Living Insight vol.9 ―なぜ本格的なスマートホームでは赤外線を避けるべきなのか?
取材/LWL online編集部
スマートリモコンで広く使われる赤外線は、既存家電を手軽に操作できる一方、機器の現在状態や操作の成否を確認できない。本格的なスマートホームに求められる双方向通信との違いから、赤外線が制御基盤に向かない5つの理由と、適切な使いどころを解説する。
なお、本稿でいう「赤外線」とは、テレビやエアコンなどの家電リモコンに用いられる、一般的な一方向の赤外線制御を指す。

図はAIで生成
赤外線リモコンは「命令を送るだけ」の一方向通信
赤外線リモコンは、リモコン側から家電製品へ一方向に信号を送る。
テレビの電源ボタンを押せば、テレビに向かって「電源を切り替えよ」という信号が送られる。しかし、リモコン側は、その信号をテレビが受信したかどうかを確認していない。テレビの電源が実際に入ったのか、消えたのかも把握できない。
人が目の前で操作する場合は、画面が点灯したか、エアコンから風が出たかを目視で確認できる。信号が届かなければ、もう一度ボタンを押せばよい。
だが、スマートホームではそうはいかない。
外出先から操作した場合や、自動制御によって命令が実行された場合、機器が本当に動いたかをシステム側で確認できなければ、制御の確実性を担保できない。
赤外線方式の最大の問題は、操作命令と機器の実際の状態が結びついていないことにある。

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理由1:機器の現在状態を確認できない
本格的なスマートホームでは、機器を操作できること以上に、その機器が現在どのような状態にあるかを把握できることが重要になる。
例えば、外出先からエアコンを停止したとする。赤外線信号を送信したという履歴は残せても、エアコンが実際に停止したかどうかはわからない。赤外線の送信機とエアコンの間に人や家具があった、送信機の向きが変わっていた、エアコンが信号を受信しなかったといった場合でも、アプリ上では操作が完了したように見えることがある。
温度センサーを組み合わせれば、室温の変化から運転状態をある程度推測することはできる。しかし、それはエアコン本体から取得した正式な状態情報ではない。
住宅設備を確実に制御するには、単に命令を送るだけでなく、機器から現在の状態を返してもらう双方向通信が必要になる。
理由2:トグル操作でオンとオフが逆転する

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テレビやオーディオ機器のリモコンでは、ひとつの電源ボタンでオンとオフを切り替える「トグル方式」が多く使われている。この方式では、同じ赤外線信号を送るたびに、現在の状態が反転する。
テレビが消えている状態で信号を送れば電源が入り、テレビがついている状態で同じ信号を送れば電源が切れる。人が操作する場合は問題になりにくいが、自動化では大きな不確実性を生む。
例えば「外出モード」を実行し、照明、エアコン、テレビをまとめて停止しようとしても、テレビの現在状態をシステム側が把握していなければ、停止させるつもりで電源を入れてしまう可能性がある。
オン専用、オフ専用の信号である「ディスクリートコード」を利用できる機器も存在するが、すべての家電製品が対応しているわけではない。本格的な自動制御では、「電源ボタンを押す」のではなく、「機器を確実にオフの状態にする」という命令を実行できなければならない。
理由3:障害物や設置条件に左右される
赤外線は光の一種であり、基本的には送信部から受信部が見通せる位置関係を必要とする。

