AGIRobots「HA1」発売。7軸ロボットアームが示すPhysical AIと家庭用ロボットの現在地

 取材/LWL online編集部

AGIRobotsが、Physical AIやヒューマノイドの研究開発に向けた7軸ロボットアーム「HA1」の販売を開始した。AIの“身体”となる「腕」が、単体の完成品として導入できるようになった。米国では家庭用ロボット「Isaac 1」が2026年秋にカリフォルニアで初回出荷を予定し、日本でもMWが住宅とロボティクスを一体化した「Living Home」を進めている。ロボットアームは工場から、人の暮らす空間へ近づき始めている。

Physical AIの「身体」が製品として動き始めた

生成AIが画面の中から現実世界へと活動領域を広げようとしている。そのために欠かせないのが、AIの判断を現実の動作へ変換する「身体」だ。

HA1そのものは家庭向けの製品ではなく、企業や研究機関におけるPhysical AI(フィジカルAI)の研究開発や、ヒューマノイド、独自ロボットへの組み込みなどを想定したものだ。完成したヒューマノイドではなく、その重要な構成要素となる「腕」が完成品のハードウェアとして導入できるようになったのだ。米国では2本のロボットアームを使って洗濯物や室内の片付けを行う家庭用ロボット「Isaac 1」が2026年秋からカリフォルニア州で出荷を開始する予定だ。

工場で働いてきたロボットアームは、Physical AIの進化とともに、徐々に「人の暮らす空間」へ近づき始めている。

ヒューマノイド開発を「腕」から始める

AGIRobotsの「HA1」は、人間の腕に近い自由度を持たせた7軸ロボットアームである。

肩から肘までの上腕部、肘から手首までの前腕部をそれぞれ約25cmとし、複数の関節を組み合わせることで、対象物へ腕を伸ばすだけでなく、障害物を避けながら手先の位置や姿勢を調整するといった動作を想定している。

7軸ロボットアーム「HA1」のアーム構造とサイズ
「HA1」は人間の腕に近い自由度を持たせた7軸構成を採用。上腕部、前腕部をそれぞれ約25cmとし、さまざまな姿勢や動作への対応を想定する

主要構造には金属部品を採用し、剛性と耐久性を重視した構造としている。肘を90度に曲げた姿勢で定格3kg、ピーク約10kgのペイロードを想定する。研究用の試作アームではなく、継続的な実機評価やロボットシステムへの組み込みを前提とした完成品として提供される。

アーム内部にはUSB 2.0などに使用できる信号配線を備え、手先側への電源供給にも対応する。内部の4線はUSB 2.0専用の配線ではなく、使用するハンドやセンサー、システム構成に応じて、RS485をはじめとする別の通信方式に使用するなど、用途に合わせた構成を可能としている。

また、先端部(手先側)で利用可能な24V電源供給機能を備えることによって、ロボットハンドやリストカメラ、各種センサーを組み合わせた実機システムを構築しやすい設計としている。

さらに、肩、上腕、前腕を分割できるモジュール構造とすることで、独自のロボットや研究設備などへの組み込みにも対応する。

関節にはQDD(Quasi-Direct Drive)方式のアクチュエータを採用することで、高減速比の産業用ロボットアームとは異なる、バックドライバビリティを活かした柔軟な動作が可能となっている。実機では、人がアームへ外力を加えた際に、その力に応じてアームが動く柔軟な挙動や、7軸を連動させたダイナミックな連続動作を確認したという。

AGIRobotsでは、Physical AIやロボットAIの研究開発をはじめ、VLA(Vision-Language-Action)モデルの実機検証、テレオペレーション、ロボット学習用データの収集、接触を伴うマニピュレーション研究などでの利用を想定している。

同社が開発する据え置き型セミヒューマノイドの左右両腕にも同系統の7軸アームが搭載されており、移動型セミヒューマノイド「AGIRobots Worker」についても、今後このアームをベースとした構成へ統一する予定だ。

AGIRobotsのセミヒューマノイドに搭載された7軸ロボットアーム
AGIRobotsが開発するセミヒューマノイド。同社の7軸ロボットアームは、ヒューマノイドをはじめとするPhysical AIの「身体」としての活用も想定されている

ロボットアームの意味が変わり始めている

もちろん、ロボットアームそのものは新しい技術ではない。

自動車工場をはじめとする製造現場では、溶接、組み立て、搬送などを行う産業用ロボットが以前から広く使われてきた。

いま起きようとしている変化は、腕を動かす「知能」だ。

これまでの産業用ロボットは、あらかじめ定義された環境の中で、決められた位置や動作を高い精度で繰り返すことが重要だった。一方、Physical AIでは、カメラや各種センサーによって周囲の状況を認識し、AIが状況を判断し、その結果に基づいてロボットが身体を動かす。

要するに、ロボットアームは、「決められた作業を繰り返す機械」から、AIが現実世界で動くための「身体のインターフェース」へと役割を拡張しようとしている。

HA1がVLAや模倣学習、テレオペレーションなどを用途として掲げていることも、この変化を象徴している。

2026年秋、家庭へ入る「Isaac 1」

こうした動きは研究室や工場だけにとどまらない。

ロボットの「腕」が、人々の生活空間で実際に働く時代も近づいている。

その一例が、米Weave Roboticsが開発する家庭用ロボット「Isaac 1」である。Isaac 1は車輪で室内を移動する本体に2本のアームを備え、家庭内で物理的な作業を行うホームロボットとして開発されている。

