Living Insight vol.5 ―なぜWi-Fiの設計が必要なのか?

 取材/LWL online編集部

Wi-Fiは目に見えない。多くの住宅では「ルーターを置けばつながるもの」と考えられがちだ。しかし、現代の生活におけるWi-Fiは、水道や電気、照明と同じく、住まいのインフラである。しかもその品質は、間取り、壁の素材、階層、家具、家電、さらには人の動きによって大きく変化する。

いまやWi-Fiは、スマートフォンやPCでインターネットにつなぐためだけのものではなくなった。テレビ、ストリーミング機器、ロボット掃除機、監視カメラ、スマートロック、照明、空調、音響機器といった住宅の多くの機能がネットワークにつながる時代になった。にもかかわらず、Wi-Fiだけが「最後にルーターを置けばよいもの」と扱われるなら、住まいの快適性はそこで大きく損なわれる。

スマートフォンや家電がWi-Fiでつながるスマートホームのイメージ
スマートフォン、PC、照明、音響、家電など、住宅内の多くの機器がネットワークにつながる時代になった
Image:Gorodenkoff /Shutterstock.com

Wi-Fiは壁・床・天井で遮られ、弱くなる

Wi-Fiは無線で通信を行う技術である。ケーブルがないため自由に見えるが、実際には電波という物理的な性質を持った信号が、空間を伝わっていく。

電波は、壁を通れば弱くなる。床を越えれば減衰する。金属、鏡、鉄筋コンクリート、床暖房、断熱材、浴室まわり、キッチンの大型家電などは、電波にとって障害物になりやすい。見た目には開放的なLDKであっても、構造材や設備の配置によって、Wi-Fiにとっては複雑な空間になっていることがある。

さらに、Wi-Fiは反射もする。電波が壁や家具に当たり、複数の経路で端末に届くことで、通信品質が乱れることもある。つまりWi-Fiは、単に「届く/届かない」ではなく、「どの程度の強さで、どの程度安定して届くか」が問題になる。

「速度が速いルーター」だけでは解決しない

Wi-Fiに対する不満は、しばしば「速度が速い」「速度が遅い」という言葉で表現される。だが住宅で本当に問題になるのは、最大速度ではなく、安定性である。

動画配信が途中で止まる。オンライン会議で声が途切れる。スマート家電が反応しない。寝室ではつながるが浴室前では切れる。こうした現象は、回線そのものの速度ではなく、住宅内のWi-Fi環境の安定性に原因がある場合が少なくない。

最新のルーターに買い替えれば改善することもあるが、アクセスポイントの位置、台数、電波の重なり方、各部屋への有線LAN配線、機器ごとの接続先が整理されていなければ、高性能機器の能力は十分に発揮されない。

これはメッシュWi-Fiでも同じだ。メッシュWi-Fiは便利な解決策のひとつだが、「置けば全館が安定する」魔法の仕組みではなく、親機と子機の位置関係、有線バックホールの有無、電波の干渉を考えなければ、かえって不安定なネットワークになることもある。

リピーターとメッシュWi-Fiの違いを示すネットワーク図
メッシュWi-Fiは便利な手段だが、親機と子機の位置関係や有線バックホールの有無を考えなければ、安定した通信環境にはならない
Image:Shutterstock AI Generator /Shutterstock.com

大切なのは、速い機器を買うことではなく、住まい全体で、どこに、どの程度の品質の通信を届けるかを考えることだ。要するに、設計が必要になってくるのだ。

Wi-Fiは共有されるインフラである

Wi-Fiはひとつの空間を複数の機器が共有して使う。スマートフォン、PC、テレビ、ゲーム機、スピーカー、カメラ、ロボット掃除機、IoT機器が同時に通信すれば、電波の空間は混み合っていく。

大ざっぱに喩えると、Wi-Fiは道路のようなものだ。道路幅が広くても、交差点の設計が悪ければ渋滞する。車線が多くても、入口と出口が混乱していれば流れは悪くなる。Wi-Fiも同じで、単に電波を強くすればよいわけではない。

近隣住宅のWi-Fi、集合住宅の隣室、複数のアクセスポイント同士の干渉も考える必要がある。電波は敷地境界や壁を完全には理解してくれない。だからこそ、チャネル設計、出力調整、アクセスポイントの配置が必要になる。

住宅の高性能化がWi-Fiを困難にしている

現代の住宅は、気密性、断熱性、防音性、耐震性が高まっている。これは住環境としては望ましい進化だが、Wi-Fiにとっては必ずしも有利ではない。

厚い壁、複層ガラス、金属を含む建材、床暖房、遮音構造、防火区画などは、電波の通り方に影響する。美しい造作家具や壁面収納も、設置後には電波環境を変える要素になる。

また、ラグジュアリー邸宅や別荘では、建物の規模が大きく、階層や離れ、屋外空間、ガレージ、サウナ、プール、庭までネットワークを伸ばしたいケースもある。こうした住まいでは、そもそも市販ルーター1台で全体をまかなう発想そのものに無理がある。

