LWLサテライトイベント「The Luxury Smart Home Theater Experience」IDÉALビル見学ツアーレポート
fy7d(エフワイセブンディー)代表/遠藤義人
2026年1月30日、LWLサテライトイベント「The Luxury Smart Home Theater Experience」が東京・南青山のIDÉAL(イデアル)ビルで開催された。協賛各社によるスマートホーム/ホームシアターのプレゼンテーションとスペシャルトークセッションを経た来場者は、グループに分かれてIDÉALビル各フロアを巡る見学ツアーへ。建築・照明・音・映像・インテリアがどのように統合され、体験価値として立ち上がるのか──知識としてではなく、身体感覚で理解する機会となった。
単なる商業施設にしたくなかった──IDÉALビルに込められた思想

IDÉAL(イデアル)ビルは、東京・南青山の骨董通りからワンブロックの立地に24年5月グランドオープン。オーナーである分林さんの意向を受けて、NAP建築設計事務所の中村拓志さんらと練り上げた他に類を見ない仕掛けがふんだんに盛り込まれているのが特徴だ。
第一に、大河ドラマ「真田丸」で注目を浴びた左官・挾土秀平のエントランスや、コシノジュンコによるアート作品「山水」、各階のガラスの意匠といった節々に、流水紋があしらわれている点が挙げられる。また、後述する能楽堂の黒松とともに、エントランスにシンボルツリーとして西畠清順のオリーブが植えられるなど、単なる商業施設ではなく、「ちりばめられたアートによって刺激を受ける憩いの場にしたい」という分林さんの意向が色濃く反映されているのも見逃せない。



4階・私邸としての能楽堂「山水」──都市に隠された非公開空間
“鏡松”が映し出す、内と外が連続する能舞台
今回、一般には非公開となっている4階のプライベートフロアーが来場者に特別に公開された。東京・南青山という都会の真っ只中にも関わらず、能楽堂「山水」があるのだ。分林さんは、自然や身体と建築の有機的構築を信条とするNAP中村さんと大いに議論を交わしながら、この吟味された空間を仕上げたという。

いちばんの特徴は、能舞台の正面奥に描かれた“鏡松”。元来、能舞台には欠かせないもので各々に個性があるが、4階にも関わらず、開口部の広い窓の外の庭には巨大な松が植えられ、それを見事に写し取っている。きけば日本画家が2ヶ月半通って描きあげたといい、分林さんの本家である京都の能舞台と兄弟松になるような配慮も施されているとのことだ。


屋根付き能舞台が示す、徹底した空間へのこだわり
その徹底ぶりは、プライベートの能舞台では珍しい“屋根付き”であることからも窺える。ほかにも、塗料として貴重なインドの鉱石を使っていたり、松の枝振りを7-5-3のお目出たい数としたり、京都・修学院離宮の境内隣雲亭軒下のたたきに見られるひふみ石をカーペットで表現したりと、NAP中村さんとアイデアをぶつけ合った成果がふんだんに盛り込んまれている。


この能舞台は希にコンサートに使われることも。プロジェクターとスクリーンが備えられ映像も投写できるほか、日本に2台しかないスタンウェイのアップライトピアノが能舞台に合うメイプル仕様で設置されている。

3階 IDÉAL TOKYO──「五感で遊ぶ」ラグジュアリー・ホームエンターテインメント
オーディオ・映像・家具・アートを一体で設計する思想
IDÉAL TOKYOは、「五感で遊ぶ」をコンセプトに、オーディオ・ビジュアルによるホームエンターテインメントとモダン&ヴィンテージ家具を融合させたラグジュアリーなインテリアサロン。

フロアには、Bang & Olfsenのテレビを核に艶やかな家具でシーン構成が施され、テーブルや壁面にはアートが掲げられている。もちろん、ホームシアター機器やホームオートメーション、照明器具、ヴィンテージ家具ひとつを取り入れるだけでも居住空間の空気は一変するが、むしろモノだけでなく、オーナーのアート感覚やライフスタイルに合わせた空間全体のコーディネートを得意とする。
180インチに変貌するシアタールーム体験
今回のイベントで注目されたのは奥のガラス張りの一角で、手許のタッチパネルをワンタッチすれば暗幕とスクリーンが下がり壁一面が180インチの大画面映像に早変わりするシアタールームだ。EPSON(エプソン)の高輝度4KハイエンドプロジェクターEH-QL3000の映像に、来場者は感嘆の声を上げていた。







