高級住宅にWi-Fi設計は必要か? スマートホームを支えるネットワーク設計とは
取材/LWL online編集部
スマートホームを安定して動かすうえで、照明や空調、セキュリティ機器そのもの以上に重要になるのが、住宅内のネットワーク設計だ。高級住宅や別荘では、Wi-Fiはもはやインターネット接続のためだけの設備ではない。VLANによる用途別の分離、複数アクセスポイントの設計、PoE給電、プロ向けWi-Fiの導入まで、スマートホーム時代の「見えないインフラ」としてのネットワークを考える。
高級住宅にWi-Fi設計は必要か?
スマートホームという言葉を聞くと、多くの人はスマートスピーカー、スマート照明、スマートロックなどを思い浮かべるだろう。たしかに、これらはスマートホームを構成する目に見える機器である。だが、こうした機器を安定して動かすために、最も重要でありながら、最も見落とされやすいものがある。
住宅内のネットワーク設計である。
特にスマートホームを備えた高級住宅や別荘、ホームシアター、ホームオフィス、ウェルネス設備を備えた邸宅では、Wi-Fiはもはや「インターネットを見るための設備」ではない。照明、空調、セキュリティ、音響、映像、電動ブラインド、給湯、蓄電池、EV充電器、監視カメラ、インターホン、スマートロック、ロボット、管理会社による遠隔監視など、住宅の多くの機器、設備、機能がネットワークに接続される。
スマートホーム時代のWi-Fiは住宅設備の一部と認識すべきである。さらに言えば、電気、給排水、空調、照明と同じように、あらかじめ設計しておくべき住宅のインフラになっている。

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「Wi-Fiが届かない」は、単なる電波の問題ではない
住宅でよく聞かれる不満に、「Wi-Fiが届かない」「場所によって遅い」「スマート家電が時々オフラインになる」というものがある。これらは、表面的には通信速度や電波強度の問題に見える。しかし、実際にはより複合的な問題であることが多い。
たとえば、広い邸宅では、壁、床、ガラス、断熱材、金属部材、床暖房、鉄筋コンクリート、地下室、屋外テラスなどが電波を遮る。ホームシアターや防音室では、遮音構造がそのまま電波の遮断要因になることもある。さらに、別荘やラグジュアリー邸宅では、ガーデンやガレージ、プールサイド、サウナ棟、離れ、ワインセラー室など、Wi-Fiを必要とする場所は邸宅内だけにとどまらない場合も多い。
加えて、現代の住宅では接続機器の数が急増している。一般の住宅ですら、スマートフォンやPCだけでなく、テレビ、ストリーマー、ネットワークオーディオ、スマートスピーカー、スマート家電までもがネットワークにつながる。一般の家族4人の住宅でも、接続機器が50台を超えるケースも珍しくなくなった。ラグジュアリー邸宅や別荘ではさらに多くなる。
このとき、市販の家庭用Wi-Fiルーターを1台置くだけでは、住宅全体を安定して支えることは難しい。どこにアクセスポイントを置くのか、どの機器を有線にするか、どの機器を無線にするか、どの通信を優先するか、どの機器を互いに分離するか、という設計が必要になってくる。
VLANとは何か? 住宅内に用途別のネットワークをつくる
住宅内のネットワーク環境を考えるうえで、まず知っておいてほしいのはVLANである。
VLANとは「Virtual LAN」の略で、ひとつの物理的なネットワークを、論理的に複数のネットワークへ分ける技術である。企業などではこのような仕組みを採り入れているケースが多い。難しく聞こえるかもしれないが、住宅に置き換えるとわかりやすい。
家の中に、家族用のネットワーク、ゲスト用のネットワーク、スマートホーム機器用のネットワーク、監視カメラ用のネットワーク、仕事用のネットワークを分けて用意するようなものだ。
たとえば、家族のスマートフォンやPCが使うネットワークと、ゲストが一時的に使うネットワークは分けたい。来客がWi-Fiを使えるようにしても、その人のスマートフォンから住宅内のNASやプリンター、監視カメラ、照明制御機器にアクセスできてしまうのは望ましくない。
同じように、スマート家電やIoT機器も、家族のPCや仕事用のPCと同じネットワークに置くべきとは限らない。IoT機器は便利である一方、ファームウェア更新が滞ったり、セキュリティ水準が機器ごとに異なったりする。ネットワークを分けておけば、万一どこかの機器に問題が起きても、被害の範囲を限定しやすくなる。
特に経営者層は、仕事用の端末は他のネットワークと分けておくべきだろう。

