KEFプロダクト哲学──レガシーと革新が共存する英国ハイファイの現在
オーディオ・ビジュアル評論家/大橋伸太郎
KEFの現在は、レガシーと革新の二層構造にある。The Reference、R、Qという伝統的パッシブライン。その頂点に立つBlade。そして現代のフロントラインを担うLS50 Wireless II、LS60 Wireless。Uni-Q第12世代、Meta Technology、シングル・アピアレント・ソース設計──。音響科学とデザイン革新を両輪に進化を続けるKEFの“現在形”を、製品ライン別に整理する。
KEFのプロダクト構造──レガシーラインという中核構造
KEFのパッシブ型(増幅アンプを内蔵しない)ハイファイスピーカーのうち、The Reference、R、QシリーズはいわばKEFのレガシーである。実績、バリエーション、販売量からいってもKEFという巨木の太い幹にあたるのが、この4ラインである。
シンボリックなMUONを頂上に戴き、4ラインと構成法を変えた音場重視スピーカーBladeシリーズがある。
Bladeシリーズ──点音源思想の極致
KEFのラインの中でBladeとReferenceは別格だ。
顧客の発注を享けてから一人の職工がメイドストーンの工場で仕上げまで全行程を手作りで行う。発売当初からこのやり方は変わらない。ハンドクラフト文化のイギリスらしいではないか。
薄く長く高い特異なアピアランスから「刀」と命名され、2011年にKEFのフラグシップとして発売されたBlade。
Uni-Qドライバーだけを薄型キャビネット前面に持ってきて、指向性の少ない低域ドライバーを左右に配置して全方向、部屋中に360°音が拡散する狙いである。KEFの一貫した理念である点音源を突き詰めたシングル・アピアレント・ソース設計が生んだ理想のスピーカーである。2014年には、ダウンサイジング化したBlade Twoが加わった。現在はMATを搭載した第二世代に発展した。

The Reference──「基準機」という名の頂点
同社研究開発施設内に保有の基準機とレスポンスの差が0.5dB以内に収まることを使命に、創業者レイモンド・クック命名のもとで誕生したレギュラーライン不動の最上位がReferenceである。
現在のThe Refererenceは第12世代Uni-QとMetaテクノロジーを搭載する。
シリーズ最上位The Refererence 5 Metaのサウンドを聴いてみよう。
箱鳴り、色付きが絶無に近い。ドライバーのつながりがシームレスで帯域の断層がなく、「基準機」の名の通りのフラットでスムースな音楽再生である。故レイモンド・クックが61年前に夢見たのがこのダイレクト感だったのだ。


Rシリーズ──空間との調和という設計思想
エレガントな曲面構成で有機的なフォルムをまとったMUONやBladeに比べ、The ReferenceとRシリーズの平面構成されたキャビネットは保守的にみえる。
しかし、ここにもKEFの深慮がある。
Rシリーズの場合、ヨコ幅200ミリに統一、一番細身のR5 Meta は175ミリときわめてスキニーである。家庭のリビングで大画面テレビとコーディネートした時の親和性を考慮、視覚的にジャマな前面バッフル面積を抑えつつ最大限の内容積をうみだすように配慮したのだ。
全機種でUni-Qの高さが揃えられ、サラウンドシステムを組んだ時に音源の高低差が生まれず、音場に一体感が生まれるのもKEFらしい洞察といえよう。



Qシリーズ──ホームシアターへの拡張性
Referenceの技術要素とサウンドを引き継ぎつつ、ホームシアターへの発展性を重視したラインがQシリーズである。
センタースピーカーQ6 Metaは左右下にテレビを取り囲む「LCRスピーカー」として使える。コンテンツに忠実な再生をのぞむほどスピーカーの数が増えるのがホームシアターの宿命だが、リーズナブルなQシリーズなら本格的なシステムほどコスト面で有利である。

アクティブ&ワイヤレスという現在のフロントライン
KEFの現在フロントに立つのがアクティブ&ワイヤレススピーカーである。
その最初の製品が、先に紹介したLS50にWi-Fiレシーバーとパワーアンプを搭載したアクティブ型スピーカーLS50 Wireless(現在はLS50 WirelessⅡ)である。
専用アプリをスマホ等にインストール。KEFコネクトがLS50 WirelessⅡのセットアップ手順を日本語で教示、完了すると近くのLS50 WirelessⅡを探し、Tidal、Amazon Music、Qobuz、Deezer等のハイレゾストリーミングサービスがスタートする。


LS60 Wireless──フロア型アクティブの完成形
マイケル・ヤングのデザイン哲学
2022年には、フロアスタンディング型のLS60 Wirelessが登場。
ハイ、ミッド、バスドライバーをクラスAB/Dのアンプがバイアンプ駆動するアクティブスピーカー。
ストリーミングやインターネットラジオ、ホームネットワーク上の音源はもちろん、HDMI ARCでテレビの音声の再生も可能だ。
LS50以降の一連のLSスピーカーは1966年生まれのイギリスの新世代デザイナー、マイケル・ヤングの手になるもの。ソリッドで無駄のない造型はリダクショナリズム(還元主義。余計なラインや装飾を取り去り事物本来のありのままの形態を取り戻す。)の最良の例である。


KEF Music Gallery Tokyoという体験空間
現在のKEF製品は、パッシブ/アクティブのハイファイスピーカー以外にホームシアター、ヘッドフォンまで幅広い。
東京都の南青山のKEF Music Gallery Tokyoで体験できる。
どの製品も一見してKEFファミリーとわかる洗練され品格を感じさせる機能美をまとっている。
21世紀になり、ロス・ラブグローブ、マイケル・ヤングら新世代デザイナーを起用、音響機器のデザインを一段引き上げたKEF。
KEFは音響機器を通じてひとびとの生活に心躍る音楽と安らぎをもたらしてきた。今世紀、そこにもうひとつ「美」が加わったのだ。

-
オーディオ・ビジュアル評論家
大橋伸太郎
1956年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、『ガレのガラス芸術』『日本百景』『少年少女名作絵画館』(全12巻・日本図書館協会、全国学校図書館協議会選定図書)等、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。2006年に評論家に転身。VGP審査委員長、銘機賞審査員を務める。