ミラノで、器は風景になる。ノリタケが示す「Noritake Design Collection」の新しいラグジュアリー
取材/LWL online編集部
テーブルウェアは、食卓の光を受け止め、所作を導き、空間に静かな緊張感を与える、小さな建築である。1904年創業のノリタケは、2024年に始動した「Noritake Design Collection」を通じて、世界的なデザイナーや建築家との協働を加速。Milan Design Week 2026では、ALCOVAの会場であるバッジョ軍病院跡地内「Casa delle Suore」を舞台に、職人技と現代デザインが交差する体感型インスタレーションを展開する。
テーブルウェアを「道具」から「空間体験」へ
ラグジュアリーな住空間を考えるとき、家具や照明、マテリアルに比べて、テーブルウェアは最後に語られがちだ。だが実際には、食卓こそが暮らしの美意識を最も濃密に映し出す場所でもある。器の輪郭、釉薬の深み、手に触れたときの重さや静けさ。そのすべてが、空間の質を決定づける。ノリタケがミラノで示そうとしているのは、まさにその領域だ。食器を単なるプロダクトとしてではなく、建築やインテリア、さらには食の儀式性までを含んだ体験価値として再編集する試みである。
展示の舞台となるALCOVAは、デザインの未来を探るプラットフォームとして知られ、2026年はバッジョ軍病院跡地と、フランコ・アルビニ設計のヴィラ・ペスタリーニという2つの特異な会場で開催される。ノリタケが選んだのは、そのうちバッジョ軍病院跡地内の「Casa delle Suore」だ。歴史の堆積を宿す場所に、磁器の繊細さと現代デザインの思考を持ち込む構成は、今年の展示を単なる新作発表にとどめない。プロダクトを見るのではなく、ブランドの感性に入っていくような場になりそうだ。
フェイ・トゥーグッドが窯の記憶を器へと変える
今年の大きな焦点は、Studio Toogoodとの協働から生まれた新作「KILN by Faye Toogood」だ。
フェイ・トゥーグッドがノリタケ本社滞在時に受け取った印象、なかでも歴史的な煙突や窯の存在感を起点に、彫刻的なフォルムへと展開されたコレクションである。 マットブラック、マットホワイト、青磁の3色で構成され、青磁には「Pond」と名付けられた詩的な意匠を採用。蓮やカエルといったモチーフが磁器の余白を活かしながらランダムに配され、食卓の上にささやかな発見を生み出す。
昨年発表された「ROSE by Faye Toogood」が感性と手仕事の交差を印象づけたなら、「KILN」はそこにより建築的で量塊的な強さを加えたシリーズと言える。

食卓に「小さな風景」をつくる、AMDL CIRCLEとの実験
もうひとつの注目は、ミケーレ・デ・ルッキ率いるAMDL CIRCLEと、ミシュラン星付きレストランIl Luogo di Aimo e Nadia(イル・ルオーゴ・ディ・アイモ・エ・ナディア)との初協働による「LANDSCAPE by AMDL CIRCLE & Aimo e Nadia」だ。
形状も角度も異なるピースを組み合わせるモジュール式の発想によって、器は平面的なテーブルウェアから、立体的な景観装置へと変わる。各ピースが集まることで食卓に「マイクロ・ランドスケープ」が立ち上がり、水彩画のような繊細さと彫刻的な構築感が同居する。食事を盛りつけるという行為そのものが空間を編集する所作へと変わっていく。その提案は、住まいにおけるダイニングの意味をあらためて考えさせる。

フランク・ロイド・ライトの記憶を現代の食卓へ
さらに、フランク・ロイド・ライト財団との関係性を継ぐ「IMPERIAL PEACOCK by the Frank Lloyd Wright Foundation」にも新アイテムが加わる。
これは、帝国ホテルのために大谷石へ彫り込まれた孔雀のアートワークを参照したコレクションで、ノリタケ側の説明でも、ライトが愛した自然のエレガンスを現代へと接続する意図が示されている。
建築史の記憶を単なる意匠引用として消費するのではなく、器という日常に近いスケールへ翻訳し直すところに、このシリーズの品格がある。建築と食卓の距離を静かに縮めるという見逃せない視点である。

手仕事の時間を公開する、岡田正巳のライブデモンストレーション
ノリタケの展示を特別なものにしているのは、完成品だけでなく、その背後にある技と時間をきちんと可視化している点だろう。
会場では、同社の最高峰「マスターピース・コレクション」をはじめ、数々のハンドペイント製品を手がけてきたマスターペインター・岡田正巳によるライブデモンストレーションも行われる。量産では置き去りにされがちな「人の手が宿す密度」を、来場者の目の前で開示する構成は、工芸性をラグジュアリーの中核に据えるノリタケの姿勢をよく表している。
岡田の薔薇の表現が、フェイ・トゥーグッドとの「ROSE」にも着想を与えたという点も、職人技が単なる過去の遺産ではなく、現代デザインを動かす源泉であることを示している。

「Noritake Design Collection」はブランドの更新そのものだ
2024年に始動した「Noritake Design Collection」は、堀雄一朗のクリエイティブディレクションのもと、ノリタケの技術と世界的クリエイターの創造性を結びつける戦略的なプラットフォームとして構想された。
ヤブ・プッシェルバーグ、フェイ・トゥーグッド、マーク・ニューソン、ABコンセプト、フランク・ロイド・ライト財団といった名が並ぶ。老舗ブランドが自らの歴史と技術を核にしながら、現代デザインの文法で再び世界へ語り始める。
手に触れるもの、日々使うもののなかに、どれだけ静かな思想が行き届いているか。その積み重ねが、空間の成熟度を決める。
ノリタケがMilan Design Week 2026で見せるのは、まさにその感覚だ。
器は小さい。しかし小さいからこそ、住まいの美意識や食の時間、そして暮らしの文化を濃密に映し出す。
ミラノの歴史的空間で披露される今回のインスタレーションは、ノリタケが単なるテーブルウェアブランドではなく、生活文化をデザインするブランドとして次の段階へ進んでいることを印象づけるだろう。
| 項目 | 内容 |
| イベント名 | Noritake Design Collection at Milan Design Week 2026 |
| 一般公開期間 | 2026年4月20日(月)~26日(日) |
| 開館時間 | 11:00~19:00 (最終日は18:00まで) |
| 会場 | Baggio Military Hospital Complex(バッジョ軍病院跡地)内のCasa delle Suore(カサ・デッレ・スオーレ) |
| 住所 | Via Simone Saint Bon, 1, 20147 Milano MI, Italy |
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