サーカディアンリズムとは? 体内時計と光の関係をわかりやすく解説。Living Insight vol.12
取材/LWL online編集部
サーカディアンリズムとは、睡眠や覚醒、体温、ホルモン分泌などに関わる約24時間周期の生体リズムのこと。その調整に大きな役割を果たすのが「光」だ。体内時計と光にはどのような関係があるのか。住宅に求められる光環境とサーカディアンライティング、Lutron「HomeWorks」やHOMMAによる最新の実装例までわかりやすく解説する。
なぜいま、住宅で「サーカディアンリズム」が重要なのか?
朝、太陽の光を浴びると目が覚め、夜になると自然に眠くなる。私たちの身体には、昼と夜の変化に合わせて約24時間周期で働く「体内時計」が備わっている。そのリズムを「サーカディアンリズム(概日リズム)」という。
近年、このサーカディアンリズムが睡眠やウェルネスの分野だけでなく、建築やインテリア、照明、スマートホームの世界でも重要なキーワードになりつつある。なかでも大きな意味を持つのが「光」だ。
住宅の照明はこれまで、「部屋を明るくする」「空間を美しく見せる」といった視覚的な役割を中心に考えられてきた。しかし現在はもう一歩進み、朝から夜まで、人間の身体が持つ時間のリズムに合わせて光環境そのものを設計するという考え方が広がっている。さらに、こうした動きは、LWL onlineが注目してきた「Invisible Wellness」や「Invisible Technology」という住宅の潮流とも重なっている。
LWL onlineではこれまで何度もサーカディアンライティング、あるいはサーカディアンリズムと照明について、記事化してきた(「サーカディアンライティング。住まいが時間を設計するとき」「サーカディアンライティングは窓で決まる」「なぜサーカディアンライティングが注目されているのか?」。
今回のLiving Insightでは、サーカディアンライティングのベースになる、そもそものサーカディアンリズムとは何なのか。そしてなぜ住宅における「光」が重要なのかを考えてみたい。
サーカディアンリズムとは? 約24時間周期で働く「体内時計」
「Circadian(サーカディアン)」という言葉は、ラテン語で「およそ」を意味する“circa”と、「1日」を意味する“dies”に由来する。サーカディアンリズムとは、その文字どおり、約1日を周期として繰り返される身体のリズムを意味する言葉である。

画像は生成AIで作成
人間の場合、睡眠と覚醒だけでなく、ホルモン分泌や体温など、さまざまな生理機能が一日の時間に合わせて変化している。人間の身体は、24時間まったく同じ状態で活動しているわけではない。米国国立衛生研究所(NIH)傘下のNIGMSも、サーカディアンリズムを「約24時間周期で起こる身体的、精神的、行動的な変化」と説明する。
要するに、朝は覚醒して活動へと向かい、日中は活動状態を維持し、夜になるにつれて休息へと移っていく。こうした時間的な変化を司っているのが、一般に「体内時計」と呼ばれる仕組みである。
その中心的な役割を担うのが、脳の視交叉上核(SCN)と呼ばれる部位だ。目から入った光の情報はこの体内時計に伝わり、外界の昼夜と身体内部の時間を合わせる重要な手掛かりとなる。
サーカディアンリズムになぜ「光」が重要なのか?
サーカディアンリズムには、食事、運動、温度、社会的活動などさまざまな要素が影響する。
そのなかでも特に大きな影響を持つのが、明るさと暗さ、つまり光環境である。NIGMSも、光と暗闇をサーカディアンリズムに最も大きな影響を与える要因として挙げている。
人間は長い歴史のなかで、太陽とともに生活してきた。朝が来れば太陽が昇り明るくなり、日中は強い光を浴び、夕方になるにつれて光が弱くなり、夜は暗くなる。身体はこうした自然界の変化を手掛かりに、一日の時間を認識している。

