Living Insight vol.6 ―スマートホーム必須のVLANとは何か?
取材/LWL online編集部
スマートホームを導入する際、多くの人がまず気にするのは「どの設備をどのようなシステムでどのように動かすのか」だろう。しかし、実際に住まいの中でスマートホームを安定して動かすためには、システムや操作と同じレベルで重要なものがある。それがネットワーク設計だ。
前回の記事では、Wi-Fiは目に見えないインフラでありながら、設計なしに導入すると、通信が不安定になったり、機器が途切れたり、後から原因を特定しづらくなったりすることを解説した。今回はその続編として、スマートホームにおけるネットワーク設計の中でも、特に重要な「VLAN」について取り上げる。
VLANとは、簡単にいえば、ひとつの住宅内ネットワークを用途ごとに論理的に分ける仕組みである。ラグジュアリーレジデンスや別荘、ホームオフィスを備えた住まい、そして多くのスマートホーム機器を導入する住まいでは、この考え方が欠かせない。
スマートホーム時代の住宅ではネットワークを「ひとまとめ」にしない
一般的な家庭では、インターネット回線に家庭用ルーターを接続し、ひとつのWi-Fi名にスマートフォン、パソコン、テレビ、ゲーム機、スマート家電などをまとめて接続していることが多い。
一般的な住宅であれば、それでも大きな問題は起きにくかった。接続する機器の数も限られ、用途もYouTubeなどの動画視聴やWeb閲覧が中心だったからである。
だが、現在の住まいはすでに状況が変わっている。
在宅ワークやオンライン会議、クラウドストレージ、業務用のデータ通信がある。一方で、家族が動画配信サービスを視聴し、ゲームを行い、スマートフォンやタブレットを使う。さらに、ラグジュアリーレジデンスであれば、スマートホームのシステムや、照明・空調・シェード・セキュリティなども接続される。別荘などでは、ゲスト用のネットワークが必要な場合もある。
つまり、ひとつの住宅の中に、仕事、娯楽、住宅設備、来客用通信が混在している状態だ。オフィスの業務端末、設備機器、来客用Wi-Fi、監視カメラをすべて同じネットワークに入れてしまっているわけだ。一般的な住宅では見過ごされがちだが、ラグジュアリーレジデンス、特にスマートホームを導入する住まいでは、本来は分けて考えるべき領域である。
VLANとは何か。物理的に分けず、論理的に分ける技術
そこで、必要とされてきているのがVLANである。VLANは「Virtual LAN」の略で、日本語では仮想LANと訳される。
LANとは、住宅の内部にあるネットワークのことだ。VLANは、そのLANを物理的な配線を完全に分けることなく、用途ごとに論理的に分離するための仕組みである。たとえば、同じ住宅内にある有線LANやWi-Fiを使いながら、次のようにネットワークを分けることができる。
・プライベート用/エンターテインメント用ネットワーク
・ホームオフィス用ネットワーク
・スマートホーム用ネットワーク
このように論理的に分けることで、同じインターネット回線を利用しながらも、それぞれの機器が属する「部屋」をネットワーク上で分けることができるのだ。いわばVLANは、ネットワーク上のゾーニングである。
住まいの中でも、寝室、リビング、書斎、機械室、ゲストルームは役割が違う。それぞれに求められるプライバシー、動線、設備、照明計画が異なる。それと同じように、ネットワークも「つながればよい」という時代から、「用途に応じて分けて設計する」時代に移行している。
なぜスマートホームではVLANが重要なのか?

スマートホームは住宅の中でも特殊な存在である。
スマートフォンやパソコンのように、人が常に画面を見て管理する機器ではない。照明制御、空調制御、床暖房制御、シェード制御、センサー、カメラ、スマートロックなどは、住まいの中に常時接続され、住宅のインフラとして動作する。
一方で、これらの機器はメーカーも通信規格(プロトコル)も異なる。基本的にはローカルネットワーク内で動作するが、遠隔操作や保守・メンテナンスではインターネット経由となる。また、動作する設備のファームウェアの更新頻度やセキュリティ対応もメーカーによって差がある。
このような機器を、仕事用のパソコンや個人のスマートフォンと同じネットワークに入れておくことは、望ましい設計とは言いにくい。
仮にスマートホーム機器のどれかに不具合が起きたり、セキュリティ上の問題が生じたりした場合でも、業務用端末や個人データに容易にアクセスできないようにしておく。これがVLANの大きな役割である。
また、スマートホームで動作する挙動を把握しやすくなる点も重要だ。どの設備・機器がどのネットワークに属しているのかが整理されていれば、トラブル発生時の切り分けがしやすい。
原因究明はネットワークが整理されているかどうかで大きく変わる。
基本は3分割。ホームオフィス、スマートホーム、プライベート利用
スマートホームを導入するラグジュアリーレジデンスや別荘であれば、最低限、ネットワークは3つに分けて考えたい。
ひとつ目は、プライベート利用・エンターテインメント用ネットワークである。
家族のスマートフォン、タブレット、テレビ、ゲーム機、ストリーミング端末、オーディオ機器などはここに入る。動画視聴やゲーム、音楽配信など、日常的なインターネット利用を担う領域である。
ふたつ目は、ホームオフィス用ネットワークだ。
ここには、仕事用のパソコン、業務用スマートフォン、オンライン会議用機器、NAS(データ共有・バックアップ用のネットワーク接続ストレージ)、プリンターなどを接続する。仕事のデータや認証情報を扱う領域であり、安定性とセキュリティを最優先すべきネットワークだ。
三つ目は、スマートホーム用ネットワークである。
