ヴァン クリーフ&アーペルが紡ぐ“アール・デコ100年”──“日本のアール・デコ建築”東京都庭園美術館で巡る永遠のジュエリー美学

オーディオ&サブカルライター/杉浦みな子 

東京都港区の東京都庭園美術館で、展覧会「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ― ハイジュエリーが語るアール・デコ」が開催中だ。日本を代表するアール・デコ建築の空間に、幾何学的な輝きと詩情あふれるジュエリーが息づき、時を超えて煌めく“永遠なる美”を体感できる展覧会である。

「アール・デコ博覧会」から100周年を記念した展覧会

ヴァン クリーフ&アーペルは、1895年にパリで創業された高級ジュエリーブランド。創業者のアルフレッド・ヴァン クリーフと妻エステル・アーペルの結婚をきっかけに誕生し、1906年にパリのヴァンドーム広場22番地に最初のブティックを構えて以来、自然やクチュール、ダンス、空想の世界からインスピレーションを得たハイジュエリーと時計を手掛けるメゾンとして、詩情あふれる独自のスタイルを育んできた。 

その歴史を語るときに外せないのが、「アール・デコ」という装飾様式である。1910年代から30年代にかけて装飾芸術や建築の分野で起こった芸術潮流で、華麗で洗練された装飾美を特徴としている。直線的で幾何学的なモチーフ、豪華な素材、モダンでありつつ優雅さも備えたスタイルが、フランスを中心にヨーロッパを席巻した。 

その由来となったのは、1925年にフランス・パリで開催された「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」。通称「アール・デコ博覧会」とも呼ばれる。 

実は今回開催される展覧会は、このアール・デコ博覧会から100周年を迎えることを記念したもの。そして当時、その宝飾部門において、ヴァン クリーフ&アーペルが複数の作品を出品し、グランプリを受賞した歴史がある。 

「絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット」(1924年)

そのひとつが、本展に出品される「絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット」(1924年)だ。花から着想を得ているこの作品は、ヴァン クリーフ&アーペルのメゾンがアール・デコ期に抱いていたビジョンを読み解く重要な鍵と言える。

全4章で構成される展示会場

本展は、歴史的価値が認められた作品からなるヴァン クリーフ&アーペルの「パトリモニー コレクション」と、個人蔵の作品から厳選されたジュエリー、時計、工芸品を約250点、さらにメゾンのアーカイブから約60点の資料を展示している。 

会場風景 東京都庭園美術館 本館 大食堂

展示会場は全4章で構成され、第1章「アール・デコの萌芽」、第2章「独自のスタイルの発展」、第3章「モダニズムと機能性」と時代の流れとともに展開し、1910年代から1930年代にかけて制作されたアール・デコ期の作品とそのデザインの変遷を辿る構成となっている。

第1章 アール・デコの萌芽 会場風景 東京都庭園美術館 本館 大客室
第2章 独自のスタイルへの発展 コルレット 1929年
第3章 モダニズムと機能性 会場風景 東京都庭園美術館 本館 合の間

そして最後の第4章「サヴォアフェールが紡ぐ庭」では、金細工、形を変える作品、ミステリーセット、エナメル、宝石彫刻といった、現在まで継承され続ける「サヴォアフェール(匠の技)」が紹介されている。

第4章 サヴォアフェールが紡ぐ庭 会場風景 東京都庭園美術館 新館

日本のアール・デコ建築で開催されるアール・デコ展覧会

また、展示空間の演出も見どころのひとつ。というのも、本展の会場となる東京都庭園美術館は、アール・デコ建築の名作としても知られる旧朝香宮邸を改装した建物で、それ自体がアール・デコの世界観を体現しているのだ。 

施主である朝香宮夫妻は1922年から約3年間に渡りパリに滞在し、1925年のアール・デコ博覧会を訪れている。帰国後、自邸を建設するにあたって主要な部屋の設計を、博覧会の主要パビリオンの室内装飾を手掛けた装飾美術家のアンリ・ラパンに依頼。さらに、その装飾にガラス工芸家のルネ・ラリックをはじめとしたアーティストを多数起用するなど、アール・デコの精華を積極的に取り入れた。 

本展は、現代に残るアール・デコ建築の空間と、ヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーの歴史が呼応する場となる。展覧会のタイトルに込められた「永遠なる瞬間」という言葉は、時代を超えて愛されるジュエリーがもたらす普遍的な美の感動とシンクロし、その芸術的価値を体感できる貴重な機会だ。 

<展覧会概要> 
「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ― ハイジュエリーが語るアール・デコ」 
会期:2025年9月27日(土)〜2026年1月18日(日) 
開館時間:10:00–18:00(入館は閉館の30分前まで) 
※11月21日(金)、22日(土)、28日(金)、29日(土)、12月5日(金)、6日(土)は夜間開館のため20:00まで開館(入館は閉館の30分前まで) 
休館日:毎週月曜日および年末年始(12月28日–1月4日) 
※祝日の月曜日(10月13日、11月3日、24日、1月12日)は開館、翌日の火曜日(10月14日、11月4日、25日、1月13日)は休館
会場:東京都庭園美術館
住所:〒108-0071 東京都港区白金台5-21-9
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル) 
※本展は日時指定予約制です。ご来館前に展覧会特設サイトよりチケットをご購入ください。
展覧会特設サイト:https://art.nikkei.com/timeless-art-deco/

  • オーディオ&サブカルライター

    杉浦みな子

    1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://sugiuraminako.edire.co/

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