【海外スマートホーム事情】ラグジュアリー住宅でスマートホームが必須になりつつある理由

 取材/LWL online編集部

世界のラグジュアリー住宅では、スマートホームの役割が変わり始めている。照明や音響、空調を個別に制御する「便利な設備」から、光・音・温度・空気までを建築やインテリアと一体で統合し、「五感」とウェルビーイングを設計する住宅インフラへ。ISEの最新論考から、高級住宅におけるスマートホームとウェルネス、建築統合の新潮流を読み解く。

ISEが示す、ラグジュアリー住宅とスマートホームの新しい関係

ラグジュアリー住宅において、「スマートホーム」という言葉の意味が変わり始めている。

これまでは、たとえば外出先からスマートフォンで照明を消すなど、スマートホームは主として利便性やエンターテインメント、機器のコントロールという文脈で語られてきた。もちろん、こうした利便性もスマートホームの重要な機能ではある。しかし、世界のラグジュアリー住宅で進んでいるのは、さらにその先である。

照明、音響、空調、シェーディング、セキュリティなどを個別の「設備」として考えるのではなく、建築やインテリアとともに設計し、そこに暮らす人の感覚やウェルビーイングまで含めて、一つの「空間体験」をつくり上げる。

世界最大級のAV/システムインテグレーション展示会Integrated Systems Europe(ISE)は、2026年7月、「Why luxury homes are starting to engage all five senses(なぜラグジュアリー住宅は五感に働きかけ始めているのか)」と「Beautiful rooms are no longer designed one system at a time(美しい部屋は、もはや設備ごとには設計されない)」という二つの記事を相次いで公開した。

一見すると異なるテーマだが、両者が指し示している方向は同じである。その背景には、ラグジュアリー住宅の価値が、「何が置かれているか」「どう見えるか」から、「そこで何を感じるか」という体験価値へと移りつつあることがある。

「見えるラグジュアリー」だけでは足りなくなった

これまでラグジュアリー住宅の価値は、まず視覚によって語られてきた。

建築の造形、石材や木材などの素材、家具、アート、照明器具。高級住宅の写真を見れば、その多くは「何が見えるか」によって価値を伝えている。

ISEも、従来のラグジュアリー住宅デザインは主に視覚を中心とした分野だったと指摘する。しかし現在、その定義は拡張しつつある。

空間がどのように「見えるか」だけではなく、どのように「感じるか」に重点が置かれるようになりつつあり、光環境、温熱環境、空気の質、さらに音響が、いかに快適性やウェルビーイングに影響を与えるのかまで、住宅設計の対象になり始めているという。ISEはこれを「multi-sensory residential design」、すなわちマルチセンソリー(多感覚)な住宅デザインの台頭として捉えている。

富裕層の比較対象は「隣の邸宅」からホテルやウェルネスリトリートへ

なぜ、こうした変化が起きているのだろうか?

ISEはその理由として、ハイエンド層の体験基準の変化を挙げている。

富裕層が自宅を比較する対象は、近隣の高級住宅にとどまらず、世界各地のラグジュアリーホテルやプライベートクラブなどでの体験価値になる。

そうした施設で得られた体験価値を知る施主は、自宅にも、設備を一つひとつ操作しなくても、時間や行動に応じて環境が自然に変化することを求めるようになっている。リラックスするとき、仕事をするとき、人を招くとき、映画を観るとき。そして眠りにつくとき。それぞれに適した環境が、複雑な操作を要求することなく整えられる住宅である。

ISEは、ラグジュアリー住宅の施主もこうした「calming(落ち着ける)」「restorative(回復できる)」「effortless(努力を必要としない)」空間を住宅に求めるようになっていると指摘している。
これは注目に値する非常に重要な変化である。

従来のスマートホームが「できること」を競っていたとすれば、次のスマートホームは「何もしなくても快適であること」を競い始めているのだ。

「美しい部屋」は設備ごとに設計できない

そこで、ISEが7月14日の記事で提示したもう一つの論点につながってくる。

それが、「Beautiful rooms are no longer designed one system at a time」という考え方である。

従来は、建築家が建物を設計し、インテリアデザイナーが家具や素材を決め、その後で照明、音響、空調などのテクノロジーが加えられるケースも少なくなかった。

テクノロジーは設計の最後に登場し、場合によってはインテリアの美観を損なわないよう「隠さなければならないもの」として扱われてきた。

しかし、この順序が変わりつつある。

ISEは、先進的なラグジュアリー住宅では、照明、音響、空調などは完成間際に追加される独立した設備ではなく、住宅に入った瞬間から人がどう感じるかを左右する「デザインツール」になっていると指摘する。