※生成AIにて作成
スマートホームではネットワークを用途別に分ける
ラグジュアリー邸宅であれば、用途別におおよそ次のような分離が考えられる。
家族用ネットワーク。PC、スマートフォン、タブレットなど日常利用の端末を接続するネットワーク。
仕事用ネットワーク。ホームオフィスやリモート会議、業務用端末を接続する。
AV/エンターテインメント用ネットワーク。テレビ、ネットワークプレーヤー、AVアンプ、ストリーミング端末、ホームシアター機器を接続する。ストリーミングで大容量データを扱う。
スマートホーム用ネットワーク。照明、空調、床暖房、電動カーテン、センサーなどを接続するネットワーク。
監視カメラ/セキュリティ用ネットワーク。屋外カメラ、インターホン、NVR、入退室管理機器などを接続する、プライバシーやセキュリティにかかわるネットワークである。
ゲスト用ネットワーク。来客や短期滞在者が利用する。
そして、管理会社・保守用ネットワーク。別荘や大型邸宅で、遠隔監視や保守担当者が限定的にアクセスする。ここで機器や設備のエラーを確認する。
このように分けることで、住宅内のネットワークは単なる「Wi-Fi」ではなく、用途ごとに整理されたインフラになる。スマートホームを導入する場合、信頼性を高めるうえで、VLANは非常に重要な基礎技術なのである。
プロ向けWi-Fiは家庭用ルーターと何が違うのか
一般的な家庭用Wi-Fiルーターと、プロ向けのネットワーク機器は何が違うのだろうか。
第一に、複数のアクセスポイントを前提にしている点である。家庭用ルーターは、基本的には1台、あるいはメッシュ用数台で使うことが想定されている。一方、プロ向けWi-Fiでは、天井や壁に複数のアクセスポイントを設置し、それらを一元管理する。住宅の平面図、壁の材質、階数、屋外エリア、電波干渉を踏まえて、必要な場所に必要な電波を届ける発想である。
第二に、SSIDとVLANを組み合わせられる。たとえば「Family」「Guest」「SmartHome」「Security」といった複数のSSIDを用意し、それぞれを異なるVLANにひもづける。利用者には複数のWi-Fi名として見えるが、裏側ではネットワークがきちんと分離されている。
第三に、PoE給電に対応する点である。PoEとは、LANケーブルを通じて電力も供給する仕組みである。天井や壁に設置するアクセスポイントに、わざわざ専用のコンセントを設けなくてもよい。要するに、LANケーブル1本で、通信と給電をまかなえることができる。新築や大規模リノベーションでは有線LANの敷設・配線を計画し、PoEスイッチでアクセスポイントや監視カメラに給電する設計が可能になる。
第四に、管理と保守がしやすい。どの機器がどのアクセスポイントにつながっているのかを把握することができ、ファームウェアは更新されているか、あるいは通信でエラーが発生している箇所はあるのかなど、管理画面で把握しやすい。特に、別荘では現地に行かなくても状態を確認できることが大きな意味を持つ。
第五に、長期運用を想定している点だ。高級住宅の設備は、短期間で入れ替えるものではない。住宅そのものは数十年使われる。ネットワークも「今つながればよい」ではなく、5年後、10年後の拡張や保守まで視野に収めて構築できる。

