“静けさ”は設計に組み込まれていく。ピクシーダストテクノロジーズの吸音モジュール「iwasemi OC-β」
オーディオ&サブカルライター/杉浦みな子
住まいの心地よさを左右する要素として、光や温度、空気質は比較的語られやすい。一方で「音」はどうだろうか。騒音対策という言葉はあっても、音環境をデザインするという発想は、まだ一般的とは言いがたい。そんな中、ピクシーダストテクノロジーズが発表したのが、新しい音響制御モジュール「iwasemi OC-β」。“後で貼るもの”だった吸音材を、“あらかじめ空間に組み込むもの”へアップデートする提案だ。
後付けになりがちだった“吸音材”
吸音材といえば、フェルトやウレタンなどで作られ、壁や天井に貼るタイプが主流だ。しかし、効果はあっても意匠性との両立が難しく、住宅や生活空間では「どうしても必要な場合にだけ使う」存在になりがちだった。吸音性能以前に、意匠・素材・施工・運用の制約によって設計に組み込みづらく、室内に後から追加する際、コストや仕上がりの両面で制限があったのだ。

今回、ピクシーダストテクノロジーズが開発したiwasemi OC-βは、 この「吸音が設計の初期段階に入りにくい」という課題を前提から見直し、吸音を設計の一部として組み込めるモジュールとして開発された。販売は2026年3月3日から開始される。
同社が長年研究してきた音響メタマテリアル技術を活用しているのが特徴で、人の会話音の中心帯域(500〜1000Hz)に着目して音の反響を抑える吸音モジュールとなっている。本体サイズは W140×H140×D38mmと薄型で、建築の設計段階から組み込みやすい。
「見せない吸音」から「組み込む吸音」へ
iwasemi OC-βが目指しているのは、吸音材を主張させることではない。壁材や什器、家具などにあらかじめ組み込むことで、意識されないまま自然に音環境を整えるという、いわば吸音を“背景化”する技術と言える。
スマートホーム機器が、“操作するガジェット”から“存在を感じさせないインフラ”へ進化し始めているのとシンクロするように、音の制御もまた、空間設計の一部として溶け込み始めているのかもしれない。
人が「静かで心地よい」と感じる空間には、いくつかの要素がある。反響が少ないとか、話し声が聞き取りやすいとか、生活音が刺さらないといったことだ。これらの要素は、意識の下で効いてくる。iwasemi OC-βは、まさにその“意識下で感じる快適さ”を支える技術と言えよう。吸音材を貼ったから快適になるのではなく、最初からそう設計されている空間を作ることができる。
今後、住宅やオフィス、商業空間において、音環境はより重要な設計変数になっていくはず。コロナ禍を機に、リモートワークやオンライン会議などが日常化し、音声コミュニケーションをとる機会が多くなっている今、“音の聞こえ方”はさりげなく空間価値に直結している。
吸音材というニッチな領域から、空間設計全体を再定義しようとするiwasemi OC-β。空間の心地よさは目に見えるデザインだけで決まらないということを、静かに、確実に教えてくれるプロダクトだ。
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オーディオ&サブカルライター
杉浦みな子
1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://sugiuraminako.edire.co/