たとえば、どれほど美しいインテリアでも、室内の音が過度に反響していたり、空気が淀んでいたり、光環境が不快だったりすれば、その空間を「ラグジュアリー」と感じることは難しい。

逆も然り。

Bowers & Wilkinsのようなハイエンドオーディオ機器、あるいはLutronのHomeWorksのような住宅統合制御システム、それにハイエンドな全館空調設備を導入したとしても、それぞれが建築やインテリアと無関係に計画されていれば、優れた空間体験にはつながらない。

個々の性能ではなく、それらがどのように協調して、ひとつのエコシステムを構築するのかが重要なポイントとなる。

建築・インテリア・照明・シェードを統合したスマートホームのダイニング|HOMMA
建築やインテリアが完成してから設備を追加するのではなく、照明やシェーディングなどのテクノロジーを設計段階から住宅へ統合する
画像提供:HOMMA

ラグジュアリー住宅にスマートホームが必要になる理由

ここまで考えると、なぜラグジュアリー住宅においてスマートホームが重要になるのかも見えてくる。

電動ローラーシェードで自然光を制御するスマートホームのリビング
電動シェードによる自然光制御も、次世代のスマートホームを構成する重要な要素。光、温熱環境、眺望などを住宅全体の体験として考える
画像提供:Lutron

光、音、温度、空気、シェーディング、セキュリティ——これらを個別に高性能化するだけなら、必ずしもスマートホームである必要はない。

しかし、「朝」「食事」「映画を見る」「音楽を聴く」「ゲストを招く」「就寝」といった生活のシーンに応じて、複数の環境要素を一つの体験として変化させようとすれば、それらを横断的に制御する仕組みが必要になる。

朝になれば電動シェードが自然光を室内へ取り込み、照明が適切な明るさと色温度に変わる。室温も起床に適した状態へ調整される。夜になれば光量を落とし、必要に応じてシェードを閉じ、映像を見るなら照明と音響がそれに適した環境へと移行する。就寝時には照明だけでなく、空調、遮光、セキュリティまでが一つのシーンとして切り替わる。

こうした住宅では、「エアコンをスマートフォンから操作できる」といった個別機能ではなく、統合されたシステムが必要となる。

スマートホームは、個々の設備を操作するための仕組みではなく、複数の設備を束ね、人にとって最適な環境をつくるための住宅インフラになるのだ。

ISEは2026年5月にも、「Why smart home technology is becoming a wellness strategy」と題した記事を公開している。そこでは、スマートホームの目指す目的が、従来の「利便性」「エンターテインメント」「コントロール」から、健康・ウェルビーイング・QOLへと広がりつつあることを指摘した。サーカディアンリズムを支える照明、空気質を改善する空調、ストレスを軽減する音響設計、睡眠を支える自動シェーディングなどが、その具体例だ。

その意味では、ラグジュアリー住宅においてスマートホームは、もはや単なる付加価値とは言いにくい。高度な空間体験を実現しようとすれば、スマートホームは必然的に住宅設計の中へ入り込んでくる。

高級住宅ほど「テクノロジーが見えなくなる」

もう一つ、ISEのメッセージで興味深いのは、住宅が高度にスマート化するほど、テクノロジーそのものは目立たなくなっていくという逆説だ。以前LWL onlineで紹介したInvisible Technologyという概念だ。

ISEは、富裕層がラグジュアリーを「テクノロジーの多さ」ではなく「シンプルさ」と結びつける傾向を指摘する。高級感のある住宅ほど、複雑な操作インターフェースを住み手に意識させないことが重要になるという。

これは、壁面いっぱいにスイッチや操作パネルを並べる方向とは反対である。

ラグジュアリー住宅のインテリアに溶け込むLutron Avienaキーパッド
スマートホームが高度になるほど、操作部にもインテリアとの調和が求められる。Lutron「Aviena」のキーパッドは、テクノロジーを空間から切り離さないという考え方を象徴する
画像提供:Lutron