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原則として壁を透過することはできず、家具やカーテン、人の身体などによって信号が遮られることもある。送信機の角度や距離によっては、同じ部屋の中でも信号が安定して届かない。
スマートリモコンを部屋ごとに配置すれば、ある程度は対応できる。しかし、住宅全体を統合する場合、各機器の赤外線受光部の位置を確認し、送信機の設置場所を調整し続けなければならない。
模様替えによって家具の位置が変わっただけで、昨日まで動いていた機器が反応しなくなることもある。
建築設備として求められるのは、住まい方の変化や多少の環境変化があっても安定して動作する仕組みである。設置角度や遮蔽物に左右されやすい赤外線は、この点でも住宅インフラとしての信頼性に欠ける。
理由4:シーン制御の部分的な失敗を検知できない
赤外線方式では、単体機器の状態を確認できないだけでなく、複数の機器を組み合わせたシーン制御において、どの機器が正常に動作し、どの機器が失敗したのかを判定できない。
例えば、「映画鑑賞」というシーンを設定し、テレビ、AVアンプ、プレーヤー、照明、カーテンを連動させるとする。
赤外線で制御する機器が複数含まれている場合、システムは一定の間隔を空けながら、それぞれに信号を送ることになる。しかし、途中でひとつの機器が信号を受信しなかったとしても、それを検知できない。テレビだけがつかない、あるいは照明が灯り続けているなど、部分的な失敗が起きても、システム側には「シーンを実行した」という記録しか残らない。
結果として、利用者は機器の状態をひとつずつ確認し、動かなかったものを再操作することになる。これでは自動化ではなく、複数のリモコン操作をひとつのボタンに集約しただけである。
理由5:複雑な自動化や遠隔管理に向かない
本格的なスマートホームでは、照明、空調、電動カーテン、セキュリティ、AV機器、エネルギー設備などを連携させる。さらに、時刻、室温、照度、在室状況、天候、電力使用量などを条件として、住宅側が自律的に設備を制御する。
こうした仕組みを成立させるには、各機器の状態をリアルタイムに取得し、条件に応じて制御内容を変え、異常があれば記録や通知を行う必要がある。赤外線では、状態取得も、エラー検知も、詳細な診断も難しい。
別荘やセカンドハウスでは、管理会社が遠隔地から空調や設備の状態を確認することも想定される。赤外線でエアコンに停止信号を送れても、本当に停止したかわからなければ、管理業務には利用しにくい。
住宅規模が大きくなり、機器数や利用者が増えるほど、赤外線による「たぶん動いたはず」という制御は限界を迎える。
本格的なスマートホームに必要なのは双方向通信
本格的な住宅統合では、機器への命令と状態確認を双方向で行える仕組みが望ましい。
照明制御では、Lutronの各種システムや、双方向通信に対応するDALIなどが使われる。住宅・ビル設備の統合にはKNX、空調や住宅設備にはBACnet、Modbus、ECHONET Lite、メーカー独自のネットワークインターフェースなどがある。そのほか、IP制御やRS-232C、接点制御に対応する製品も多い。
家庭向け分野では、MatterのようなIPベースの共通接続規格も普及し、対応する機器や機能の範囲が拡大している。
重要なのは、特定の通信規格を採用すること自体ではない。

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システムから「テレビをオフにする」と命令したとき、テレビが本当にオフになったことを確認できること。空調の設定温度を変更したとき、現在の設定温度を把握できること。照明を消したとき、消灯状態がシステム画面にも反映されていること。
こうした双方向性が、信頼できるスマートホームの基本となる。
赤外線が有効なケースは簡易的なスマートホームや既存住宅、レガシー機器
赤外線がまったく不要というわけではない。
既存住宅に大がかりな工事をせず、テレビやエアコンをスマートフォンから操作したい場合には、有効な選択肢となる。賃貸住宅や一時的な住まい、双方向通信に対応していない古い家電をシステムに組み込む場合にも役立つ。
本格的なホームオートメーションにおいても、代替手段がない機器に対する補助的な制御として、赤外線を使うことはある。
ただし、その場合も「操作が成功したか確認できない」「現在状態とシステム上の表示がずれる可能性がある」という制約を理解しておかなければならない。 赤外線は主要な制御基盤ではなく、レガシー機器を接続するための補完手段、または最後の選択肢として位置づけるべきだろう。
「操作できる」と「住宅に統合されている」は違う
スマートフォンから家電を操作できるだけで、住宅がスマートホームになったとは言えない。本格的なスマートホームに必要なのは、住宅全体の設備が互いの状態を共有し、状況に応じて連携し、利用者が意識しなくても安定して動くことである。
赤外線リモコンは、機器に直接触れることなく、目の前で操作するための技術だ。一方、本格的なスマートホーム、すなわちホームオートメーションは、住宅設備を情報として把握し、確実に制御するためのシステムである。
両者は似ているようで、その目的も信頼性も大きく異なる。
赤外線は、スマートホームへの入り口としては便利である。しかし、住宅全体を長期間にわたって安定して制御する本格的なスマートホームを構築するならば、双方向通信を前提とした設備選定とシステム設計が欠かせない。
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LWL online 編集部