スマートホーム時代のWi-Fiは「生活設備」になる

スマートホームを導入する場合は、Wi-Fiの重要性はさらに増す。照明、空調、カーテン、セキュリティ、音響、映像、家電がネットワークにつながると、Wi-Fiの不調はそのまま暮らしの不調になる。

たとえばスマートロックが反応しない、監視カメラの映像が途切れる、音楽再生が部屋ごとにずれる、ロボット掃除機がマップを更新できない。これらは単なる通信トラブルではなく、住まいの機能そのものの信頼性に関わる問題である。

特にホームオートメーションでは、ネットワークの安定性が前提になる。照明シーン、空調制御、防犯通知、遠隔操作は、どれもネットワークが安定していて初めて成立する。Wi-Fiは、もはや「インターネットを見るための便利機能」ではない。住宅設備の一部として捉えるべき段階に来ている。

照明やセキュリティがネットワークにつながるスマートホーム住宅
照明、セキュリティ、空調、エネルギー機器までつながる住まいでは、ネットワークの安定性が暮らしの信頼性を左右する
Image:TechAnimationStock /Shutterstock.com

Wi-Fi設計とは電波を「強くする」ことではない

Wi-Fi設計というと、電波を強くすることだと思われがちだ。しかし実際には、むやみに強い電波を出せばよいわけではない。

使う場所に適切な品質を届けること、アクセスポイントを適切な位置に配置することが必要だ。部屋ごと、階ごと、屋外空間ごとに必要な通信品質を考え、複数のアクセスポイントが互いに干渉しないよう調整する。そして、重要な機器にはできるだけ有線LANを使い、Wi-Fiに過度な負荷をかけないことも大切だ。

つまりWi-Fi設計とは、無線だけの話ではない。有線LAN、ルーター、スイッチ、アクセスポイント、VLAN、セキュリティ、保守まで含めた、住宅ネットワーク全体の設計である。

有線LANやスイッチを含む住宅ネットワーク設計のイメージ
Wi-Fi設計は無線だけの話ではない。有線LAN、スイッチ、アクセスポイント、VLAN、保守体制まで含めて考える必要がある
Image:FOTOGRIN /Shutterstock.com

見えないからこそ、最初に考える

Wi-Fiは見えない。だから後回しにされやすい。しかし、見えないものほど、完成後に直すのが難しい。

壁の中にLAN配線を通し、最適な位置にアクセスポイントを設置し、機器収納やラックの位置を決め、屋外や離れまでネットワークを伸ばすといったプランは、建築計画や電気工事の段階で考えておくほど、自然に、美しく、安定した形で実現できる。

Wi-Fiはインテリアの邪魔をしない存在であるべきだ。しかし、それは「考えなくてよい」という意味ではない。むしろ、見えない場所にきちんと設計されているからこそ、住まいの美しさと快適性を損なわずに機能する。

照明が空間を整え、空調が室内環境を整えるように、Wi-Fiは現代の住まいの情報環境を整える。見えないからこそ、設計が必要なのだ。

FAQ

スマートホームを導入する場合、家庭用ルーターで問題ありませんか?

ワンルームなどの小規模な住まいで、接続機器がスマートフォンやPC、数台のスマート家電に限られる場合は、家庭用ルーターでも問題なく運用できる場合もあります。
しかし、照明、空調、カーテン、監視カメラ、スマートロック、音響・映像機器、ロボット掃除機などを住宅全体で連携させる場合は、家庭用ルーターだけでは不十分です。機器数が増えるほど通信は混み合い、セキュリティや遠隔保守、機器ごとのネットワーク分離も重要になります。最低でもネットワークを分割(VLAN)できるように、業務用ルーターや業務用スイッチを中心に、有線LAN配線、アクセスポイント、保守体制まで含めた住宅ネットワークとして設計する必要があります。

Wi-Fi設計が求められる現代住宅のリビングダイニング
Wi-Fiは目に見えないが、現代の住まいでは照明や空調と同じく、快適性を支えるインフラのひとつになっている
Image:Alhim /Shutterstock.com

関連記事
高級住宅にWi-Fi設計は必要か? スマートホームを支えるネットワーク設計とは
スマートホームに有線LANはまだ必要か? Wi-Fi時代にこそ配線計画が重要になる理由

  • 取材

    LWL online 編集部

Related articles 関連する記事

  1. home Home
  2. COLUMN
  3. Living Insight vol.5 ―なぜWi-Fiの設計が必要なのか?