Basalte(バサルテ)とは? 美しいキーパッドから知るラグジュアリースマートホーム

 取材/LWL online編集部

ベルギー発のBasalte(バサルテ)は、KNX対応の美しいキーパッドやタッチディスプレイ、オーディオまでを手掛けるラグジュアリースマートホームブランドだ。日本でBasalteを取り扱うMatt & Massimoを訪ね、Ekinex、CJC Systemsなどのキーパッドも見ながら、ラグジュアリースマートホームについて話をうかがった。そこから見えてきたのは、スマートホームが単なる「設備」ではなく、建築・インテリアデザインと交差する領域へ進んでいる姿だった。

ラグジュアリーキーパッドブランド、Basalte(バサルテ)とは何か?

筆者は以前、スマートホーム/ホームオートメーションのインテグレートを手掛ける企業を経営していたことがある。いまから6~7年ほど前、あるラグジュアリーブランドのショールームにスマートホームを導入する案件で、一つの問題に直面した。照明やシェードなどを制御するために壁面のスイッチが必要なのだが、そのラグジュアリーな空間に適したスイッチが見つからない。

「この空間に相応しい美しいキーパッドはないだろうか?」と探した結果、たどり着いたのが、ベルギーの「Basalte(バサルテ)」だった。金属の質感を生かしたミニマルなデザインで、いわゆる「スイッチ」とはまったく異なる佇まいを持ち、建築の一部として見せることができるラグジュアリーキーパッドである。当時、筆者が探していたイメージに限りなく近かった。

ただし、大問題があった。当時、日本では容易に手に入らなかった。その案件では何とか調達することができたものの、その後、筆者自身がスマートホームのインテグレート業から離れたこともあり、Basalteとはしばらく縁がなかった。

だが、今回、Basalteを日本で正式に取り扱うMatt&Massimo株式会社を取材する縁に恵まれた。対応いただいたのは同社代表取締役の増野啓太氏。

同社を訪ねてみると、そこにはBasalteだけではなく、イタリアのEkinex(エキネックス)、ベルギーのCJC Systemsなど、一般的な住宅ではまず目にすることのない美しいキーパッドが並んでいたのだ。

Basalteをはじめ、EkinexやCJC Systemsを取り扱うMatt & Massimoは、単にこうしたプロダクトを輸入販売するだけの企業ではなく、建築の基本設計段階から建築家やオーナーと協働し、照明、シェード、空調、AV、セキュリティなどを横断したオートメーションシステムそのものを設計している。いわばスマートホームデザイナーである。

同社は「建物を自動化すること」を目的にするのではなく、そこに暮らす人や滞在する人に自然で快適な体験価値を提供することを目的として掲げている。

同社が実際に手掛けたラグジュアリー邸宅のスマートホームについては、今後あらためて実例を取材し、詳しく紹介したいが、今回はまずBasalteを中心に、Ekinex、CJC Systemsなどのラグジュアリーキーパッドを見ながら、その背景にあるヨーロッパのスマートホーム/ホームオートメーションの世界を覗いてみよう。

Matt & Massimoに展示されたBasalte、Ekinex、CJC Systemsのラグジュアリーキーパッド
Matt & Massimoには、BasalteをはじめEkinex、CJC Systemsなど、欧州のラグジュアリースマートホームを象徴する多彩なキーパッドが揃う

KNXとは? 異なるメーカーをつなぐ住宅・ビルオートメーションの「共通言語」

スマートホーム/ホームオートメーションというと、CrestronやLutronなど、アメリカの企業を思い浮かべる人も多いだろう。

もちろんヨーロッパでも、これらのシステムは使われているが、ヨーロッパの建築オートメーションを理解するうえで欠かせない存在が「KNX」である。ヨーロッパで発展してきた、住宅・ビルオートメーションの国際的なオープン標準である。

Basalte等、ヨーロッパのラグジュアリースマートホームを望見する前に、まずはこのKNXについて説明したい。

では、KNXとは何なのだろうか?

