【スマートホーム/ホームオートメーション特集】そもそもプロトコルとは? 外交儀礼の「席次」とスマートホームの「言語」は同じ⁉

 取材/LWL online編集部

スマートホームが導入されたラグジュアリーな空間に身を置いたとき、人はしばしば「居心地の良さ」や「品格」を直感的に感じ取る。その正体は、素材や意匠だけではない。秩序があり、出しゃばるものがなく、すべてが「然るべき振る舞い」をしてくれること。この感覚を支えている思想のひとつがプロトコルである。

プロトコルとは何か? 本来は「外交儀礼の席次」を指す言葉

なぜ外交には席次と作法が必要なのか

一般に「プロトコル」という言葉は、外交の場における席次・作法・手順を指すものとして知られている。

執筆者も、もともとは「プロトコル」と言えば外交上の席次を示す言葉だと理解していた。
(その後、毎日スマートホーム/ホームオートメーションの「プロトコル」という言葉に接するようになったので、昔のことを忘れがちだが…)

誰が先に入室するのか。
誰が中央に座り、誰が左右に配されるのか。
誰が最初に発言し、誰がそれに応答するのか。

外交プロトコルの目的は明確だ。
感情や力関係による衝突を未然に防ぎ、会談そのものを成立させること。
重要なのは、その席次や作法が「偉い人の気分」や「その場のノリ」で決まらない点である。
事前に合意された形式があるからこそ、対話が始められる。ここが「プロトコル」のポイントである。

プロトコルの語源──「最初に貼られた一枚の紙」

protokollonが意味していたもの

プロトコルの語源は古代ギリシア語のprotokollon。意味は「文書の冒頭に貼られた紙」。
その紙には、「文書の正当性」「発行者」「要点」「取り扱いのルール」が記されていた。

つまりプロトコルとは、本来、「本題に入る前に、全員が共有しておく前提条件」を指す言葉だった。

外交の席次とITプロトコルは驚くほど似ている

席次・発言順・肩書は、通信世界では何に相当するか

ここで視点をスマートホームに移そう。

ITの世界で使われる「プロトコル」は通信や制御の世界における共通言語を意味する。
「どちらが先に話しかけるか」「どの形式で名乗るか」「どの順序で情報をやり取りするか」など。
これは、そのまま外交儀礼に置き換えられる。

人を相手にするか、機械を相手にするかの違いしかない。
思想は完全に同一なのだ。

スマートホームにも「2種類のプロトコル」が存在する

この視点で見ると、スマートホームの世界が急に整理されてくることだろう。

建築統合系プロトコル(KNX、BACnet、ECHONET Liteなど)

住宅のインフラなのだから、以下のような特徴を持つ。

  • 建築と一体で設計
  • 有線中心で堅牢
  • 照明・空調・シャッターなど「住宅の骨格」を担う

これは国家間の正式外交プロトコルに近い存在だ。
首脳会談やサミット、あるいは国賓を招いての宮中晩餐会を想像すればよい。
「寸分の狂いも、遅れも許されない」という、トランプ大統領夫妻を招いた宮中晩餐会のような極めて厳格な作法である。

想像してみてほしい。
スイッチを押してから複数の多灯照明が完全に同時に調光・調色するシーンを。
その動作のために「秩序」が守られているシーンを。
そこでは厳格な作法が守られているわけだ。

スマートホームでは、信号の流れの確かさ、そして優先順位は重要である。

インフラを担う本格的なプロトコルには、この動作の確かさが「作法」として組み込まれているため、住宅全体の安全や信頼性が保たれるわけだ。

KNXとは何か

BACnetとは何か

DALIとは何か

Modbusとは何か

ガジェット系プロトコル(Matter など)

一方、いま注目を集めるMatterに代表されるガジェット系プロトコルは以下のような特徴を持つ。

  • 後付けが容易
  • スマート家電・デバイス向け
  • 柔軟だが、主導権は弱い

こちらは宮中晩餐会というよりも、多国間会議や非公式会談に近い。
「とりあえずまずは皆で話せるようにしよう(共通化優先)」という官僚による事前のすり合わせをイメージしてほしい。
もちろん、これはこれで重要である。

このふたつの特徴と違いを理解できれば、理想のスマートホームに一歩踏み出したと言える。

Matterとは何か?

