自然とテクノロジーが共鳴する別荘建築。建築家、高橋昌宏氏が語る、軽井沢の豊かな暮らし

株式会社 エムズ・アーキテクツ / 一級建築士事務所 代表取締役/高橋 昌宏 

別荘とは、都市では得られない自然との距離、家族や友人と過ごす時間、そして心身を整える体験を受け止める建築である。LWLサテライトイベント「The Luxury Villa & Outdoor Living Experience」に登壇するエムズ・アーキテクツ代表・高橋昌宏氏に、軽井沢の別荘建築の魅力と難しさ、自然環境とテクノロジーの関係、そしてこれからのラグジュアリーな別荘のあり方を聞いた。

エムズ・アーキテクツ高橋昌宏氏と別荘建築の模型
軽井沢を中心に数多くの別荘・リゾート建築を手がけてきた、エムズ・アーキテクツ代表の高橋昌宏氏

LWLサテライトイベントと連動。高橋昌宏氏に聞く、これからの別荘建築

2026年7月9日、LWL(Living Wellness in Luxury)は、南青山・IDEALビルにて完全招待制イベント「LWL Satellite Event The Luxury Villa & Outdoor Living Experience」を開催する。今回のテーマは「自然とテクノロジーが共鳴する、これからの別荘建築」。ゲストスピーカーには、軽井沢を中心に数多くの別荘・リゾート建築を手がけてきた、株式会社エムズ・アーキテクツ代表取締役/一級建築士の高橋昌宏氏を迎える。

高橋氏は、日本大学理工学部建築学科を卒業後、一級建築士事務所アルテ・ワンを経て、2005年に一級建築士事務所エムズ・アーキテクツを設立。2011年には株式会社エムズ・アーキテクツ代表取締役に就任した。軽井沢をはじめ、日本各地の豊かな自然環境における別荘・リゾート建築を中心に、建築・インテリアの企画、設計、監理を手がけてきた建築家である。

同事務所では、敷地の持つポテンシャルを読み解き、自然と建築が互いを高め合う空間づくりを重視している。建築単体にとどまらず、植栽、家具、カーテンなどを含めたトータルなライフスタイルデザインを提案している点も、高橋氏の仕事を特徴づけている。

今回、LWL onlineではサテライトイベントに先立ち、高橋氏にインタビューを実施した。別荘建築の魅力と難しさ、軽井沢特有の気候条件、設備と建築の関係、不在時の維持管理、そしてスマートホームの可能性について話を聞いた。

別荘とは「何かを強烈に求めて建てる建築」である

別荘建築について語るエムズ・アーキテクツ高橋昌宏氏
高橋氏は別荘を「何かを強烈に求めて建てる建築」と説明

高橋氏がまず語ったのは、住宅と別荘の根本的な違いについて。

「建築として一番大きな違いは、本宅があって、別荘があるということです。ですから、その別荘に何を求めるかが一番大事になります。考えようによっては、別荘はまったく必要のない建物とも言えます。どうしてもこれがないと生きていけない建物ではありません。余裕ができて、そのうえで何かを求めて、強烈に何かを求めて建てる建築です」

都市住宅は生活の基盤であり、日々の機能を支える器である。一方で別荘は、必需品というわけではない。だからこそ、施主がそこに何を求めるのかが、設計の出発点になる。

「軽井沢であれば、やはり自然です。都内の、土のないところで生活している。マンションの中で、景色もある程度限定された中で生活している。そういうものと対極にあるものを求めて、別荘を建てる方が多いのだと思います。ですから、われわれ設計の立場としては、クライアントが何を求めているのかを引き出すことが大切になります」

高橋氏にとって別荘建築とは、都市生活の中で失われがちな自然との距離、時間の豊かさ、家族や友人と過ごす感覚、あるいは非日常の中で回復していく身体感覚を、建築としてどう立ち上げるか。その問いから始まるのである。

軽井沢の自然と調和する平屋の別荘建築
エムズ・アーキテクツが手がけた別荘。
写真:株式会社エムズ・アーキテクツ/一級建築士事務所

「週末の場所」から「暮らしの拠点」へ。コロナ禍以降の変化

では、施主は別荘に何を求めているのか。高橋氏は、都市と自然のバランスを生活の中で取り直すことが、近年ますます重要になっていると語る。

「都心と自然とのバランスを、生活の中でどう取っていくか。その割合は年月によって変わってきています。わたしが別荘建築を始めた20年ほど前は、それこそ週末だけ使う、夏は少し長くいる、冬は寒いからあまり行かない、という方もいらっしゃいました。それがだんだん変わってきて、コロナ禍で大きく変化しました」

