第2回LWLサテライトイベント〈後編〉高橋昌宏氏が語る、自然とテクノロジーが共鳴する別荘建築

オーディオ&サブカルライター/杉浦みな子 

2026年7月9日、東京・南青山のIDEALビルで「LWLサテライトイベントVol.2」が開催された。テーマは「The Luxury Villa & Outdoor Living Experience」。“別荘建築・アウトドアリビング”のコンセプトを軸に、建築家やデザイナー、インテリアコーディネーター、デベロッパーなど60名を超えるプロフェッショナルが集う場となった。本記事ではそのレポート<後編>として、建築家・高橋昌宏氏のゲストスピーチ内容をレポートする。

非日常というモチベーションをいかに設計するか?

別荘建築に特化し、これまで100棟近くの設計を手掛けてきたエムズ・アーキテクツ代表取締役の高橋昌宏氏。今回のイベントでは、「自然とテクノロジーが共鳴する、これからの別荘建築」をテーマに、コロナ禍を経て激変した別荘の価値観から、非日常を演出するアウトドアリビングの仕掛け、そして自身の最新実験住宅で試みたスマートテクノロジーのリアルまで、リゾート建築の「現在地」を余すところなく語った。 

エムズ・アーキテクツ代表取締役 高橋昌宏氏

冒頭で高橋氏は、「別荘とは?」という根源的な問いを立てた。 

「別荘とはどうあるべきか、これは常に私の中にある問いです。普段暮らす住居とは違い、別荘は生活に必要不可欠なものではありません。だからこそ、わざわざお金と時間をかけてそこまで行くモチベーションを創り出す必要があるのです。クライアントと話して、そのモチベーションをどこに置くか、それを設計するところから私の別荘建築は始まります。 

私が考えてきたのは、別荘建築は非日常の空間を実現するということで、それは自然を感じることです。内と外の境界が溶け合い、自然が日常生活の中心となる非日常空間を作り上げることを意識してきました

「別荘の魅力のうち、建物の力で生み出せるのは半分だと私は思っています。残り半分は、土地そのものが持つポテンシャルなのです。私は都内で事務所をやっているのでクライアントは東京の人が多く、そんな都内在住の方が求めるリゾート空間を設計しているわけですが、『どの場所を選ぶか?』は非常に大きな要素なんですね。 

そんなポテンシャルのある土地として多く選ばれるのが、軽井沢です。軽井沢に別荘を建てる仕事を継続して18年ほど経ちますが、最近はクライアントと一緒に敷地探しからスタートすることが増えました。そこで建築家ならではの土地の見方、例えば『この木を切ったらこの敷地はどうなるか? その空間にどういう建物を建てると良いか?』など、そういう部分から構想して提案を行っています」

当日のプレゼンテーション資料、及びごエムズ・アーキテクツご提供画像より(以下同)

コロナ禍が変えた別荘の役割

 また、かつての別荘は「週末や夏休みのための贅沢品」という位置づけだったが、「コロナ禍によるリモートワークの普及がその価値観を180度変えた」とも語る。 

「今は完全に次の局面に入っています。これまでのリゾート地は『週末を過ごすための場所』だったのが、今はむしろそちらが『生活拠点』になっているパターンもある。リモートワークが主体の働き方になったことで、普段の生活ベースをリゾート地の方に移し、東京にセカンドハウスを作るという方も増えています」 

コロナ禍を経て、過渡期を迎えている「別荘」の位置付け。リゾート建築のキーワードのひとつが、「別荘ならではの屋外空間=アウトドアリビング」である。

「アウトドアリビング」の設計。室内で完結しない別荘へ

高橋氏は、今どきの別荘設計における重要な取り組みとして、「アウトドアリビングをどう作るか? それを内部空間とどう繋げるか」を挙げた。 

「家具の配置によって初めて空間として機能するアウトドアリビングには、別荘ならではの魅力を高める様々な要素が詰め込まれています。それを建築として成り立たせるために、中と外をシームレスに繋ぐディテールが重要となります。 

例えば、室内外の一体感を高めるため、窓の上端を天井高に揃え、天井の仕上げ材がそのまま屋外の軒先へと連続するような工夫。また、床材には経年変化でグレーに馴染む天然木を採用し、視覚的な境界をなくしたりします」  

この中と外をシームレスに繋ぐ工夫は、高橋氏が手掛けてきた別荘建築のコンセプト「自然と暮らす建築」とも繋がってくる。 

「私の手がける建築は、そのほとんどが木造です。例えば軽井沢のような避暑地において、RC(鉄筋コンクリート)構造はどこか冷たい印象を与えてしまうことがあります。RCに断熱を施す方法もありますが、構造体そのものを意匠として見せられる点において、やはり木造には格別の魅力があると感じています。 

大切にしているのは、木造の構造体としての機能をそのまま美しく見せる手法。開口部となる窓のガラス面から外の景色へと連続させることで、常に一定の美しい構造美を保つことができます」 

そして、魅力的なアウトドアリビングを形作るいくつかの要素を挙げた。 

・屋根付きバルコニー: 
軽井沢特有の「夏の夜の急な雨」でも室内に逃げずにディナーを続けられる、最も重要な屋外空間。 

・バーベキュー・焚き火: 
火を囲んで語らう時間は別荘ならではの特権。設計の初期段階からこのように「別荘でやりたいこと」をヒアリングして組み込む。 

・景観との連動(浅間山・ゴルフ場): 
軽井沢の場合、浅間山を真正面に見据えるために空間をルーズに構成したり、ゴルフ場に隣接した敷地では夜間に森をライトアップして借景にする。 

