倉俣が遺した思想を、いま再び私たちの暮らしの中で感じるときが来た。静謐の中に宿る情感——それこそが、HAL2が語りかけるデザインの本質である。

WEB:https://www.cassina-ixc.com/ixc/

INSTAGRAM:https://www.instagram.com/ixc_jp/

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    LWL online 編集部

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