Lutron Cecilia E. Ramos氏が語る、光の制御とHomeWorksが生む「目に見えないラグジュアリー」

 取材/LWL online編集部

ラグジュアリー住宅に求められるのは、目に見える豪華さではなく、住む人が意識することなく享受できる心地よさだ。Lutronで建築・デザイン戦略を率いるCecilia E. Ramos(セシリア・ラモス)氏は、光を大理石や木と同じ「デザインの媒体」と捉え、自然光、人工照明、シェード、照明制御を設計初期から統合する重要性を説く。「Lutron Design Session」の開催にあわせて来日した同氏に、HomeWorksが住宅で果たす役割、光とウェルビーイング、設計者とシステムインテグレーターの協働、そしてAI時代の住まいの姿まで聞いた。

Cecilia E. Ramos(セシリア・ラモス)氏プロフィール

LutronのSENIOR DIRECTOR, ARCHITECTURAL MARKET(建築市場担当シニアディレクター)として、同社のArchitecture & Design領域を率いる。社内では、建築家やデザイナーをはじめとするクライアントの声を製品、メッセージ、事業戦略へ反映させ、社外ではLutronを代表して、世界各地の建築家、デザイナー、システムインテグレーターに向けた講演などを行っている。

MITとプリンストン大学大学院で建築を学んだ後、照明デザインの分野へ進み、LVMHグループのルイ・ヴィトン、ディオール、ディオール・パルファンなどの店舗照明に携わった。当時からLutronのシステムを継続的に採用しており、その経験を経てLutronに参画した。

2026年7月下旬に来日し、「Lutron Design Session」やAIA Japanのイブニングレクチャーで講演を行った。

alt Lutronの建築市場担当シニアディレクター、Cecilia E. Ramos氏
Lutronで建築・デザイン領域を率いるCecilia E. Ramos氏。光を「デザインの媒体」と捉え、「目に見えないラグジュアリー」について語った

Lutronで建築・デザイン戦略を担うまで

――RamosさんのLutronでの現在の役割と、これまでの経歴について教えてください。

Cecilia E. Ramos氏 Lutronでは、建築・デザイン領域を担当しています。社内では、建築家やデザイナーをはじめとするクライアントの声を代弁し、商品企画や戦略が彼らのニーズに応えるものになっているかを検証する役割です。一方、社外に対してはLutronを代表して、世界各地の建築家やデザイナーと対話をしています。

わたしはMITで建築を学び、プリンストン大学大学院で建築の修士号を取得しました。その後、展示デザインの仕事を経て照明デザインへ進み、LVMHグループに関わるなかで、ルイ・ヴィトン、ディオール、ディオール・パルファンなどの照明デザインに携わりました。当時からLutronのシステムを継続的に採用しており、最終的にLutronに加わるきっかけになりました。

現在は、建築家やデザイナーに向けて「光の力」や「光がもたらすラグジュアリー」について講演するほか、Lutronのシステムを施工するインテグレーターに対しても、建築家やデザイナーと同じ言語で対話し、彼らの意図をよりよく実現するための考え方を伝えています。

「目に見えないラグジュアリー」とは何か

――今回の講演では「目に見えないラグジュアリー」がテーマになっていますが、Ramosさんにとって、それはどのようなものですか。

Cecilia E. Ramos 目に見えないラグジュアリーとは感覚や体験です。必ずしも一目で認識できるものではありませんが、それが欠けていると、人はラグジュアリーの不在に気付きます。

ラグジュアリーの概念は時代とともに大きく変化してきました。歴史的に見れば、触覚、音、香りなど、感覚的な体験と深く結びついてきたと思います。現代ではさらに、クラフツマンシップ、サステナビリティ、パーソナライゼーションといった価値が重視されています。けれども究極的には、自分が特別に扱われている、自分のために用意されたものだと感じられること。それこそがラグジュアリーなのだと思います。

わたしがよく紹介する言葉に、「ゲストが考えなければならなくなった瞬間、ラグジュアリーは終わる」(Forbes Travel Guide)というものがあります。操作方法を考えなければならない、使い方に迷う。その時点で、体験としてのラグジュアリーは損なわれてしまいます。

