なぜ建築プロトコルは重要なのか? KNX・BACnet・Modbus・DALI・ECHONET Lite
取材/LWL online編集部
照明、空調、シェード、給湯、蓄電池…、異なるメーカーの住宅設備をひとつのシステムとして動かすとき、裏側で重要な役割を担うのが「建築プロトコル」だ。KNX、BACnet、Modbus、DALI、ECHONET Liteは何が違い、なぜ建築統合型スマートホームでは複数の規格を使い分ける必要があるのか。メーカー依存を避け、住宅を長く更新し続けるための「共通言語」を解説する。
※アイキャッチ画像:Image:KOTOIMAGES /Shutterstock.com
スマートホームの「見えないインフラ」を考える
まず大前提として、LWL onlineが主な対象としている「スマートホーム」とは、IoTガジェット型(デバイス統合型)スマートホームではなく、建築統合型(住宅インフラ型)スマートホームである。ラグジュアリー住宅のインフラとして複数の住宅設備を統合するホームオートメーションシステムである。
こうした建築統合型スマートホームを設計するうえで非常に重要なのが「建築プロトコル」だ。
照明、空調、シェード・ブラインド、床暖房、セキュリティ、給湯、太陽光発電、蓄電池、AV機器など、住宅にはメーカーも目的も異なるさまざまな設備が存在する。こうした住宅設備をひとつの住宅システムとして連携させるには、機器同士が情報を交換するための共通のルールが必要になる。
さらに重要なのは、住宅と家電・電子機器では「寿命」が違うことだ。
住宅は20年、30年、場合によってはそれ以上使われる。一方、コントローラーやネットワーク機器、家電製品、ソフトウェアのライフサイクルはそれより短い。
だからこそ、スマートホームでは「いま何ができるか」という現在という時間軸に加えて、「10年後、20年後にも別の機器へ交換できるか」という未来の時間軸も考えておかなければならない。
そのための基盤となるのが建築プロトコルなのである。
プロトコルとは? 機器同士をつなぐ「共通言語」
プロトコル(protocol)とは機器同士が通信する際のルールだ。
例えば、壁に設置されているキーパッドのあるボタンを押したときに「リビングの照明を50%まで暗くする」という情報を送り出したとする。しかし、照明側が理解できなければ何も変化が起こらない。スイッチが出す指令の内容を照明側が理解できるような言語で通信を行う必要がある。こうした通信ルールがプロトコルなのである。
特定メーカーの専用アプリから、そのメーカーの照明を操作するだけなら話は簡単だ。しかし、建築に組み込まれた照明、空調、電動シェード、床暖房、セキュリティなどを20年、30年にわたって使っていこうとすれば、ひとつのメーカーやひとつのアプリだけに住宅全体を依存させることは大きなリスクになる。
そこでプロトコルが重要になってくる。プロトコルがあれば、制御システムと個々の製品を切り離して考えられる。
プロトコルとは、いわば「製品」と「住宅」の間に置かれる共通言語なのである。
なぜ建築プロトコルが重要なのか? 理由は「交換可能性」
なぜ建築プロトコルが重要なのか?
理由はいくつもあるが、最も重要なのは「交換可能性」である。
例えば10年後、現在使用している照明器具が生産終了したとする。しかし標準化されたプロトコルと相互運用性が担保された製品を利用していれば、別メーカーの機器へ置き換えられる可能性が高まる。
逆に、住宅全体が特定メーカー独自の通信方式やクラウドサービスに依存していた場合、そのメーカーがサービスを終了しただけで住宅設備の一部が維持できなくなることも考えられる。
建築で使われる主要プロトコル。KNX、BACnet、Modbus、DALI、ECHONET Lite
建築設備の世界には複数のプロトコルが存在する。現在グローバルで広く使われている代表的なものとして、KNX、BACnet、Modbus、DALIが挙げられる。また日本の住宅ではECHONET Liteも重要である。
ただし、建築プロトコルといっても、厳密には同じ階層、同じ用途の規格ではない。簡単にひとくくりにできるわけではないのだ。また、それぞれ得意とする分野が異なっており、「どれが一番優れているか」を競うものではない。
むしろ実際の建築では、それぞれの長所を生かして組み合わせることが重要であり、それこそがシステム・インテグレーターの重要な役割となる。