一言で言えば、住宅設備を連携させるための国際的なオープン標準である。

照明、暖房・空調、シェード、セキュリティなどを一つの仕組みの中で連携させることが可能だ。特定の一社のシステムで完結するのではなく、異なるメーカーの機器が共通のルールで通信できる。KNX Associationによれば、現在500社以上のメーカー、8,000以上の認証製品がKNXのエコシステムに参加している。

照明、空調など、さまざまな設備を結ぶ「共通言語」と考えるとわかりやすいかもしれない。

KNXのメリットのひとつとして、さまざまな住宅設備を統合するうえで、データポイントのルールが体系化されており、異なる設備を整理しやすい点が挙げられる。

また、オープンな規格であることは、長期間にわたって使われる建築にとって大きな意味を持つ。あるメーカーの機器が将来入手できなくなったとしても、同じ規格に対応する別メーカーの機器へ置き換えられる可能性がある。こうしたメーカー選択の自由度もKNXのメリットとして挙げられる。

スマートフォンやAV機器なら、数年で買い替えることもできるが、建築は20年以上使われ続ける。スマートホームを建築のインフラとして捉えるのであれば、この時間軸の違いは極めて重要になる。

そして、このKNXと深い関係を持ちながら、インターフェースのデザインに独自の存在感を示してきたブランドの一つがBasalteだ。

BasalteとKNXの関係は深い。Basalteは建築オートメーションの国際標準であるKNXに対応するデザインキーパッドを早くから手掛けてきたメーカーであり、KNX Associationにも登録されている。代表的なキーパッド「Sentido」もKNXに対応したインターフェースとして利用できる。ただし、BasalteはKNXだけに閉じたブランドではなく、SentidoやFibonacciなどはCrestronやLutronにも対応している。

さまざまなホームオートメーションシステムと人をつなぐ「美しいインターフェース」を提供することこそ、Basalteの特徴といえるだろう。

Basalte(バサルテ)とは? KNXと深く結びつくベルギーのスマートホームブランド

代表的キーパッド「Sentido」。素材と触感までデザインする

Basalte(バサルテ)のラグジュアリーキーパッド「Sentido」を設置したスマートホーム
ベルギー発のBasalte(バサルテ)を代表するデザインキーパッド「Sentido」。スマートホームのインターフェースを、設備ではなく建築を構成するエレメントとして見せる
写真協力:basalte, Matt & Massimo

Basalteはベルギーを拠点とするブランドで、コントロール用のキーパッドやタッチディスプレイだけでなく、iPadマウント、モーションセンサー、ドアコミュニケーション、Coreサーバー、さらにはオーディオまで、幅広く展開する。製品はベルギーで製造・組み立てられ、共通するミニマルなデザイン言語で統一されている。

さて、このラインアップから、Basalteは住宅と人間が接するインターフェース全体をデザインし、照明、空調、シェード、音楽などの住宅体験へつなげていくブランドであることがわかるだろう。

なお、筆者が6年前に出会ったのは、Basalteを代表する製品「Sentido」だった。一見すると極めてシンプルな正方形のプレートだが、複数のタッチポイントを持ち、照明や音楽などを操作できる。

今回Matt & Massimoで改めて実物を見ると、素材感に惹かれる。

アルミニウムだけでなく、ニッケルや真鍮、ブロンズなど、多彩な仕上げが用意されている。実物を手にすると、重量感や表面の触感まで、一般的な住宅設備のスイッチとはまったく印象が異なる。

Basalteは他にも、さまざまなタイプのキーパッドを用意している。たとえば黄金比から着想した「Fibonacci」、フランスの画家アンリ・マティスの名を冠した「Matisse」、レバーを上下させる操作をピアノ演奏になぞらえた「Chopin」などが存在する。

なぜラグジュアリー住宅ではキーパッドが重要なのか?

