アナログが呼吸する都市へ~『Analog Market 2025』取材レポート

 取材/LWL online編集部

11月2日(日)・3日(月・祝)、東京・築地本願寺にて開催された日本最大級の「アナログ」の祭典、『Analog Market 2025』。レコード、ヴィンテージ、アーティストグッズ、ワークショップ、そして音響体験までを一体化させた同イベントは、「もっと、アナログになっていく。」というAudio-Technicaのブランドメッセージを体現する場であった。本稿では現地の“匂い”を伝える。

休日の朝にもかかわらず熱気を帯びる築地本願寺

初日となる2日の朝10時を少し過ぎた時間に築地本願寺にたどり着いた。

会場である築地本願寺の境内が、「蚤の市」的なレコード・ヴィンテージ・クラフト・雑貨・手仕事を集めたアナログ空間として、休日の朝にもかかわらず異常なほどの熱気を帯びていた。

築地本願寺正面入り口。『Anaoog Market』のロゴが描かれたアイキャッチに目を奪われる

出店者数は約80店に及び、レコードショップのみでも全国から20店舗という規模だという。

マーケットを巡ると、レコードを探る人、ジャケットを手にする人、実際に試聴している来場者、ヴィンテージ雑貨を選びながら交渉を楽しむ家族連れの姿があった。

単なる物販イベントではない。

「アナログな物・音・体験」に触れられる“場”として機能している。

世界的なアナログレコードブーム、80〜90年代シティポップ再発/再評価の流れ、さらに訪日観光客(インバウンド)によるレコードショップ巡礼的な動きなども重なり、多数の来場者が押し寄せ、熱気を帯びていた。

また、『Analog Market 2025』が単なる“懐古”ではなく、未来に向けた“アナログ再興”の文脈の中にあることが見えてくる。

この場では「触る/聴く/選ぶ」という五感を使った体験が強く意識されており、なるほど、たしかに同社の特設サイトでも「レコードだけじゃない いろんなアナログの魅力と出会う2日間」と謳われている。

会場マップをみると「Vinyl Shops」、「Vintage Goods Shops」、「Product Experience & Audio Workshop」、「Deep Listening」など、多様なゾーニングがなされており、来場者が自分の興味に応じて滞在できる構成になっていた。

特に印象深い光景は、インバウンドや若年層の「レコードを探す」姿だけでなく、親子やカップルが「ヴィンテージ雑貨を選びながらお茶をする」という場として機能していることだ。

「アナログ=懐かしさ」だけではなく、「アナログ=生活の中の豊かさ・体験価値」として再定義されつつあることが肌で感じられた。

巨大なヘッドホンをあしらったインスタレーションが会場全体のアイコンとなっていた

『Analog Market 2025』という「聖なる交換の場」

蚤の市という形式は、単なる中古品の即売会ではない。

新製品が速度と効率と合理化の流通に乗って消費されるのに対し、蚤の市はその外側に生まれる「周縁の交換空間」である。ここでは、値札や市場原理以上に、偶然の出会いや記憶がモノの価値を決める。

宗教学者の中沢新一は、モノには時間の層と霊性が宿り、人の手に渡ることで新たな物語を纏うと論じている。あるいは、都市と物質には「時間の層」と「見えない精神的な力」が宿るとも。

こうした中沢新一的視点を借りるのならば、蚤の市『Analog Market 2025』で手にするレコードにも、前の持ち主の時間と空気が沁み込んでいる。

手に取ったレコードの重みからは、かつての所有者の聴いた時間、その部屋の空気、生活のリズムまで沁みているように感じられる。

『Analog Market 2025』はモノに宿る記憶と関係性を掘り当てる場であるとも言えよう。高速な消費の外側で、偶然と縁、生活の痕跡が再び息を吹き返す祝祭の場である。

速度と効率と合理化とは別の「聖なる交換の場」

Audio-Technicaブース:SOUND BURGER が紡ぐ記憶と未来

報道受付のすぐ隣にあるAudio-Technicaブースでは、同社のSOUND BURGERのデモ展示が行われていた。

筆者が訪れたのはオープン間もない時間だったのだが、複数の来場者が興味深そうに見ていた。

このSOUND BURGER自体、80年代に発売された往年の携帯レコードプレーヤー、SOUND BURGERを現代に蘇らせた製品である。かつての“レコード=据え置き”というイメージを転倒する、モビリティとアナログの融合という意味で、SOUND BURGERは“アナログの懐かしさ+再発見”を象徴していた。