生成AIを使用して作成
KNX:住宅全体をつなぐ「背骨」
住宅のオートメーションで代表的なのがKNXだ。
KNXはISO/IEC 14543-3として国際標準化されているオープンな建築制御規格で、照明、シェード、空調設備、エネルギーマネジメント、セキュリティなど幅広い設備を扱える。2026年時点でKNX Associationは500社を超えるメーカー、8,000以上の認証製品によるエコシステムを形成しているとしている。
KNX Association|Manufacturers Hub
KNXの大きな特徴のひとつが特定メーカーに依存しないことだ。たとえば、ABBのセンサーと別メーカーの照明アクチュエーターを組み合わせる、といった構成が可能であり、メーカー横断で使用するエンジニアリングツール「ETS」を使ってひとつのプロジェクトとして設定できる。
そしてもうひとつ重要なのが「分散制御」という考え方である。
この考え方はクラウドを使ったIoTガジェット型スマートホームと比べてみるとわかりやすい。一般的なIoTシステムでは、すべての命令を中央のコントローラーやクラウドへ集め、そこから各機器へ指示を出す方式が多い。
一方KNXでは、スイッチ、センサー、アクチュエーターなどの機器自身が通信し、それぞれに必要な機能を持たせる構成を取ることができる。
たとえば、「スイッチ→中央コントローラー→照明」という経路に加えて、「スイッチ→照明アクチュエーター」という関係を構築できるのだ。
中央のプロセッサーが故障した瞬間に住宅全体の基本機能まで失われる、というリスクを抑えやすい。KNXが長期利用を前提とする住宅や建築で好まれる理由のひとつに、この分散制御という考え方がある。

BACnet:空調や大型設備を統合する建築の共通言語
一方、ビルディングオートメーションの世界で極めて重要なのがBACnetだ。
BACnetは「Building Automation and Control Networks」の略で、ASHRAEが策定・維持する建築設備向け通信規格であり、ISO 16484-5としても国際標準化されている。
HVACをはじめ、照明、アクセスコントロール、エレベーター、セキュリティ、防災設備など、建物全体の設備管理を想定して設計されている。
KNXが住宅のスイッチ、センサー、照明、シェードといった「部屋に近い領域」で強みを持つのに対し、住宅案件においては、BACnetは空調設備や中央監視など、より大きな設備システムとの接続で重要になる。
大型住宅や別荘、ラグジュアリーレジデンスでは、業務用・ビル用の空調システムが導入されることも珍しくない。
となると、住宅だからKNXだけを考えればよい、とは限らなくなる。
KNXとBACnetをゲートウェイなどで接続し、「室内側の操作・センサーはKNX」「空調設備側はBACnet」というように役割を分担する方が合理的なケースもある。
Modbus:設備機器の世界で今も強い「シンプルな共通語」
Modbusも建築設備では頻繁に登場する。
もともとはModiconが1979年に産業用制御向けに開発した通信プロトコルで、現在はModbus Organizationによって仕様が管理されている。RS-485などを使うシリアル通信のModbus RTUや、Ethernetを利用するModbus TCPなどが広く利用されている。
Modbus Organization|Specifications
Modbusの特徴は非常にシンプルなことだ。
機器内部のレジスターなどに対して値を読み書きするという基本的な仕組みであり、空調設備、電力計測器、インバーター、ポンプ、熱源機器、発電・蓄電関連設備など、さまざまな産業・設備機器で利用されてきた。
BACnetほど建築設備を体系化したプロトコルとは言い難いが、「設備機器とシンプルにデータをやり取りする」という目的では非常に強い。
スマートホームの設計でも、全館空調などの機械設備やエネルギー設備を統合しようとするとModbusが突然登場する、ということは珍しくない。