※生成AIにて作成
ヤマハ、NETGEAR、UniFi。プロが選ぶネットワーク機器
住宅向けのネットワーク構築で、システムインテグレーターや施工会社が選択肢に入れることの多い、代表的なブランドとして、ヤマハ、NETGEAR、UniFiがある。
ヤマハは、中小規模オフィス、店舗、学校、医療施設などで実績があるネットワーク機器ブランドだ。RTXシリーズのルーター、SWXシリーズのスイッチ、WLXシリーズの無線LANアクセスポイントを組み合わせることで、安定したネットワークを構築しやすい。日本語の設定情報や保守情報が豊富で、国内の施工会社が扱いやすい点も強みだ。住宅においても、信頼性や保守性を重視する場合には有力な選択肢となる。
NETGEARはコンシューマー向けのイメージが強いが、ビジネス向けにはInsight対応のスイッチやアクセスポイントを展開している。Wi-Fi 6、Wi-Fi 6E、Wi-Fi 7対応のビジネス向けアクセスポイントも充実しており、VLANや複数SSIDを組み合わせたネットワーク分離にも対応する。
UniFiは、Ubiquitiが展開する統合ネットワークシステムで、ゲートウェイ、スイッチ、アクセスポイント、カメラ、入退室管理などをひとつのUIで管理できる。管理画面の視認性が高く、ネットワーク全体を「見える化」しやすいため、スマートホームやAVインテグレーションの現場でも採用しやすい。筆者の経験では、技術者出身のIT企業の経営者が指名してくるケースが多い。
どのブランドを選ぶべきかは、住宅の規模、施工会社の得意分野、保守体制、クラウド管理の要否、将来的な拡張方針によって異なる。インテグレーターに要望を正しく伝えることで、住宅ごとの最適解に近づける。
Wi-Fi機器を選ぶ場合、ひとつ注意しておいてほしいのはスピードだけを重視しないことだ。やりがちなのだが、スピードはあくまでもひとつの指標にすぎない。ルーター、スイッチ、アクセスポイント、PoE、VLAN、セキュリティ、管理画面までをひとつの設計として考えて選択すべきである。

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スマートホームの成否はネットワークで決まる
スマートホームでは、遠隔操作やどんな動作をするのかなどに注目が集まりやすい。機能はもちろん重要である。また、LWL onlineで伝えてきた機器をコントローラー(Home OS)とつなぐプロトコル(BACnetやKNXなどの共通言語)も重要である。
しかし、機器や設備がネットワークと接続される以上、ネットワークが不安定であれば、住宅全体の体験は損なわれる。照明が反応しない、あるいは音楽再生が途切れるといった不具合は、機器単体の問題よりもネットワーク設計の不足から生じることが多い。
ネットワーク自体、目立たない存在であるべきだ。配線は隠され、住まい手は意識しないまま快適に使える。それでいて、裏側では用途別に通信が整理されている状態が望ましい。ラグジュアリー邸宅に求められるのは、安定し、将来拡張でき、長く使えるネットワークである。
これからのスマートホームでは、照明や空調、音響、セキュリティを語る前に、まずネットワークをどう設計するかを考えておくべきである。
ここで表題に戻ろう。高級住宅にWi-Fi設計は必要か?
その答えは明らかだろう。むしろ、Wi-Fi設計なしに、スマートホームは成立しない。

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FAQ : Wi-Fi設計
Q. 高級住宅に家庭用Wi-Fiルーターでは不十分ですか?
A. 小規模な住宅であれば家庭用ルーターでも足りる場合があります。ただし、高級住宅や別荘では、床面積、壁材、階数、屋外空間、接続機器数が増えるため、複数アクセスポイントや有線LAN、PoE、VLANを含めた設計が必要になります。
Q. VLANとは何ですか?
A. VLANとは、ひとつの物理ネットワークを、用途別に複数のネットワークへ分ける技術です。住宅では、家族用、ゲスト用、スマートホーム機器用、監視カメラ用、仕事用などに分けることで、セキュリティと管理性を高められます。
Q. スマートホーム機器は別ネットワークに分けるべきですか?
A. 分けるべきです。照明、空調など、設備機器を家族のPCや仕事用端末と同じネットワークに置くと、セキュリティや保守の面でリスクが高まります
Q. プロ向けWi-Fiと家庭用メッシュWi-Fiの違いは何ですか?
A. プロ向けWi-Fiは、複数アクセスポイントの一元管理、SSIDとVLANの連携、PoE給電、状態監視、長期保守を前提にしています。家庭用メッシュWi-Fiは導入が簡単ですが、用途別の分離や管理性ではプロ向け機器に及ばない場合があります。
Q. 新築時に準備すべきことは何ですか?
A. 各階、天井アクセスポイント設置位置、テレビ周辺、ホームオフィス、監視カメラ、門扉、ガレージ、屋外テラスなどに有線LANを計画しておくことが重要です。後から無線だけで補うより、初期段階で配線計画を組み込む方が安定します。
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LWL online 編集部