スマートホームというと、スマートフォンやスマートスピーカーを用いた操作を思い浮かべる人が多いことだろう。

しかし、設備を操作する度に、スマートフォンを取り出し、アプリを開き、目的の部屋を選択し、照明を探すという操作が必ずしも快適とは限らない。照明のオンオフや調光など、毎日何度も繰り返す操作ほど、壁にある物理的なインターフェースの方が合理的なケースも多い。

問題はそのスイッチがデザインを壊してしまうことだ。

増野氏は、Matt & MassimoがBasalteをはじめ、意匠性の高いキーパッドを扱うようになった理由について、壁に多数のスイッチが並べば空間デザインを損なってしまうため、ミニマルな空間を実現するためのインターフェースを探していたと話す。

建築家やインテリアデザイナーが細部まで設計した壁面に、設備上の都合による一般的なスイッチが複数並んでしまえば、空間全体の完成度が損なわれてしまう。

ラグジュアリーキーパッドとは、照明、調光、シェード、空調、音楽、複数の「シーン」など、本来なら多数に分散する操作を整理し、必要最小限のインターフェースとして建築へ組み込むための道具なのである。

Matt & Massimoは、これを端的に「インターフェースも建築の一部」と表現している。

物理キーパッドとタッチスクリーンはどう使い分ける?

一方で、物理キーパッドを重視するからといって、タッチスクリーンが不要になるわけではない。

たとえば、音楽を選んだり、複数の部屋を横断して操作するような情報量の多い操作は、iPadやタッチディスプレイの方がわかりやすい。それに対して、照明をつける、シェードを動かす、あらかじめ設定されたシーンへ切り替える、といった日常的な操作には物理キーパッドが適している。

日常的な操作と、詳細な操作。それぞれに最も適したインターフェースを配置することが重要なのである。

Basalteもキーパッドだけでなく、Lena、Ellie、Lisaといったタッチディスプレイをラインアップし、さらにiPadを建築へ美しく組み込むためのマウントも展開している。

Basalte Home 用のFull HD LCD 10.1″ のフラッグシップタッチディスプレイ「LENA」
写真協力:basalte, Matt & Massimo

イタリアのEkinex、ベルギーのCJC Systems。欧州には「キーパッドを選ぶ文化」がある

Ekinex。イタリア発、素材まで選べるKNXキーパッド

Matt & Massimoでは、Basalte以外にも複数のブランドのキーパッドを扱っている。いずれも同社がスマートホームを設計するにあたって、必要に迫られ探し当てた。

そのひとつがイタリアのEkinexである。

Ekinexはイタリア北部、ノヴァーラに本社を構え、KNXをベースとしたホーム/ビルディングオートメーション機器を開発している。キーパッドから設備制御機器まで幅広く展開し、壁面デバイスには金属だけでなく、家具や建材でも使われるFenix NTM®などの素材を選択できる。Matt & MassimoではFF、20venti、Proxima、ERA、Signumなどのシリーズを取り扱っている。

取材時にサンプルを見ていて、素材と仕上げの選択肢の豊富さが印象的だった。床材、壁材、家具、金物などとの関係を考えながら、その空間に最もふさわしい素材を選ぶことができる。キーパッドが完全にインテリアエレメントの一つとして扱われていることが理解できる。

CJC Systems。金属加工を生かしたベルギーのデザインスイッチ

さらに個性的なのが、ベルギーのCJC Systemsだ。

同社はベルギー・ルーセラーレを拠点とし、金属加工技術を生かしたデザインスイッチを展開する。ミニマルなタッチ式だけでなく、存在感のある丸形ボタンやクラシカルなレバースイッチなどもあり、Basalteとはまた異なる世界観を持っていることがわかる。Matt & Massimoでは、キーパッドと同じ素材で日本のコンセントプレート用フレームを製作することも可能だとしている。

Basalte、Ekinex、CJC Systems。照明器具や家具を選ぶように、建築に合わせてインターフェースそのものを選ぶことができる。

この感覚こそ、日本ではまだ十分に知られていないラグジュアリースマートホームの面白さではないだろうか。

Basalteはオーディオまで手掛ける。見せるものと、建築へ溶かすもの

もう一つ、今回Matt & Massimoを訪ねて、Basalteがオーディオ製品まで本格的に展開していることに驚いた。

ショールームのモニター左右には、一見するとアートパネルのようにも見えるBasalteの埋込スピーカーが設置されていた。

Basalteの現在のオーディオラインアップには、インウォール型の「Plano」、天井埋め込みタイプ「Cielo」、壁付け型の「Rondo」がある。

増野氏も、Basalteが近年オーディオ分野に力を入れていると説明していた。

ここからは、Basalteらしい考え方が見える。

Basalteのオーディオには、Cieloのように建築へ溶け込ませるものがある一方、PlanoやRondoのように、あえてインテリアの一部として存在感を与えるものもある。

