内なる茶の宇宙、光の彫刻——内田繁 × ボジェック・シーペック展
取材/LWL online編集部
静けさは、光の粒子のなかに宿る──。建築家・内田繁が探求した「茶室という宇宙」と、チェコのデザイナー、ボジェック・シーペックが生涯磨いた「光を彫る技」。東洋の精神と西洋の情熱が交わる希有なコラボレーションが、銀座にてふたたび息を吹き返す。現代における“聖性のある空間”を問う、冬の私たちのための展覧会。
茶室という思想と、光を彫るシーペックのガラス哲学
日本を代表するインテリアデザイナー内田繁。建築家でありデザイナーであるボジェック・シーペック。
ふたりが交差したとき生まれたのは、単なるオブジェではない。
それは、西洋と東洋、神殿と茶室、精神の集中と感覚の陶酔が響き合う「場」を創り出す試みだった。
内田は、茶室を“現代における精神の器”と捉え続けた。受庵・想庵・行庵──その探究は、躙口という低く、慎ましい入口を通り、心を空にする行為そのものだった。
一方、シーペックは、光をゆらぎ、ねじり、煌めかせ、ガラスを生きもののように操った。その手つきは、バロックの情熱と現代の理性が交錯する儀式のようだ。
2006年、内田がシーペックの工房を訪れ、茶道具などをデザインしたり、内田が手がけた国内外のインテリア空間にシーペックの作品を配置するなど、濃密なコミュニケーションを重ねた。
そこから、茶道具にガラスという新たなマテリアルが加わった。ガラスによって、茶碗は光を孕み、柄杓は余韻を宿すこととなる。
翌年、内田とシーペックがコラボレーションした、オリエンタルホテル広島のレストラン「ムーングロー」の天井に浮いた装飾は、夜空の祈りのように輝いた。
2025年冬、銀座で、その対話が静かに蘇る。
内田がデザインしたガラス茶道具やシーペックのガラス作品、そして「ムーングロー」に設置された
天井装飾が特別に公開される。
茶室とは、心をそぎ落とす建築。
ガラスは、光をつかまえる素材。
そのふたつが出会うとき、そこには“無”と“輝き”が同時に存在する。
茶室の“空(くう)”と、ガラスの“光”。ふたりの軌跡にふれることができる。
■展示概要
- 内田繁 × ボジェック・シーペック展
- 2025年11月21日(金)─12月27日(土)
- 厨子屋 銀座本店 B1ギャラリー(東京都中央区銀座1-4-4 ギンザ105ビル B1)
- 11:00-19:00(最終日は17:00まで)
- 月曜・火曜定休/入場無料
- 協力:内田デザイン研究所、霞工房、オリエンタルホテル広島
展示内容
ガラスによる茶道具シリーズ
シーペックのガラス作品
オリエンタルホテル広島「ムーングロー」天井装飾 特別公開
■ワークショップ
「飾り鏡 Sophisticated Lady を作ろう」
古典とジャズ、東洋的精神と西洋アールヌーヴォーが溶け合う鏡作品を制作する特別な時間。
- 講師:成川秀一(霞工房)
日時:11月22日(土)、12月13日(土) 各13:00〜(約4時間)
参加費:17,050円(税込)/各日4名・要予約
ご予約:03-3538-5118(厨子屋 銀座本店)
■ ふたりの軌跡
内田繁|Shigeru Uchida
日本を代表するデザイナーとして、建築・インテリアにとどまらず、家具、プロダクトデザインに至る活動が国際的な評価を受ける。
代表作に、山本耀司のブティック、茶室「受庵・想庵・行庵」、ホテル イル・パラッツォ、オリエンタルホテル広島、ザ・ゲートホテル雷門など。
毎日デザイン賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、旭日小綬章など受賞歴多数。
メトロポリタン美術館をはじめ、世界の美術館に永久コレクション多数。
ボジェック・シーペック Borek SIPEK
1949年チェコ共和国プラハ生まれ。プラハ芸術造形学校を卒業後、ドイツ・ハンブルグ大学で建築を、スツッドガルト大学で哲学を学ぶ。
1983年、作品「絵画とデザインの応用」で「Prince Bernhard基金賞を受賞、その副賞をチェコの政府迎賓館(プラハ城)改装資金に寄付したことから、時のハベル大統領によって、この改装計画の責任デザイナーとして任命され、すばらしい業績を残した。以来、建築デザインのみならず、チェコの伝統ガラス工芸にも携わり、クリスタルグラスの世界に革新的な風を吹き込んだことでも評価が高い。
チェコを代表するデザイナーの一人。光と曲線を操る詩人。
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取材
LWL online 編集部