Living Insight vol.10 —JEM-Aとは何か? スマートホームの操作と状態確認
取材/LWL online編集部
スマートホームで重要なのは、住宅設備を遠隔操作できることだけではない。電気錠が実際に施錠されたか、空調や床暖房が停止したかを確認できることも必要だ。日本では1987年、この「操作」と「状態確認」を両立するHA端子「JEM-A」が規格化されていた。電気錠、空調、床暖房、シャッターの例から、その仕組みと限界、建築プロトコルが主流となる時代における役割を解説する。
赤外線制御の限界を扱った前回の記事では、本格的なスマートホームに必要なのは、設備へ命令を送ることだけではなく、その命令が実行されたか否かを確認できることだと解説した。

Image:Pixel-Shot /Shutterstock.com
赤外線リモコンでエアコンに「運転」の命令を送ることはできる。しかし、赤外線信号が正しく届いたのか、エアコンが実際に動き始めたのか、スマートホーム側からは確認できない。ところが日本では、設備の操作と状態確認をセットで扱うためのインターフェースが、約40年前にすでに規格化されていた。
それが「JEM-A」である。
一般の住宅ユーザーがその名称を目にすることはほとんどないだろう。しかし現在も、電気錠や空調、床暖房などの住宅設備を統合制御する際に使われている、日本のホームオートメーションを支えてきた重要な仕組みである。
電気錠は「操作できる」だけでは不十分
JEM-Aの役割を理解するには、玄関の電気錠を考えるとわかりやすい。
スマートホームの操作画面から電気錠を施錠したとしよう。

Image:Kazin Sergey /Shutterstock.com
ここで重要なのは、システムから施錠の命令を出したことと、電気錠が実際に施錠状態になったことは、必ずしも同じではないという点だ。
何らかの理由で電気錠が作動しなかった可能性もある。誰かが室内側のサムターンを操作し、あとから解錠した可能性もある。命令を送ったという履歴だけでは、現在の状態は保証できない。
そこでJEM-A対応の電気錠制御盤やJEM-Aアダプターを介して接続すると、スマートホームシステム側から施解錠を操作するとともに、現在の施錠・解錠状態を確認できるようになる。実際にJEM-A対応をうたう電気錠制御機器や、施錠・解錠などの状態を外部へ出力できる製品が現在も提供されている。
要するに、JEM-Aは、「操作した」という命令と、「現在どうなっているか」という状態を、それぞれ別々に扱うためのインターフェースなのである。
なお、電気錠の施錠・解錠と、扉そのものの開扉・閉扉は別の状態である。実際のシステムでは、必要に応じて扉の開閉センサーや電気錠制御盤の接点情報も組み合わせて監視することが求められる。
では、JEM-Aとはどのような規格なのか? HA端子「JEM 1427」の仕組み
JEM-Aは、一般社団法人日本電機工業会(略称JEMA)の規格「JEM 1427」で定められたHA(ホームオートメーション)端子の通称である。JEMAという団体名とJEM-Aという端子名は混同されやすいが、厳密には同じものではない。
規格番号は「JEM 1427」。ホームオートメーションシステムと住宅設備を接続し、設備の制御信号とモニター信号を伝送するためのHA端子について定めている。


JEMAの説明では、対象となるのは「作動の状態が2値で表現できる端末機器」とされている。簡単にいえば、運転と停止、施錠と解錠、ONとOFFといった、二つの状態を持つ設備を接続するための規格である。
JEM-Aの基本的な考え方は極めてシンプルだ。
設備へ動作を要求する「制御信号」と、設備の現在の状態を返す「モニター信号」を分けている。例えばシステムから制御信号を送ると、接続された設備の状態が切り替わる。設備側は現在の状態をモニター信号として返すため、スマートホームシステムは、操作後の結果だけでなく、手動操作などによって状態が変化した場合も把握できる。
この「命令」と「状態」を分けて扱う点が、赤外線制御との決定的な違いである。