Image:nelikdulatov /Shutterstock.com
DALI:照明制御に特化したプロトコル
照明についてはDALI(Digital Addressable Lighting Interface)が重要だ。
DALIはIEC 62386として国際標準化された照明制御用プロトコルで、LEDドライバーなどの制御装置を個別にアドレス指定し、調光や状態監視などを行える。現在はDALI-2によって、センサーやスイッチなども含めた相互運用性が強化されている。
DALI Alliance|IEC 62386 Standard
ここでも、「KNXかDALIか」という二者択一ではない。例えば住宅全体の制御をKNXで構築しながら、照明器具側はDALIとし、KNX-DALIゲートウェイを介して接続するという構成が考えられる。
住宅全体を統合するプロトコルと、個別設備を高度に制御するプロトコルを分けるのである。
ECHONET Lite:日本の住宅設備をつなぐ重要な規格
そして日本の住宅を考える場合、もうひとつ重要なのがECHONET Liteだ。
ECHONET Liteは住宅設備や家電、HEMSなどの連携を目的として開発され、日本ではエアコン、給湯設備、太陽光発電、蓄電池、燃料電池、EV充放電器、スマートメーターなど幅広い住宅設備について仕様が整備されている。
特にエネルギーマネジメントとの関係は深く、スマートメーターのBルート通信にもECHONET Liteが採用されている。

Image:U. J. Alexander /Shutterstock.com
ここに、日本でKNXだけでは住宅全体を完結させにくい理由がある。
欧州を中心に形成されてきたKNXのエコシステムと、日本独自に発展してきた住宅設備のエコシステムは完全には一致しない。
国内メーカーのエアコン、給湯、蓄電池、太陽光発電、住宅設備などを統合しようとすれば、ECHONET Liteやメーカーが提供するインターフェース、BACnet、Modbusなどを介して接続した方が適切なケースがある。
「KNX対応製品だけで家をつくる」のではなく、KNXを住宅制御の基盤としながら、必要に応じて別のプロトコルを組み合わせるという考え方が、日本のスマートホームでは重要になってくる。
JEM-A:接点制御というシンプルな選択肢
さらに高度な通信プロトコルだけが設備統合の方法ではない。
日本にはJEM 1427で規定されたHA端子(JEM-A)があり、運転/停止、開/閉、施錠/解錠など、2値で表現できる機器の制御・状態監視に利用できる。
取得できる情報はBACnetやModbus、ECHONET Liteなどに比べて限定されるが、「とにかく確実にON/OFFしたい」という場面では、こうしたシンプルなインターフェースが有効なこともある。
関連記事
Living Insight vol.10 —JEM-Aとは何か? スマートホームの操作と状態確認

「ひとつのプロトコルに統一すること」が正解ではない
ここまで読むと、「結局どのプロトコルを採用すればいいのか」と思うかもしれない。
答えは、ひとつではない。
例えば、照明やスイッチ、センサー、シェードなどにはKNX、照明制御にはDALI、大型空調や建築設備にはBACnet、熱源・計測・エネルギー設備などにはModbus、国内住宅設備・HEMS関連にはECHONET Lite、単純なON/OFFや開/閉、状態確認には接点やJEM-A…というように、それぞれの得意分野を生かして組み合わせることが重要になる。
プロトコルをゲートウェイや上位のホームオートメーションシステムで統合する。すべてをひとつの通信方式へ無理に統一するよりも、「どの設備をどのプロトコルで制御すべきか」を建築設計の段階から決めておくほうが重要である。
プロトコルを設計することは「住宅の未来」を設計すること
プロトコルは、スマートホームの表に出てくるものではない。しかし、「どの設備を、どのプロトコルでコントロールするのか」という設計は、スマートホームの寿命を左右すると言っていい。
10年後に機器が故障したとき、別の製品へ交換できるのか。単純に見えて、これは住宅を長く使い続けるうえで根源的な問いである。その問いに答えるためにも、プロトコル設計は重要になる。
設備やメーカーが変わっても、住宅そのものを使い続けられること。そのための基盤のひとつが、建築プロトコルである。
プロトコルを設計することは、住宅を特定のメーカーや特定の世代のテクノロジーから切り離し、長く更新し続けられる「建築」にするための設計なのである。
関連記事
【スマートホーム/ホームオートメーション特集】スマートホームの核心は「プロトコル設計」──Home OS・プロトコルの階層構造を完全解説
-
-
取材
LWL online 編集部