このSOUND BURGERコーナーは、マーケット全体の中で“手軽にアナログを体験する入口”として機能していた。

敷居の高そうなハイエンドオーディオ/ヴィンテージ盤フロアから一段階下がって、「まずはアナログを楽しんでみよう」という来場者にとって親和性が高いブースである。

「Hotaru」:音・光・空間を統合するターンテーブル

「Product Experience & Audio Workshop」と題されたゾーンに足を踏み入れる。

今回、国内のオープンな場では初披露となった、Audio-Technicaのターンテーブル新機軸、「Hotaru(ホタル)」に出会えた。

Hotaruの前には長蛇の列ができていた

世界1000台限定で、レコード再生+スピーカー機能+照明システム(全20色・3モード:Basic/Gradation/Link)を装備。加えて、「浮遊構造」による振動対策が施されている。

照明システムの灯りがアナログの再生とリンクして色を変えるというフォルムが、「音を聴く」という行為に加え「視る」という次元を付与する。ターンテーブル/レコード再生機器という枠を超え、「インテリア」としての表情をもたせる。

国内のクローズドな場所での初お披露目は10月開催の「第24回Living Wellness in Luxury®」であり、その模様は当サイトでもお伝えしたが、その時も建築家やデザイナーから人気が高く、さる著名建築家は自宅にほしいと口にしていたほどだ。

今回はオープンな場での初お披露目である。足を止める来場者が多く、熱心に説明を聞き、頷いている姿が印象的だった。

Deep Listening:Audio-Technica×Oswalds Mill Audioによる没入音響体験

イベントのハイライトとも言えるのが、オーディオテクニカとOswalds Mill Audio(OMA)とのコラボレーションをはじめとする「Deep Listening」体験である。

筆者が参加できたのは、Audio-Technicaの最高峰カートリッジと、日本初上陸となるOMAの機器との組み合わせを試聴する回。

OMAは、ヴィンテージ映画館用スピーカーや真空管アンプの技術を現代的に再構築/再解釈したブランドである。

取材時、会場には座布団が用意され、「床に座って音楽を聴く」という設えがなされていた。

筆者も試聴に参加したが、ホーンから聴こえるサウンドは、輪郭が明瞭で空間の広がりが感じられた。床に近い姿勢で耳を澄ますと、音がただ前方から聴こえるのではなく、広がりを持って空気を曳きながら満ちてくる。低域の重い響きから高域の微かな息づかいまで、ひとつの線となって漂い、視界の端で“音の曳航”が見えるようだった。

OMA創設者のJonathan Weiss(ジョナサン・ワイス)氏が語る「音楽は感情をありのままに伝えます。そして、その感情を伝えるのは“音の質”です。それがなければ、音楽が何を語ろうとしているのか、聴き手には届きません。テクノロジーが進化するほど、人は音楽から遠ざかっているように感じます。アナログは、私たちを音楽の源へと引き戻してくれる手段です」というメッセージを、筆者はたしかに受け取った。

Jonathan Weiss(ジョナサン・ワイス)氏

速さの時代に、遅さを抱きしめる。そこに、未来の音が息づく

Analog Market 2025は、ただの蚤の市ではない。「アナログとは何か」を来場者自身が問い、手を動かし、音を浴び、時間をかけて確かめるための場だった。

オーディオテクニカが掲げる「もっと、アナログになっていく。」という言葉は、レコードジャケットの質感から、Hotaruが灯す微細な光の揺らぎ、OMAのホーンが空気を振るわせる瞬間まで、会場全体を一本の線で縫っていた。

高速な消費と効率と合理化が社会の正解となった時代において、アナログというフィジカルで「ゆっくりとした選択」自体が、文化の未来を編む力になる。

帰路、手にしたレコードの重みや、胸の奥で響き続けるOMAの名残が、都市の騒音の中で静かに温度を保ち続けていた。

アナログは生活をより豊かにするためにある。

そう思わせてくれる祝祭であった。

公式ホームページ

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