「気づかれないこと」が成功の証になる

――「意識させないこと」がラグジュアリーだとわかる、具体的なエピソードはありますか。

Cecilia E. Ramos 以前、あるホテル開発事業者が、Lutronの製品を導入しているニューヨークのフォーシーズンズに宿泊したことがあります。自分のホテルで採用するかどうかを検討するためでした。

翌朝、感想を聞くと、シェードは静かで、照明コントロールの表示も分かりやすく、滞在はとてもよかったと言ってくれました。ただ一つ、ベッドサイドのiPadが一晩中明るく光っていたため、タオルをかけて眠ったという不満がありました。それはLutronの製品ではなかったので、わたしには解決できませんでした。

そこでわたしは、「壁のキーパッドの文字が、夜になると自動的に暗くなっていたことには気づきましたか」と尋ねました。彼は「いいえ、まったく気づかなかった」と答えました。わたしはそれを聞いて、「それは、わたしたちがきちんと仕事をした証です」と伝えました。気づかれず、邪魔をせず、必要なときに適切に機能している。それが目に見えないラグジュアリーです。もし気になってしまえば、それはもはやラグジュアリーではありません。

織物調の壁面に設置されたLutronの3ボタン式デザインキーパッド
Lutronのデザインキーパッド「Alisse」。高度な制御を背後に隠しながら、住む人が触れる部分には素材感と操作の美しさを残す

目に見える豪華さよりも、感覚として残る豊かさを

――日本では「ラグジュアリー」という言葉に、豪華な素材や装飾など、目に見える華やかさを連想する人も少なくありません。そうした「ラグジュアリー」とは質が異なるものなのでしょうか。

Cecilia E. Ramos 目に見えるものには流行があります。例えば華美な金色の仕上げが、今日は魅力的に見えても、明日には時代遅れに感じられるかもしれません。

一方で、心地よさや安心感、自分のために整えられているという感覚は、流行に左右されません。目に見えるスタイルは変化しますが、人が感じる豊かさは古びないのです。

光を大理石や木と同じ「デザインの媒体」に

――形や素材以上に、空間の記憶は雰囲気によって決まるとも話されていました。建築家やデザイナーは、目に見えない雰囲気をどのように設計すればよいのでしょうか。

Cecilia E. Ramos 光は、究極の「目に見えないラグジュアリー」だと思います。光そのものは物体ではありませんが、空間と、そこにあるモノの見え方を変えます。だからこそ、光を大理石、石、木などと同じような「デザインの媒体」として捉えることが重要です。光は、プロジェクトの最初から検討しなければならない要素です。

光をデザインの媒体と捉えると、何に使うのかを具体的に考えられるようになります。
第一に、空間に序列をつくり、人の視線や動きを導くこと。第二に、ムードや雰囲気をつくること。第三に、色、質感、形といったモノの美しさを引き出すこと。そして第四に、安心感を生み出すことです。

例えば外出時にシェードが下がり、紫外線やまぶしさから家具やアートを守ってくれる。就寝時には外部照明が点灯し、家に人がいるように見せてくれる。光による安心感には、さまざまな形があります。こうした目に見えない働きとして光を使うことで、プロジェクト全体の質を高められます。

木と石を用いた住宅空間を暖かな照明が包むリビングダイニング
光は空間に序列をつくり、素材の色や質感を引き出し、時間帯に応じて住まいの雰囲気を変える

ウェルビーイングの起点は変化する自然光

――話は変わりますが、最近日本でもサーカディアンリズムと光環境、照明が話題となっています。住宅の光環境はウェルビーイングと密接に関係しますが、両者の関係を考えるうえで、最も重視すべきことは何でしょうか。

Cecilia E. Ramos 光とウェルビーイングを考えるとき、その起点は自然光、太陽にあります。太陽の光は常に変化しています。朝は暗めで暖かく、日中になると明るく、より白い光になり、夕方には再び暖かくなって、やがて地平線の下へ沈みます。わたしたちは本来、そのダイナミズムの中で暮らしており、それがサーカディアンリズムとも関係しています。したがって、自然光の変化を再現できる人工照明は重要です。