スピーカーは建築へ溶け込み、照明設備は存在感を消し、空調や換気は意識されることなく室内環境を整える。操作も複数のリモコンやアプリを行き来するのではなく、可能な限り統合され、自動化される。壁のキーパッドも見た目はラグジュアリーだが、操作はシンプルという方向となる。

ISEが「五感を設計する住宅」の文脈でLutron、Basalte、Sonance、Bang & Olufsen、Amina Soundなどを例示しているのも象徴的だ。照明制御、インターフェース、建築統合型オーディオなど、それぞれ領域は異なるが、共通しているのは「テクノロジーを見せること」そのものを目的としていない点である。

高級住宅におけるスマートホームの価値は、住み手が機器の存在を意識しなくても、住宅が静かに人を支えていることにある。

建築家、インテリアデザイナー、インテグレーターの境界も変わる

この変化は、住宅を設計する側にも大きな影響を及ぼす。

「五感を設計する」ためには、建築、インテリア、照明、音響、空調をプロジェクトの最後に接続するのでは遅い。

ISEは、先進的なラグジュアリー住宅プロジェクトでは、建築家が設計の早期段階からテクノロジーのインフラを検討し、インテリアデザイナーも空間コンセプトを考える段階から埋め込みスピーカー、照明シーン、シェーディングなどを考えるようになってきていることを指摘する。

住宅インテグレーターも、単に機器を選定・設置する専門家ではなく、「住宅全体でどのような体験を実現するのか」という議論に参加する、いわばまさにテクノロジーデザイナーに近づいているともいえる。

これは日本の高級住宅にも重要な示唆を与える。

基本設計が終わってから「スマートホームを入れたい」と考えるのでは、本来の価値を十分に引き出すことは難しい。

照明計画、空調計画、音響計画、電動シェード、ネットワーク、セキュリティ、ユーザーインターフェースまでを建築計画の初期から検討すること。LWL onlineでこれまでも取り上げてきた「建築統合型スマートホーム」は、まさにそのための考え方である。

スマートホームのゴールは「ウェルネス」と「ラグジュアリー」

スマートホームという言葉からは、どうしてもAI、センサー、IoT、アプリといったテクノロジーが想起される。

しかし海外のラグジュアリー住宅をめぐる議論を追っていくと、むしろテクノロジーそのものへの関心は後景へと退きつつある。たとえば、施主が求めているのは「サーカディアン照明」という技術や機能そのものではなく、「よく眠れる」という体験価値である。テクノロジーそのものよりも、ウェルネスという目的を達成するための手段として最新技術を求めているのである。

ISEも、住宅ユーザーは必ずしも特定のテクノロジーを要求するのではなく、「よく眠りたい」「もっとリラックスしたい」「ストレスを減らしたい」「集中したい」といった結果を求めていると指摘している。

そう考えれば、次世代のスマートホームの評価軸も変わってくる。接続されたデバイスの数でも、便利機能でもなく、その住宅にいる人が、どれほど快適で、自然で、心地よく過ごせるか、そこにスマートホームの価値は集約されていく。

ラグジュアリー住宅のスマートホームは、もはやスマートフォンやスマートスピーカーを使った便利機能の集合体から、光、音、空気、温度、素材、そしてテクノロジーを一体化し、「目には見えない心地よさ」を設計する存在へと変わり始めた。

先日LWL onlineでLutron本社のCecilia E. Ramos氏にインタビューしたが、そこでも「目に見えないラグジュアリー」がテーマとなった。

住宅がスマートであることを感じさせるのではなく、ただ「この家は心地よい」と感じさせる。そこに、これからのラグジュアリー住宅とスマートホームの一つの到達点があるのではないだろうか。

ラグジュアリー住宅に統合されたスマートホームと照明制御のイメージ
照明やシェーディングなどの住宅設備を個別に考えるのではなく、建築やインテリアと一体で設計することが、ラグジュアリー住宅の新たな潮流になりつつある
画像提供:Lutron。LtronのHomeWorksは照明と外光を建築・インテリアと一体で設計する、ラグジュアリーなスマートホームシステムである

参考:Integrated Systems Europe

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