MONTREUX JAZZ FESTIVAL JAPAN 2025 ― 横浜で鳴り響く“自由”の音楽
取材/LWL online編集部
世界三大ジャズ・フェスティバルのひとつ、モントルー・ジャズ・フェスティバル。スイス・モントルーのレマン湖畔で1967年に始まったこの音楽祭は、ジャズの枠を超えた表現の交差点として、半世紀以上にわたり進化を続けてきた。その精神を継承する日本版フェスティバル「MONTREUX JAZZ FESTIVAL JAPAN 2025(MJFJ 2025)」が、2025年12月6日・7日の二日間、横浜・ぴあアリーナMMで開催される。発表された最終ラインアップには、ジャズの巨匠から新世代までが並び立ち、まるで“世界音楽都市・横浜”を象徴するような内容になっている。初日の前夜祭的イベントを含めると、3日間にわたって“音楽の自由”が横浜を包み込む。
モントルーから横浜へ ― 音楽の「自由」を受け継ぐ
モントルー・ジャズ・フェスティバルの原点は、ジャズというジャンルそのものを拡張しようという意志にある。
マイルス・デイヴィス、プリンス、デヴィッド・ボウイ、レディオヘッド……。そのステージは、常に音楽の境界線を溶かし続けてきた。
日本版MJFJは、2015年に恵比寿で初開催。以降、「ジャンルに縛られない音楽の魅力を伝える」という理念を軸に、世界と日本のアーティストが出会う場として成長してきた。
横浜という都市は、この「越境」というテーマにふさわしい。開港の街として文化を受け入れてきた歴史がある。
そもそも港町は古来から異文化が邂逅し、音楽が生み出されてきた。タンゴを生んだブエノスアイレス、ボサノバを生んだイパネマ、ファドを生んだリスボン、ニューオーリンズに、ハバナに、キングストン。世界で最初の大衆音楽と言われるクロンチョンを生み出した北ジャカルタも港町だし、ビートルズを生み出したリバプールだって港町だ!
港町である横浜の海風とガラスの摩天楼が交わるみなとみらい地区は、まさに“開かれた音楽都市”の象徴である。
MJFJは、この都市の文脈の中で、音楽そのものを「体験」として拡張していく。
MJFJ 2025 本公演概要
- 開催日:2025年12月7日(日)
- 会場:ぴあアリーナMM(横浜市西区みなとみらい3-2-2)
- 出演者(12月7日)
- Herbie Hancock 85th Anniversary Special
(ゲスト:小曽根真、馬場智章、石若駿) - PERSONA5 Special Big Band
- Nate Smith featuring Michael League & James Francies
- MJFJ TB×ER UNIT with BIGYUKI(guest:Jeremy Quartus、石若駿)
- 蓮沼執太フィル
- L’Osmose(スイス・モントルーより招待)
- チケット価格(税込・全席指定)
- VVIP ¥150,000 / VIP ¥32,000 / S席 ¥18,000 / A席 ¥13,000 / U-25 ¥5,000 / 学生 ¥4,000 VVIPおよびVIPには専用ラウンジ、限定グッズ、優先入場などの特典が用意されている。
12月6日 ― MONTREUX JAZZ FESTIVAL JAPAN 2025 -JAPAN ARTISTS EVE SHOW-:都市と音楽が交差する夜
本公演前日の12月6日にぴあアリーナMMで開催される「EVE SHOW」。翌日の本公演を前に、フェスの核心を先取りするようなプログラムが展開される。
登場するのは、Kroi 、Jeremy Quartus 、BREIMEN、luvなど、実験精神と音楽性を兼ね備えた面々。
彼らが織りなすサウンドは、ジャズ、エレクトロニカ、アートロックが渾然一体となった“音の風景”だ。
このEVE SHOWは、単なる前夜祭ではなく、“都市と音楽の対話”をテーマにしたもう一つのメインプログラムとして位置づけられている。
みなとみらいの夜景を背に、音が建築の一部となり、聴くことそのものが都市体験へと変わる。
ラインアップを読む ― レジェンドから新世代へ
Herbie Hancock 85th Anniversary Special (guest:小曽根真、馬場智章、石若駿)

ジャズ史の生きる伝説、ハービー・ハンコック。
『ウォーターメロン・マン』や『処女航海』でモダンジャズの新時代を切り開き、『ヘッド・ハンターズ』ではファンクと電子音楽の融合を成し遂げた。
今回のステージは、彼の85歳を祝うアニバーサリー・ライブ。ゲストに小曽根真、馬場智章、石若駿という日本のトッププレイヤーが集う。
クラシックとアヴァンギャルド、伝統と未来が同居する、MJFJの象徴的な舞台となるだろう。
PERSONA5 Special Big Band