テクノロジーを何でも隠すのではなく、空間に応じて「見せるか、溶け込ませるか」までデザインする。それもまた、これからのラグジュアリー住宅における「Invisible Technology」の一つのあり方なのかもしれない。

Matt & Massimoに設置されたBasalteのラグジュアリーオーディオスピーカー
Matt & Massimoに設置されたBasalteのスピーカー。Basalteはキーパッドやタッチディスプレイだけでなく、スマートホームと一体化するオーディオも展開する

「どのメーカーを入れるか」よりも「どんな体験をつくるか」

Basalte、Ekinex、CJC Systems。これだけ魅力的なプロダクトを見ていると、つい「どのキーパッドを使うか」という製品選びに目が向いてしまう。

しかし増野氏の話を聞いていると、本質はそこではないことがわかる。

建築側の照明計画や空調、シェードなどの設備計画を踏まえ、それに合わせて最適な制御方法を考える。施主が別のメーカーのスイッチを使いたいと希望すれば、システムへ取り込めるのであれば、それを採用することもあるという。

スマートホームで制御する電動シェードを設置したMatt & Massimoの空間
スマートホームの対象は照明だけではない。シェード、空調、AVなど、異なる住宅設備を横断して一つの体験として設計していく

「あくまでお客様が望む環境を作りたいだけ」という増野氏の言葉が象徴的だが、つまり、Basalteを入れることも、KNXを使うことも目的ではない。住宅で過ごす人に、どのような体験を提供するのか、要するにユーザーエクスペリエンスをいかに高めるのかをまず先に考える。そして、必要な照明、空調、シェード、オーディオを選び、それらをつなぐシステムを設計し、最後に人間が住宅と触れ合うインターフェースまで整える。

その結果としてBasalteやEkinex、CJC Systemsといったプロダクトが選ばれるのだ。

スマートホームは、設備設計と建築文化が交差する場所へ

こうした発想をさらに突き詰めていくと、スマートホームはもはや単なる「設備」の領域だけでは語れないことがわかる。

たしかに、照明や空調を制御する仕組みは設備設計の領域にある。一方で、その先端にあるキーパッドは壁面に現れ、人が毎日触れる。iPadやタッチディスプレイのUIもまた、住む人と住宅との関係を形づくる。位置や素材、仕上げによっては、壁材や家具、照明器具と同じように空間の印象さえ左右する。

つまりスマートホームは、設備設計と建築・インテリアデザインが交差する場所に存在しているのである。

BasalteやEkinex、CJC Systemsのキーパッドが美しいのも、ただ単にスイッチを高級な素材でつくっているからではなく、インターフェースそのものを、建築を構成するエレメントとして捉えているからだろう。

日本ではスマートホームというと、いまだ「何を操作できるのか」「何を自動化できるのか」といった機能の話に目が向きがちだった。

だが、ラグジュアリー住宅では、その先が問われている。

何を自動化するかだけではなく、住宅がどのように振る舞い、人がどのように住宅と触れ合い、そのテクノロジーを建築の中にどう存在させるのかという課題が問われるのだ。

スマートホームはいま、設備設計と建築文化が交差する臨界にある。

Basalteのキーパッドが提示するのは、単なる「美しいスイッチ」の可能性にとどまらず、テクノロジーを後から住宅に付け加えるのではなく、建築を構成する要素として最初から設計するという、スマートホームの次の姿なのではないだろうか。

では、こうしたインターフェースや制御技術は、実際のラグジュアリー邸宅の中でどのように設計されているのだろうか。

次回はMatt & Massimoが実際にスマートホーム設計を担った建築を訪ね、建築家の設計意図とテクノロジーがどのように結びつき、「建築統合型スマートホーム」として成立しているのかを見ていきたい。

Matt & Massimo 公式サイト

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