Living Insight vol.11 —なぜ高級住宅ほどスイッチが増えるのか?

 取材/LWL online編集部

ラグジュアリー邸宅やヴィラの壁面には、一般的な住宅より多くのスイッチやコントローラーが並ぶことがある。これは、照明を複数のゾーンに分け、電動カーテン、空調、床暖房などを細かく操作するためだ。しかし、設備の高度化が、そのまま操作の複雑化・煩雑化につながってよいわけではない。Crestron、Zennio、Lutronなどの統合スイッチは、個別の機器操作を「シーン」という暮らしの単位にまとめ、壁面の意匠と操作性を両立させる。高級住宅でスイッチが増える理由と、建築統合型スマートホームに求められる解決策を考える。

高級住宅でスイッチが増える大きな理由は「多灯照明」

正確には、住宅の価格が高いほど、必ずスイッチが増えるわけではない。照明や住宅設備を細かくゾーニングし、空間の用途や時間帯に合わせて制御する住宅ほど、操作すべき項目が増えやすいのである。

一般的な日本の住宅では、ひとつの部屋にひとつの主照明を設け、それを壁のスイッチで点灯・消灯する「一室一灯」の考え方が長く採用されてきた。調光・調色機能を備えたLEDシーリングライトが普及した現在も、部屋全体を一台の照明器具で照らす発想は根強く残っている。

一方、ラグジュアリー邸宅や別荘など、上質な住空間の照明は、部屋を均一に明るくすることだけを目的としない。ダウンライト、間接照明、ペンダントライト、ブラケットライト、スタンドライト、アートを照らすスポットライトなど、性質の異なる光を重ねながら空間を構成する。リビングとダイニングが連続する大空間であれば、それぞれのエリアをさらに複数の照明ゾーンに分けることもある。

照明ゾーンが増えれば、個別に点灯・消灯し、明るさを調整するための操作点も増える。高級住宅でスイッチが多く見える背景には、照明設計の密度が高く、ひとつの空間に多くの光のレイヤーが組み込まれていることがある。

電動シェードとLutronの壁面コントローラーを備えたリビング
多灯照明や電動シェードを組み合わせた住空間では、光の表現が豊かになる一方、制御すべき設備も増える。そこで重要になるのが、設備をまとめて扱う操作体系だ

照明だけではない。住宅設備のコントローラーも壁に集まる

壁面に取り付けられる操作部は、照明のスイッチだけではない。電動カーテンや電動ロールスクリーン、空調、床暖房、換気設備、インターホン、セキュリティなど、住宅設備が高度化するほど操作対象も増えていく。オーディオやテレビ、ホームシアターを壁面から操作する住宅もある。

これらの設備を個別に導入すると、照明は照明のスイッチ、カーテンはカーテンのスイッチ、空調は空調のコントローラーというように、用途も形状も異なる操作部が一枚の壁に並ぶ。設計者やインテリアデザイナーが、スイッチ類を目立たせない配置や納まりに腐心するのはこのためだ。

設備の充実は快適性を高める。しかし、操作部を単純に追加していけば、壁面の意匠を乱すだけでなく、「どのボタンを押せば何が動くのか」が分かりにくくなり、操作性も損なわれる。

統合スイッチが「機器操作」を「シーン操作」に変える

従来のスイッチは、ひとつのボタンとひとつの照明回路を対応させる考え方でつくられてきた。しかし、住む人が本当に行いたいのは、「ダウンライトを50%にする」「間接照明を80%にする」といった回路単位の操作ではない。

夕食を始めるための「Dinner」、くつろぐための「Relax」、映画を見るための「Movie」、外出時の「Away」など、生活の場面にふさわしい環境をつくることが目的である。

統合制御システムでは、複数の照明回路や電動カーテンなどの動作を「シーン」として登録できる。ひとつのボタンを押すだけで、照明の明るさを変え、カーテンを閉め、必要に応じてオーディオや空調まで連動させられる。

つまり、統合スイッチとは、増えたスイッチを一枚のプレートに詰め込む製品ではない。設備単位の操作を、生活シーン単位の操作へ置き換えるインターフェースなのである。厳密には、電気回路を直接開閉する一般的なスイッチではなく、住宅システムへ指示を送る「キーパッド」や「ウォールコントローラー」と呼ぶ方が実態に近い。
スマートスイッチやタッチパネルを含む住宅の操作体系については、「ラグジュアリー邸宅の核となるのはインターフェイス」も参照してほしい。

Natural、Sanctuary、Entertainのシーン名を刻印したLutron Alisseキーパッド
「Natural」「Sanctuary」「Entertain」など、機器名ではなく過ごし方をボタンに割り当てたLutronのAlisseキーパッド。シーン制御の考え方を端的に表している
Day、Evening、Nightlightの照明シーンを選択するLutron Palladiomキーパッド
「Day」「Evening」「Nightlight」といった時間帯や用途を選ぶだけで、複数の照明回路をまとめて制御できる

スマートフォンや音声だけでは、壁のスイッチをなくせない

スマートホーム化すれば、すべての操作をスマートフォンやスマートスピーカーに集約できると考えられがちだ。しかし、日常的な照明操作のたびにスマートフォンを取り出し、アプリを開く方法は効率的とはいえない。