世界的ゲーム『ペルソナ5』の音楽を、グラミー受賞アレンジャーCharlie Rosenがビッグバンド化。
Lynのヴォーカルを中心に、エリック・ミヤシロ率いる総勢30名のアンサンブルが、ゲーム音楽を“現代音楽”として再構築する。
ポップカルチャーをジャズの文脈で再翻訳するこの試みは、まさにモントルー的精神そのものだ。
Nate Smith featuring Michael League and James Francies

ドラマー/コンポーザーのネイト・スミスが、Michael League(Snarky Puppy)とJames Franciesを迎えて登場。
ジャズ、ファンク、ソウル、ヒップホップを縦断するトリオ編成で、現代音楽の多層的リズムを体現する。
“黒いグルーヴ”と“知的構築性”の共存が、このステージの醍醐味となる。
MJFJ TB×ER UNIT with BIGYUKI

『BLUE GIANT』の演奏で知られる馬場智章を中心に、BIGYUKI、JK kim、石若駿らが集結。
即興と電子音、アコースティックとサウンドデザインが交錯するセッションは、“一夜限りのジャズの未来”を見せるだろう。
蓮沼執太フィル Shuta Hasunuma Philharmonic Orchestra

現代音楽、ポップス、アートを横断するオーケストラ集団。近年は“アンビエント以後のフィルハーモニー”として注目を集めており、MJFJの空間性と響き合う存在だ。
L’Osmose(ロスモス)

スイス・ジュネーヴ発、初来日のオルタナティブ・バンド。
70年代サイケデリックと現代グルーヴを融合させたサウンドで、2024年モントルー本祭では観客賞を受賞。その音像は、ヨーロッパの自由な音楽文化を象徴している。
12月5日 ― オープニングナイト「An Opening Night at BAROOM」
12月5日に東京・南青山の音楽空間BAROOMで行われる「An Opening Night at BAROOM」。
BAROOMは“音楽を聴くための建築”として知られるサロン的ライブスペースで、アナログ・サウンドと美しい照明演出が特徴だ。この夜は、モントルー・フェスティバルのスピリットを象徴する“親密な夜”として構成される。
出演は、スイス本国からの招聘アーティストL’Osmoseを筆頭に、BIGYUKIや石若駿ら、国際的評価の高い音楽家が集う。
BAROOMという空間の密度が、まるでモントルー湖畔の小劇場のような感覚を呼び覚ます。
ここからフェスティバルの“空気”が静かに動き出す。
海と都市のあいだに鳴る ― みなとみらいという舞台
「ぴあアリーナMM」は、都市と海の境界に建つ現代的なコンサートホールだ。
光が反射するガラスの外壁、港に抜ける風、背後にそびえる摩天楼。
この環境そのものが、MJFJの世界観を象徴している。
みなとみらいエリアは、単なる会場アクセスの便利さ以上に、「音楽体験を拡張する場」としての潜在力を持つ。
フェス後に海辺のレストランで語らう、近隣ホテルで余韻を過ごす。
音楽を中心に置きながら、建築・都市・時間をひとつの体験として束ねる――それがMJFJの美学である。
ラグジュアリー体験としてのフェス
チケットの最上位にあたるVVIP(¥150,000)は、専用ラウンジ、限定グッズ、優先入場など、従来の音楽イベントにはなかった特典が付帯する。
単なる“観る・聴く”から、“滞在する・共有する・記憶する”へ。
このフェスは、音楽を媒介にしたラグジュアリー・エクスペリエンスの提案でもある。
高級車ブランドがスポンサーに名を連ねるのも頷ける。
MJFJは音楽を「文化資産」として提示し、来場者に“豊かさとは何か”を問いかける。
音楽を聴くことは、文化を生きること
ハービー・ハンコックが語るように、「音楽は人間の自由の表現である」。このフェスティバルは、まさにその言葉を実体化したものだ。
ジャズを起点にしながら、クラシック、エレクトロニカ、ポップス、ゲーム音楽までもが交差する。
MJFJ 2025は、音楽を“消費”する場ではなく、“共鳴”する場として設計されている。
観客は単なるオーディエンスではなく、この瞬間を共に構築する参加者となる。
その意味で、これは文化的体験の“総合芸術”だといえる。
12月、横浜で会おう
冬の横浜、海風が肌を撫でる夜。
アリーナの中では、世界の音が鳴り響く。
ハービー・ハンコックのピアノ、BIGYUKIの電子音、Lyn(稲泉りん)の歌声、そして会場を包み込む共鳴。
それは単なる音楽ではなく、時代の空気を映す鏡のようなものだ。
12月、横浜。文化が交差する港町で音楽が灯る。

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LWL online 編集部