以前は、別荘はあくまで週末や長期休暇に訪れる場所だった。しかしコロナ禍を経て、軽井沢に生活の軸足を移す人も現れたという。

「東京をむしろ別邸のようにして、軽井沢に本拠地を置く方も増えてきました。都内には50〜60平米ほどの部屋を持って、ご主人が仕事で帰れない時はそこを使う。完全に家族ごと軽井沢に移住する方もいらっしゃいます。もちろん、多数を占めるわけではありません。ただ、以前は本当に珍しかったそういう方が、確実に増えてきたというのが、コロナ禍以降の大きな変化です」

その背景にあるのは、リモートワークの定着である。オンライン会議やクラウド環境の普及によって、都市にいなくても多くの仕事が成立するようになった。

「まさかZoomで打ち合わせが進むようになるとは、コロナ前にはなかなか考えられませんでした。でも、かなりの仕事がそうやって成り立つようになった。だからこそ、ライフスタイルが変化してきたのだと思います」

その変化は、別荘の間取りにも表れている。

「いまは、Zoomができるような場所が必要になります。ただ、閉じすぎると狭くて楽しくない空間になってしまう。ですから普段は廊下の一部、ワンコーナーの書斎のように使い、いざとなったら大きな扉を閉めて、プライベートな会議室のように使える。そうした空間のつくり方も増えています」

別荘は、休むためだけの場所ではなくなりつつある。自然の中で仕事をし、家族と過ごし、都市とは異なる時間の密度を味わう場所へと変化している。その意味で、これからの別荘建築は「非日常」だけでは成立しない。むしろ日常と非日常が重なり合う、新しい生活拠点として考える必要がある。

広いテラスを備えた軽井沢の別荘建築
エムズ・アーキテクツが手がけた別荘。
滞在時間が長くなるほど、別荘には休息だけでなく、仕事や家族との時間を受け止める空間性が求められる
写真:株式会社エムズ・アーキテクツ/一級建築士事務所

軽井沢の難しさは、寒さ、湿気、そして地盤

自然の中で暮らすことは、豊かさをもたらす一方で、その土地固有の厳しさを引き受けることでもある。軽井沢の別荘建築において、高橋氏が特に重要だと語るのが、寒さ、湿気、そして地盤である。

「生活の比重が大きくなればなるほど、収納量も必要になりますし、オールシーズンで使うことになります。そうなると、真冬をどう過ごすかが大切になります。軽井沢は最低気温がマイナス15度ぐらいになることもあります。寒い、湿気が多い、そして地盤が弱い。軽井沢の難しさは、このあたりにあります」

寒さへの対応として、まず重要になるのは断熱である。

「基本中の基本は断熱です。それも東京とは違うレベルで考える必要があります。断熱材も、断熱性能の高いものを使います。ただ、わたしたちが設計する別荘は、比較的大きなガラス面を用いることが多い。自然を大きく取り込もうとすれば、どうしてもガラスが重要になるからです」

ガラス面を大きく取ることは、自然とのつながりを生み出すうえで大きな意味を持つ。一方で、冬の寒さに対しては慎重な計画が必要になる。高橋氏は、高性能なペアガラスなどを用いながら、断熱性能を確保しているという。

「もうひとつ大切なのが床暖房です。東京だとダイニングの下だけ、リビングの前だけということも多いと思いますが、軽井沢の場合は部屋も廊下も、隅から隅まで床暖房を敷きます。部屋の隅まで全部行き渡らせて、輻射熱で温める。天井が高くても、下からふわっと温まってくるので、冬でも非常に温熱環境がよくなります」

軽井沢の別荘において、もうひとつ重要なのが湿気。高橋氏は、軽井沢の景観そのものが湿気によってつくられている面があると指摘する。

「軽井沢の苔むした道というのは、まさに湿気がつくった景観です。リゾート地で、これだけ湿気が高いところは珍しいと思います。昔の富裕層の別荘では、使用人を一人置いて、毎日窓を開けて空気を入れ替える必要がありました。そうしないと湿気がこもってしまうんです」

かつては人の手で行っていた換気や湿気対策を、現在ではテクノロジーが担うようになっている。

「湿気対策は軽井沢では必須です。いまは自動で湿度を感知して除湿する製品があります。もはやそれがないと、軽井沢の別荘は成り立たないと言ってもいい。別荘は不在の期間が長いので、いない時にいかに除湿するかが大事です」

久しぶりに訪れた別荘がカビ臭い。布団がカビている。そうした話は、古くから軽井沢の別荘で聞かれてきたという。高橋氏によれば、現在でも古い別荘を持つ人の中には、布団を専門業者に預け、乾燥させておき、宿泊時に届けてもらうような使い方があるという。

つまり、軽井沢の別荘建築において、テクノロジーは単なる便利機能ではなく、自然豊かな場所で快適に過ごすための、きわめて実務的かつ不可欠な基盤なのである。

夕景に照明が灯る軽井沢の別荘と庭
エムズ・アーキテクツが手がけた別荘。
大きな開口部は自然との一体感を生む一方、寒冷地では断熱や床暖房との両立が重要になる
写真:株式会社エムズ・アーキテクツ/一級建築士事務所

不在時のリスクをどう乗り越えるか?