音声操作も便利だが、家族や来客を含め、誰もが迷わず使えるとは限らない。夜間に静かに操作したい場面もあれば、複数の人が会話している空間や音楽が流れている場所では、音声認識が安定しないこともある。

そのため、建築統合型スマートホームでも、壁面の操作部は重要なインターフェースであり続ける。必要なのはスイッチを完全になくすことではなく、誰もが直感的に使える少数の操作部へ整理することだ。

CrestronとZennioは住宅設備をひとつの操作体系へまとめる

住宅全体を統合するCrestron(クレストロン)では、Horizonキーパッドなどから、照明、空調、電動シェード、オーディオや映像機器などを操作できる。ボタンの役割や表記を住宅ごとに設定し、Crestron Homeと組み合わせることで、住まい全体の操作体系を統一できる。

国際的な住宅・ビル制御規格KNXに対応するZennio(ゼンニオ)も、照明、空調、ブラインドなどをまとめて操作する多彩なウォールコントローラーを展開している。現行のFlat RGB 55は、1、2、4、6ボタンの構成を選択でき、ガラス面にアイコンや文字、ロゴなどを表示できる。温度センサーやサーモスタット機能も備え、設備操作と室内環境のセンシングを一体化している。

両者に共通するのは、設備ごとに異なる操作部を追加するのではなく、住宅全体のルールに沿ってボタンの配置や役割を整理できる点だ。設計段階で操作体系まで計画することで、壁面をすっきり保ちながら、複雑な設備を直感的に扱えるようになる。

GOOD MORNINGやRELAXなどのシーンボタンを備えたCrestron Horizonキーパッド
「GOOD MORNING」「GOOD NIGHT」「RELAX」など、住まい方に応じたシーンを呼び出すCrestron Horizonキーパッド
素材と仕上げの異なるCrestron Horizonキーパッドのラインアップ
Crestron Horizonは、ボタン構成だけでなく、金属、石材調、木質調など空間に合わせた意匠を選択できる
壁面に並ぶZennioのタッチパネルとスマートホーム用ウォールコントローラー
照明、空調、ブラインドなど、住宅設備の高度化に伴って壁面の操作部も増えていく。写真はZennioが展開する各種ウォールコントローラー
Zennioのロゴと壁面に並ぶスマートホーム用タッチパネル
Zennioは、照明、空調、ブラインドなどをまとめて操作するKNX対応のタッチパネルやウォールコントローラーを展開している

Lutronは統合スイッチをインテリアの一部として考える

統合スイッチには、機能性だけでなく、建築やインテリアとの調和も求められる。その代表例が、Lutron(ルートロン)のPalladiom(パラディオム)キーパッドだ。

Palladiomは、2ボタン、3ボタン、上下調光を備えた3ボタン、4ボタンというミニマルな構成を採用する。メタル、ガラス、マット仕上げなど多彩な素材・仕上げが用意され、ボタンとフェースプレートを同系統の素材でそろえられるため、壁材や家具、建築金物の質感に合わせやすい。

LutronのHomeWorksと組み合わせれば、少数のボタンから照明や電動シェードなどのシーンを呼び出せる。操作部を設備機器として目立たせるのではなく、建築のディテールとして空間に溶け込ませるという考え方である。

PalladiomやGRAFIK Eye QSなどLutronの各種キーパッドを展示した壁面
Lutronが展開するキーパッドとコントローラー。Palladiom、seeTouch、GRAFIK Eye QSなど、用途や空間に応じた多様なインターフェースが用意されている。
電動シェードの開閉と昇降を操作する4ボタンのLutron Alisseキーパッド
電動シェードの「開く」「閉じる」「上げる」「下げる」を4つのボタンへ整理したAlisseキーパッド
木質壁面に設置された真鍮仕上げのLutron Avienaキーパッド
伝統的なトグルスイッチの意匠を取り入れたLutron Aviena。統合制御の操作部にも、空間の様式に応じたデザインが求められる

高級住宅こそ、操作の複雑さを見せない

高級住宅でスイッチが増えるのは、照明や空調、床暖房、カーテンなどを細かく制御し、暮らしの質を高めようとする結果である。しかし、設備が高度になるほど、操作まで複雑にしてよいわけではない。

本当に洗練された住宅では、壁の裏側にある多数の照明回路や設備をシステム側で統合し、住む人には「Relax」「Dinner」「All Off」といった分かりやすい選択肢だけを提示する。

増えるべきなのは、暮らしに合わせた環境の選択肢であり、壁に並ぶスイッチの数ではない。高級住宅のスマートホームに求められるのは、複雑な設備を見せることではなく、その複雑さを建築の中へ美しく隠すことなのである。

FAQ

既存住宅でも統合スイッチに変更できますか?

既存住宅でも、配線状況や採用するシステムによっては統合スイッチへの変更は可能です。ただし、壁面のスイッチ数を大幅に減らすには、照明回路をどこで制御するか、既存配線を流用できるか、あるいは分電盤や制御盤を設置できるかといった検討が必要になってきます。
新築や大規模リノベーションでは、照明計画とスマートホーム設計を初期段階から連携させることが望ましいと言えるでしょう。その場合、スイッチの位置や数を決めてからシステムを追加するのではなく、どのような生活シーンを、どこから操作するかを先に設計することが重要となります。

Lutron公式サイト

Crestron公式サイト

Zennio公式サイト

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    LWL online 編集部

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