ただし、Lutron自身が医療的な効果を研究しているわけではありません。医療や健康に関する研究は専門家に委ね、その知見を踏まえて光を適切に活用する、という立場です。

ニューヨークの高級シニアレジデンスで、認知症ケアのフロアにLutronの照明を導入した例があります。照明は、一日の時間の流れに合わせて太陽光をなぞるように変化する設定でした。開業後、看護責任者に感想を尋ねると、「入居者が、いま何時なのかを尋ねなくなった」と話してくれました。

わたしたちの時間や場所の感覚は、太陽の光に強く支えられています。その変化を人工照明で再現することが、ウェルビーイングにつながり得るのです。

電動シェードと照明を備えた落ち着いたベッドルーム
自然光と人工照明を時間に応じて整えることは、睡眠前後を含む一日の光環境を考える出発点となる
海に面したリビングで電動シェードが日射を調整する様子
必要な光の量は、時間、用途、住む人によって異なる。照明とシェードの連携によって、空間の明るさを個別に整えられる

※光、シェード、空調を一日の時間軸で統合することは、LWL onlineが提唱する「Smart-Wellness Home」の基盤でもある。

――ウェルビーイングの観点では、時間に合わせた変化だけでなく、個人差も重要ですか。

Cecilia E. Ramos氏 はい、とても重要です。適切な光の量は、人によって大きく異なります。わたしは視力があまり良くないので、多くの光を必要としますし、一般に年齢を重ねるほど必要な光量も増えていきます。同じ人でも、その日の体調などによって求める明るさが変わることがあります。

したがって、自分の必要に応じて光を調整できること、つまり光をパーソナライズできることも、ウェルビーイングの一部です。

自然光・人工照明・シェードを一体で設計する

――従来の照明計画は人工照明を中心に考えがちです。自然光、人工照明、シェード、制御を一体として設計すると、何が変わるのでしょうか。

Cecilia E. Ramos まず、その空間を誰が、どのように使うのかを理解することから光環境のデザインは始まります。そして光によって、一つの空間に複数の機能や表情を与え、住む人の行動に応えられるように考えます。

人工照明だけを考えている照明デザイナーは、実質的に夜だけを設計していることになります。十分な開口部がある空間では、日中の環境光の大半は屋外から入ってきます。朝から就寝まで、空間がどのように使われるのかを通して考え、自然光と人工照明の双方を扱う必要があります。

例えば午後3時、南から入る日射がまぶしければ、シェードが自動的に下がってグレアを抑え、快適さを保つ。その動作も、午後3時にその空間で暮らす人の「光体験」の一部です。Lutronは、照明とシェードを含め、その全体を一つのものとして捉えます。

高層住宅のダイニングで電動ローラーシェードが日射を調整する様子
日中の強い日射やグレアを抑えながら、外の景色と室内に必要な明るさを両立する
Lutronの操作パネルと電動ローラーシェードを備えた海辺のリビング
窓まわりを照明計画と同時に検討することで、配線、納まり、操作方法まで含めた統合設計が可能になる

窓まわりを後回しにする現実へ、どう対応するか

――日本では、カーテンやシェードなどの窓まわりが、プロジェクトの終盤に決まることも少なくありません。本来は照明と同時に計画すべきでしょうか。

Cecilia E. Ramos 理想を言えば、同時に考えるべきです。ただ、業界の進め方を一夜にして変えることはできません。窓まわりが後から選ばれることが現実であるなら、照明と照明制御の側に、後から決まるシェードの条件へ対応できる柔軟性を持たせる必要があります。

自然光と人工照明を一体で制御できれば、昼は開放的で明るい空間だった場所が、夜には親密で居心地のよいダイニングシーンへと変わります。同じ空間が時間や用途に応じて異なる役割を果たし、その瞬間にいる人を心地よくする。それも目に見えないラグジュアリーです。

また、一日の自然光に合わせて、朝は暖かく、日中は明るく白く、夕方には再び暖かい光へ変化させることもできます。住む人は「オン」を押すだけで、その時間にふさわしい光を得られる。本人が細かく考えなくても、必要を先回りして満たすことが、目に見えないラグジュアリーなのです。