建築統合型スマートホームで「基盤」にすべきもの

LWL onlineが一貫して扱ってきたのは、建築統合型スマートホームである。

この文脈において結論は明確だ。
住宅インフラ系プロトコルを「基盤」に据え、Matterは「補助線」として使う。逆ではない。

[住宅インフラ層]
KNX / BACnet / ECHONET Lite
(照明・空調・シャッター)

────────────

[ガジェット層]
Matter / スマート家電 / ロボット掃除機

スマートホームは2つの系譜に分かれる

Matterが最も輝くのは「後からやってくる存在」

誤解を避けたいのだが、Matterは決して否定されるべき存在ではない。
その柔軟さは、むしろ使いどころを間違えなければ非常に有効である。

Matterについては改めて別の記事で詳細を説明したいが、ローカルで動作する点やセットアップの容易性(QRコードを読み込むだけ)などは強みである。
また、スマート家電やIoTガジェットでは対応している製品が増えているので、おそらく数年後にはスマート家電はMatter対応が一般的になるだろう。
そういう意味では住宅インフラにはなれなくとも、後から買い足す家電を建築統合型スマートホームに組み込むうえでは極めて便利な存在である。

例えば、建築統合型スマートホームを既に導入しているラグジュアリー邸宅に、いま話題のロボット掃除機を導入した場合を想定してほしい。

「外出」シーンがあるとする。

  • 鍵を閉める
  • 照明を消す
  • 空調を消す

この流れがひととおり終了すると、ロボット掃除機が自動で清掃を開始する。
あくまでもこれは一例だが、このような生活シーンを実現することが可能となる。

鍵、照明、空調はそれぞれJEM-A、DALI、ECHONET Liteという住宅インフラを司るプロトコルで動作するが、ロボット掃除機はMatterである。
そして、すべてを統轄するオーケストレーション層に位置するのはCrestronなど統合型プラットフォームだ。

建築統合型とIoTガジェット型が融合した未来像

現時点でのMatterは使用状況の可視化やオンオフ操作、調光などの基本的な機能に留まる。
また、まだ対応製品も少ない。
照明器具やロボット掃除機などで対応製品は増えているが、キッチン家電や理美容家電での対応はまだこれからである。

しかし将来的にMatter対応が進めば、次のような遊び心のあるライフスタイルも実現できるだろう。

例えば、シェーバーがMatterに対応したとする。

  • 洗面台の前に立つ
  • シェーバーをONにする
  • 鏡前照明の照度や色温度が自動で最適化される

こんな連携も可能になるかもしれない。

インテグレーターへの伝え方(実務編)

ここを踏まえたうえで、スマートホームのシステムインテグレーター(SI)にはまず最初に次のように伝えると良い。
1.ベースのシステムはCrestron、Lutron HomeWorks、あるいはHOMMAなど、建築統合型の堅牢なシステム、Home OSを導入したい。
2.システムの動作はKNXやBACnet、EchonetLiteなど、住宅インフラ型のプロトコルを使用する形にする。リレーやJEM-Aなども補助的に使用する。
3.ただし将来的にロボット掃除機などを連動させたいので、Matterブリッジとしても機能する構成にしてほしい。

これだけで、インテグレーターとの間で「設計の軸」「将来拡張の余地」が一気に共有できる。
各動作などの細かい要望は次の段階でいい。まずは基本を踏まえてほしい。

プロトコルとは主役を引き立てるための「見えない設え」である

優れたプロトコルは、使う人にその存在を意識させない。
外交儀礼が会談を円滑にし、建築統合型スマートホームが生活を静かに支えるのは、いずれも席次があらかじめ定められているからだ。

そのうえで重要なのは、すべての儀礼を同一のものと見做さない判断である。

KNXやBACnetといった住宅インフラ系プロトコルは、空間と体験の「主構造」を担う。まさにインフラである。
一方で、Matterに代表されるガジェット系プロトコルは、後から現れるスマート家電やロボット家電に柔軟に対応できる「便利な共通言語」として、軽やかに応答する役割を担う。

それぞれが自分の位置を理解して振る舞う。

この関係性こそが、スマートホームを「便利な装置の集合」から、品格ある生活基盤へと引き上げる。 ラグジュアリーとは、派手な演出ではない。
秩序が自然に機能し、意識されることなく生活に溶け込んでいる状態──
この完成度こそが本質なのだ。

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