【スマートホーム/ホームオートメーション特集】建物OSは「オープン」でなければならない──JAPAN BUILD TOKYOの講演に見る、オープンプロトコルの重要性
fy7d(エフワイセブンディー)代表/遠藤義人
スマートビルやスマートホームの実装が進まない最大の要因は、利便性やコストではない。真の障壁は、日本の建築設備に根深く残る「ベンダー依存」と「規格の分断」にある。JAPAN BUILD TOKYO で行われた基調講演「建物オーナーが求める建物OSとオープンプロトコル」では、鹿島建設とCoolAutomationの両氏が、建物を“点”ではなく“OS”として統合的に捉える重要性を提示した。本講演はビル向けの内容でありながら、集合住宅やラグジュアリー邸宅、別荘における「建築統合型スマートホーム(Home OS)」にも通底する示唆に満ちている。
スマートホーム普及を阻む「規格のガラパゴス化」という構造問題
スマートホームによる照明やエアコンといった機器の一括制御による省人化・省エネ化、そして快適化にとって障害となっているのは、日本の電子機器メーカー毎に制御信号が異なる、いわば“規格のガラパゴス化”といえるベンダー依存の現状だ。
そうしたメーカー毎の囲い込みをやめ、誰もが自由に利用できるように公開された共通言語(オープンプロトコル)で通信することの重要性を説いた基調講演が、先日東京ビッグサイトで開催された建築の先端技術展JAPAN BUILD TOKYOで催された。
お題はビル建物オーナー向けだが、集合住宅や豪邸、別荘などにも大いに参考になるためここに紹介する。
建築で直面する課題の本質は「ベンダーロックイン」にある
講演「スマートビル – 想像から創造、実装に向けて – 建物オーナーが求める建物OSとオープンプロトコル」
講演「スマートビル – 想像から創造、実装に向けて – 建物オーナーが求める建物OSとオープンプロトコル」では、オープンプロトコルの重要性と、建物OSの果たす役割についてのセッションが行われた。
登壇したのは、建設の現場で具体的問題に直面し日々奮闘する鹿島建設関西支店建築部建築工事部長の具志勉さんと、メーカーを問わず空調制御するオープンプロトコルの旗手CoolAutomation Japan代表執行役社長の横山大樹さんだ。
個別制御から建物OSへ。建物オーナーの多様な要求を阻む「メーカー縛り」

建物というハードが主戦場である具志さんは、「個別に制御している現状(写真左の青枠)を、お客様の多岐に亘るニーズに応えるためにも、集中制御できるベンダーフリー(メーカーに依存しない)建物OSによるスマート化(写真右の赤枠)を構築しなければと思っています」と問題提起した。

続いて、「会議室のカギが返却されても空調や照明を消し忘れている」といった例からはじまり、ベンダーフリー建物OSがあることで多様な提案が可能になることを具体的に提示していった。

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建物OSがもたらす価値とは何か──集中制御ではなく「統合知」

具志さんがよく相談を受けるのは「築15年〜20年経過したようなビルのリニューアルにおいて集中管理システムからすべて更新するのはコストが掛かる」という問題。
それに対して、横山さんは、「空調管理を集中管理から切り離すと、制御の可能性が広がります。BEMS(ビル・エネルギー・マネージメント・システム)を使えば更なる省エネ実現の可能性も出てきます」とベンダーフリー建物OSのメリットを説明。

脱炭素で先行するEUに学ぶ、オープンプロトコルの必然性
続いて横山さんは世界に目を向ける。
「EUでは建物エネルギー性能指令(EPBD)というのがあり、それに沿ってフランスでは2030年までに6割に削減することが法律で決まっているんです。空調は最もエネルギー消費が大きいことから、実際フランスではCoolAutomationの売り上げが前年比10倍になっています」と実情を紹介した。
翻って日本でもそれなりに対策は進んでいるが、いずれも紹介・解説という段階にとどまっているのが残念だと語る。


これには具志さんも同意し「日本と海外のスピード差を感じます。お客様の立場からしても、スマート制御の規格をオープンにしていったほうがいい」と述べると、横山さんも「一社だけでできることではありません。業界を挙げてやっていかなければ」と思いを吐露した。
「事後対応」から「事前検知」へ──建物OSが可能にする予兆管理
故障してからでは遅い理由。事前検知の重要性
具志さんから「『まだ使えるのに定期的に交換するのは勿体ない。かといって故障してからだとトラブルになる。予兆を察知して予算効率的に交換できないのか』といった相談を受けるが、解決方法はあるか」と問われると、横山さんは、空調に於いてはCoolAutomationならば応えられることを紹介。
「起こってしまったことを振り返る」のではなく、異常な動作から予兆を検知してアラームを鳴らすという「事前検知」の利便性を強調した。


メーカーを越えたデータ統合がAI連携を可能にする
この際、メーカーを問わず制御可能なオープンプロトコルであることが重要。これがメーカー依存になっていると、目的が達成できない。
「誰のためのシステムなのか」といったユーザー側からの視点が最優先なのだと横山さんは力説する。

具志さんも「建物OSにビッグデータがあればいろいろな予知もできるし、AIとも連動できる。それがオープン化できれば、特にビルの場合は建物毎にクローズドではなく、ポートフォリオ的に俯瞰して管理することができます。建物オーナー様のために、オープンにしていきたいという思いです」と語った。
ハードとソフトの両面で建物の真のスマート化にはオープン化が必須
サイバーセキュリティとオープン化の両立
最後に具志さんは「お客様のやりたいことは多岐に亘ります。サイバーセキュリティを防ぎつつ、建物OSのオープンプロトコルで繋がっていく。多種多様な機能を統合コントロールできるような建物にしていくのが目標です」とスマートレディな建物を作っていくことを誓った。

横山さんは、「スマート化の世界は、これまで『想像(イマジネーション)』上のものでしかありませんでした。それが『創造(クリエーション)』になっただけにとどまらず、『実装』されなければなりません。わたしがやっているのは空調の分野に過ぎませんが、先ほど紹介した欧州の事例のように日本も社会としてオープン化を進めていかないと社会目的は達成されないと思っています。待ったなしです。ぜひ一緒に進めていきましょう」と呼びかけた。

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「第10回 JAPAN BUILD TOKYO-建築・土木・不動産の先端技術展」速報~スマートビルディングEXPOで見えた「建築OS」の最前線
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fy7d(エフワイセブンディー)代表
遠藤義人
ホームシアターのある暮らしをコンサルティングするfy7d(エフワイセブンディー)代表。ホームシアター専門誌「ホームシアター/Foyer(ホワイエ)」の編集長を経て独立、住宅・インテリアとの調和も考えたオーディオビジュアル記事の編集・執筆のほか、システムプランニングも行う。「LINN the learning journey to make better sound.」(編集、ステレオサウンド)、「聞いて聞いて!音と耳のはなし」(共著、福音館書店。読書感想文全国コンクール課題図書、福祉文化財推薦作品)など。