※Lutronが日本で展開する住宅向け統合制御システム「HomeWorks」については、LWL onlineでも、その成り立ちと思想を詳しく紹介している。

HomeWorksは住まいの光を束ねる「指揮者」

――自然光と人工照明の両者をコントロールできるLutronのHomeWorksが日本でも注目を集めています。LutronのHomeWorksは、住宅のインフラ、あるいは住まいのOSのような存在と捉えてよいのでしょうか。

Cecilia E. Ramos わたし自身は、「インフラ」というより、全体を統率するオーケストレーターだと考えています。インフラという言葉は、何か別のものを下から支える、非常に技術的なものを連想させます。HomeWorksは、異なる要素を連携させ、美しく調和させる存在です。オーケストラにたとえるなら、多くの楽器をまとめる指揮者です。

OSに似ている部分もあります。背後で静かに働き、住む人に意識させないからです。ただしHomeWorksには、壁面のキーパッドやシェードのように、目に見え、触れる美しさもあります。そこが完全に背後へ隠れるOSとは異なります。

人は毎日キーパッドに触れます。ボタンを押したときの触感、音がするかしないか、表示や仕上げの美しさなど、操作そのものが体験になります。高度な制御を見えないところで行いながら、触れる部分では美しさと満足感を提供する。その両面が重要です。

室内外の照明をシーンごとに制御した夜の住宅外観
HomeWorksは、室内外の照明やシェードなど異なる要素を連携させ、住宅全体の光を一つの体験として束ねる

※HomeWorksのキーパッドやシェード、アプリに表れるデザイン思想については、こちらの記事でも詳しく紹介している。

高度な照明制御ほど、操作はシンプルに

――HomeWorksの高度な機能を、住む人が直感的に使えるようにするには、どのようにインターフェースを設計すべきでしょうか。

Cecilia E. Ramos まず、住む人がどのように使いたいのかを丁寧に尋ねます。ダウンライト、シャンデリア、ライン照明などを系統ごとに操作したいのか。それとも「昼」「午後」「夜」といったシーンで操作したいのか。ボタンは二つでよいのか、より多くの選択肢が必要なのか。答えは人によって異なります。

わたしは、パーソナライゼーションのために、明るさを少し上げたり下げたりできるレイズ/ロワーの操作を残すことが重要だと考えています。ただし、必要な操作は場所によっても変わります。玄関では、全体を一括してオン・オフできるシンプルな操作でよいかもしれません。一方、リビングや寝室では、好みに合わせて明るさを微調整できた方がよいでしょう。

理想的には、背後に高度な知能があっても、表に見える操作は「オン・オフ」と「少し明るく/少し暗く」程度でよいのです。正午、午後3時、夜で光の状態は自動的に変わり、シェードも適切に動く。それでも使う人には、二つほどのボタンしか見えない。シンプルで理解しやすく、それでいて高度であることが大切です。

廊下とシーティングエリアを操作する2ボタン式の壁面キーパッド
その場所で必要な機能だけを分かりやすく残すことが、高度でありながら迷わせない操作体験につながる
Day、Evening、Nightlightを表示するLutronのシーン操作キーパッド
「Day」「Evening」「Nightlight」など、照明器具単位ではなく、生活のシーンとして光を操作するインターフェース
石調の壁面に設置されたLutronの6ボタン式ゴールドキーパッド
用途やシーンに合わせてボタンを構成できるデザインキーパッド。操作の分かりやすさと仕上げの美しさを両立する

照明制御を後回しにすると起こる「四つの問題」

――照明制御の検討が設計プロセスの後半になった場合、どのような問題が起こりますか。

Cecilia E. Ramos 大きく四つあります。第一は、建築的・実務的な問題です。調光器を設置するスペースがない、照明器具やキーパッドまで必要な配線が通っていない、希望するシェードやカーテンを納めるためのポケット寸法が足りない、といったことが起こります。

第二は、空間における光の質です。光が空間をどのように形づくり、雰囲気を変え、複数の用途へ対応するのかを十分に設計できず、結果として光環境そのものが良くないものになる可能性があります。