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たとえば「メラトニン」という物質の分泌。メラトニンは暗くなることによって体内で分泌が促され、睡眠・覚醒を含むサーカディアンリズムのタイミングに関係している。一方、夜間に光を浴びることで、その分泌が妨げられる場合があることも知られている。
要するに、光環境は身体の状態と密接に結びついているのだが、ここから現代の住環境やライフスタイルが抱える課題が見えてくるだろう。
昼間も屋内で過ごし、夜になっても住宅の照明やディスプレイに囲まれている生活では、自然界にあるはずの「明るい昼」と「暗い夜」の差が小さくなりやすい。 つまり、住宅の光環境は「見えるかどうか」「雰囲気がよいかどうか」というインテリアデザイン上の問題だけでは済まなくなってきているのだ。
なぜいま、サーカディアンリズムが注目されているのか?
近年、建築や住宅分野でサーカディアンリズムへの関心が高まっている背景には、「ウェルネス」という住宅価値の拡大がある。
断熱性能、空調、空気質、音環境、睡眠環境など、住まいが人間の身体や心理に与える影響そのものをデザインしようという考え方だ。
光も、その重要な一要素である。
例えば建築のウェルネス評価制度「WELL Building Standard」では、サーカディアンシステムへの影響を考慮した光環境について基準が設けられ、日中の適切な光曝露や、時間に応じた光環境、自動シェーディングなどが評価の対象となっている。
また国際照明委員会(CIE)も2024年、光が人間の健康や行動、ウェルビーイングに与える影響について、「Proper Light at the Proper Time」、すなわち「適切な光を、適切な時間に」という考え方を改めて示している。 住宅に求められる光環境に関しても、「どの照明器具を選ぶか」から、「一日を通してどのような光の中で暮らすのか」へと視点が広がり始めている。
サーカディアンライティングとは? 「色温度を変える照明」だけではない
ここで注意したいことがある。
サーカディアンライティングやサーカディアンリズムと照明というと、「朝は白い光」「夜は電球色」という単純な調色機能として理解されることが多い。もちろん色温度は重要な要素であり、それが一概に誤りだとは言えない。しかし本来の光環境設計では、色温度や調光だけを見ればよいわけではない。
人間のサーカディアンシステムに対する光の作用を考える場合には、色温度や調光だけではなく、複数の要素を検討する必要がある。ざっと挙げてみるだけでも、「どのくらいの量の光を浴びるのか?」、「どのようなスペクトルの光なのか?」、「そうした光を何時にどの程度の量を浴びるのか?」、「どのくらいの時間浴びるのか?」などがすぐに思い浮かんでくる。色温度や調光といった単純な問題で解決するわけではないことは知っておいてほしい。
さらに重要なのは、一般的な「lux(ルクス)」が、主として人間の視覚特性を基準にした照度の単位であり、サーカディアンシステムへの作用そのものを示す指標ではないという点だ。
現在では、目に入る光がサーカディアンシステムへ与える作用を評価するため、メラノピックEDI(melanopic EDI)などの指標なども研究・標準化されている。CIEも、こうした非視覚的作用を含む光の評価方法について国際的な計測体系を整備している。
したがって、「青白い照明にすればサーカディアン照明になる」というほど単純ではない。 むしろそこで必要とされてくるのは、自然光と人工光(照明)を連動させ、一日の時間軸そのものを照明計画に組み込むことなのである。
サーカディアンリズムを意識した光環境/朝・昼・夕方・夜でどう変える?
では、住宅ではどのように考えればよいのだろうか? 基本となるのは、自然界に存在する光の変化を意識することだ。
朝はカーテンやシェードを開き、できる限り自然光を取り込む。日中は活動する空間に十分な光を確保する。夕方から照明の明るさを徐々に抑えていき、暖かみのある光へ移行する。そして就寝前には、住宅全体を過度に明るくしない。
たとえば、夜間寝室からトイレへ移動するとき、昼間と同じ明るさの天井照明を点灯する必要はない。足元を確認できる程度、要するにつまずかない程度の、低い位置にほんのりと灯る照明だけを使うという手法も考えられる。
ここでスマートホーム/ホームオートメーションが大きな意味を持ってくる。
毎朝、照明の明るさと色温度を調整し、シェードを開け、夕方になれば再び設定を変更する。こうした操作を住人自身が毎日続けることは現実的ではない。
だからこそ、住宅自体が時間を理解し、毎日の光を読み解き、光環境を自動的に変えていく仕組みが必要になる。