ライトアップされた樹木とウッドデッキが広がる別荘の夕景

・サウナ: 
近年のブームもあり、昔と比べて需要が7〜8割急増しているというサウナ。プライバシーを確保した整いスペースとして、水風呂とセットで計画する。 

・プール: 
泳ぐものではなく、「眺めるもの・水辺の文化」として設計する。

 「実は、私の設計ではそこまで大きなプールを作ることはありません。プールというのは、私は『眺めるもの』だと思っているんです。本気で泳ぐとなるとサイズも必要になりますから。昼は水辺を眺め、夜はライトアップしてエクステリアとして楽しむ。プールを作る時は、そういう『水辺の文化』を作っていくような提案をしています」  

このアウトドアリビングを形作るそれぞれの要素は、LWLが提唱する「ラグジュアリー」の概念にも繋がってくる。 

「ラグジュアリーとは、過剰に飾ることではないですよね。時間の質、空気感、心身のウェルネス、そんな要素によって生み出されるものだと思います。別荘建築では、常にラグジュアリーについて考えています。自然の中でゆったりと過ごしながら浅間山をのぞむ時、そこに流れる時間の質や空気感、そういうものがラグジュアリーを生み出すと思います」 

三方の大開口から森を望む、曲線状のソファを配したラウンジ空間

スマートテクノロジーの理想と現実

また、近年注目されるスマートホームをはじめとするテクノロジーについても、「別荘建築においてはまだ過渡期である」としながら「常に試行錯誤を続けている」とリアルな現状を語った。  

「別荘地の環境に合わせて、必要なスマートホーム機能を採用してきました。 

しかし現状は、照明は照明のメーカー、空調は空調メーカーのアプリ……と操作系統がバラバラなのが課題です。海外の完全に統合されたシステムには憧れますが、コストがかかりすぎてクライアントに提案はしづらいですね。 

別荘にはキッチンや家具など他にもこだわりたい要素がたくさんありますから、いかに予算の中で賢くコントロールできるか、色々なシステムを試して泥臭く失敗しながら試しているところです。便利な家電の寄せ集めではなく、建築と統合した本格的なスマートホームへの進化を期待したいですね」  

なお、クライアントの家では失敗できないが、自社の別荘ならいくらでも実験できる——そんな想いから、同社の最新実験住宅「六華」での取り組みも紹介された。 

 「ここは自社の物件なので、実験住宅として色々なチャレンジをしています。例えば、洗面台のボウルを『水が飛び散るか、飛び散らないか』のギリギリのデザインにして、その使い勝手をみたり。もしクライアントの家でやって水が飛び散ったら怒られてしまいますからね(笑)。身をもって実験しています(笑)。 

庭の緑を望む大開口に沿って設けられた石材カウンターと円形シンク

構造としては、14畳ほどの六角形の空間が連続する平面構成になっていて、わずか6本の扁平な柱だけで建っています。これだけ全面ガラス張りの建築が、果たして軽井沢の厳しい冬の寒さに耐えられるのか。そういったことも含めて、これからデータを取っていく予定です」  

ここにはドイツのスマートホームシステム「frogblue」を試験導入。照明の一括シーン切り替えなどの設備を実装しているという。「空調などの細かな制御に関してはシステム単体ではまだ難しく、各家電アプリとのさらなる統合が必要だと感じています」と現状の課題も語られた。

自然とテクノロジーを対立させない別荘建築へ

最後に高橋氏は「私のデザインは現在進行形」と語り、この日のゲストスピーチを締め括った。 

「別荘建築のデザインとは、ライフスタイルのデザインだと思います。私の設計は決して完成されたものではなく、毎回が試行錯誤でチャレンジ。今日はその現在地をご紹介しました。これからも現在進行形で、皆さんに新しい別荘建築の価値を提案していきたいと思っています」 

熱心な参加者からの質問も飛び交い、ゲストスピーチは大盛況のうちに幕を閉じた

高橋氏の講演が示したのは、自然とテクノロジーを対立項として捉えない姿勢だった。建築が自然との接点をつくり、テクノロジーが温熱環境や不在時の管理を静かに支える。前編で紹介した7ブランドの提案も含め、その統合こそが、これからの別荘におけるラグジュアリーとウェルビーイングの条件になるだろう。

関連記事
自然とテクノロジーが共鳴する別荘建築。建築家、高橋昌宏氏が語る、軽井沢の豊かな暮らし

【速報】第2回LWLサテライトイベント開催。別荘とアウトドアリビングの未来を建築家・高橋昌宏氏と考える

  • オーディオ&サブカルライター

    杉浦みな子

    1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学時は映画研究会で映像制作に勤しみつつ、文芸評論家・福田和也教授に師事。2010年よりAV・家電メディアの編集/記者/ライターとして13年間従事し、音楽とコンシューマーエレクトロニクス系の分野を担当。2023年独立。音楽・オーディオ・家電から、歴史・カルチャーまで幅広いテーマで執筆中。実績はこちらから→https://foriio.com/minako-sugiura

Related articles 関連する記事

  1. home Home
  2. EVENT
  3. 第2回LWLサテライトイベント〈後編〉高橋昌宏氏が語る、自然とテクノロジーが共鳴する別荘建築