別荘は、使っていない時間の方が長い建築である。そのため、維持管理の考え方も都市住宅とは大きく異なる。

高橋氏は軽井沢の別荘では管理会社の存在が欠かせないと語る。

「管理会社に頼らないと、なかなか成り立ちません。たとえば雪の問題があります。軽井沢では傾斜屋根にしなければならないという決まりがあり、屋根に積もった雪は必ず下に落ちます。それがガレージの前などに落ちると、2週間以内に取り除かないと、昼に溶けて夜に固まり、次第に人の力ではどうにもならない氷の塊になってしまう。そうなると車も出せません」

さらに冬場は、凍結対策も必要になる。軽井沢では都市ガスが入っていない場所も多く、熱源として灯油を用いるケースが多いという。

「プロパンガスよりも灯油の方がランニングコストを抑えられる場合が多いので、熱源は灯油にすることが多いです。冬の間、毎週、あるいは2週間に一度来られる方も多いので、水抜きをせずに通水したまま、床暖房を最小にしてつけっぱなしにすることがあります。いつでも来られるようにするためです」

しかし、その運用にはリスクもある。最も怖いのが停電だ。

「停電すると、床暖房が止まってしまいます。停電によって復旧せず、春になってみると凍結して水が噴き出していた、ということもあります」

だからこそ、管理会社による巡回や確認が不可欠になる。

「建てた後には管理会社をご紹介します。いろいろなタイプの管理会社がありますので、クライアントがもともと知っているところがあれば、そこも含めて検討してもらいます。落ち葉の清掃もありますし、手では拭けない窓もあります。やはり管理会社なしでは難しいですね」

この領域において、今後のスマートホームの進展や遠隔監視技術が果たす役割は大きい。温湿度、床暖房、停電、漏水、除湿、空調、照明、外部設備の状態を可視化し、オーナーと管理会社が共有できるようになれば、別荘の安心感は大きく高まるだろう。

森に囲まれた別荘建築を上空から見た俯瞰写真
エムズ・アーキテクツが手がけた別荘。
写真:株式会社エムズ・アーキテクツ/一級建築士事務所

テクノロジーは、自然を消すためではなく、自然を楽しむためにある

高橋氏の話を聞いていて印象的なのは、テクノロジーが建築の前面に出てくるのではなく、自然を楽しむための下支えとして語られている点である。

たとえば湿気対策、床暖房。いずれも、自然を遮断するための技術ではない。むしろ、森の中で大きく開いた空間をつくり、冬の軽井沢を楽しみ、久しぶりに訪れた時にも快適に過ごすための技術である。

「以前は、灯油の床暖房を遠隔で操作することができませんでした。ですから、次の日に行くとなると、管理会社に電話して、前日からつけておいてもらう必要がありました。ところが、ここ数年でスマートフォンのアプリから操作できるものが出てきた。ようやく管理会社の手を煩わせずに、自分で操作できる環境になってきました」

この変化は大きい。別荘に到着してから暖まるのを待つのではなく、行く前に環境を整えておく。寒さや湿気といった自然条件を、設備によってあらかじめ調整しておく。そうすることで、別荘で過ごす時間の質は大きく変わる。

ただし、テクノロジーは目的ではない。目的はあくまでも自然の中で心地よく過ごすことであり、建築が引き出す時間や体験を損なわないことである。スマートホームは建築の表情を乱すものではなく、空間の裏側で静かに機能する存在であるべきだろう。

屋根付きテラスと室内が連続する別荘の夜景
エムズ・アーキテクツが手がけた別荘。
写真:株式会社エムズ・アーキテクツ/一級建築士事務所
森の中で光を放つ大開口の別荘建築
エムズ・アーキテクツが手がけた別荘。
写真:株式会社エムズ・アーキテクツ/一級建築士事務所

サウナとテラスが生む、別荘ならではの体験価値

ラグジュアリーな別荘を成立させるうえで、近年ますます重要になっているのが体験価値である。高橋氏によれば、現在の別荘建築においてサウナは「マスト」といえるほど一般化しているという。

「自宅だとサウナまで入れるかどうかは悩まれると思います。でも、せっかくの別荘ですし、面積にも余裕がある。建ぺい率や容積率をそこまでシビアに考えずに建てられるケースもあります。小さいものからそれなりに大きなものまで、皆さん好みに応じてサウナを入れられます。いまは本当にマストになっています」

