建築とインテリアが響き合う――「内田繁とアルド・ロッシのプロダクト展」が西麻布で開催中

オーディオ&サブカルライター/杉浦 みな子 

日本のインテリアデザインを牽引した内田繁と、20世紀を代表するイタリアの建築家アルド・ロッシ。ふたりの創造的関係をたどる展覧会「内田繁とアルド・ロッシのプロダクト展 – ホテル イル・パラッツォとアレッシィ」が、 10月15日から南麻布のdesignshop azabuで開催されている(会期は12月14日まで)。 その内容を少し覗いてみよう。

「ホテル イル・パラッツォ」を機に共鳴した内田とロッシ

内田繁とアルド・ロッシ――このふたりの名が並んだとき、1989年に福岡で開業した「ホテル イル・パラッツォ」を思い出す人は多いのではないだろうか。 

日本初のデザイナーズホテルとして、建築をロッシが、インテリアとディレクションを内田が担当したこのプロジェクトは、倉俣史朗、エットレ・ソットサス、ガエタノ・ペシェ、田中一光ら国内外の一流デザイナーも参加し、国際的な注目を集めた。 

HOTEL IL PALAZZO design Aldo Rossi / Photo Satoshi Asakawa 

今回のイベント「内田繁とアルド・ロッシのプロダクト展 – ホテル イル・パラッツォとアレッシィ」は、そんな“伝説の協業”を出発点に、ふたりの創造的関係をプロダクトの側面からたどる内容だ。

本展では、大きく3つのテーマのもとに展示が行われている。 

“建築的思考”が形になった生活用品たち

ひとつめのテーマは、「ロッシとALESSI」。

アルド・ロッシと、イタリアを代表するホームプロダクトブランド・ALESSI(アレッシィ)との出会いは、1983年に同社が行った「Tea & Coffee Piazza(紅茶とコーヒーの広場)」という企画にまでさかのぼる。 

建築家&デザイナーのアレッサンドロ・メンディーニが発案したこのプロジェクトは、11人の建築家に「紅茶とコーヒーのセット」をデザインさせるというものだった。この企画を機に、ALESSI社はデザイン界で確固たる地位を築き上げ、同時にアルド・ロッシという未来のスターデザイナーが発掘されることとなった。 

本展では、以降のロッシがALESSI社のために手がけた代表的プロダクトを展示。たとえば、代表作「La conica」シリーズのケトルやエスプレッソコーヒーメーカーは、円錐やドームといった建築的な構成要素をテーブルの上に落とし込んだ作品である。 

La conica(1986, ケトル) 
La conica(1984, エスプレッソコーヒーメーカー) 
Moment(2005, 掛け時計) 

内田繁の“時間”

ふたつめのテーマは、内田繁が1989年に手がけた置時計「Dear Vera I」の復刻展示・販売。

元々の「Dear Vera」シリーズは、「ホテル イル・パラッツォ」のためにデザインされたホールクロック「DEAR MORRIS」と通じるフォルムの卓上時計として生まれた。 

シリーズの中から、先んじて2024年に「Dear Vera II」が復刻されたが、このたび本展で「Dear Vera I」の復刻が決定。「II」と同じく初回限定50台のみシリアルナンバーの刻印入りとなり、会場では先着順で好きな番号を選んで購入できる(用意されているNo.は1~50のうち25点の番号)。 

「Dear Vera I」(左)と「Dear Vera II」(右) (1989, 卓上時計) Photo by Ryoukan Abe 

「L’uovo(ウォーボ)」の復刻クラファンも

そして3つめのテーマは、内田が手がけたフロアランプ「L’uovo(ウォーボ)」の復刻。

2023年にリニューアルした「ホテル イル・パラッツォ」で使用されているフロアランプで、その復刻を目指したクラウドファンディングが、今回の展覧会場で実施されている。 

卵型のフォルムと柔らかな光を持つこの照明は、人の心に寄り添うデザインの力を感じさせてくれる一品だ。 

「L’uovo」(2004, フロアランプ)Photo by Thomas Libiszewski 

「ホテル イル・パラッツォ」のプロジェクトを通じて交流を深めたロッシと内田。本展は、それぞれのプロダクトに着目することで、「ホテル イル・パラッツォ」に通底するロッシ独自の美学や哲学を探りつつ、建築とインテリアを横断しながら響き合った2人の“共鳴”を改めて見つめられるイベントとなっている。 

内田繁 Shigeru Uchida インテリアデザイナー/1943-2016。日本を代表するデザイナーとして商・住空間のデザインにとどまらず、家具、工業デザインから地域開発に至る幅広い活動を国内外で展開。毎日デザイン賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、旭日小綬章など受賞歴多数。専門学校桑沢デザイン研究所所長を歴任。 代表作に山本耀司のブティック、神戸ファッション美術館、茶室「受庵 想庵 行庵」、クレストタワー一連の内部空間、ホテル イル・パラッツォ、オリエンタルホテル広島、ザ・ゲートホテル雷門等など。メトロポリタン美術館、デンバー美術館、コンラン財団、M+美術館等に永久コレクション多数。著書に『日本のインテリア全四巻』『インテリアと日本人』『家具の本』『普通のデザイン』『デザインスケープ』『戦後日本デザイン史』などがある。
アルド・ロッシ Aldo Rossi
建築家/1931-1997。20世紀後半のイタリアを代表する建築家の一人であり、建築の本質を「記憶」と「形式」に求め、幾何学的で詩的な建築表現を追求。ミラノ工科大学教授を長く務め、建築理論家としても国際的に高い評価を得た。1990 年には建築界のノーベル賞とされるプリツカー賞を受賞。
代表作に「サン・カタルド墓地」(ヴェネツィア)、「テアトロ・デル・ムンド」(ミラノ)、ホテル「イル・パラッツォ」(福岡)などがある。また、Alessi 社との協働により、《Il Palazzo》や《La Cupola》など、建築的思考を具現化したプロダクトデザインも手がけた。著書に『アルド・ロッシ自伝』『都市の建築』などがある。
彼の作品と思想はメトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ルイジアナ美術館など世界の主要美術館・建築館に収蔵されている。

展覧会情報 
「内田繁とアルド・ロッシのプロダクト展 – ホテル イル・パラッツォとアレッシィ」 
会期:2025年10月15日(水)~12月14日(日) 
会場:designshop azabu(東京都港区南麻布2-1-17 白ビル1F) 
時間:11:00~19:00(土・祝は~17:00) 
休廊日:日曜日(詳細はHPを参照) 
入場料:無料 
URL:https://www.designshop-jp.com/shigeru_uchida-aldo_rossi/ 

  • オーディオ&サブカルライター

    杉浦 みな子

    1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://sugiuraminako.edire.co/

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