スマートホームは“音”で進化する? 次世代音響制御プロトコル「Cear Connect」への期待 

オーディオ&サブカルライター/杉浦みな子 

先日、日本の音響テックスタートアップである株式会社シーイヤー(Cear)が、次世代音響制御プロトコル「Cear Connect(シーイヤーコネクト)」を発表した。将来的に、住宅システムと融合した場合、スマートホームを“音”の領域からアップデートする可能性を秘めた技術だ。

独自の音響処理技術が示す、“音の先” 

住空間のスマート化が加速する今、照明や空調、セキュリティ等の自動化技術はどんどん進化している。そんな中、後回しにされがちだが、今後注目が高まるであろう領域のひとつが、“音”だ。住まいの音環境を整え、臨場感の高い空間音響で音楽を楽しむスタイルが日常的なものになったら、スマートホームが叶える豊かな暮らしは格段にアップデートするだろう。 

すでに、趣味性の高いホームオーディオやホームシアターの分野が昔から健在ではあるが、ひとくちに音環境の整備と言っても、再生機材を導入することに始まり、それらを接続する配線の煩わしさや設定の複雑さも合わさって、ユーザーが自分でスマート化と合わせて高品位な環境を構築するのはハードルが高い。

 そこで注目したいのが、先日シーイヤーが発表した「Cear Connect」。独自の音響処理技術をベースにしたオーディオ・プロトコルで、BluetoothのAuracast規格などを統合しており、準拠する複数のワイヤレススピーカーを集約して制御できる。同社では、低遅延で高精度な空間音響を構築できる音響デバイス制御のプラットフォームとして、OEMモジュールと共に広く展開する構えだ。 

こういった音響技術が住宅向けの設備デバイスに採用され、あらかじめ住宅システムに組み込まれてスマートホームの中で動くようになったら、豊かな音楽のある暮らしが日常的なものとして浸透していくのではないか……と、想像するのも楽しい。 

BtoBソリューションとして提供される「Cear Connect」

音響再生にまつわるシーイヤーの取り組みは、独自の空間音響アルゴリズム「Cear Field」を起点としている。これは、ステレオ音源を立体音響へ変換したり、スピーカー単体で立体音声を生成する音響信号処理のコア技術だ。 

そして、それを実装したデバイスとして、コンパクトなスクエア型のBluetoothスピーカー「Cear pavé」を開発し、2024年に一般発売。BluetoothのAuracast規格にいち早く対応し、独自の音響設計によって空間を包み込むような立体サウンドを実現するワイヤレススピーカーで、上述のCear Field体験をコンシューマー機器に落とし込んだものとなる。複数のCear pavéを設置して、ワイヤレス接続の強みを活かしつつ、空間音響を実現することが可能となる。 

このCear pavéは、特にライブ会場・美術展示・スポーツ施設などから引き合いが多いそうで、多様な場所で導入が進んでいる。同社によれば、そのフィードバックとして、これまで利用者から「EQ設定ができたらいい」「たくさんのpavéを一括でコントロールしたい」「簡単にセットアップしたい」といった声が寄せられてきたという。 

また、波面合成など大量のpavéを活用した応用を進める中で、開発者側にも制御の仕組みが必要に。こうした現場の声と開発の必要性から、このたび音響デバイスの制御と空間音響を統合するCear Connectの開発に至った。 

改めて説明すると、Cear Connectは“トランスポートに依存しない、音響デバイス制御・パラメータ転送の共通プロトコル層”だ。USB HID、Bluetooth LE (GATT)・Bluetooth LE Audio Periodic Advertisement、Auracastの4規格を統一したAPIで制御し、スマートフォン1台で多数の音響デバイスをリアルタイムに操作することができる。

Cear Connectで実現できる機能例としては、デバイス内部パラメータの書き換え(ビットレート・遅延・音場設定等)や複数デバイスの一括制御・設定の再現・配布、Auracastベースの音場制御(Cear Field)、既存の有線・無線デバイスへのトランスポート非依存アクセスなどが挙げられる。 

従来、独自の空間音響システムをゼロから構築するには、膨大な開発コストと高度な専門知識が必要だ。しかし、シーイヤーはこのCear Connectのライセンス提供や、Cear pavé基板(Cear Connect 対応ソフトウェアスタック搭載)をOEMモジュールとして展開することで、他社が容易に高付加価値な音響機能を自社製品に統合できる環境を整えている。 

Cear Connect対応スタック搭載のCear pavé基板モジュールは、2026年4月中に量産予定としている

スマートホームにおける音のインフラ 

今後、Cear Connectのような技術に対応するデバイスが住宅設備と統合されるなら、例えば天井の埋め込み照明や、壁材そのものを振動させて音を出すアクチュエーターとの融合により、インテリアを損なうことなく、家全体が呼吸するように音を奏でるといったことが可能になるかもしれない。 

また、スマートホームの操作は音声コマンドが主流になりつつあるが、高精度な集音・再生技術が住宅に搭載されれば、AIアシスタントとの対話はより自然なものとなり、QOL(生活の質)は飛躍的に高まると思われる。 

目に見えない“音”の領域が、光や空気と同じように最適化されたとき、スマートホームはまたひとつ上の次元に進化するだろう。住空間全体をひとつの音響プラットフォームとして捉える“音のインフラ化”が加速する未来に期待したい。

  • オーディオ&サブカルライター

    杉浦みな子

    1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://sugiuraminako.edire.co/

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