一方で、プールについては地域性が表れる。温暖なエリアでは屋外プールが大きな魅力になるが、軽井沢では本当に気持ちよく屋外で泳げる期間が限られる。冷涼な気候や水温の条件を踏まえると、軽井沢における水まわりの体験は屋内のプールの方が多いという。その場合、フィットネスと連動するかたちで屋内プールを設けるケースが増えているとのこと。

体験価値という点で、高橋氏が別荘建築で大切にしているのが、屋根付きのテラスである。

森に面した屋根付きテラスとアウトドアリビング
エムズ・アーキテクツが手がけた別荘。
日差しや雨を避けながら、自然の中で過ごせる屋根付きテラス。高橋氏が別荘建築で重視する要素のひとつ
写真:株式会社エムズ・アーキテクツ/一級建築士事務所
森とつながるウッドデッキを備えた別荘の夕景
エムズ・アーキテクツが手がけた別荘。
室内と森の間に設けられたウッドデッキが別荘ならではの外部空間を生み出す
写真:株式会社エムズ・アーキテクツ/一級建築士事務所

別荘を建てる理由が、自然を感じることにあるのなら、室内だけで完結する建築では十分ではない。外でありながら、日差しや雨を避けられる場所。朝食をとり、夕方にくつろぎ、夜には森を眺めながら食事ができる場所。そこに屋外用の暖炉や焚き火の要素が加われば、別荘ならではの時間はさらに濃密になる。

庭や植栽についても、高橋氏は都市住宅的な整え方とは異なる考え方をとる。人工的に刈り込まれた庭ではなく、なるべく手のかからない自然の木を植え、森の中に建築がすっと入り込んでいるような状態を目指す。ラグジュアリーとは、過剰に飾ることではなく、自然と建築が互いを引き立て、そこで過ごす時間が豊かになることだということが、高橋氏の話からは伝わってくる。

夜の森に開かれた軽井沢の別荘とウッドデッキ
エムズ・アーキテクツが手がけた別荘。
写真:株式会社エムズ・アーキテクツ/一級建築士事務所

これからの別荘建築は、自然と暮らし、自然を管理する建築へ

今回のインタビューを通して見えてきたのは、別荘建築が大きな転換点にあるということだ。

かつて別荘は、週末や夏季休暇に訪れる非日常の場だった。しかし現在は、多拠点居住やワーケーションの広がりによって、より日常に近い場所になりつつある。仕事をし、家族と過ごし、冬にも滞在し、自然の中で暮らす。そうした使われ方が広がれば、建築に求められる条件も変わる。

同時に、自然環境の厳しさは消えない。寒さ、湿気、積雪、停電、地盤、不在時のリスク。これらを正しく理解し、建築と設備の両面から応答していく必要がある。

高橋氏の言葉を借りれば、別荘とは「何かを強烈に求めて建てる建築」である。その「何か」は、自然とのつながりであり、都市では得られない時間であり、心身を整える体験であり、家族や仲間と過ごす豊かさでもある。

そしてこれからの別荘では、その体験を支えるために、テクノロジーの役割がいっそう重要になる。自然とテクノロジーは対立するものではない。自然をより深く味わうために、テクノロジーが建築を静かに支える。そこに、これからのラグジュアリーな別荘建築の可能性がある。

森の中に配置された別荘建築を上空から見た写真
エムズ・アーキテクツが手がけた別荘。
写真:株式会社エムズ・アーキテクツ/一級建築士事務所
夕暮れの自然に開かれたラグジュアリーな別荘建築
エムズ・アーキテクツが手がけた別荘。
自然と建築、そしてテクノロジーが静かに響き合うこと。そこに、これからのラグジュアリーな別荘建築の可能性がある
写真:株式会社エムズ・アーキテクツ/一級建築士事務所

株式会社エムズ・アーキテクツ/一級建築士事務所

  • 株式会社 エムズ・アーキテクツ / 一級建築士事務所 代表取締役

    高橋 昌宏

    日本大学理工学部建築学科卒業。一級建築士事務所アルテ・ワンを経て、2005年に一級建築士事務所エムズ・アーキテクツを設立。2011年、株式会社エムズ・アーキテクツ代表取締役に就任。軽井沢をはじめ、日本各地の豊かな自然環境における別荘・リゾート建築を中心に、建築・インテリアの企画、設計、監理を手がけている。2015年グッドデザイン賞、2018年モダンリビング大賞受賞。近年は、別荘に求められる非日常性、快適性、管理性を見据えながら、建築とテクノロジーがひらく新しいリゾートライフの可能性にも目を向けている。

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