第三は、システム統合です。住宅全体を同期して動かしたいのであれば、照明、セキュリティ、音響などを一体として考える必要があります。それができていないと、住む人の体験は分断されます。

第四は、ユーザー体験です。いつ、どこで、どのように操作するのか。ベッドサイドから全消灯したいのかなど、そうしたニーズを先に想定していないと、後付けの操作機器が増え、見た目も使い勝手も悪くなります。住む人と十分に話さないままボタンの役割を決めてしまえば、キーパッドも使いにくいものになります。

専門領域を分けず、設計初期から統合する

――では、建築家、インテリアデザイナー、照明デザイナー、システムインテグレーターは、どのように役割を分担すべきでしょうか。

Cecilia E. Ramos 役割を切り分けるというより、統合することが重要だと思います。それぞれの専門性と強みを理解し、それがプロジェクトを最初から正しく進めるために不可欠だと認識することです。

インテグレーターを後から呼ぶ人と考えてはいけません。初期段階から参加してもらえば、後の工程を容易にする形で、建築や設備の条件を整えられます。理想は、全員が互いの強みと提供できる価値を理解し、プロジェクトの起点から一つのチームとして働くことです。

ホスピタリティの統合設計が住宅へ波及する

――システムインテグレーターの参加が遅いという問題は、北米の住宅でも同じでしょうか。

Cecilia E. Ramos 一般論としては、北米でも参加が遅いケースが多いと思います。ただし、ラグジュアリーホテルを中心とするホスピタリティ分野では変化が起きています。ホテルオーナーが重要性を理解し、プロジェクトの最初からインテグレーターを参加させるようになっています。

市場では、ホスピタリティで始まった行動や設計手法が、住宅へ波及することがよくあります。建築家やデザイナーが一度、初期段階から統合して進める方法を経験すれば、以前の進め方には戻りたくなくなるはずです。10年後には、住宅でも状況が改善しているのではないかと期待しています。

AI時代、インテグレーターは「暮らしの技術コンサルタント」へ

――AIやセンシング、環境データの蓄積は、住宅の光環境とインテグレーターの役割をどう変えるでしょうか。

Cecilia E. Ramos AIは、インテグレーターの役割も変えるかもしれません。最近、米国の複数のインテグレーターから、AIの専門性を高め、自らエージェントを構築しているという話を聞きました。Lutronに関わる部分では、AIを使ってプログラミングする例も見始めています。

そして顧客がその可能性を知ると、照明以外の作業を行うAIエージェントもつくってほしいと依頼するようになります。インテグレーターは、住宅設備を施工するだけでなく、顧客の生活全体を支えるテクノロジー・コンサルタントへ近づいていくのかもしれません。

ただし、これはまだごく初期の兆候です。直近に複数のインテグレーターから同じ話を聞いたため、何かが起こり始めているとは感じますが、今後どうなるかはまだわかりません。

光環境について言えば、住まいが「この人にとって、この時間に適切な光は何か」を理解するようになるでしょう。シェードが適切な位置へ動き、照明がふさわしい明るさや色温度になる。住まいが光を通して、オーナーの必要を先回りして満たすのです。

さらに、個人の光の好みを示す「指紋」のようなデータが、本人とともに移動する未来も考えられます。例えばホテルへチェックインしたとき、普段好んでいる光の設定がすでに客室へ反映されている。好きな光、心地よく暮らせる光が、個人のDNAのような情報になるかもしれません。

スマートフォンのLutronアプリでリビングのシェード開度を60%に調整する画面
スマートフォンからシェードや照明シーンを操作するLutronのアプリ。将来は個人の好みに応じた光環境の自動化も考えられる

日本の設計者へ。一日全体の光を設計する

――日本の建築家やインテリアデザイナーに向けて、これから光環境の設計を考えるうえでのメッセージをお願いします。

Cecilia E. Ramos 日本の文化には、光に対する非常に繊細な感性があります。世界の多くの地域と比べても、すでに高い水準にあります。そのうえで今後必要なのは、「光は動的なものであり、一日の時間の流れに応じて変化すべきだ」と受け入れることです。