1階 TOM DIXON/THE CAFE──インテリアと音がつくる居心地
TOM DIXON(トム・ディクソン)は、Artekなどのクリエイティブ・ディレクターを経て2002年に自身の名を冠したブランドを立ち上げ、照明や家具にアクセサリーまで、デコラティブで多彩な600にも亘るコレクションを擁するインテリアブランドとなった。

この青山ショールームにも、トム・ディクソンのアイコンがふんだんに並ぶ。吹きガラスのようなポリカーボネート真空蒸着処理の照明「MELT(メルト)」や、職人の技が光る真鍮の照明器具「BEAT(ビート)」が創る光のシーンに、もっちりした座り心地と丸みを帯びたフォルムのチェア/ソファ「FAT(ファット)」「LUMP(ランプ)」などが多彩なモジュールを生かして配置されている。


そのシーンのそれぞれに、英国KEFのスピーカーLS50やLSXⅡなどが組み合わされているのも見所。会場奥では、KEFのアンプ内蔵一体型スピーカーLS60 Wirelessを来場者が囲み、熱心に聞き入っていた。

B1階 minotticucine──素材と時間を味方につけるキッチン空間
“タイムレス”を体現するハイエンドキッチン
今回プレゼンテーション会場となったのは、地下一階にあるハイエンドシステムキッチンminotticucine(ミノッティクチーネ)のフロア。1949年創設のイタリアのキッチンメーカーで、2003年にいち早く天然石を使ったキッチンを発表しパイオニアとなった。

この完全予約制の南青山ショールームからも窺えるように、空間からは機能的な要素が視覚から徹底して排除され、自然界が長年培って描きあげたそのものをキャンバスにしたテーブルトップや扉が並ぶ。エントランスの流木と共に、美術館さながらの佇まいは壮観だ。




デザインコンセプトとしては“タイムレス”。したがってロングライフの製品が多く、展示されているモデルも、現行品では最古のモデル「atelier(アテリエ)」(98年)や、奥の突き当たりに鎮座するアイランド型カウンターキッチン「gandhara(ガンダーラ)」(2000年)ほか、新しいものでも2016年の「hanami(ハナミ)」だが、依然として世界中で人気となっている。


くつろぎのための家具とスマート制御
また、会場には北欧ノルウェーのエコーネス社のリクライニングチェアStressless(ストレスレス)も展示。2025年レッドドット・デザイン受賞の「Adam(アダム)」のほか、最も柔らかい座り心地の「Magic(マジック)」、ホームシアターの定番で包容力のある「Reno(レノ)」も展示され、来場者は座り心地の違いを体感していた。





もちろん本来は静謐な空間だが、今回は実際にキッチンを使って調理が行われ、ゲストスピーカーとして招聘されたICE都市環境照明研究所所長・武石正宣さんによる乾杯の音頭と共にシャンパンと料理が振る舞われ、カクテルパーティーは宴たけなわとなった。






[施設概要]
IDÉAL(イデアル)ビル
東京都港区南青山6-13-1
https://ideal-bldg.com/
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fy7d(エフワイセブンディー)代表
遠藤義人
ホームシアターのある暮らしをコンサルティングするfy7d(エフワイセブンディー)代表。ホームシアター専門誌「ホームシアター/Foyer(ホワイエ)」の編集長を経て独立、住宅・インテリアとの調和も考えたオーディオビジュアル記事の編集・執筆のほか、システムプランニングも行う。「LINN the learning journey to make better sound.」(編集、ステレオサウンド)、「聞いて聞いて!音と耳のはなし」(共著、福音館書店。読書感想文全国コンクール課題図書、福祉文化財推薦作品)など。