快挙! Matt & Massimoが「KNX Awards 2026」でInnovation Award受賞。照明・空調を個別最適化するスマートオフィス
取材/LWL online編集部
日本のスマートホーム・ビルディングシステムの設計・統合を手がけるMatt & Massimoが、国際的な建物制御技術のアワード「KNX Awards 2026」において、Innovation Award(イノベーション賞)を受賞した。受賞したのは、東京都心の大規模オフィスビルに導入された「Human-Centric Smart Office: Tailored for Every Occupant」。800台を超えるKNX対応デバイスを活用し、建物全体の効率的な管理と、利用者一人ひとりに合わせた照明・空調の制御を両立する先進的なプロジェクトだ。
LWL onlineでもこれまで紹介してきたMatt & Massimo。その技術が世界的な評価を受けた背景には、「人が建物に合わせる」のではなく、「建物が人に合わせる」という新しい設計思想がある。
世界的アワード「KNX Awards 2026」で革新賞。日本のスマートオフィスが評価
KNX Awardsは、1996年に創設された、建物制御の国際標準規格「KNX」を活用した優れたスマートホームやスマートビルディングを表彰する国際的なアワードだ。長年にわたり、世界各国の先進的な建築・設備制御プロジェクトを評価してきた。
創設30周年、第16回となる「KNX Awards 2026」は、10月6日にオンラインで授賞式が開催され、世界各国からプロジェクトや製品、人材など計13件が表彰された。
そのうちInnovation Awardに選出されたのが、日本のMatt & Massimoによる「Human-Centric Smart Office: Tailored for Every Occupant」である。
舞台となったのは、日建設計とKAJIMA DESIGNが共同設計し、2024年に竣工した東京都心のオフィスビル。延床面積は約18,000㎡に及ぶ。

ポストコロナ時代の新しいワークプレイスを目指したこの建物では、オフィス全体を効率的に運用することに加えて、そこで働く一人ひとりにとって快適な環境を実現することが重視された。
800台超のKNX機器を統合。中央管理とローカル制御を両立
このプロジェクトの技術的な核心は、KNXによる分散制御と、建物全体を統括する中央管理システムを組み合わせたアーキテクチャだ。
KNXは、照明や空調、ブラインドなど、建築設備を相互に連携させるためのオープンな国際標準規格である。特定メーカーに依存しないシステム構成が可能で、住宅から大規模ビルまで同じ規格を共通基盤として活用できる。
今回のオフィスには800台を超えるKNX対応デバイスが導入された。

各フロアに専用サーバーを配置し、そのフロア内の個別操作をローカルで処理する一方で、中央サーバーが建物全体のスケジュール管理や、設備の状態を示すログデータの取得を担う構成となっている。
こうした仕様によって、利用者が照明や空調を操作した際には、ほとんど遅延を感じさせない応答性を確保。同時に、ビル管理者は全館の設備を一元的に管理できる。
Matt & Massimoの増野啓太氏によれば、中央制御とローカル制御を同一のシステム基盤上で実現しているため、設備構成の無駄を抑えられることも利点であるとのこと。
建物全体の管理性能と、身近な操作の快適性の両立を実現している。
NFCでスマホをタッチするだけ。デスクごとの照明・空調を自在に操作
もうひとつ注目したい点が、利用者一人ひとりに合わせた操作インターフェース。
どういうものかというと、利用者がデスクに設置されたNFCカードにスマートフォンをタッチすると、専用アプリにそのデスクで操作できる照明や空調の項目が表示される。

例えば、手元を照らすスポットライトや、個人の作業環境に関わる気流などを、自分の好みに合わせて調整できる。
アプリに表示される操作項目は、そのデスクに対応した設備に限定される。


大規模な設備制御システムの複雑さを利用者に意識させず、必要な機能だけを直感的に操作できる。建築設備と人との接点を再設計した、注目すべきインターフェースといえる。KNXの設備制御基盤と専用スマートフォンアプリは、IPベースのAPIを介して連携。高度なシステムを背景に持ちながら、利用者が接する操作体験は極めてシンプルだ。
照明の色温度も個別に調整。「人間中心」のウェルネス環境を実現
今回のプロジェクトでは、照明と空調の双方に、アンビエント(空間全体)とタスク(個人の作業領域)を使い分ける考え方が採用されている。
例えば、オフィス全体の環境照明は、時間帯に応じて色温度が自動的に変化する。人間の概日リズム(サーカディアンリズム)を意識した、いわゆるヒューマンセントリックライティングの考え方を採り入れている。

一方で、個人用のスポットライトについては、利用者自身がアプリから色温度を調整できる。
空調についても、空間全体の快適性を維持する制御と、個人の作業場所に応じた気流の調整を組み合わせている。
さらに、人感センサーを活用した自動制御により、利用されていないエリアでの不要なエネルギー消費を抑制する。こうした仕組みによって、建物全体の効率的な運用にも配慮している。
全員に一律の環境を提供するのではなく、建物全体として合理的な環境を整えながら、必要な部分は個人の好みに合わせて調整する。快適性と省エネルギーという、ともすれば相反する要素を両立させるアプローチである。ここにも注目しておきたい。

「人が建物に合わせる」から「建物が人に合わせる」へ。スマートホームにも通じる技術思想
今回の受賞が示しているのは、スマートビルディングの価値自体が、設備の自動化や省エネルギーから、利用者一人ひとりの体験価値へと広がっていることにある。
これまでの建築設備では、人間があらかじめ設定された室温や照明環境に合わせることが一般的だった。
しかし、KNXを基盤とした高度な建築統合型システムを利用すれば、建物全体の管理機能を維持しながら、個人ごとに異なる快適性の要求にも応えられる。

今回の受賞対象はオフィスビルだが、その技術思想はこれからの住宅にも通じるものがある。住宅においても、家族それぞれの生活リズムや好みに応じて照明、空調、シェードなどを調整しながら、住宅全体では統合されたシステムとして運用することが可能になる。
KNXは住宅とビルの双方に共通して用いることができるオープンな制御規格だ。住宅で培った個別の快適性を重視する考え方をオフィスに生かし、逆に大規模ビルでの分散制御や統合管理の技術を住宅に応用することもできる。用途や建物の規模が異なっても、共通の技術基盤を使える点にKNXの強みがある。
LWL onlineでは以前、Matt & Massimoが手がけたヴィラのスマートホームを取材した。そこでは、KNXを基盤として多様な住宅設備を建築に溶け込ませ、テクノロジーの存在をほとんど意識させない「Invisible Technology」が実現されていた。
今回のInnovation Award受賞プロジェクトは、そうした「Invisible Technology」の思想が、住宅に限らず大規模オフィスにおいても有効であることを示す事例として捉えることができる。
人が設備を操作すること自体を目的とするのではなく、建築が人の快適性をごく自然に支える。LWL onlineが注目してきた「建築統合型スマートホーム」、そして「Invisible Wellness」という考え方とも重なる取り組みだ。
日本のMatt & Massimoによる今回の国際的な受賞は、これからのスマートビルディング、さらには次世代の住まいのあり方を考えるうえでも、示唆に富んだ成果といえる。
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写真協力 : 日建設計、KAJIMA DESIGN、Matt & Massimo
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