布から音楽が流れ出す──音が“布になる”新時代。センシアテクノロジーが開発した世界最薄級「ファブリックスピーカー・ポータブル」誕生

 取材/LWL online編集部

薄く、柔らかく、しなやか——株式会社センシアテクノロジーが発表した世界最薄級の布状スピーカー「ファブリックスピーカー・ポータブル」は、従来の常識を覆す革新的デバイスだ。布地のようなシート全体が音を放つこの新技術は、ラグ・壁紙・シェード・ソファ・寝具など、空間や家具とシームレスに融合できる点が特徴である。ポータブルスピーカーとして持ち運びもでき、インテリア・建築・スマートホームを横断する「音の新カテゴリー」を切り拓く。静電スピーカー技術を応用した布状スピーカーが描く未来図を解読する。

新しい「音の存在感」をデザインする ―― 布状スピーカーがついにポータブル化

茨城県つくば市を拠点とするスタートアップ、株式会社センシアテクノロジーが、同社独自の布状スピーカー「ファブリックスピーカー」のポータブルモデルを発表した。

その姿は、従来のスピーカーのイメージを根底から覆す。
薄く、柔らかく、しなやか。
タペストリーのように壁に掛けることも、寝具のシーツと重ねて「寝ながら音に包まれる」こともできる——音響体験は、ついに家具でも家電でもなく、「布」という生活素材へと溶け込むフェーズに突入した! 当サイトが注目する「インテリジェント・レジデンス」の概念を拡張する、まったく新しい音のインテリアプロダクトだ。

産総研発テクノロジーが生んだ、「触れる音響デバイス」

センシアテクノロジーは、産業技術総合研究所 (産総研) のフレキシブルエレクトロニクス研究から生まれた研究開発スタートアップ。
同技術は2018年に布状スピーカーの原型を生み、同社はその実用化を推進してきた。

布全体が「面」として鳴る

ファブリックスピーカーは、導電性繊維×キャパシタ構造によって音を生成する「静電スピーカーの新形態」である。
主な特徴は以下のとおり。

  • 面全体から均一に音が放出される
  • 薄く柔らかく、折り曲げにも強い
  • インテリア素材と統合しやすい

このコンセプトを持ち運べるポータブルモデルとして成立させた点に注目したい。

技術的ブレークスルー ―― ポータブル化の壁を突破したふたつの革新

100g以下の高電圧駆動回路を独自開発

静電スピーカーは本質的に高電圧駆動が必須で、制御部が重く大きくなりやすい。
今回センシアは以下を実現した。

  • 手のひらサイズ/100g以下の超小型回路
  • 音圧65dB(1m)超
  • 身体に密着させても安全に使える絶縁設計

寝具のような身近な素材や、リビング・ベッドルームで使うことを前提とした「生活密着型オーディオ」としての実用化に不可欠なテクノロジーである。

縫製だけで布の質感を保ったまま積層

シート内部には、導電繊維に加え高誘電フィルムや防水薄膜など複数層の材料を使用している。
従来は「接着剤による積層」が避けられず、その結果、厚みや硬さが生じ、布らしい柔軟性が損なわれていた。

今回、センシアテクノロジーは接着剤を使わず、縫製だけで層を積み重ねる製造技術を確立した。
そのため、布本来の柔らかさや風合いを損なわずに、スピーカーとしての機能を維持することに成功したのである。

さらに、この技術は衣料品やインテリアファブリックのように、多様なデザインへの展開も容易にする。

地元つくばから、世界へ ― 「2025年度つくばクオリティ」に認定

今回のポータブルスピーカーは、つくば市が認める優れた地域製品の証である 「2025年度つくばクオリティ」 を受賞したという。
今後は、同市の支援のもと販路拡大およびプロモーションが進められる予定だ。

商品化と将来展望 ― 技適取得後に一般販売へ

同社は現在、電気用品安全法の適合確認と無線機器の技術基準適合証明(技適)取得を進めている。完了次第、一般消費者向け販売を開始する計画とのこと。

また、標準モデルに限らず、デザイン・形状のカスタマイズも見込んでおり、以下のような用途での活用も想定している。

  • インテリアメーカーによる家具/ファブリック製品への組み込み
  • キャラクターデザイン × スピーカーのようなグッズ展開
  • POP や広告媒体としての仕立て
  • ホテル・商業施設などでの空間演出

さらに、法人向け試作モデルの提供、コラボレーションパートナーの募集も開始される予定である。

「ファブリックスピーカー」の登場で夢見る未来

この技術は単なる「薄いスピーカー」を生み出すだけではない。
音が物質の域を超えて、「素材」そのものになるという発想の転換である。

壁紙、カーテン、ラグがそのままスピーカーになることだってありうる。
床・壁・天井から音楽が流れ出す未来。
あるいはソファの布地に使ってもいい。
ソファから音が流れ出す!

このように、建築/インテリア/オーディオの境界線が溶け、従来の家電的価値観を超えた「空間体験」の可能性が広がる。

テクノロジー × デザイン × ラグジュアリーライフ を象徴する製品として、この技術が広がる未来に期待したい。

株式会社センシアテクノロジー

  • 取材

    LWL online 編集部

Related articles 関連する記事

  1. home Home
  2. INFO
  3. 布から音楽が流れ出す──音が“布になる”新時代。センシアテクノロジーが開発した世界最薄級「ファブリックスピーカー・ポータブル」誕生