ここ(※Lutronのショールーム)でも、朝に見た照明と、いま見えている照明では色が変わっています。朝はおよそ2400~2700Kの暖かい光で、日中には3500~4000K程度まで明るく白くなり、屋外の自然光と調和しています。時間に応じて光が変わることで、空間全体が自然に感じられます。

人工照明だけを設計するなら、一日のうち25%しか設計していない、とわたしたちはよく言います。日中は自然光があり、それ以外の時間の一部は眠っています。だから、一日全体を対象に設計しなければなりません。

照明デザイナーという職能は、建築の歴史から見れば比較的新しいものです。かつては建築家自身が光を設計し、自然光と人工照明を一体として考えていました。フランク・ロイド・ライトのような優れた建築家の仕事にも、それが表れています。分かれていった専門領域を、もう一度つなぎ直すこと。それが、業界として取り組むべき課題だと思います。

夕景を望む住宅でダウンライトと間接照明が木質空間を照らすリビング
朝、昼、夕方、夜へと移り変わる自然光に人工照明を重ね、一日全体の光を設計する

『陰翳礼讃』に見る、日本と北米の光文化の違い

――最後に、Ramosさんの目から見た、日本と北米の建築・照明の違いを教えてください。

Cecilia E. Ramos これはあくまでわたし個人の見方であり、過度に一般化したくはありません。そのうえで言えば、日本のデザインには、自然素材を受け入れる姿勢と、抑制の効いた表現があります。また、光を単独で扱うのではなく、暗さと組み合わせて捉える深い感性があります。光を見るためには、コントラストと影が必要だという理解です。

北米の現代デザインも、そうした日本の考え方を参照するようになっていますが、それが文化的な基盤になっているわけではありません。例えば同じ自然素材を使う場合でも、米国では土地との調和やサステナビリティを理由に選ぶことが多い。一方、日本では、素材の不完全さや経年変化を含めて味わう「侘び寂び」の感覚と結びついていることがあります。同じ素材でも、選ばれる理由が異なるのです。

谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』は、国際的な建築・照明の世界における、日本の大きな文化的輸出の一つです。照明デザイン教育の基礎として広く読まれています。

もう一つの違いは、北米では対象へ直接光を当てる考え方が比較的強いのに対し、日本では、障子やスクリーン、格子など、何かを通して光を人へ届ける表現が発達していることです。光が別の媒体を通過してから人に届くという「フィルタリング」の発想は、北米の伝統的な光文化にはそれほど強くありません。

Lutron Design Sessionの会場でインタビューに答えるCecilia E. Ramos氏
建築家、デザイナー、システムインテグレーターをつなぐ立場から、光と住宅の未来について語るRamos氏

光と影の関係を現代の技術で再構成する

最後の問いは、筆者の個人的な関心から投げかけたものだった。ところがRamos氏の口から、ごく自然に谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』が語られた。日本の光文化を外から見つめる彼女が、光だけでなく、その背後にある暗さや影、そして障子や格子を介して光を受け取る感性まで理解していたことに、強く心を動かされた。

谷崎は『陰翳礼讃』で、「美は物体にあるのではなく、……陰翳のあや、明暗にある」と記した。Ramos氏が語った「目に見えないラグジュアリー」もまた、光そのものの量や器具の華やかさではなく、光と影、自然光と人工照明、技術と素材、人と空間の関係のなかに立ち上がるものなのだろう。

戦後の住宅では、均質な明るさが快適さの尺度となり、日本が育んできた陰影への感性は、少なからず後景へ退いた。しかし、時間とともに変化する光を照明とシェードで丁寧に整え、住む人に操作を意識させないHomeWorksの思想は、その感性を単に懐古するのではなく、現代の技術によって再構築する試みにも見える。

光を増やすのではなく、光と影の関係を設計すること。あるいは、高度な機能を見せるのではなく、心地よさだけを残すこと。Ramos氏の言葉は、これからのラグジュアリー住宅が目指すべき方向を、静かに、しかし明確に示していた。

夕暮れの庭を望むリビングダイニングを照明と間接光が包む様子
光を増やすのではなく、光と影の関係を整える。「目に見えないラグジュアリー」を象徴する住宅空間

Lutron公式サイト

Lutron HomeWorks 紹介サイト

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    LWL online 編集部

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