音響とデザインの共鳴——マイケル・ヤング代表作「マガジンソファ」30周年記念モデルがKEF Music Gallery TOKYOで展示中

オーディオ&サブカルライター/杉浦 みな子 

英国の名門オーディオブランド「KEF」(ケーイーエフ)が、南青山エリアで開催中の国際デザインイベント「DESIGNTIDE TOKYO 2025」に参加している。KEFのスピーカーも手がけた英国の著名デザイナー、マイケル・ヤング(Michael Young) 氏とのコラボレーションによる展示を、イベントのEXTENSIONプログラムとして実施中だ。現地の様子をチラリとご紹介しよう。

“デザインの聖地”に溶け込む「KEF Music Gallery TOKYO」 

2025年12月6日に開幕した「DESIGNTIDE TOKYO 2025」は、建築・インテリア・アート・クラフト・サウンド・思想——多様な分野が同じ熱源のもとに集う、極めて現代的な“デザインの祝祭”である。16日間にわたるイベント期間中は、南青山~渋谷エリアがいわば“デザインの聖地”と化し、ギャラリーやショールーム、ホテルなどの施設で、さまざまな展示を実施。都市そのものが「デザインのネットワーク」として立ち上がっている。

南青山が「デザインの聖地」に。DESIGNTIDE TOKYO 2025、16日間の祝祭へ

その中でKEFは、「Mid Nineties Modern by Michael Young」のタイトルを掲げ、南青山にある同社のギャラリー「KEF Music Gallery TOKYO」で、マイケル・ヤング氏の代表的な作品を展示している。期間は2025年12月12日(金)から18日(木)まで。 

そう、世界的な工業デザイナーであるヤング氏は、KEFのヒットモデルであるスピーカー「LSX」シリーズや「LS60 Wireless」をデザインした人物であり、KEFとは浅からぬ縁があるのだ。 

なお、会場である「KEF Music Gallery TOKYO」自体が、建築家ユニット「クライン・ダイサム・アーキテクツ」が設計した空間であり、KEFの音響哲学とデザイン美学を体現する場として機能していることにも注目されたい。普段は、KEFが開発した数々のスピーカー群を体験できるギャラリーとして運営されている。18日までの期間中は、KEFのスピーカーだけでなく、これまでヤング氏が手がけた様々なプロダクトの実物も展示されていて、見応え抜群だ。

「Mid Nineties Modern by Michael Young」のメイン展示会場

マイケル・ヤング氏の代表作「マガジンソファ」特別モデルが登場

さて、今回のイベントにおける目玉は、ヤング氏の代表作 「マガジンソファ」(1994年)の30周年記念展示だ。

「マガジンソファ」(1994年)

ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)や香港のM+など、世界的な美術機関にそのコレクションが収められているソファ。KEF Music Gallery TOKYOでは、白の日本産デニムを張地に用い、オレンジのステッチを施した特別仕様(限定30台)が展示されている。 

さらに、会場では日本未公開のヤング氏の作品も数多く出展。押し出し成形アルミニウム製のフロアライト、限定版の3Dプリント花瓶、イスタンブールで制作された特別な陶器のほか、シュリンク包装のコカ・コーラボトル、香港のm2o向けにデザインされたウォーターボトルなど、多彩なプロダクトが空間に彩りを添えている。 

ブラマ フロアランプ(2023年)
花瓶(2023年、3Dプリント樹脂)
コカ・コーラ瓶(2003年)
M2Oウォーターボトル(2022年)

これらは単なるプロダクト展示に留まらず、ヤング氏の30年にわたるキャリアとデザイン思想を総覧する場と言えよう。

これらの幅広い作品は、歴史的な工芸のレトリックに没入した最先端の技術プロセスとの共生=クラフト×テックによる「The blossom collection」というキーワードのもとに選ばれており、ヤング氏のデザイン実践とその背景にあるプロセスを体感させるものだ。

ワイヤーチェア(2021年)やLess Than Fiveバースツール(2014年)と、KEF「Reference 5 Meta」を組み合わせ
アビエーター
クラフト×テックブロッサム リンクステーブルL
神道テーブル(2024年)
モンカーボン ブラックダイヤモンド(2022年、キャリーケース)
オルゾン・ヴァーズ(2018年)

“普通じゃない方に進め”と音楽が指針をくれた

さて、そんな空間を彩るサウンドを鳴らしているのは、もちろんKEFのスピーカー群。ヤング氏がデザインした「LSX II」のミニマムで美しい筐体に収められた同軸Uni-Qドライバーが生み出す点音源が、ギャラリー内に広がって来場者を包み込む。まるで、音響とプロダクトデザインが空間内で“対話”するような構成である。 

では、これをデザインしたヤング氏にとって、音楽はどんな存在なのか? 最後にそこに触れて、本記事を締めくくろう。 

1966年生まれのヤング氏は、ディスレクシア(Dyslexia=学習障害の一種)を持つ一人で、その特性がまだ理解されなかった時代に自尊心の低い幼少期を過ごしたという。やがて、10代でアートやデザインと出会い独学でセンスを磨き、20代でキングストン大学インダストリアルデザイン学科に奨学金で入学。その後、トム・ディクソン氏のアトリエに就職してキャリアを築いていったという経緯がある。 

12月11日に開催された前夜祭では、マイケル・ヤング氏本人が KEF Music Gallery TOKYO」に登場 
この空間を設計した「クライン・ダイサム・アーキテクツ」のマーク・ダイサム氏(右)とトークショーを繰り広げた

周囲と何かが異なる自分を持て余した時期も含め、その人生における音楽との関係をこう振り返る。 

「私はアシッド・ロック、スペースメタル、テクノを聴いて育った。音楽だけは私を現実に繋ぎ止めてくれるもので、迷いそうなときはヘッドホンをつければ世界を忘れることができた。今でもそうだ。ホークウインドやキリング・ジョークのように、日常の外側を探ろうとする人たちの音楽が好きだった。 

音楽がデザインを決めるわけではないが、“普通じゃない方に進め”という指針にはなった。その影響が、素材や技法に挑戦する姿勢に繋がったと思う」 

KEF Music Gallery TOKYOの2階には、そんなヤング氏のサイン入り特別デザインのLSX IIが置かれている。音楽がヤング氏のチャレンジ精神に与えたストーリーを知ると、彼の名前が刻まれたLSX IIが鳴らす同軸サウンドの響きはどこか力強い。

マイケル・ヤング氏のサイン入り特別仕様の「LSX II」。現在、KEFギャラリー内の実機はこの1台のみで、すでに売却済みとのこと。実機を見る機会はこれが最後となるかも

「DESIGNTIDE TOKYO 2025」に合わせてKEF Music Gallery TOKYOで行われているこの展示は、国内外から集うデザイン関係者や一般来場者にとって、KEFの音響とマイケル・ヤングの造形世界を再発見する好機となるだろう。デザインと音響が共鳴するさまをぜひご体感いただきたい。 

【イベント概要】 
タイトル:Mid Nineties Modern by Michael Young 
開催期間:2025年12月12日(金)~2025年12月18日(木) 
時間:11:00〜19:00 
開催場所:KEF Music Gallery TOKYO 
ウェブサイト: https://designtide.tokyo/extension/  

  • オーディオ&サブカルライター

    杉浦 みな子

    1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://sugiuraminako.edire.co/

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