空調や床暖房でも運転状態を確認できる
JEM-Aは電気錠だけに使われる規格ではない。代表的な対応機器のひとつが、家庭用エアコンである。
JEM-A対応端子を持つエアコンでは、外部のコントローラーから運転・停止を操作できるだけでなく、現在エアコンが運転中なのか、停止中なのかを確認できる。
床暖房でも考え方は同じだ。対応するシステムでは、床暖房の運転・停止や、現在の稼働状態の確認が可能になる。これにより、たとえばスマートホームシステムで「外出」シーンを実行した際に、床暖房へ停止命令を送るだけでなく、実際に停止状態になったことを確認できるのだ。ただし、宅外からの運転開始などは、接続する機器やシステムの安全仕様によって制限される場合がある。
住宅全体を制御するシステムでは、この違いが重要になる。
赤外線制御であれば、スマートホームの画面には「停止」と表示されていても、実際の設備が運転を続けている可能性は残る。しかし、JEM-Aで状態を取得できれば、画面上の表示を実際の設備状態と連動させられる。
二値で表現できる住宅設備をJEM-Aで接続する
JEM-Aは、エアコンや電気錠など、あらかじめJEM-A端子を備えた設備だけに限定された考え方ではない。
運転と停止、作動と非作動のように、状態を二値で表現できる設備であれば、JEM-Aに対応した専用インターフェースと、設備側の制御接点・状態出力を組み合わせて、スマートホームシステムへ接続できる。
例えば換気設備やポンプでは、専用の制御盤を介して運転・停止を操作し、運転状態を示す接点信号をJEM-Aのモニター信号として返す構成が考えられる。
ただし、リレーや接触器が作動したことと、接続された設備が実際に動作したことは必ずしも同じではない。設備の実動作まで確認するには、補助接点だけでなく、設備側が備える運転信号やセンサーなどから状態を取得する必要がある。
電動シャッターにも存在するJEM-A対応製品
電動シャッターには、JEM-A端子を備えた実際の製品も存在する。こうした製品では、シャッター側の専用制御回路がモーターの正逆転や全開・全閉の検出、安全制御を担い、JEM-Aを通じて開閉の操作と状態確認を行う。
一方、JEM-A接続で扱える状態は基本的に二値である。そのため、シャッターの途中停止や半開、開度の指定、電動カーテンの任意位置制御などには適していない。こうした高度な制御には、メーカー専用の通信インターフェースや、KNXなどの建築プロトコルが必要になる。
JEM-Aは1987年に日本で生まれた
JEM 1427が制定されたのは1987年6月である。その後、1996年に改正され、現在も規格として確認されている。つまりJEM-Aは、「スマートホーム」や「IoT」という言葉が一般化するはるか以前から存在している。
当時は、住宅設備や家電を自動化・集中管理する仕組みを「HA」、すなわちホームオートメーションと呼んでいた。
1970年代後半から1980年代にかけて、日本ではハウスメーカーや電機メーカーが未来住宅、情報化住宅、インテリジェントハウス/ホームといった構想を相次いで打ち出している。照明、空調、給湯、防犯、家電などを住宅内のネットワークで結び、一括して操作しようという試みが進められていた。
日本が現在のスマートホームをそのまま完成させていたわけではない。しかし、住宅設備の統合と標準化という点では、世界でも早い段階から本格的な取り組みを進めていた国のひとつだったといえる。
JEM-Aはその時代に生まれた日本のホームオートメーション技術の遺産である。
関連記事
かつて最先端だった日本のスマートホーム。なぜ進化が止まったのか? 日本のホームオートメーション50年史
JEM-Aはネットワーク型の建築プロトコルではない
JEM-Aの思想は、現在の建築設備制御で利用されている通信プロトコルにも通じている。
現在の建築では、KNX、BACnet、Modbus、DALIなど、用途や階層の異なる通信プロトコルが使われている。これらは複数の設備をネットワークで接続し、制御命令だけでなく、現在値、運転状態、異常情報などを共有するための仕組みである。
JEM-Aは基本的に、一つのコントローラーと一つの設備を結ぶポイント・ツー・ポイント型のインターフェースである。複数の機器が一本の通信線を共有するわけでも、機器ごとのアドレスや複雑なデータをネットワーク上で交換するわけでもない。それでも、住宅設備を単なる「リモコンで動かす家電」ではなく、状態を持った建築設備として扱った点は先進的だった。

JEM-Aでは温度や運転モードまではわからない
ただし、JEM-Aには明確な限界もある。JEM 1427が対象としているのは、状態を二値で表現できる設備である。そのため、基本的に扱えるのは運転と停止、施錠と解錠、ONとOFFといった単純な状態に限られる。
例えばエアコンをJEM-Aで接続した場合、運転と停止の操作や、現在運転中かどうかの確認はできる。
一方で、設定温度や現在の室温、冷房、暖房、除湿などの運転モードや風量・風向など、詳細な情報を、JEM-Aだけで取得・変更することはできない。床暖房でも同様に、運転と停止は扱えても、温度設定やゾーンごとの出力、熱源機の詳しい運転状態などまでは扱えない。
JEM-Aは設備を高度に制御する通信規格ではなく、あくまで単純な操作と状態確認を確実に行うためのインターフェースなのである。
建築プロトコルによる住宅設備の直接統合へ
現在の建築統合型スマートホームでは、住宅設備から求められる情報量が大きく増えている。
単に空調をONにするだけでなく、部屋ごとの温度、湿度、設定値、運転モード、消費電力、異常状態まで取得し、照明やブラインド、換気設備と連携させることが求められる。
照明ではDALI、空調や熱源設備ではBACnetやModbus、住宅全体の設備制御ではKNXなど、より多くの情報を扱える建築プロトコルが利用されている。メーカーが提供するIP通信やAPIを通じて、スマートホームシステムと直接接続するケースも増えてきた。
今後の新築住宅、とりわけ設備点数の多いラグジュアリー住宅では、住宅設備を建築プロトコルやIPネットワークへ直接統合する方向が中心になっていくだろう。
ただし、JEM-Aがすぐに不要になるわけではない。
日本国内には、JEM-A端子を備えた住宅設備や、JEM-A接続に対応する制御機器が現在も存在する。詳細なデータ通信には対応していなくても、運転・停止と状態確認ができれば十分な設備も少なくない。
そのためJEM-Aは、既存の国内住宅設備と最新のスマートホームシステムを結ぶ「ラストワンマイル」のインターフェースとして、今後も重要な役割を担うと考えられる。
「操作できる」から「状態がわかる」へ
JEM-Aは現代の通信規格と比較すれば非常に単純な仕組みである。しかし、設備へ命令を送るだけではなく、設備から状態を返すという基本原則は、現在の建築統合型スマートホームにもそのまま受け継がれている。
赤外線制御が「リモコンのボタンを遠隔で押す」技術だとすれば、JEM-Aは住宅設備とスマートホームシステムの間で、最低限の意思疎通を成立させる技術といえる。
日本では約40年前に、すでに「操作できるだけでは足りない」という問題に向き合い、設備の状態まで確認するための規格がつくられていた。
JEM-Aは決して過去の技術ではない。
その限界を理解したうえで適切に利用すれば、日本の住宅設備を建築統合型スマートホームへ接続する、現在も有効なインターフェースである。そしてその設計思想は、住宅を高度な建築プロトコルで統合していく次の時代へと、確実につながっている。
-
-
取材
LWL online 編集部