【スマートホーム/ホームオートメーション特集】Modbusとは何か? 「単純さ」が住宅の信頼性になるとき── スマートホームを支えるプロトコル思想の総まとめ
取材/LWL online編集部
スマートホームやホームオートメーションが普及する一方で、建築家や設計者のあいだには、いまだ拭いきれない違和感が残っている。それは機能の多寡ではなく、「住宅がどの論理で動いているのかが見えない」という感覚だ。本稿では、産業制御由来のプロトコル Modbus の解説に加えて、KNX、BACnet、DALIと辿ってきた本連載を総括する。プロトコルとは何か。それは単なる通信方式ではなく、住宅をどう信じるかという思想の表明である。
Modbusとは何か──産業制御のために生まれた最小限の言語
建築家や設計者がスマートホームやホームオートメーションに距離を置いてきた理由のひとつに、「中身が見えない」という感覚がある。
ブラックボックス化された制御、抽象化されすぎたUI、トラブル時に原因を特定できない構造。
Modbusは、その流れとは正反対の地点に立つプロトコルである。
Modbusは1979年、産業機器同士を確実に接続するための通信方式として生まれた。
工場やプラント、インフラ設備において、異なるメーカーの機器を安定して動かすことが目的である。その設計思想は極めて単純だ。数値を読み、数値を書く。意味づけや解釈は一切行わない。
この「余計なことをしない」姿勢こそが、Modbusを長命なプロトコルにしてきた。
Modbusは、住宅の快適さや体験を語らない。光や空気の意味を定義しない。
ただ、値をやり取りするだけである。
そのため、制御の主導権は完全に上位層──設計者やインテグレーター側に委ねられる。
制御の透明性と追跡性を最大化する。

Modbusはどこで使われているのか
全館空調・熱源制御・エネルギーマネジメントの現場
Modbusは、以下のような領域で長く使われてきた。
- 工場・プラント設備
- 空調・換気・熱源制御
- エネルギーマネジメント(BEMS)
日本においても、全館空調や設備制御の文脈でModbus系通信が使われてきた例は少なくない。
高級レジデンスに導入されることが多い全館空調システムはModbusで通信ができる仕様をオプションで選択することが可能である。
Modbusはラグジュアリー邸宅の主役プロトコルにはならないケースが多い。
しかし、全館空調や熱源管理、エネルギー制御といった領域では、非常に有効である。

まとめ──プロトコルとは、住宅をどう信じているかの表明である
ここまで、KNX、BACnet、DALI、そしてModbusを見てきた。
共通して言えるのは、プロトコルは単なる通信方式ではないということだ。
それぞれが、住宅をどう捉え、どこに主権を置くかという思想の結晶である。
KNXは住宅を自律する存在として設計するための言語だった。
BACnetは建築をひとつの環境として管理・把握するための構造を与えた。
DALIは光を演出から解放し、建築要素として定義し直した。
そしてModbusは制御の責任を建築側に引き戻した。
無線主体やクラウド依存のスマートホームが「便利さ」を前面に押し出す一方で、これらのプロトコルは、住宅が長く使われる存在であることを前提としている。
操作ではなく構造を、体験ではなく再現性を、流行ではなく時間を重視する。 プロトコルとは、住宅をどう信じているかの表明である。
その前提に立ったとき、スマートホームは初めて、建築の言葉として語り直すことができる。

本記事の前提・理論編
各プロトコル詳細編
- KNXとは何か──分散制御がラグジュアリー邸宅で選ばれ続ける理由
- BACnetとは何か──ビルディングオートメーションがラグジュアリー邸宅へ降りてきた理由
- プロトコル「DALI」とは何か?── 照明を「演出」から「建築要素」へ引き戻した制御思想
- 日本のスマートホーム規格「ECHONET Lite」── ローカルスタンダードが抱える宿命、日本で完成し世界で孤立
対比・誤解整理編

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