自然光と照明を統合するLutron「HomeWorks」
その代表的なソリューションのひとつが、Lutronの住宅向けトータルホームコントロールシステム「HomeWorks」である。調光装置で著名なLutronのシステムということから誤解されがちだが、HomeWorksは照明だけを制御するシステムではない。住宅全体の照明、電動ウインドウトリートメント、空調などを統合し、時間やシーンに応じた環境を構築できるプロフェッショナル向けのプラットフォームである。日本でも2025年から本格展開されている。

サーカディアンリズムという観点から特に重要なのが、人工照明と自然光をひとつの光環境として扱えることだろう。
HomeWorksでは、DALI、0-10V、DMX、位相、PWMなどさまざまな方式の照明を統合し、調光・調色を含めた全館制御が可能であるとともに、電動シェードや電動ロールスクリーン、電動ブラインドなど、ウインドウトリートメントのコントロールもできる。
例えば、時刻やセンサー情報に応じてシェードを開閉し、自然光を取り込みながら人工照明を組み合わせる、といった光環境を構築できる。



HomeWorksが目指しているのは、照明器具だけの制御ではなく、窓から入る光まで含めた「トータルライトマネジメント」である。この点については、過去の記事を参照してほしい。
HOMMAが実現する「操作しない」サーカディアンライティング
もうひとつ例を挙げよう。シリコンバレー発の住宅テクノロジー企業HOMMAのシステムである。HOMMAが掲げるのは「Built-in Intelligence」という考え方だ。

スマートフォンを取り出して機器を操作することをスマートホームの目的とせず、建築そのものにテクノロジーを組み込み、住人の行動に合わせて住宅が自律的に環境を整えていく。
その代表例のひとつがライティングコントロールである。
HOMMAのシステムでは、センサーが人の動きを検知し、入室すれば照明が点灯し、退室すれば消灯する。そして単なるON/OFFだけでなく、時間帯によって明るさと色温度も自動的に変化する。
現在HOMMAは、一日の自然光の変化を5つの時間帯に分け、それに合わせて照明環境を自動調整するサーカディアンライティングを採用している。住人が毎朝「朝モード」を選択し、夜になったら「夜モード」に切り替える必要はない。時間と人の行動を住宅側が認識し、照明環境を変えていく。
サーカディアンリズムを意識した環境は、一度だけ設定すればよいものではない。一日の中で絶えず変化し続けなければならない。だからこそ、人間が操作するのではなく、住宅が自動的に環境を整える仕組み、すなわち建築統合型スマートホームとの相性がよいのである。
サーカディアンライティングから「時間を設計する住宅」へ
さて、これまで住宅照明のプランニングでは、「どこを、どの程度の明るさで照らすのか」、そして「そのために、どのような照明器具をどこに配置するのか」という、いわば空間を軸とした設計が中心だった。
しかし、サーカディアンリズムという視点を加えると、そこにもうひとつ重要な軸が加わる。
「何時に、どのような光をつくるのか」という時間軸だ。
朝、昼、夕方、夜、そして睡眠中まで、人間の身体の状態は絶えず変化している。そう考えれば、住宅の光環境だけが一日中同じである必要はない。

Image:Tavarius /Shutterstock.com
朝には自然光を積極的に取り込み、活動する時間には十分な光を確保する。夕方になれば徐々に光を落ち着かせ、夜には休息へ向かう環境をつくる。こうした環境の変化を住人自身がその都度操作するのではなく、照明、電動シェード、空調、センサーなどが連携することで、時間や自然光、住人の行動に合わせて自動的に環境が整えられていく。前述したLutron「HomeWorks」やHOMMAは、既にそのような環境を用意している。
人間の身体が24時間を通して変化するのであれば、住宅もまた、その変化に寄り添って環境を変えていく。
これからの住宅に求められるのは、空間だけの設計にとどまらず、そこで過ごす一日の「時間」まで設計することなのかもしれない。サーカディアンライティングとは、そのためのひとつの入口だといっていい。
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LWL online 編集部