照明制御、空調制御、センサー、インターホン、カメラ、スマートスピーカー、ロボット掃除機、家電連携機器などは、このネットワークにまとめる。住宅設備に近い領域として、プライベート利用や仕事用とは分けて管理する。
この3つを分けるだけでも、住まいのネットワークは大きく整理される。子どものSwitchやプレステと、住宅設備を同じ領域に置かずに済む。VLANは単なるセキュリティ対策にとどまらず、暮らしの用途を整理し、住まいのネットワークに秩序を与えるための設計手法なのだ。
「Wi-Fi名を分ける」だけでは不十分
ここで注意したいのは、Wi-Fi名を複数つくることと、VLANでネットワークを分けることは違う、という点である。
家庭用ルーターでは、メインWi-FiとゲストWi-Fiを分けられる製品も多い。たしかに、来客用にゲストWi-Fiを用意することは有効である。しかし、Wi-Fi名が分かれていても、内部では同じネットワークとして扱われている場合が多い。
本格的なVLAN設計では、業務用のネットワーク機器を用いて、アクセスポイント、有線LANスイッチ、ルーター/ファイアウォール側で、どの通信をどのネットワークに所属させるかを設定する必要がある。
たとえば、ホームオフィス用SSID(Wi-Fiネットワーク名)はVLAN 10、スマートホーム用SSIDはVLAN 20、プライベート利用SSIDはVLAN 30、というように割り当てる。さらに、有線LANポートについても、書斎のLAN端子はホームオフィス用、設備ラック内のLANポートはスマートホーム用、リビングのAV機器用LANはプライベート利用またはAV用、といった設計を行う。
VLANは、Wi-Fiの設定だけで完結するものではないことを知っておいてほしい。住宅内の有線LAN、アクセスポイント、スイッチ、ルーター、ファイアウォールまで含めたネットワーク全体の設計である。
スマートホーム用ネットワークは「閉じ込める」のではなく「適切に通す」
VLANというと、「機器同士を完全に遮断するもの」と捉えられがちだ。しかし、住宅においては、単純に分断すればよいわけではない。
スマートホームでは、スマートフォンのアプリから照明や空調を操作したり、タブレットからシーンを呼び出したり、音声アシスタントから各機器を制御したりする。そのため、プライベート利用のネットワークからスマートホーム用ネットワークへ、必要な通信だけを通す設計が必要になる。
ここがVLAN設計の肝なのだ。
ただ分けるだけなら比較的簡単である。しかし、実際の住まいでは「分ける」と「つなぐ」のバランスを取らなければならない。仕事用端末からスマートホーム機器へは原則アクセスさせない。一方で、家族のスマートフォンからは照明制御を使えるようにしなくてはならない。外部からの遠隔操作は、必要なものだけ許可する。管理会社やインテグレーターがメンテナンスする場合には、専用のアクセス経路を用意する。
ラグジュアリーレジデンスにおけるスマートホームに求められるのは、便利操作にとどまらない。長期間にわたって、安全で、安定し、保守できる仕組みである。
家電量販店で買うWi-Fiではなく、住宅設備としてのネットワークへ

VLANを導入するには、対応したネットワーク機器が必要になる。
家庭用ルーターだけでは、十分なVLAN設計ができないことも多い。プロ向けのルーター、マネージドスイッチ、アクセスポイントを組み合わせることで、初めて住宅内のネットワークを用途別に制御できる。
これは決して、家庭にオフィス並みの複雑なシステムを持ち込むという意味ではない。むしろ、スマートホーム化された住宅では、ネットワークがすでに住宅設備の一部になっているということだ。
照明制御、シェード制御、空調制御、セキュリティ、AV機器、ホームオフィス、エネルギーマネジメント。こうした設備や機材がネットワークに接続される以上、ネットワークはもはや単なるインターネット接続装置ではないのだ。
住宅の電気設備、照明計画、空調計画と同じように、ネットワークにも設計が必要になる。
新築時やリノベーション時には、配線、機器配置、VLAN、Wi-Fiアクセスポイント、ラック、電源、保守経路まで考えておくべきである。
VLANはラグジュアリー住宅の「見えない品質」を支える
ラグジュアリーな住宅において、品質は目に見える素材や家具だけで決まるものではない。
照明が意図したとおりに灯り、空調が安定して動き、音楽や映像が途切れず、セキュリティカメラが確実に記録する。たとえ家族全員がバラバラに動画を視聴していても、スマートホームに障害は起こらない。こうした「何も起こらない快適さ」を支えているのが見えないインフラなのだ。
VLANはその中でも特に重要な仕組みだ。普段の暮らしの中で、住まい手がVLANを意識することはないかもしれない。しかし、ネットワークが整理されている住宅と、すべてがひとつに混在した住宅では、安定性、保守性、安全性に大きな差が出る。
スマートホームはネットワークを分けてこそ安心して使える
スマートホームを導入するなら、ネットワークはひとつにまとめるのではなく、用途ごとに分けて設計するべきである。最低限考えたいのは、プライベート用、ホームオフィス用、スマートホーム用の3分割だ。必要に応じて、来客用ネットワーク、管理会社用ネットワーク、AV専用ネットワークなどを追加していくことも考えられる。
VLANはスマートホーム・インテグレーターであれば、構築できる技術である。そして、ラグジュアリー邸宅において、仕事、暮らし、住宅設備、娯楽を整理するための基本的な設計思想である。
これからの住宅では、ネットワークも建築の一部として考える必要がある。VLANは、そのための第一歩である。
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