同社が現在公開している代表的な機能として、「Laundry Flow」と「Daily Reset」がある。洗濯物を拾い、たたみ、片付け、室内に散らかった物を元の場所へ戻す。これまで人が行ってきた日常的な家事をロボットが担うことを目指している。

Isaac 1はすでに予約を受け付けており、2026年秋からまず米カリフォルニア州で出荷を開始する予定であり、2027年にかけて米国内へ提供地域を広げる。価格は一括購入で7,999ドル、または月額449ドル。250ドルの返金可能なデポジットで予約できる。

家庭用ロボットは既に研究室での実証だけにとどまらず、「家庭で使う製品」として出荷時期と価格まで提示されているのだ。

家庭内で洗濯や片付けを行う家庭用ロボット「Isaac 1」
Weave Roboticsが開発した家庭用モバイルロボット「Isaac 1」。車輪型の移動ベースと2本のアームを備え、洗濯や片付けなど、家庭内で繰り返される作業を担う
画像:Weave Robotics公式サイトより

NORI A3、Memo。家庭内作業を担うロボットが続々

Isaac 1だけではない。米Nori Roboticsが開発する「NORI A3」も2本のアームを持ち、キッチンでの作業、片付け、冷蔵庫から物を取り出したり、衣類をたたむといった家庭内作業を用途として掲げている。価格は1,688ドルで、公式サイトでは2026年秋の出荷を予定している。

Sunday Roboticsの家庭用ロボット「Memo」は、テーブルから皿やグラスを片付け、食べ残しを処理し、食器洗浄機へ入れるといったキッチンでの作業を公開している。

同社は2026年後半から家庭でのベータプログラムを開始する予定で、一般販売についてはベータテスト終了後としている。

日本ではMWが住宅とロボットの一体設計へ

日本でも、MWが建築・AI・ロボティクスを一体で設計する「Living Home」を掲げ、住宅と融合したAIロボット「MW bot」の開発を進めている。センサーが空間を知覚し、AIが状況を理解・判断し、ロボティクスが実際の家事などを行うという構想で、海外だけでなく国内でも「ロボットが働くことを前提とした住宅」の開発が具体化し始めているのだ。

製品の完成度や自律性、販売方式はそれぞれ異なるため、これらを同列に論じることはできない。

それでも「物を見る」「考える」AIに、物をつかみ、持ち上げ、移動させるための「腕」が与えられ始めていることだ。

家庭用ロボットを巡る議論も、「いつかヒューマノイドが家庭に来るのか」という段階から、「どのような作業なら、現在の技術で実際の家庭に導入できるのか」という段階へ移りつつある。

住宅内に設置されたMW botのロボットアーム キッチンでの作業イメージ
住宅内での家事を想定して開発される「MW bot」。既存住宅へロボットを持ち込むだけではなく、住宅側と一体で設計する点がMWの特徴となる
MW botが衣類や食卓、洗面空間で家事を行う利用イメージ
衣類の扱いや食卓、洗面空間など、日常生活のさまざまな場面で家事を担う「MW bot」の利用イメージ。「家事がなくなる家」の実現を目指す

スマートホームが動かせなかったものをロボットが動かす

そして、LWL onlineとして最も注目しているのは、スマートホームの進化とのかかわりだ。

これまでスマートホームが得意としてきたのは、照明を消す、空調を調整する、ブラインドを開閉する、玄関を施錠するといった、住宅設備をデジタル信号によって制御することだった。

しかし、いくらスマートホームが進化したとしても、床に落ちた衣類を拾うことはできない。テーブルに残された皿を食器洗浄機へ運ぶことも、収納から必要な物を取り出すこともできない。「腕」と「手」が必要になる。

AIエージェントが住まいの状況や住人の意図を理解し、Home OSが照明や空調、設備を制御し、さらにロボットが物理的な作業を行う。

将来の住宅を考えるなら、こうした複数のレイヤーが連携する姿も視野に入ってくる。

その意味で、今回のHA1は家庭用ロボットそのものではないものの、Physical AIを成立させるための「身体」が、より導入しやすいハードウェアとして切り出され、製品化され始めた事例として見ることができる。

ロボットを迎える住宅はどう変わるのか

そして、家庭用ロボットが本格的に普及する段階になれば、変化を求められるのはロボット側だけではない。

ロボットが移動しやすい動線、段差、扉や収納の構造、家具の配置、通信環境、充電場所、そして人との安全な共存など、住宅側にも新たな設計条件が生まれる可能性がある。

現在の住宅は基本的に「人間が使うこと」を前提として設計されている。しかし将来、人間とロボットが同じ住空間を共有するのであれば、「Robot-ready Home」という新しい住宅設計の考え方も現実味を帯びてくる。

Isaac 1がこの秋にもカリフォルニア州で最初の家庭への出荷を始める予定であることを考えれば、それは必ずしも遠い未来だけの話ではない。

スマートホームがこれまで「住宅設備をどのように動かすか」を追求してきたとすれば、Physical AIがもたらす次の問いは、「住宅の中で、AIは何を物理的に動かせるのか」なのかもしれない。

AGIRobotsのHA1のようなロボットアームの製品化は、その変化を支えるハードウェアが、すでに着実に整い始めていることを示している。

公式サイト

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