Living Insight vol.2 ―なぜロボットは階段が苦手なのだろうか?

 取材/LWL online編集部

ロボット掃除機は、厚手のラグや敷居といった「段差」を越え始めている。Dreame X50 UltraやRoborock Saros 20のように、数センチ級の障害物に対応するモデルが登場し、さらにDreame Cyber XやRoborock Saros Roverのような階段対応モデルも姿を見せ始めた。では、なぜロボットにとって階段は、これほど難しいのか。段差と階段の違いから、スマートホームにおけるロボットの次の課題を整理する。

「段差」を越え始めた掃除ロボット、その次の壁は「階段」

近年、ロボット掃除機は、これまで壁とされてきた「段差」を克服しつつある。

たとえばDreame X50 Ultraは、ProLeapと呼ばれる機構により最大6cmの障害物対応をうたう。Roborock Saros 20も、AdaptiLift Chassis 3.0によって、単段約4.5cm、二段で最大8.8cm級の敷居越えに対応する。

これまでロボット掃除機が苦手としてきた厚手のラグ、サッシのレール、部屋と部屋の小さな敷居に対して、各社の技術は明らかに進化している。

Roborock Saros 20 段差を乗り越えるロボット掃除機
最大8.8cmの二重段差を乗り越えるRoborock「Saros 20 Sonic」。Roborock Saros 20シリーズは、高い段差乗り越え性能を備えた新世代ロボット掃除機。段差対応の進化は、階段対応へ向かう第一歩でもある

さらに先を見れば、Dreame Cyber XやRoborock Saros Roverのように、階段を登ることを前提にしたモデルも、コンセプトモデルとして姿を見せ始めている。筆者も両者を目の当たりにしたが、ロボットがついに立体を認識し始めたことに驚いた。

では、なぜロボットにとって階段は、ここまで大きな課題なのだろうか?

「段差」と「階段」はまったく違う

「段差」と「階段」はまったく違うということがポイントだ。

数センチの敷居であれば、ロボットは本体を少し持ち上げ、駆動輪の力で乗り越えることができる。これは、床面を移動するロボットにとって、障害物回避の延長線上にある。

一方、階段はそうではない。一段を越えれば終わりではなく、同じ動作を何度も連続して行う必要がある。しかも、上るだけではない。途中で止まり、向きを変えることもある。また、降りる、人が来たら待つ、落下しないなど、瞬時の高度な判断が必要になる。さらに掃除ロボットである以上、可能なら踏み面も掃除しなければならない。

つまり階段は、単なる大きな段差ではない。連続する障害物であり、同時に住宅内の移動経路でもある。

階段はロボットにとって最も複雑な移動環境

一般的なロボット掃除機は、そもそも階段を登るために設計されていない。

丸く、薄く、低重心であることは、家具の下に入り込み、床面を安定して走行するには有利だ。しかし階段を登るには、本体を持ち上げる機構、滑らない駆動部、落下を防ぐ制御、前方と下方を同時に見るセンサーが必要になる。

センサーの考え方も変わる。従来のロボット掃除機にとって、階段は「近づいてはいけない場所」だった。多くの機種には段差を検知するセンサーがあり、床が急になくなると、落下の危険として停止・後退する。

しかし、階段を登るロボットでは、その「危険な段差」を、今度は移動経路として認識しなければならない。避けるべき場所なのか、登るべき段なのか。その判断には、より高度な空間認識が求められる。

さらに住宅の階段は均一ではない。直階段、折り返し階段、曲がり階段、らせん階段。踏み面の奥行き、蹴上げの高さ、段鼻の出方、カーペットの有無、手すりや巾木の形状も異なる。

人間は視覚と足裏の感覚で自然に調整しているが、ロボットにとっては一段一段が未知の障害物になる。

登れるだけでは掃除ロボットとしては十分ではない

もうひとつ重要なのは、掃除ロボットは「移動できればよい」わけではないということだ。

階段を単に上り下りするだけなら、搬送用ロボットとして成立するかもしれない。しかし購買者が期待するのは、各階を掃除すること、さらに階段そのものも掃除することだ。

階段の踏み面は狭く、端にはホコリがたまりやすい。そこを掃除するには、吸引、ブラシ、姿勢制御、安全停止を同時に成立させる必要がある。階段の上で本体が傾いたり、ブラシが端に届かなかったり、途中で動けなくなったりすれば、掃除ロボットとしての実用性は大きく下がってしまう。

また、階段は人も頻繁に使う場所である。家族が上り下りする途中にロボットが停止していれば、かえって危険になる。階段対応には、移動性能だけでなく、人との共存、安全性、静音性、動作速度まで含めた設計が必要になる。

ラグジュアリー邸宅や別荘では各階運用がまだ現実的

ラグジュアリー邸宅や別荘の文脈では、この課題はより現実的になる。

広い住まいほど複数階に分かれやすく、ロボット掃除機を各階に置くのか、ひとつのロボットで移動させるのかという問題が出てくる。現時点では、各階にロボット掃除機とステーションを置き、マップを分けて運用する方が現実的である。

特に別荘では、不在時の清掃、管理会社との連携、遠隔操作なども関係してくる。ロボット掃除機が階をまたいで動けることは理想的だが、実際には充電、給排水、ゴミ収集、メンテナンスの動線まで考える必要があり、現時点では難しい。

階段対応ロボットは魅力的だが、静音性、速度、安全性、価格、メンテナンス性まで含めて成熟するには、もう少し時間が必要だろう。

階段対応はスマートホームの次の進化を示している

ただし、方向性は明確だ。Dreame Cyber XやRoborock Saros Roverのようなモデルが登場してきたことは、ロボット掃除機の進化が「平面を走る機械」から「住宅内を自律的に移動するロボット」へ向かっていることを示している。

Roborock Saros Rover 階段を上るロボット掃除機のコンセプトモデル
Roborock Saros Roverは、階段を移動・清掃対象として捉える次世代ロボット掃除機のコンセプトモデル。ロボット掃除機が平面から立体へ進化し始めていることを示す存在だ

段差を越える技術は、その第一歩であり、階段対応はその次の大きな壁である。

ロボットが階段を苦手とするのは知能が足りないからではない。住宅の中で階段がもっとも複雑な「移動環境」だからだ。だからこそ、ロボットが階段を克服したとき、スマートホームにおける「自動化」の意味は、もう一段階変わることになる。

FAQ

Q. 階段を掃除できるロボット掃除機はすぐ一般化しますか?

すぐに一般化するというより、まずは「段差を越える」「別の階へ移動する」といった機能から段階的に進化していく可能性が高いでしょう。

階段そのものを安全に、静かに、隅まで掃除するには、移動機構だけでなく、姿勢制御、落下防止、ブラシ形状、吸引経路まで含めた設計が必要です。当面は、各階にロボット掃除機を配置する方法と、階段対応モデルの進化を見極める方法の両方を考えるのが現実的です。

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